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2011/11/17 政策部長談話「『共通番号制』が推奨する『総合合算制度』は果たして福音なのか」

「共通番号制」が推奨する「総合合算制度」は

果たして福音なのか

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


  「共通番号制」導入法案が来年の通常国会に提出される。法案大綱によれば、国民一人ひとりに「付番」がなされ、税務、医療(健康保険等)、介護保険、年金、労働保険、福祉の「6分野の情報」がこの番号に「紐付き」となり「名寄せ」「一元管理」が可能となる。これに伴い番号が記された保険証機能をもつICカードが2014年6月から国民に配布され、2015年1月から本格的実施の予定である。まさに税・社会保障一体改革を貫く「環」の仕組みとなる。この共通番号制は、"国民総背番号制"であるが、導入のメリットとして「総合合算制度」の実現が喧伝されている。実はこれは裏を返すと「社会保障個人勘定」であり、運用次第で個々人が負担する税・保険料の範囲内に社会保障サービスの給付を制限することが可能となる。現に一体改革論議で年代、年収、家族構成の40類型に応じた負担と給付のバランスシートが資料提示されており、その懸念が強い。つまりこの「勘定」により、社会保障は「必要に応じた給付」から「代金に応じた商品」の関係に変質する危険性が高い。しかも総合合算制度は、そこに潜む企図や稼働性について問題も多い。TPPとの関係性も深い、この共通番号制にわれわれは反対をし、この導入計画の撤回を求める。

総合合算制度のイメージ 

 総合合算制度とは、医療、介護、障害福祉、子育ての4制度の自己負担、利用料(以下、「自己負担」)の合算総額の上限を世帯ごとに設定し、患者・利用者は上限に達した以降は受診時、利用時(以下、「受診時」)の負担はせずに済む制度である。その上限水準は、仮置き数字とし「年収の10%」、年収300万円で年間上限30万円と、一体改革論議で例示されている。

 現在、医療と介護は月単位で自己負担の上限が設定され、更に年単位で事後的に合算精算し、上限超過分の負担金額が償還されている(高額医療・高額介護合算制度)。これが、総合合算制度ではリアルタイムに4制度の自己負担が把握され、負担上限に達した時点で、受診時の負担は不要となる。

 自己負担は、給付情報の裏返しで計算把握される。つまり、この総合合算制度は、1)オンラインによるリアルタイムの医療機関、福祉施設からの給付情報の「提供」と、2)その情報の集約と管理をする「統括機関」の存在、3)その一括管理された情報の医療機関、福祉施設での「共有」が、システムとして必要、前提となっている。

 既に、介護、障害者福祉はオンラインで給付の請求と支払いが「国保連合会」によって行われており、オンラインが不完全なのは医療である。つまり、医療はいずれ完全オンラインとなり、国保連合会に審査支払が収斂していくことが透けている。支払基金はメタボの特定健診・特定保健指導の審査支払を担っており、将来的に社会保障の給付情報は国保連合会、医療・健康情報は支払基金との役割分担の兆しも見え隠れしている。

 問題はこれに留まらない。医療では昨年、出産育児一時金の給付が、「国保連合会」経由となり、妊産婦への支給から医療機関への支払いと転換された。「療養費支給(金銭給付)」が「現物給付」化された。いま治療用装具も患者への金銭給付から審査支払機関を経由した現物給付化が検討され始めている。医療制度(健康保険制度)では、疾病給付以外の傷病手当金、埋葬料などは金銭給付だが、これらもいずれ国保連合会を経由した現物給付化の方向にあると思われる。

 新保育・子育てシステムは2015年の制度創設に向け検討中だが、幼稚園と保育園を一体化し民間参入を促すことを基本に、「子ども園給付」という金銭給付を柱に据える。これも、総合合算制の対象となるので、国保連合会が扱うことになるはずである。周知の通り、介護と障害福祉は「金銭給付」がベースで「現物給付化」である。

 つまり、総合合算制度の扱う社会保障制度はべースが「金銭給付」で揃い、いずれ医療保険の疾病給付は「現物給付」から「金銭給付」の「現物給付化」へと転換の圧力がかけられていくこととなる。医療、公的医療保険における金銭給付というのは、金銭給付で足らない給付は自分で購入することが基本となる。つまり完全にフリーな混合診療の実施を制度的に可能とする。

 総合合算制度には、完全オンライン化と混合診療の完全実施の企図が込められている。また自己負担と無関係な金銭給付の国保連合会経由は、社会保障の給付情報の集約化、一元管理を意味している。

 医療、介護の保険料負担、自己負担上限は所得により区分がある。ここに税金情報が重なるので諸手続きが不要となるといわれているが、これにより保険料負担と合わせて、税と社会保障のすべての負担情報と総ての給付情報が完全にリンクして、国保連合会で把握されることとなる。つまり社会保障個人勘定の誕生である。

 この国保連合会の担う役割は大きく、医療保険の都道府県再編における司令塔「保険者協議会」の事務局であり、医療計画による医療機関の計画配置強化の動きと絡み、社会保障サービスの提供と給付の県単位完結型・自立型の「要」となっていく。

 

 この総合合算制は、運用や稼働の点で疑問が尽きない。ひとつは負担上限の水準である。現在、社会保障審議会医療保険部会では医療の自己負担上限、高額療養費の見直しが議論されている。検討案では世帯所得に応じた4区分の年間上限が提案されているが、下位3区分の所得階層のほとんどの負担は収入の12%~16%超の水準にあり、総合合算制の仮置き水準10%を既に超えている。介護、障害福祉、子育てが載るとなれば、財源不足の状況下では最終的な合算制の上限は20%近いと懸念される。

 また月単位の高額療養費制度は継続なのか、それとも合算制に吸収されるのかがよくわからない。

 更には、リアルタイムのオンラインを前提としており、国民に配布されるIC保険証を読み取るカードリーダーの医療機関や施設での完備など環境整備が可能なのかどうか甚だ疑問である。既に与党内では財源との関係からICカード配布の見直し論議すら沸き起こっている。

 しかも2015年度施行の新保育・子育てシステムの「こども園給付」は共通番号制の対象になっておらず、この新保育・子育てシステムの法律成立の難航が予想され、この「総合合算制度」は出発時点から"片肺飛行"となることが明らかである。

 以上にみるように、共通番号制の最大のメリット、「総合合算制度」は砂上の楼閣の感が非常に強い。低所得者が生活保護に至る前に救済できるとも言われているが、対象の4制度の負担の合算上限を敷いても不可能である。職と所得向上が必須であり、生活保護となる多くは病気を契機にしており、先進国に類例のない3割負担の解消なくしてはあり得ない。

 「総合合算制度」は世帯単位で過重な負担を軽減するという趣旨や中立的運用が担保されるなら問題はない。しかし、公費制度解体の思惑含みでもある。現実は経済の凋落に比して増加する生活保護を逆に抑制する動きが強まっており、その主要な給付、医療扶助に自己負担導入が検討されているいま、これを解体しこの合算制に吸収することが非常に懸念される。それが証拠に受診時定額負担とセットの高額療養費の水準引き下げは、昨年の社会保障審議会医療保険部会で難病公費医療制度の解体の受け皿として計画されている。

 

 共通番号制は2018年からの商業利用や、TPPに絡み米国商工会議所から、本人確認と健康情報の産業化の観点で早期導入が要求されている。情報漏洩や個人情報保護の問題のみならず、最近発覚した国外からの情報ハッキングを踏まえれば、国防の観点からも熟慮すべきである。

 本末転倒な、共通番号制導入とその口実のための「総合合算制度」にわれわれは反対する。

2011年11月17日

 

「共通番号制」が推奨する「総合合算制度」は

果たして福音なのか

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


  「共通番号制」導入法案が来年の通常国会に提出される。法案大綱によれば、国民一人ひとりに「付番」がなされ、税務、医療(健康保険等)、介護保険、年金、労働保険、福祉の「6分野の情報」がこの番号に「紐付き」となり「名寄せ」「一元管理」が可能となる。これに伴い番号が記された保険証機能をもつICカードが2014年6月から国民に配布され、2015年1月から本格的実施の予定である。まさに税・社会保障一体改革を貫く「環」の仕組みとなる。この共通番号制は、"国民総背番号制"であるが、導入のメリットとして「総合合算制度」の実現が喧伝されている。実はこれは裏を返すと「社会保障個人勘定」であり、運用次第で個々人が負担する税・保険料の範囲内に社会保障サービスの給付を制限することが可能となる。現に一体改革論議で年代、年収、家族構成の40類型に応じた負担と給付のバランスシートが資料提示されており、その懸念が強い。つまりこの「勘定」により、社会保障は「必要に応じた給付」から「代金に応じた商品」の関係に変質する危険性が高い。しかも総合合算制度は、そこに潜む企図や稼働性について問題も多い。TPPとの関係性も深い、この共通番号制にわれわれは反対をし、この導入計画の撤回を求める。

総合合算制度のイメージ 

 総合合算制度とは、医療、介護、障害福祉、子育ての4制度の自己負担、利用料(以下、「自己負担」)の合算総額の上限を世帯ごとに設定し、患者・利用者は上限に達した以降は受診時、利用時(以下、「受診時」)の負担はせずに済む制度である。その上限水準は、仮置き数字とし「年収の10%」、年収300万円で年間上限30万円と、一体改革論議で例示されている。

 現在、医療と介護は月単位で自己負担の上限が設定され、更に年単位で事後的に合算精算し、上限超過分の負担金額が償還されている(高額医療・高額介護合算制度)。これが、総合合算制度ではリアルタイムに4制度の自己負担が把握され、負担上限に達した時点で、受診時の負担は不要となる。

 自己負担は、給付情報の裏返しで計算把握される。つまり、この総合合算制度は、1)オンラインによるリアルタイムの医療機関、福祉施設からの給付情報の「提供」と、2)その情報の集約と管理をする「統括機関」の存在、3)その一括管理された情報の医療機関、福祉施設での「共有」が、システムとして必要、前提となっている。

 既に、介護、障害者福祉はオンラインで給付の請求と支払いが「国保連合会」によって行われており、オンラインが不完全なのは医療である。つまり、医療はいずれ完全オンラインとなり、国保連合会に審査支払が収斂していくことが透けている。支払基金はメタボの特定健診・特定保健指導の審査支払を担っており、将来的に社会保障の給付情報は国保連合会、医療・健康情報は支払基金との役割分担の兆しも見え隠れしている。

 問題はこれに留まらない。医療では昨年、出産育児一時金の給付が、「国保連合会」経由となり、妊産婦への支給から医療機関への支払いと転換された。「療養費支給(金銭給付)」が「現物給付」化された。いま治療用装具も患者への金銭給付から審査支払機関を経由した現物給付化が検討され始めている。医療制度(健康保険制度)では、疾病給付以外の傷病手当金、埋葬料などは金銭給付だが、これらもいずれ国保連合会を経由した現物給付化の方向にあると思われる。

 新保育・子育てシステムは2015年の制度創設に向け検討中だが、幼稚園と保育園を一体化し民間参入を促すことを基本に、「子ども園給付」という金銭給付を柱に据える。これも、総合合算制の対象となるので、国保連合会が扱うことになるはずである。周知の通り、介護と障害福祉は「金銭給付」がベースで「現物給付化」である。

 つまり、総合合算制度の扱う社会保障制度はべースが「金銭給付」で揃い、いずれ医療保険の疾病給付は「現物給付」から「金銭給付」の「現物給付化」へと転換の圧力がかけられていくこととなる。医療、公的医療保険における金銭給付というのは、金銭給付で足らない給付は自分で購入することが基本となる。つまり完全にフリーな混合診療の実施を制度的に可能とする。

 総合合算制度には、完全オンライン化と混合診療の完全実施の企図が込められている。また自己負担と無関係な金銭給付の国保連合会経由は、社会保障の給付情報の集約化、一元管理を意味している。

 医療、介護の保険料負担、自己負担上限は所得により区分がある。ここに税金情報が重なるので諸手続きが不要となるといわれているが、これにより保険料負担と合わせて、税と社会保障のすべての負担情報と総ての給付情報が完全にリンクして、国保連合会で把握されることとなる。つまり社会保障個人勘定の誕生である。

 この国保連合会の担う役割は大きく、医療保険の都道府県再編における司令塔「保険者協議会」の事務局であり、医療計画による医療機関の計画配置強化の動きと絡み、社会保障サービスの提供と給付の県単位完結型・自立型の「要」となっていく。

 

 この総合合算制は、運用や稼働の点で疑問が尽きない。ひとつは負担上限の水準である。現在、社会保障審議会医療保険部会では医療の自己負担上限、高額療養費の見直しが議論されている。検討案では世帯所得に応じた4区分の年間上限が提案されているが、下位3区分の所得階層のほとんどの負担は収入の12%~16%超の水準にあり、総合合算制の仮置き水準10%を既に超えている。介護、障害福祉、子育てが載るとなれば、財源不足の状況下では最終的な合算制の上限は20%近いと懸念される。

 また月単位の高額療養費制度は継続なのか、それとも合算制に吸収されるのかがよくわからない。

 更には、リアルタイムのオンラインを前提としており、国民に配布されるIC保険証を読み取るカードリーダーの医療機関や施設での完備など環境整備が可能なのかどうか甚だ疑問である。既に与党内では財源との関係からICカード配布の見直し論議すら沸き起こっている。

 しかも2015年度施行の新保育・子育てシステムの「こども園給付」は共通番号制の対象になっておらず、この新保育・子育てシステムの法律成立の難航が予想され、この「総合合算制度」は出発時点から"片肺飛行"となることが明らかである。

 以上にみるように、共通番号制の最大のメリット、「総合合算制度」は砂上の楼閣の感が非常に強い。低所得者が生活保護に至る前に救済できるとも言われているが、対象の4制度の負担の合算上限を敷いても不可能である。職と所得向上が必須であり、生活保護となる多くは病気を契機にしており、先進国に類例のない3割負担の解消なくしてはあり得ない。

 「総合合算制度」は世帯単位で過重な負担を軽減するという趣旨や中立的運用が担保されるなら問題はない。しかし、公費制度解体の思惑含みでもある。現実は経済の凋落に比して増加する生活保護を逆に抑制する動きが強まっており、その主要な給付、医療扶助に自己負担導入が検討されているいま、これを解体しこの合算制に吸収することが非常に懸念される。それが証拠に受診時定額負担とセットの高額療養費の水準引き下げは、昨年の社会保障審議会医療保険部会で難病公費医療制度の解体の受け皿として計画されている。

 

 共通番号制は2018年からの商業利用や、TPPに絡み米国商工会議所から、本人確認と健康情報の産業化の観点で早期導入が要求されている。情報漏洩や個人情報保護の問題のみならず、最近発覚した国外からの情報ハッキングを踏まえれば、国防の観点からも熟慮すべきである。

 本末転倒な、共通番号制導入とその口実のための「総合合算制度」にわれわれは反対する。

2011年11月17日