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政策部長談話 「社会保障の『底割れ』の危険 "管理医療"の先鞭となる生活保護の医療扶助への一部負担導入に反対する」

社会保障の「底割れ」の危険 “管理医療”の先鞭となる

生活保護の医療扶助への一部負担導入に反対する

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 財政制度等審議会で生活保護の医療扶助への一部負担導入が検討されている。あわせてジェネリックの優先使用義務付け、生活保護の医療を扱う医療機関の選別・限定も議論が重ねられている。自民党のプロジェクトチームでは受診回数の制限すら導入することが挙げられ、政令市等首長の6割が賛成の意向との報道もなされている。経済状況の悪化で膨らむ生活保護の受給者増を背景に生活保護費の半分を占める医療扶助が「槍玉」に挙げられている感がある。生活の自立へ向けた、社会保障の最後の砦、この生活保護の役割を変質、弱体化させるこの動きにわれわれは強く反対をする。

 

 いま生活保護世帯は154万3千世帯、211万5千人に及ぶが、この生活保護受給者の5割超は60歳以上の高齢者である。しかも高齢者に次いで比率が多いのは傷病・障害者世帯となっている。問題の医療扶助だが、実態は7割を高齢者が占め、疾病も「精神・行動の障害」が29.9%、「循環器系の疾患」が18.6%と、高い。「精神・行動の障害」では統合失調症が多いのが特徴でもある。

 

 財政制度等審議会では、1人あたり医療扶助費が高額だとし、「30~39歳」を例に一般の2.7倍だと指摘。その上で主因は受診件数が多いことと挙げ、全額公費負担ゆえのモラルハザードへと、議論を誘導している。

 しかし、「30~39歳」の医療扶助費は全体の僅か4.0%であり、主たる「70歳以上」で比較すると、窓口負担ゼロの医療扶助と、窓口負担1割の一般の医療費では大差がない。つまり、「30~39歳」をはじめ一般の69歳以下の青年層・壮年層は窓口3割負担であり、経済的理由による受診抑制が強く働いていることが逆に伺われる。そのことは最近の日医調査でも示されている。

 「1人あたり医療扶助費」とは、生活保護受給者の総数で「頭割り」した数字である。生活保護受給者は病人の割合が一般よりも高いため、医療費総額が嵩み高額となる。それだけの話である。

 当然ながら、これは医療を受けた「患者一人あたりの診療費」とは異なる。驚くことに生活保護の2010年度の「診療費単価」(患者1人あたり診療費)は00年対比で74%水準へと大幅に「下落」しており、診療件数(=患者数)の増加はあっても内実はモラルハザードとは正反対なのである。

 この医療扶助への一部負担導入や、ジェネリック使用の義務化に関し、「受診抑制で重篤化を招く」、「精神疾患の治療に支障をきたす」との危惧が早くも関係団体より表明されている。

 

 憲法25条の生存権保障における、国の責任と範囲、基準を社会に問うた朝日訴訟により生活保護は大きく前進し今日に至っている。生活保護法は第一条で、「この法律は、日本国憲法二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。」とし、第二条で無差別平等で保護をうけうることを、第三条で最低生活の保障を謳い、約束している。

 

 いま医療扶助に関しては、「受診回数の制限」の導入や、取扱い医療機関の限定、選別なども検討され始めている。これらは、米国型の「管理医療」の先鞭であり、一般医療への波及は想像に難くない。

 社会保障の「底割れ」をもたらす医療扶助の一部負担導入、制限診療導入に断固反対をする。

2012年12月3日