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政策部長談話 「『患者申出療養』は『裸の王様』か『パンドラの箱』か? 『倫理指針違反』医療の合法化の倒錯と危険を警鐘する」

「患者申出療養」は「裸の王様」か「パンドラの箱」か?

「倫理指針違反」医療の合法化の倒錯と危険を警鐘する

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 「患者申出療養」(仮称)の制度骨格に関し11月5日の中医協で了承され、11月7日より社会保障審議会医療保険部会に舞台を移し、来年度の健保法改定案に盛り込む準備に入った。この「患者申出療養」は、患者の申出を「起点」に、保険外の医療技術の実施を健康保険との併用で認めるもので、現在の保険外併用療養(混合診療)の「評価療養」(先進医療等)、「選定療養」(差額ベッド等)に次ぐ第3類型として創設予定だ。しかしながら、この医療は、倫理上も実際の運用上も、これまでの保険外併用療養を超えるほど問題性が大きい。この制度創設に反対するとともにその危険性を警鐘する。

 

◆「未確立医療」との併用は、既に突破されている 保険財源の流用は本来アウトなはず

 「患者申出療養」に論及する前に、現状について整理する。

 現在、合法的な混合診療として保険外併用療養が制度化され、その中の一類型に「評価療養」がある。これは併用する保険外の医療技術・医薬品を保険導入の篩に定期的にかけるものだが、06年の制度創設当初の想定は、薬事法の承認がなされたもの、ないしはそこに向けた「治験」段階にあるものの使用―ここまでの「緩和」であった。併せて最大の懸案、未承認薬問題は「未承認薬使用問題検討会議」(現「未承認薬等検討会議」)が企業への開発要請や、公知申請の活用などに篩い分けし、薬事承認へ向けたプロセスに載せる算段が図られた。

 これが一転、成長戦略を背景に08年に方向転換をし、未承認・適応外の医薬品・医療機器を用いた医療、すなわち「臨床研究」を保険外併用療養の対象として認めたのである。これは現在、評価療養の中で「先進医療B」(旧「高度医療」)として43種類の医療技術が508医療機関で実施されている。つまり「未確立な医療」と医療保険の併用、通常医療とは異なる「実験的医療」が、混合診療として合法化され、既にこの未確立医療ゾーンに健康保険は突入しているのである。

 この先進医療Bは、臨床研究への健康保険財源の流用であり、本来、科学研究費で賄うものを保険外の患者負担と健康保険財源で賄う格好となっており、制度論的にも倫理的にも「アウト」である。

 ちなみに対をなす「先進医療A」は、薬事承認された医薬品・医療機器を用いた保険外の医療技術で、58種837医療機関で実施され、内容は診断方法、手術、治療方法で大方を占めている。

 

◆「安全性」「倫理性」の蹂躙が危惧される「患者申出療養」 

 先進医療Bは実施にあたり、先進医療技術審査部会で技術的妥当性と、試験実施計画等の審査をし、先進医療会議で有効性、安全性、技術的成熟度、普及性、倫理性などを「審査」し、ゴーサインが出される。中医協には報告がなされる。この審査は原則6カ月かかる。しかし、これは混合診療としての実施を認める審査でしかない。安全性・有効性の審査のために医療機関が提出するのは、その「確保が期待できる」科学的根拠を示す文献である。しかも、国内実績が一例もなくとも、世界初の臨床研究であっても申請ができ、認められている。当然ながら、臨床研究とは医療技術や医薬品等の安全性・有効性の「確立」に向け、用法・用量、被験者(患者)選定や実施期間などを考慮した実施計画を作成し、実施データを集積して生物統計学的解析を行い、科学的「検証」を行うことである。よって、その実施前に有効性・安全性の「証明」がなされるわけではない。

 また、医薬品・医療機器は「治験」を経て薬事承認、「製品化」に至るため、臨床研究のデータは「治験」には使えず、改めて治験計画の下、データ集積が図られるのである。

 この臨床研究は、倫理指針により厚労省への実施計画の登録をすることとなっており、先進医療B(混合診療)として実施する場合は、厚労省への実績報告(有害事象など含む)、症例報告の提出が義務づけられている。いずれの場合も「臨床研究に関する倫理指針」を遵守することとされており、一定のタガがはまっている。併用する自由診療を野放図にせず、倫理指針で歯止めをかけている。

 この現状の上に、「患者申出療養」創設の議論がある。この点の理解や整理がないままの批判や議論が散見されており、この議論が錯綜し、混乱の様相を呈している感がある。

 厚労省は、規制改革会議の当初の「選択療養」の提案に対し、現行制度で対応可能と切り返したのは、先進医療Bの枠組みで、未承認の医薬品等の使用やあらゆる医療技術の実施が、臨床研究を“隠れ蓑”とし、その範疇で可能だからである。

 つまり、その「評価療養」にさえ吸収されない第3類型の「患者申出療養」は、この枠を超えるため、「経済格差」の次元の論点を超え、「安全性」「倫理性」の蹂躙が非常に問題になってくる。

 

◆金沢大学のカフェイン併用化学療法が倫理違反、「適格基準外」の被験者に実施で先進Bから「削除」

 それを暗示する事件がこの春あった。金沢大学附属病院で骨軟部腫瘍へのカフェイン併用化学療法(先進医療B)が、厚労省への実績報告の欠落、大学の倫理委員会への無届け、適格基準外の患者への実施、患者死亡による訴訟と、次々と明るみになり、大学での謝罪会見と調査委員会報告の公表を経て、終には保険外併用療養からの「削除」となった。調査報告では、安全性、有効性の「根拠が不十分」との指摘がなされている。しかし、患者からの実施要望は一方で存在している。

 この事例は問題発覚以前の昨年秋、規制改革会議が公開ディスカッションで、市場性がなく治験実施企業が出現しないとし、実施継続のための枠組みを要望したものであり、同会議ではこの春の「選択療養」への提案へと進展し、最終的に「患者申出療養」で落着となっている。

 金沢大学附属病院に類する事件の発覚は過去にもあり、法的拘束力のない臨床研究倫理指針と、薬事法の下での治験実施の際のGCP(「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」)との「二重基準」となっている限界を露呈した格好だが、倫理指針の「決壊」さえ危惧される。

 

◆「かかりつけ医」を組み込んだ「患者申出療養」 自由診療との併用の「抜け道」か?

 提案されている、「患者申出療養」の制度骨格は、(1)「初回例(第1例目)」実施と(2)「前例がある医療」の他施設実施で異なる。

 初回例は、患者の申出を「起点」に、申出を受けた臨床研究中核病院(全国15施設)が、実施する医療の(1)「実施計画」、(2)安全性・有効性等の根拠、(3)患者申出を示す書類を添付し国に申請し、原則6週間で国が可否を判断する。特定機能病院(大学病院等)も申出の受付が可能で、その場合は共同研究の実施を臨床研究中核病院に提案する格好となる。しかも、特定機能病院に加えて「身近な医療機関」も協力医療機関として臨床研究中核病院からの申請が可能であり、これらでも実施可能だ。

 「前例のある医療」の他施設実施は、患者申出を受けた「身近な医療機関」が、患者申出を示す書類を添付し、前例を取り扱った臨床研究中核病院に申請。臨床研究中核病院が、その「実施体制」を個別審査し、実施の可否を2週間の短時日で判断するとしている。

 いずれの場合も、患者の「かかりつけ医」への相談と、「かかりつけ医」による患者の申出への支援を組み込み、「身近な医療機関」に「かかりつけ医」を含むとした点が従来議論からの「変化」である。

 この仕組みにより、安全性・有効性が未確立なまま実施されている自由診療や、何らかの理由で「先進医療B」として実施できない臨床研究について、患者の申出を「起点」に、混合診療が可能となり、健康保険の財源が流用されることになる。

 

◆唖然!倫理指針を逸脱した「適格基準外」患者への適応が前提の「患者申出療養」

 「患者申出療養」の中医協議論では、先に問題となった金沢大学の例を「他山の石」とせず、最初から「適格基準外」の患者への医療実施をどうするかが論点の最初に出された。適格基準外への実施は医療倫理から逸脱する。例えば、実施計画でガンのステージ2の患者を対象に、ある化学療法の実施計画をデザインし、有効性・安全性が期待できないステージ4の患者の申し出に応じて、この化学療法を実施し保険外費用を自費負担させるということである。「実施計画」としても、適格基準外への実施は計画(プロトコル)のデザインを歪め、その信頼を貶める。しかも適格基準外のデータは当然ながら、有効性・安全性の解析データには全く使えないものである。

 厚労省は、「患者申出療養」に関し、「評価療養」と同等の安全性・有効性を求める、臨床研究としての実施計画の作成が前提としてきただけに、この論点提示は無責任であり、論理矛盾も甚だしい。 

 更に驚くことに、中医協で最終了承された資料では、対象となる医療のイメージを(1)先進医療(評価療養)の「適格基準外」(対象外)の患者、(2)先進医療で実施されていない療養、(3)治験の対象外の患者への治験薬使用と出された。

 つまり、(1)は患者申出療養としてのそもそもの実施計画ではなく、先進医療の「落穂ひろい」の位置づけとしている。当会の照会に対し、臨床研究倫理指針に拘束されると厚労省は回答したが、そうであれば実施は不可能であり、逆にそれを圧して実施するなら倫理指針の前提、「ヘルシンキ宣言」に完全に悖る。まるで、本当のことに口をつぐんだ「裸の王様」の寓話か、健康保険制度を壊す「パンドラの箱」が空くのか、非常に困惑する話だ。

 (2)は、先進性のある医療の場合は、現在の「先進医療B」に該当しないものとなるが、実施計画の作成が要件づけられるため、なぜ「先進医療B」で実施がなされないのか疑問符がつく。また先進性がない、学会要望がありながら保険収載されていない医療技術等の実施も想定され、これに関し10月28日の懇談の席で厚労省は「あり得る」とし否定はしてない。

 (3)の治験の対象外への実施は、現在、医薬品のアクセス制度として2年間の試行事業の検討を経て、次年度から本格的実施を準備中であり、これとの整合性の問題がある。かつて05年にも「追加的治験」として枠組が作られたが、そもそもデータとして利用できない、企業負担が大きい等のため実施実績はなかったはずである。それ以上に臨床研究同様、倫理上の問題が大きいのである。

 

◆限りなく心許ない、低い有効性・安全性のハードル 「自己責任医療」で融解する保険外併用療養

 患者申出療養は、先進医療と同等の有効性・安全性を求めるとしているが、先進医療Bと同水準の文献や症例報告などのボリュームの書類提出を求めるかどうかは検討課題と、当会の照会に厚労省は応じた。

 また、「適格基準外」患者への実施については、国の判断としているが、臨床研究中核病院など「倫理審査委員会」に図るかどうかについても明確ではない。

 また、前例のない医療の実施の第1例の実施計画について、申請した臨床研究中核病院の実施を前提とするかどうかについて、厚労省は「当然」とはせずに、検討課題とした。つまり、関連施設からの混合診療要望の代理申請、“隠れ蓑”の役割を否定していない。

 第2例以降の他施設での実施についても、実施体制の可否の判断を誰がするのか、臨床研究中核病院の管理者なのか、倫理審査委員会なのか治験審査委員会なのか、不明である。

 中医協では、第1例目の実施から、臨床研究中核病院と特定機能病院(大学病院等)、「身近な医療機関」の共同研究を可とし入口を広くした。また「かかりつけ医」(開業医)への相談を組み込んだ。厚労省は「義務化するものではなく、日常診療の延長」というが、実験医療への「関所」であれ、「水先案内」であれ、否応なく巻き込まれる。

 先進医療の実施医療機関が患者の近隣に増えると期待する向きもあるが、現在の先進医療A、Bの枠組みでも、技術技能を持った医師、スタッフと医療体制があれば、追加的に実施は可能である。技量のない施設での実施は、慈恵医大青戸病院の腹腔鏡下手術の医療事故事件の二の舞となる。

 いまの時点で透けて危惧されるのは、臨床研究とは言えない杜撰な実施計画の作成、倫理指針に違反する医療の提供、ルールなき自由診療への保険診療財源の流用の横行であり、それに重ねて患者の保険外負担で実施する無謀、患者申出を逆手にとった有害事象の際の患者責任、である。

 われわれは、医療倫理に悖る医療の温床、「患者申出療養」の創設、これ以上の保険外併用療養の融解に、強く反対する。

2014年11月13日