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第494回月例研究会講演要旨(2011年5月19日開催)

第494回月例研究会講演要旨(2011年5月19日開催)

テーマ  「甲状腺疾患の診断、これだけは!」

講 師  伊藤病院 内科部長  吉村 弘

 


 

甲状腺疾患の特徴

甲状腺疾患には「甲状腺機能の異常」と「形状の異常」という2つの特徴がある。

前者の多くはバセドウ病に代表される甲状腺機能亢進症であり、甲状腺機能低下症(その多くは橋本病)である。「形状の異常」については甲状腺腫瘍(癌など)がある。

メルゼブルクの3徴と言われる「甲状腺腫大、眼球突出、頻脈」はバセドウ病の特徴的な症状であるが、これら症状を呈さない病態も数多く存在する。また、甲状腺機能低下症についてはいわゆる「不定愁訴」を訴える患者も多い。これら症状の多様性により症状のみからの判断は難しい。女性の10人に1人はなんらかの甲状腺異常を持つと言われるほど頻度の高い疾患であるにも関わらず、甲状腺疾患は「見逃されやすい疾患」の代表選手でもあることはこれに由来する。

 

甲状腺疾患の発見は難しい?

その様々な病態ゆえに、診断・観察に難渋するケースが多いと苦手意識を感じる医師も少なくないようである。しかし、検査法の進歩により、以前より高精度・高確率で甲状腺の異常をあぶりだすことができるようになっている。これら検査法は専門・非専門問わず利用ができ、日常診療に生かさない手は無い。

本講演では、甲状腺疾患診療の基本中の基本である「触診」に始まり、病態把握の基本である血液検査(一般生化学検査、甲状腺機能検査、自己抗体検査)から画像診断まで、日常臨床にすぐにお役立ていただけるトピックを取り上げたい。

 

甲状腺検査について

1.触診

ほとんどの甲状腺疾患(98~99%)で甲状腺に腫れが認められる。触診に熟達していれば見逃すことは少ない(非常に小さな腫瘍すらも発見できる)。まず甲状軟骨と輪状軟骨の位置を確かめること。甲状腺は、輪状軟骨の上縁から5mm頭側に左右の上縁があり、側葉はその上縁から4cmの幅を占めているので、甲状腺のある部位で拇指を気管の側面から横に滑らせるように押し込んで腫大を見つける。また、気管の側壁あるいは輪状軟骨の両側に拇指をおいて、嚥下させると小さな腫大を発見できる。ただし、女性では甲状軟骨の位置が高く、甲状腺も上部にあってみつけやすいが、男性の場合は低い位置にあって、嚥下させてはじめて分かることがあるので注意が必要である。

 

2.一般生化学検査

一般生化学検査の結果からも甲状腺機能異常の疑いを持つことができる。甲状腺機能亢進症におけるT-Choの低下、Al-P ・Ca・ Pの上昇。甲状腺機能低下症におけるT-Choの上昇、GOT ・GPT・LDH・CPKの上昇がそれである。しかし、軽度の甲状腺機能異常の場合、これらの値が甲状腺機能と相関することは少ないため、その他検査法(甲状腺機能機検査・抗体検査など)との併用は必須である。

 

3.甲状腺機能検査

甲状腺機能検査ではTSH、FT4(FT3)の測定は必須である。従来、T3、T4の測定も行われていたが、TBGやアルブミン濃度の影響を受け、これら蛋白の濃度によってT3,T4の値は変動することから、現在ではTSHに加えてFT4(FT3)の測定が一般的である。また、各値の測定日時には多少の注意を払う必要がある。TSH,FT4は睡眠時に最も高く、日中最も低い。治療観察時(ホルモン補充時、または抗甲状腺剤投与時)、TSHはFT4(FT3)より値の動きが遅れることもあるため。

 

4.甲状腺抗体検査およびサイログロブリン

より確かな病態の把握に重要な血液検査が自己抗体およびサイログロブリン測定である。前者(自己抗体検査)には、TSHレセプター抗体(TRAb)、抗サイログロブリン抗体(TgAb)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)がある。TRAbはバセドウ病診断の診断、TgAb・TPOAbは橋本病の診断に用いられる。

TRAbは現在では第3世代TRAb測定法の登場によって、より高精度なバセドウ病の検出が可能となっており、日常臨床でも気軽に利用できる。TgAb、TPOAbは旧来のサイロイドテスト・マイクロゾームテストより精度の高い検査で、現在ではこちらの検査が一般的となっている。サイログロブリンは、疾患特異度は低いものの甲状腺悪性腫瘍の全摘後の再発の診断に有用である。

 

5.123I甲状腺シンチグラフィー

特殊な設備が必要となる検査だが、甲状腺中毒症を起こす疾患の鑑別には非常に高い精度を期待できる。バセドウ病ではびまん性に取り込まれ放射性ヨード摂取率(RAIU)は>30%となり、無痛性または亜急性甲状腺炎ではRAIU<5%となる。甲状腺機能性結節(AFTN)、中毒性多結節性甲状腺腫(TMNG)では結節に取り込まれるため、目視での確認も可能である。