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医療情報部長談話 「反対・慎重論は黙殺 世論を蔑ろに導入急ぐ『マイナンバー法案』の取り下げを求める」

反対・慎重論は黙殺

世論を蔑ろに導入急ぐ「マイナンバー法案」の取り下げを求める

 

神奈川県保険医協会

医療情報部長  田辺 由紀夫


 政府は2月14日、社会保障・税の共通番号制度(以下:番号制)に関わる法案、通称『マイナンバー法案』を閣議決定、同日中に国会に提出した。2015年1月からの利用開始を目指し、法案成立を急いでいる。政府はこの間、「真に手を差し伸べるべき者に対しての社会保障の充実」などと聞こえの良い文言で番号制の必要性を主張。また最近では、消費税増税における逆進性の緩和、低所得者対策として「給付付き税額控除」の導入が検討。そのためには番号制による正確な所得捕捉が必要との論調がマスコミでも報じられている。

 しかしながら、国民にとっての番号制の具体的な内容やメリット等は、事務手続の簡素化以外は実のところ何も示されていない。そればかりか、昨年11月に内閣府が実施した世論調査では、8割が「制度を知らない」という実態が明らかになるなど、国民的議論には程遠いのが現状である。

 私たちは制度内容が不明瞭であり、国民周知も不十分であるにも関わらず導入を急いでいる番号制に反対するとともに、拙速なマイナンバー法案の取り下げを強く求める。

 

 番号制とは、データ化した個人の所得情報や税の情報、医療や介護・年金など各種社会保障の給付情報など、制度ごとに管理されている個人情報に共通の番号を付して、各情報を"名寄せ"し、国や地方自治体、民間企業等が当該個人情報を利活用するというもの。政府は「負担・分担の公平性の確保」「公平・公正な所得の再分配」が実現するとしている。

 

 ところが、何をどのように実現しようとしているのか。具体的な内容は何も示されておらず、国民にも正確な情報は届いていないというのが実態だ。

 

 昨年6月に閣議決定した「番号大綱」や「社会保障・税の一体改革素案」では、番号制の導入を前提に「総合合算制度(仮称)」や「給付付き税額控除」といった低所得者対策の導入を検討するとしている。

 しかし、これらはあくまで"検討"段階の施策である。当会が昨年12月に内閣官房と懇談した際には、総合合算制度について担当官は「制度の内容もいまだ検討段階。当分先の話になる」とし、2015年1月の番号制利用開始と同時の施行は不可能であると明言した。

 にもかかわらず、政府が2月11日に新聞各紙に掲載した広報では、下段の囲い部分で「暮らしに役立つマイナンバー。たとえばこんなことを検討中です。」と題し、あたかも導入が既定路線であるかのように総合合算制度を宣伝している。

 また、内閣官房が主催する全国リレーシンポジウムでの有識者の発言内容を見ても、「番号制があれば●●が可能になる」「●●が▲▲になるだろう」という可能性や希望的観測など、あくまで個人的な意見を述べている内容が目立つ。

 こうした政府の広報活動は、不確定情報で国民に過度の期待や幻想を抱かせるもので、誇大宣伝以外の何物でもない。

 

 番号制に関しては広報にも問題がある。前述の全国リレーシンポは開催地の地方新聞社の主催で開催されている。シンポの議事録を通覧すると、どの地域でもフロア意見の大半は「情報漏洩が心配」「管理社会に繋がる」など反対・慎重論が占めている。また昨年7月7日~8月6日の期間で内閣官房が実施した、番号大綱に対するパブリックコメントの結果を見ると、個人で7割、団体の約半数が反対・慎重意見だった。つまり世論は反対・慎重論が多数を占めていたのだ。しかし、大方のマスコミはこうした事実を報じず黙殺した。

 しかも、今年に入り、一部のマスコミは1月末に発表された内閣府の番号制に関する調査結果について「共通番号『必要』57%」との見出しで報じている。ところが事実は異なり、同調査結果では8割が「制度を知らない」ばかりか、情報漏洩・不正利用を懸念する声が85.7%にも上っていた。また「必要」と回答した内訳を見ると、「必要だと思う」が18.5%、「どちらかといえば必要だと思う」が38.8%となっている。つまり、積極的に必要と考えているのは2割にも満たないのだ。こうした事実が明らかにも関わらず、半数以上が番号制を必要と判断していると印象付けるような報道の仕方は、世論誘導も甚だしい。

 

 こうした状況が生じている根源には、この間の番号制導入を巡る政府議論が『番号制の導入ありき』で進められていることにある。数千億円単位の国家予算を費やすプロジェクトにも関わらず、目的が曖昧のまま行政事務・企業事務など一部の利便性や可能性・将来性という不確定要素のために導入を進めることは、国民を欺いていることに他ならない。

 

 また、前述の「総合合算制度」についても、本当の目的は低所得者対策などの弱者救済ではない。医療・社会保障を「給付抑制と市場化」に導く企図が透けて見える。

 総合合算制度とは、世帯所得に応じて医療・介護等の自己負担合計額に上限を設定するというもの。しかし、昨年5月の政府会議に出された資料を見る限り、総合合算制度の制度設計は財界が以前から熱望する「社会保障個人会計」と同じであることが分かる。社会保障個人会計とは、給付と負担を「商品」と「代金」に置き換え、給付を負担の範囲内に抑えるというもの。公的保険給付からはみ出た医療などの社会保障サービスは自費で支払うこととなり、そのための備えとして民間保険への加入を余儀なくされる。これが給付抑制と市場化のシナリオだ。

 経済格差が医療格差に直結し、患者の懐具合で医療内容が決定する、まさに「金の切れ目が医療の切れ目」となる。給付抑制と市場化が拡大すれば、国民皆保険は形骸化し、日本の医療・社会保障制度の荒廃の一途を辿ることになるのだ。

 

 世界規模の経済不況や放射能漏れなど、国民は得体の知れない様々な不安に晒された生活を余儀なくされている。こうした時代だからこそ、国民は生存権保障の「憲法二十五条」の理念に立脚した医療・社会保障というセーフティネットを求めている。

 私たちは言葉巧みに国民を欺き、医療・社会保障の荒廃の引き金にもなり得る番号制の導入に反対するとともに、法案の取り下げを強く求めるものである。 

2012年2月21日