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医療情報部長談話 「医療の『給付抑制と市場化』のインフラに メリット、費用対効果も不明 IT犯罪を助長する共通番号制に反対する」

医療の「給付抑制と市場化」のインフラに

メリット、費用対効果も不明 IT犯罪を助長する共通番号制に反対する 

 

神奈川県保険医協会

医療情報部長  田辺 由紀夫


 3月22日、国会に再提出された社会保障・税の共通番号制度(以下:番号制)に関わる法案が衆議院で審議入りした。2016年1月からの利用開始を目指し、内閣委員会で審議が進められる。

 当会は番号制に伴う情報漏洩や悪用、公的医療の給付抑制や市場化などの問題を指摘し、一貫して反対してきた。法案が審議入りした今、改めて問題を指摘し法案の廃案を求める。

 

1.国民のメリット、費用対効果が不明 実効性の乏しい漏洩・不正対策

 番号制によるメリットは、社会保障給付等の申請時の書類準備の軽減の他は、国民がイメージできる明確な内容が示されていない。また各メディアでは、システム構築に2000億円以上、ランニングコストに年間数百億円もの国費がかかる見込みと報じられているが、その費用対効果は不明だ。

 情報漏洩・成りすましなどの不正対策については、罰則強化や監視のための第三者機関の設置などが挙げられている。しかし、すでに共通番号を導入している米国や韓国などでは、漏洩・成りすまし被害が後を絶たない。日本でもPC遠隔操作ウイルス事件では警察の捜査能力の限界を露呈したばかりだ。また衆院や財務省、最高裁へのサイバー攻撃が発覚、国益上の問題性も高い。種々の個人情報をネット回線で名寄せし、電子的に一元管理する番号制は、更なるIT犯罪を助長する土壌となりかねない。

 

2.番号制を梃に公的医療の給付抑制と医療市場化へ 医療情報も漏洩の危機に

 政府は番号制の必要性として、「公平・公正な税制・社会保障の実現」とのうたい文句を喧伝する。そのためには全国民の所得を正確に捕捉することが前提となるが、現在の税制上、高額所得者等の海外取引による利益など、番号制では捕捉できない所得や収入がいくつもある。つまり番号制での正確な所得捕捉には限界があり、政府のうたい文句は“幻想”に過ぎない。

 むしろ国の財政危機が強調され、一体改革推進のもとに社会保障の基本理念を「自立・自助」にすり替え、70歳から74歳の医療費の窓口負担2割への引き上げや後発医薬品の利用促進、生活保護費の基準引き下げなど、医療・社会保障費の抑制が検討される中で、番号制の企図は「公的医療の給付抑制と医療市場化」への活用にあると見える。

 本法案は旧「マイナンバー法案」よりも民間利用を視野に入れた内容となっており、施行後3年を目途に行政事務以外の分野での利用範囲の拡大を検討、所要の措置を講じるとされている。個人の医療・健康情報(以下:医療等情報)は番号制の対象外としているが、番号制と並行して厚労省で個別法が審議され、「医療等ID」と称する個別番号を中心とした医療独自の情報連携システムの構築が検討されている。厚労省の検討会では同システムについて、番号制で構築される情報連携基盤の流用も議論の俎上にあがっている。

 こうした一連の動向から、将来的には番号制の範囲拡大により医療等情報も番号制の対象となり、民間企業の営利活用も認められる可能性さえ出てきた。

 民間の保険会社にとって医療等情報は利用価値が高い。番号制により所得や保険料・給付などの「お金」の情報と、病歴等の医療等情報が一元管理できれば、給付管理や新たな商品開発などに利活用できる。今後、政府の給付抑制策が進めば、公的医療保険では必要な治療が終わらず、自費治療での補完が余儀なくされ、公的医療保険と民間保険の組み合わせの条件整備が進む。この流れが進めば、最終的には公的医療保険と民間保険とのシェアが逆転し、民間保険主導の管理医療体制に変容する。これが「給付抑制と市場化」の未来像であり、番号制は公的医療保険と民間保険との給付バランスを調整するうえで都合の良いインフラとなる。TPP参加により米国企業が日本の保険市場に参入することになれば、この未来像はさらに現実味を増すだろう。

 また、情報漏洩・不正利用の懸念は、医療情報も例外ではない。番号制は国民へのICカード配布を前提、保険証の機能も有するとしている。また番号制を前提に導入が検討されている総合合算制度はその制度設計上、オンラインによるリアルタイムでの医療機関・福祉施設からの給付情報の収集が必要となる。従って医療機関では、ICカードを鍵としたオンラインでの保険証の資格確認と、オンラインによる診療報酬の即時請求を要求される。つまりは患者の医療等情報がネットワークでやりとりされることとなり、漏洩やハッキングなどのリスクが高まることになる。医療等情報が秘匿性の高い個人情報であることは言うまでもない。

 

3.多数の反対・慎重論は報じられず

 番号制に関しては、日弁連や各都道府県の弁護士会、主婦連、日本ペンクラブなど各業界から反対の声が挙げられている。また、政府が国民周知と対話を目的に2011年5月から開催した全国リレーシンポでは、どの会場でもフロア意見の大半は「情報漏洩が心配」「管理社会に繋がる」など反対・慎重論が占めていた。さらには2011年7月7日から1か月間、内閣官房が実施したパブリックコメントの結果を見ると、個人で7割、団体の約半数が反対・慎重意見だった。

 しかし政府や大手マスコミからは、こうした事実はほとんど報じられない。シンポやパブコメはアリバイ作りで、国民を欺いているに他ならない。

 

4.終わりに

 番号制については自・公・民の3党が既に合意に至っている。夏の参院選を控え、今国会の延長はないとの見方が強く、また衆院での予算審議も終わっていない状況を考えれば、十分な審議もままならず、拙速に成立してしまう可能性さえある。

 漏洩・不正の懸念、費用対効果の不明な巨額の国費投資、医療の給付抑制と市場化など、番号制は百害あって一利なし。法案の取り下げを強く求めるものである。

 

2013年3月27日