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政策部長談話 「受診時定額負担の導入に反対する 情報操作を弄す、厚労省の姿勢を厳しく問う」

受診時定額負担の導入に反対する

情報操作を弄す、厚労省の姿勢を厳しく問う

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 受診時定額負担の導入を巡り、8月29日の社会保障審議会、9月16日の社保審医療保険部会で議論が重ねられている。しかし、事実の曲解や作為的な資料数値など、厚労省の情報操作が目に余る。深刻化する経済的理由による受診抑制や受診中断の下、患者負担の大幅引き下げを希望する患者・国民の声を踏みにじり、制度再編の深謀遠慮さえも潜んだ、受診時定額負担の導入に改めて断固反対する。

 

 8月29日の社会保障審議会で、新たに委員になった吉川東大教授は、日医副会長が席上紹介した欧州諸国の患者負担が原則無料、痛痒のない水準であることに対し、日本では「個人が窓口で負担するのは15、16%程度であり、先進国の中では最も低い」と反論。米国やドイツなどでは民間保険の保険料も含め「広義の自己負担としている」と展開した。また、厚労省の香取政策統括官は、「日本は保険でカバーする範囲が非常に広い。日本の一部負担金は3割負担を基本に考えられているが、実効給付率は84%。一方、フランスなどは一部負担金に対して、別にプライベートの保険でカバーされる場合もある」と説明。"自己負担率の単純な比較は難しい"との援護射撃をした。

 

 しかし、事実はこうである。吉川氏のいう自己負担16%は、「実効負担率」であり、香取氏が述べた「実効給付率84%」の裏返しである。「実効負担率」とは公的な総医療費(公費+保険料+患者負担)に占める患者負担総額の割合である。つまり、財源構成における比率である。日本は高額療養費による償還があるため、3割(30%)とならず、最終的に16%となる。それだけのことである。 実際に、圧倒的多数の患者は3割負担であり、個々の患者負担の話と財源構成の話とを混同している。

 また私的保険加入の話も不正確である。米国はそもそも4,500万人が無保険で公的保険の制度が完備されていない国で比較の対象外あり、ドイツは皆保険制度から離脱をする自由を国民の10%の富裕層に認めているということである。ちなみにドイツの外来の患者負担は3カ月10ユーロ上限で低廉であり18歳未満の患者負担はゼロである。フランスの場合は、公的保険をカバーする「補完的保険」に86%が加入しているが、そもそも非営利の共済保険等に大半の国民が加入しており、この主要部分を継承分離する形で公的保険が発足、事実上、2階建てとなり患者負担がないのである。

 翻って日本はどうか。驚くことに日本の場合は、「営利」の私的保険への加入率は総人口の61.3%であり、30歳代から50歳代では70%超(厚労省「平成21年 社会保障における公的・私的サービスに関する意識等調査報告書」)と、米国の民間保険の加入率と匹敵している(「OECD保健医療支出と財政負担 民間医療保険加入率(2005年)総人口に対する割合」)。しかも、日本の加入理由のトップは「自己負担を補うため(45.0%)」であり、次いで「治療の長期化への備え(40.0%)」と合わせると7割に達している。吉川氏らは、これらの事実を完全に黙殺している。

 

 3割負担は、大幅な患者の受診減少を生んでいる。厚労省の患者調査(05年→08年)では外来23万人、入院7万人が減少、社会保障・人口問題基本調査(07年)でも病気で受診出来なかった世帯が全世帯の2%、実に105万世帯252万人に上っている。当会調査(10年)でも患者の29%が受診の手控え、9%が治療中断となっている。かなりの過重な負担である。即刻、引き下げるべきである。

 9月16日の社保審医療保険部会では、問題の「受診時定額負担」の具体案が示された。これは3割負担に100円の負担を上乗せするというもので、一時、情報が錯綜した受診時の「差額負担」ではなかった。厚労省資料では、医療保険のカバーする範囲を狭める「免責制」と違うと強調し、医療費5,000円の際の患者負担額を1,500+100円=1,600円と例示した。しかし、金額が例示されていない免責制の図の患者負担は実は1,570円となる。

 要は、従来の「足切り免責制」に較べて、この「上乗せ免責制」は医療保険の負担が少なく、財政効果が高いということである。しかも「足切り免責制」の場合は医療保険制度の仕組みを、医療サービス給付である療養の給付から、金銭支給の療養費の支給へと根本転換する法改定を伴う。これに対し、「上乗せ免責制」は根本転換を回避できるのである。

 

 受診時定額負担は高額療養費制度の上限引き下げとセット、財政中立として、社会保障・税一体改革成案で盛られている。しかし、昨年、社保審医療保険部会でこの高額療養費問題は一度、議論がなされ高額所得者の自己負担上限の引き上げなどの方策が検討され、どうしてもやるなら「全額国費でやるべき」との意見が出ていたものである。しかも、難病公費医療制度の見直しとセットで議論がなされており、難病公費制度の解体の企図が透けていたものである。

 

 患者に更に負担をさせ、負担額の重い患者を救済するという施策は愚の骨頂である。さすがに9月16日の医療保険部会では岩本東大教授からさえも「保険料の引き上げで対応すべき」と出されている。

 

 また「打ち出の小槌」」のように定額100円の断続的な引き上げ懸念の声に、西辻保険課長が「更なる引き上げはない。ずっと100円のままだ」と述べているが、過去の歴史をたどれば眉唾である。

 患者負担は健保本人や高齢者はかつて非常に低額の定額負担だった。それが段階的に引き上げられ「定率負担」に姿を変えた。しかも、健保2割負担導入の1997年には将来的に国保の給付率を引き上げ2割負担に統一すると小泉厚生大臣(当時)が国会で約束したにもかかわらず、2002年の小泉首相の下で反故にされ3割負担となった。そして、当時、「3割が限度」(健保法附則)と講演で強調した厚労省の審議官だった中村秀一氏が、いま社会保障改革担当室長に就き、言を翻し健保法附則を無視しようとしている。

 既に昨年検討された高額療養費制度の上限引き下げの必要額2,600億円はなぜか、1,300億円に下方修正されている。更には今回の資料では外来受診の適正化との理由も持ち出し、100円負担とのバーターで大病院(200床以上)の初診で7千円~1万円負担の代替案が示されてもいる。言行不一致や数値の不統一など支離滅裂である。医療界は「踏まれても、踏まれても下駄の雪」ではないのである。

 

 定率負担に定額負担を重ねる患者負担は世界にも類例をみないが、今回の提案の「受診時」定額負担のネーミングも非常に奇妙である。患者負担は本来、「受診時」である。「受診時定率負担」とはいわない。東日本大震災で、被災者は健保では受診時負担の事後負担とされ、取り扱いは事実上、免除とされる。しかし、事後精算となると「給与天引き」となる。この「受診時」には定率負担の「受診後」精算の意図が潜んでいるとさえ思わせる。患者の自己負担の未払い問題が多額化し、解決のために事後払いが提案されてもいる。

 共通番号制の導入を前に、それを睨んだ環境整備の一環としても考えうることである。税と社会保障の負担と給付の情報が共通番号制により一元管理される。リバースモーゲージ(死亡時の財産精算)も最近、頻繁に耳にするようになっている。深謀遠慮が見え隠れしている。

 

 以上、指摘したようにこの受診時定額負担は皆保険制度を壊すものでしかない。年内に結論とされているが、即刻、撤回することを求める。

2011年9月20日