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政策部長談話 「保険者による診療報酬の再審査請求の根拠を問う」

保険者による診療報酬の再審査請求の根拠を問う

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 いま、診療報酬の審査支払機関の統合、業務の一元化に向け厚労省の検討会で議論が行われている。その目的は審査基準の一律化、保険者の業務委託料の削減とされている。平成23年度に電子レセプト9割となることを見込んでの施策とされているが、事業仕分けでの乱暴な指摘や議論―「事務費(コスト)と査定額(成果)が見合っていない」「保険者による直接審査を拡充し、支払基金の関与を減少すべき」「もう少し保険者よりになればよい」―をみるにつけ、非常に危険なものを感じている。

 医療者の医療提供への適正な評価という視点、つまり審査支払機関の本来的役割への認識を欠いている。財政効率の視点を全面におしだすばかりで、審査の現状についても理解が不十分である。

 診療報酬同様、荒唐無稽な議論が進めば、医療崩壊は確実に進むこととなるので警鐘する。

 

 健保法上、保険者は義務づけられた医療提供が不可能なので、都道府県を通じ一括契約で医療機関にそれを委任している。医療機関は医療提供(療養の給付)を行い、その対価を診療報酬として保険者に請求し支払いを受ける。しかし、保険者は専門性の高い「医療」内容の審査が不可能なため、審査支払機関にその業務を委託し、同機関は三者構成(保険者側、医療機関側、公益側)の医師、歯科医師による審査委員会で審査業務を行っている。

 医療は個別性や地域特性(医療施設数や食習慣、寒冷地など)を帯び、医学・医術の進歩や医学的判断など、診療報酬点数表の一律的適応だけでは、十分な経済評価がされないため専門家に審査を委ねているのである。審査支払機関は、中立性を担保し法的に設立されたものである。

 全国の査定率の格差は、都道府県別のレセプト1件あたり点数(=患者一人の月単位の医療費)の格差とも関係があり一律に論じられるものでもないが、そもそも査定率の多寡を競争させるがごとき議論は本末転倒なのである。

 しかも査定率の1/3にあたる保険者からの再審査請求による査定、再減点(「過誤調整」)が現にある。査定は年間1,350万件という途方もない数の再審査請求により、処理すべき「再審査部会」の機能を麻痺させ、事実上ノンパスで保険者の言い分を半分近く認めている結果である。ちなみに医療機関の再審査請求は80万件であり、3割しか復点(復活)していない。

 現在、すでに審査支払機関が保険者寄りであることは、医療界では常識であり、再審査請求の結果が「原審どおり」の際の理由開示も雲泥の差で保険者へは仔細なものが送られているのである。また電子レセプトのコンピュータによるシステムチェック(傷病名と医薬品の適応、投薬の禁忌、処置・検査の適応など、保険診療のルールへの適合をチェック)により、医学的判断以外の部分の審査は強化がなされているのである。

 これに絡み根源的な問題提起をするなら、審査を委託している保険者による再審査請求という行為は法的根拠が非常に乏しく、可能なのかという点である。再審査については、社会保険診療報酬支払基金法では「診療担当者の提出する診療報酬請求書の審査(その審査について不服の申出があった場合の再審査を含む。以下同じ。)を行うこと」(第15条第1項3号)と、国民健康保険法施行規則で「前条の規定による審査につき苦情がある者は、再度の考案を求めることができる」(第30条)と規定されているにすぎず、レセプトを提出する医療機関の審査結果への不服申し出として規定されている。保険者の再審請求は民法の債権債務を理由に慣行的に実施されてきたが、審査支払機関の役割や法的構成からみて、今一度、その根拠を問い直す必要があると考えている。

 

 医療崩壊は、救急や産科、小児科などにとどまらず、医学・医療の進歩を現場に取り入れられない―看護師・検査技師、栄養士・理学療法士などのスタッフ拡充や医療機器導入が叶わない等の医療提供への不十分な経済評価が、確実に医療者の士気を奪い、自己犠牲で支えている医療の質の担保が危うくなっていくところが、大きな問題である。

 保険者の再審査請求を始め、査定競争・効率化を煽る審査支払機関統合の一連の動きが志向するものは、医療再生に逆行している。

 事実に立脚した冷静な議論と、審査支払機関の存在の根本の再認識を求めたい。

2010年5月14日