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解説:共通番号制を斬る(その3) 「国民欺く『理想論』に終始 給付抑制・市場化に導く『究極の管理システム』」

国民欺く「理想論」に終始

給付抑制・市場化に導く「究極の管理システム」

 

 社会保障・税の共通番号制度(以下:番号制)について、政府・マスコミ等はメリットだけを宣伝。その上で番号制は必要不可欠だと強調している。しかし、その内容は具体性を欠き、説得力が乏しい。

 「番号大綱」を読み解いても、抽象的な理念、今後の発展性(可能性)などの「理想論」に終始し、具体的にどのような施策を講じ、国民生活にどのようなメリットがあるのか等、国民が容易に想像できるような論及が全くない。

 

 そもそも政府の番号制導入の提起は、目的と手段が逆転している。番号制とは、政策(目的)実現のための手段のひとつに過ぎない。手段とは、目的が明確でなければ論じることができない。ましてや、費用面・効率性など、既存の行政システムの改修や他の手段との比較もせずに、番号制が唯一の手段と講じることは、著しく説得力に欠ける。

 

総合合算制度=社会保障個人会計

 

 番号大綱では、番号制で実現すべき施策の筆頭に「総合合算制度(仮称)」の創設を提示。社会保障・税一体改革成案においても、番号制の導入を前提に同制度の創設を打ち出している。

 

 総合合算制度とは、世帯単位で所得、税負担、各種保険料等を一元管理し、医療・介護・保育・障害に関する給付の自己負担の合計額に上限額を設けるというもの(下図)。社会保障改革の集中検討会議では、年代・収入・家族構成での40類型のモデルを作り、世帯類型別の受益と負担の会計計算が詳細に資料として提示されている。mynumber-sougougassan.jpg

 実はこの仕組みは、経済界が熱望する「社会保障個人会計(仮称)」そのものである。

 社会保障個人会計とは、04年に経団連が税・社会保障の共通番号とセットで導入すべきと提唱。個人ごとに給付と負担を把握しコントロールするという仕組みで、財産相続時における社会保険料相当分と相続財産の調整等も検討されている。

 

 これらが意味するところは、「負担の範囲内に給付を制限する」ということであり、範囲を超えた社会保障サービスは自前で購入、つまり社会保障のサービス商品化、産業化、市場化となる。社会保障個人会計とは、医療・社会保障の給付抑制と市場化に導く、いわば「究極の管理システム」なのである。

 

峰崎内閣参与 玉虫色の発言「政治の問題」 

 

表)5/29開催

番号制度シンポジウムin東京にて

 

◆会場からの質問

 給付をたくさん受けているのにあまり負担していない人に対する給付を抑制するという使い方がされる恐れはありませんか?

 

◆峰崎内閣官房参与の回答

…率直に申し上げて、それは政治の問題だと思うのです。

 社会保障を充実させていくのか、あるいは考え方によっては小さい政府に持っていって社会保障は自立自助でいったほうがいいのだというふうに思っている人たちが政治の実権を握った場合には、そちらに行くだろう…。

 

 総合合算制度については、番号大綱等では低所得者対策の強化策として位置付けているが、いつでも社会保障個人会計へ変貌する危険性を孕んでいる。

 事実、2011年5月29日に開催された政府主催の番号制シンポジウム(東京)において、フロアからの質疑に対する峰崎内閣官房参与の回答がすべてを物語っている(右表)。この発言は、言い換えれば「総合合算制度は玉虫色で、政治の風向き如何で社会保障個人会計に変わる」と解釈できる。

 政府の番号制導入の提起は、表向きは抽象的な理想論に終始し、目的と手段が逆転した内容に見える。しかし、その裏側には、玉虫色の制度で国民の目を欺きながら「給付抑制と市場化」という明確な目的を完成させようとする企図が隠されている。そのための手段として番号制が必要不可欠なのである。

 

(2011年10月5日号 神奈川県保険医新聞 掲載)