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政策部長談話 「TPPで『公的医療保険を守る』の不理解を問う 保険外併用で既に楔、薬価制度改変で片肺へ」

TPPで「公的医療保険を守る」の不理解を問う

保険外併用で既に楔、薬価制度改変で片肺へ 

 

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加に関し「事前協議に入る」との曖昧模糊とした野田首相の態度表明の下、混乱が続いている。とりわけ公的医療保険制度を巡り、制度理解や制度変遷の認識を欠いた首相の発言や国会答弁に世間が幻惑されている感が強い。公的医療保険は、「公定価格」の診療報酬と薬価により成り立っている。ところが、TPP交渉21分野のひとつ「物品市場アクセス」の対象に医薬品・医療機器の非関税障壁撤廃、薬価制度の改変が既に浮上している。簡単にいうと医薬品は「一部しか保険が効かない」制度にし、これを梃に「自由価格」制へ環境整備を図っていくことになる。ここが崩されれば公的医療保険は「片肺」となる。医療保険制度は多様な要素で構成されており、制度理解を欠いた決意表明では、何ら疑念は払拭されない。責任ある説明をわれわれは求める。

  

 公的医療保険の「瓦解」の懸念は、医薬品の薬価だけにとどまらない。外務省は、2006年6月の日米投資イニシアティブ報告書で米国が混合診療の導入に関心を示したものの以降、特段の関心は表明していないが、「混合診療の全面解禁がTPPで議論される可能性を排除しない」としている。

 しかし現実は、2004年末の厚労省と規制改革担当相の合意により、「保険診療と保険外診療との併用(=混合診療)に関する具体的要望については、今後新たに生じるものについても、おおむねすべてに対応する」制度として2006年10月に「保険外併用療養費制度」が誕生しており、ゆえに以降は米国から関心や要望が示されないだけである。06年の「報告書」では大臣合意にきちんと触れている。

 その後の制度運用は、いまだ普及していない先進医療の混合診療を皮切りに、安全性と有効性を確認中(臨床試験段階)の医薬品・医療機器に広がり、現在は臨床試験すら実施せず、国内の臨床症例さえもない医薬品等や、研究開発段階にある医薬品等も、合法的な混合診療の範疇に入っている。経済余力の多寡による診療格差という問題を超え、安全性・有効性の無視へと混合診療の問題は膨張している。医薬品は承認審査の上で販売される。日本人での臨床試験の軽視は、米国からの海外臨床データ利用、東アジア諸国のデータ利用などの承認手続きの簡略化、要件緩和要求と結びついており、百億円単位でかかる臨床試験の費用削減と米国メーカーの医薬品販売につながっている。安全性・有効性の担保が前提だった合法的な混合診療がどこまで無原則になっていくかが今後のポイントである

 それが証拠に米国「外国貿易障壁報告書」の中でも、「混合診療解禁」は要求していないあるのは企業の医療経営のための規制緩和である。企業による医療機関経営は美容外科など高度医療に限定された医療特区しかないが、いま税制・金融・医療などの規制緩和パッケージの総合特区が誕生しようとしており、これとの結合が非常に懸念される。ISD(投資家保護)条項により、米国企業の医療経営進出に関し、日本が提訴される可能性は否定できない。国際投資紛争調整センター(ISD)の仲裁審判で米国は勝訴率が8割である。また、日本と違い米国は医療技術が特許保護されている。TPP交渉で「知的財産」分野でこれが対象となった際に、日本の医療環境は大きく揺らぐことになる。

 民間保険はアフラックなど米国資本が跋扈し国内市場のかなりのシェアを占めている。民間医療保険は現金を支給しているが、5年前に国内で浮上した「現物給付商品」の販売が可となり医療機関と保険会社の直接契約が実現すると公的保険と競合する。ガンの自由診療ではセコム損保が治療費実額を補填する商品販売をしており波及、発展は十分にあり得る。首相発言とは逆に通産省は「脱・公的保険」を旗幟鮮明にし、2010年から活発に動いてもいる。政府の姿勢・言動は矛盾が甚だしい。

 TPPの下で公的医療保険を守ることは至難の業である。賢明な判断を切に期待する。

 2011年11月18日

 

◆参考◆ 2006 年「日米投資イニシアティブ報告書」(2006年6月)<抜粋> 

Ⅲ.日米投資イニシアティブにおける議論

1. 米国側関心事項

(1) 国境を越えたM&A(略)

(2) 人口問題と投資  (略)

A.教育分野·      (略)

B.医療サービス分野·  

B.医療サービス分野

 米国政府は、米国の製薬業界、医療機器業界がすでに日本市場で主導的なプレーヤーとしてプレゼンスを持っていることから、米国企業も医療改革の議論に積極的に関与できることを期待している旨表明し、特に次の三点について言及した。

 第一に、米国政府は、医療機関による資金調達を容易にし、生産性を高めるとの観点から、病院、診療所経営に対する株式会社の参入拡大を可能とするよう要望した。また、構造改革特区制度の下で株式会社の参入が可能となっているが、その範囲は非常に限定的であり、実質的に特区における株式会社の病院経営はほとんど実現していない点を指摘した。米国政府は、日本は高度医療特区を実施するための条件を緩和すべきであることを提案した。日本政府は、一定の医療機関に対しては、資金調達方法の一つとして公募債の発行を認める方向で検討していることを説明した。また、特区については2005(平成17)年7月に地方自治体からの申請が1件認定されたこと、そのほかにも特区申請に関する相談が複数寄せられていることから、要件の緩和の必要性を否定した。

 二点目として、米国政府は、日本では血液検査の外部委託により、かなりの効率化が図られたことを指摘した上で、リスクの低い医療行為、特にMRIやPET、CTスキャン等反復性のある医療行為については、株式会社に柔軟に外部委託できるよう要請した。日本政府は、これらの業務は患者へのリスクが低いものではないため、医師以外の者に行わせることは認められない旨応答するとともに、株式会社は医療機関の経営ができず、たとえこれらの業務を行うために医師を雇用していても、医療を提供することはできない旨あらためて説明した。

 三点目として、米国政府は、いわゆる「混合診療」(日本の公的保険制度の下で、保険から支払が行われる医療行為と、支払が認められていない医療行為の両方を含む診療)の導入について関心を表明した。米国政府の見解では、これらは医療支出を減らし、効率化を促し、さらに医療保険制度の財政上の困難を緩和しうるものである。米国政府はまた、現行制度は極めて限定的であるとの見解を持っている。日本政府は、公的医療保険制度は基本的に、全ての必要な医療を被保険者に対して保障するとの原則を保持しており、それ故、日本政府は、そのような米国政府の見解を共有していない。この原則に従い、また患者の福利を考慮して、日本政府は、2004(平成16)年12月に厚生労働大臣と内閣府特命担当大臣(規制改革、産業再生機構)の『いわゆる「混合診療」問題に係る基本的合意』に基づいて改革を行うこととした。これまで、6つの必ずしも高度でない新規医療技術が承認された。

(*下線は当協会)