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2020/5/11 政策部長談話 「新型コロナ感染症に対峙する日本の医療体制を『全力』で守る政治と報道を強く求める」

新型コロナ感染症に対峙する日本の医療体制を

「全力」で守る政治と報道を強く求める

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


医療の危機的状況を必ず回避へ

 緊急事態宣言が5月末迄に延長され、新型コロナウイルス感染症対応の長期化は不可避と目されている。新規感染者数の抑制効果はあったものの、医療現場の危機的状況は依然、予断を許さない。日本集中治療医学会、日本感染症学会はじめ日本医師会、東京都医師会などは早くから警鐘を鳴らしてきたが劇的な好転はしていない。第一線医療を担う、開業医、開業歯科医、中小病院でも、その影響は早くから影を落とし、日常診療が危うい状況も出ている。日本の医療の「崩落」すら、危険視されている。この医療体制を全力で守る政治と、冷静に正しく恐れ行動変容を促す報道の力を痛切に望む。

制御困難な新型コロナ 現在は引き延ばし作戦の渦中、感染爆発の抑制が戦略

 新型コロナウイルス感染症への基本的対処方針の肝は、重症者、死亡者数を減少させ、医療の機能不全、医療崩壊を防ぐことにある。感染者の8割が軽症・中等症、2割が重症で5%部分が重篤、死亡となり、重篤化への急変速度が速い。感染爆発となれば重篤患者の「実数」が増え、医療資源・医療人材が不足し対応不能で機能麻痺となる。このため8割の接触削減が目標に据えられてきた。

 新型コロナ感染症は解明の途上にあり、潜伏期間が長く、無症状感染者が存在し、変異株が多数と未だ制御が難しい疾病である。しかも治療薬は既存薬の適応拡大の治験により科学的評価の確立の途上にある。過日、点滴のレムデシビルが重症者治療で特例承認となったが、早期治療の経口投与薬アビガンなどは観察研究や臨床研究に参加する病院で患者は被験者として投与され、奏功例があるものの治験での科学的評価は定まっていない。

 ノーベル賞受賞者が期待を寄せるアクテムラやイベルメクチンの治験はこれからである。新薬開発は、数年単位とみられている。一方、ワクチン開発はWHOが1年数か月以上はかかるとしており、実用化まで数年単位と専門家からも見られている。長期化不可避の下、医療が展開されている。

 「予防、感染防御、診断、治療」の医療のプロセスの中で、いま死者を減らす治療法の確立、とりわけ治療薬の承認による国民の安心感の醸成、「出口戦略」に期待が大きくなっている。

 この間、感染爆発抑制のため、国民的協力の下で外出自粛が重ねられてきた。今後、感染拡大が鈍化しても第2波や第3波は必至と観測され、「新たな生活様式」が提唱されるに至っている。

再生産数1未満による集団免疫率向上へ 感染症疫学の数理モデル

 1人の感染者が何人に感染させるかの「基本再生産数」は新型コロナウイルスは平均1.4人から2.5人(WHOの暫定値)だが、手指消毒・うがい・接触削減などの対策をとった「実効再生産数」は政府の専門家会議によれば東京都は3月下旬に1.7、緊急事態宣言後の4月10日は0.5と推計された。1未満であれば新規感染者数は「減少」に転じる。感染爆発した欧米では2~4程度だった。

 実効再生産数を低下させれば、転換点の1に至るまでの集団免疫率(未感染者の盾となる既感染者の割合)も連動して低下していき、死者数も抑制できる。無論、日々の新規感染者数の山は低くなり緩慢なカーブを描き、重症者数を抑制でき医療崩壊を防ぐ。この感染症疫学数理により接触削減で時間を稼ぎ、ワクチン実用化による人工的な集団免疫の達成、治療薬の実用化、検査方法の開発など、医療を充実していく。この戦略が展開されている渦中である。

少ない感染症対応の医療体制と資源 今後の備えも重要

 新型コロナ感染症は二類感染症相当であり、結核と同様に診断の際、保健所への届出と隔離が感染症法で決められている。ただ専用の指定感染症病床(個室・陰圧制御)も全国351病院1,758病床と限られ、重篤化した際の集中治療室ICUは781病院6,556病室でしかない。全国の二次医療圏344地域に1つ程度しかなく、専用病床も1病院あたり一桁と僅少である。重篤の際の人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)の稼働には医師、看護師、臨床工学士など多人数の医療人材が投入される。

 新型コロナ感染者は1万人超と隔離の病床数を超えており、首都圏、近畿圏では、無症状者や軽症者は自治体が契約した宿泊施設等で療養とし、医師・看護師が管理する体制がとられている。また二次医療での中等症・重症者受け入れの重点医療機関の設置や、感染症病床の時限的な拡大・弾力運用、特例的なICUの適応病床拡大などの現実的な柔軟対応で、この間ギリギリ乗り切ってきている。

機能分担、重層構造、新型感染症対応とそれ以外の医療を守る必要性にも光を

 新型コロナ感染症の重症者の治療にあたる医療機関は、高度な医療や三次救急をも担っているが、医療者を含む院内感染のため、救急外来の休止や縮小、手術の延期や中止を余儀なくされており、二次救急を担う医療機関がこれらの重症者の治療を高い感染リスクと隣り合わせで行っている。また地域の中小病院や開業医は新型コロナ感染症が疑わしい患者のトリアージを担っている。発熱外来の設置のほか、診療時間帯の区分や患者動線の区分け、車中での診療等、発熱外来的専門対応を含め、病状の鑑別や、保健所や保健所を通じた「帰国者・接触者外来」(非公開)でのPCR検査へと患者の「交通整理」にあたっている。このように機能分担が重層構造で行われている。

 ただ、第一線の医療機関では、感染を怖がり受診を回避する患者の増加が顕著となっている。歯科医療機関ではガイドラインに沿い、緊急性のない患者の治療の予約先延ばし対応をとるなど地域的トリアージをしており、減収幅が5割近い医療機関もあり深刻である。これらの来院減少は特定警戒都道府県のみならず全国的な傾向で、2月以降は8割の医療機関で、再診患者が前年同月比で減少している。既に4月分請求を終え前年比で30%超の減額の診療所も出始め危機意識は強い。

 日医や日歯、四病協などからも深刻な経営状況が報告され、政府への要望も相次いでいる。

 加えて今後予想されるのは失業による保険料滞納や窓口負担困難で治療を中断する患者の増加である。社会保険料の減免や納入延期など検討されるようだが、一時的な窓口負担の無料化や低率化は検討すべきだ。糖尿病や高血圧などでは中断後すぐにでも重症化する人たちがいるのである。

新規患者抑制、通常医療、医療機関支援の3つで PCR検査キット開発、体制強化も

 今後①新型コロナ感染症の治療と新規患者数の抑制、②それ「以外」の患者の治療継続・持続の保障、③医療機関の経営体力維持への強力な支援、の3本柱が医療体制を守る上で要諦となってくる。その点でPCR検査の増大と検査キットの開発支援が重要度を増しており、専門家会議からも改善が求められている。

 遺伝子検査のPCR検査は、咽頭・鼻咽頭の拭い液の「検体採取」の際の飛沫曝露や接触の感染リスクが高く防護服や高い技術を要し、遺伝子増殖のための臨床検査技師などの専門要員、採取検体の運搬、検査試薬・機器による解析など、インフルエンザの医療機関での検査とは大きく異なる。ひとり医師の診療所での曝露、感染者発症は、業務休止となり地域医療に穴が開くことになる。

 保健所の「行政検査」だったPCR検査は3月6日に保険診療の適用となったが、基本は行政検査の医療機関への委託である。都道府県が「感染症指定医療機関等」(感染症指定医療機関、新型コロナ患者の入院する病院、「帰国者・接触者外来」設置機関など)と指定契約をし、患者負担分を行政が当該機関に直接支払い、当該機関から県へ実績報告を求める形式である。

 「帰国者・接触者相談センター」(保健所)に電話がつながりにくい状況の中で、かかりつけ医から、保健所を介さずに医師の必要性判断で、「帰国者・接触者外来」に紹介可能と通知上は示されたが、医療機関にさえも「帰国者・接触者外来」は非公開のため空文化している。結局、かかりつけ医は保健所に電話し検査依頼となり、しかも医師の必要性判断では話は通らず、当初基準(相談目安)が厳守されCT画像を求められたりし、業務過多の保健所と医療機関の双方に負荷がかかるままである。

 保健所は、①受診相談、②PCR検査(実施・分析、委託先の検体回収、分析機関への運搬)、③隔離先の調整・同行(入院・宿泊調整)、④陽性者フォロー、⑤濃厚接触者の「積極的疫学調査」(いわゆる健康観察)と、多岐にわたる業務を休みなくこなし受けた依頼の検査適応を厳格に判断している。一方、かかりつけ医は、発熱者、無症状感染者をリスク管理、院内トリアージしながら、必要と判断して依頼をしても検査にこぎつけず、不満と不安をかかえ、患者の対応に苦慮する事態となっている。

PCR検査改善へ 医療機関に限定し「帰国者・接触者外来」の公開を 唾液キット等も

 さすがに医療的危機事態に瀕する東京都医師会は事態打開へ、開業医が輪番でリスクをとり検体採取を行い、民間の検査会社に分析を依頼する形の、「PCR検査外来」の設置を医師会主導で行った。日医も後押しし、これを厚労省が通知で追認する動きとなっている。この動きは神奈川県はじめ各県に広がり、PCR検査スポット、PCR検査外来、ドライブスルー形式、ウォークスルー形式などと様々出ている。医療機関要件や保険指定など運用を緩和し認めているが設置場所は非公開原則である。

 PCR検査は、大学病院や基幹病院などで院内感染や職員感染のリスク管理の観点から、手術や緊急入院患者に病院負担で実施している。無症状のコロナ患者が一定数いることを踏まえれば、これを保険適用すべきである。これは、PCR検査体制のない、そのほかの病院においても必要である。

 その点で、PCR検査が可能な体制にある医療機関について、「紹介」を前提に各医療機関へは「公開」とし、検査委託がスムーズな体制を敷き、医学的必要性、感染抑制の観点で必要なものは全例実施へと切り替えることが医療政策上、必要だと考える。感染リスクの低い唾液検体でのPCR検査キットの早期の薬事承認や、大学や研究機関などの検査協力体制の充実も必要と考える。

マスク、防護服の確保配布は、リアルタイムで 診療報酬の単価の臨時的増額で経営補償

 政府は、サージカルマスクやN95、フェースガードや防護服など一括購入し、優先順位をつけ都道府県を通じ配布し始めた。WEB登録を医療機関に勧め、不足量を把握している。日医総研の試算ではマスクは日に数億枚単位が必要であり、この面での努力は一層、求めたい。

 それにも増して、医療機関の減収はこのままでは深刻となる。過日、ICUや感染症等医療機関など最前線の診療報酬の点数倍加が行われたが、重層構造で機能分担をしている医療機関の多くは深刻である。災害時対応の概算請求の要望もあるが、緊急避難的対応として「1点単価20円」のような単価変更の時限的・特例的対応は最低限と考える。内部的には診療報酬支払基金、国保中央会で2、3、4月診療分の請求・支払の金額・件数の速報値・暫定値は出ており、対前年同月比の減少分の逆数値程度の補正単価とし、今後の3か月分に適応させるのも方法である。8/10の減少なら10/8×10円を単価とするのである。患者負担金は1点10円計算のままとし、医療機関への支払い分の適用とする。過日、中医協で保険者側から、経済活動の停滞による保険財政への懸念が出されているが、医療体制・機能の維持を目的とした、従前程度の医療経営原資の保障であれば合意は可能と思われる。

 これに加え、「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金」(国費1,490億円、公費2,972億円)のように、「都道府県が地域の実情に応じて柔軟かつ機動的に実施できる」という医療機関支援のアイディアのある交付金の思い切った増額を強く望みたい。

 自民党の厚労部会と医療委員会は5月1日、医療体制の重層構造を念頭に、地域の通常医療の確保とともに新型コロナウイルス感染症対策へ「数兆円規模の迅速な対応」を厚労大臣に要望している。

政治は自らの言葉で語り、医療と国民生活を守ることに腐心を

 この間、ダイヤモンドプリンセンス号の感染患者の治療にあたった自衛隊中央病院の様子が公開報道され、ベーシックなことを徹底して実践する高度な熟練度に、感染症の専門家が得心していた。ウイルスは1ミリの1万分の一であり、どの病院、医療機関も細心の感染防御策をとっているが、無症状感染者もおり、残念ながら院内感染は起こる。無用な差別・偏見の発生の温床とならない報道に心して欲しい。医療対応の構図・構造を示した報道をより一層期待したい。

 特定警戒都道府県の期間満了前の「解除」を5月7日に官房長官が言及した。経済活動の回復含みであろうが、日本経済の雇用の7割を占め、企業数の99%を占める中小企業への十分な休業補償措置とあわせ、医学・科学的知見に照らし、これまでの努力を無にしない慎重な対応を願いたい。

 新型コロナの難局にあたり、国債発行による積極的財政を敷かざるをない。GDPの2倍の国債を抱えるこの国での舵取りは容易ではないが、財務省には胆力とその手腕、底力の発揮を期待したい。

 この間の医療機関や医療従事者と保健所の献身で、新型コロナ感染症への対応になんとか当たってきているが、厚労省職員の不眠不休の下支え―法令・法文の最大限の解釈拡大・弾力運用、診療報酬対応や専門家会議や国会、官邸対応などは、様々な批判はあるが、隠れた功労者である。

 世界を震撼させるこの有事に、覚悟をもって全力で事に当たり、責任をとる政治の真価が問われている。医療体制を守り国民に向き合うことを切に求める。

2020年5月11日

新型コロナ感染症に対峙する日本の医療体制を

「全力」で守る政治と報道を強く求める

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


医療の危機的状況を必ず回避へ

 緊急事態宣言が5月末迄に延長され、新型コロナウイルス感染症対応の長期化は不可避と目されている。新規感染者数の抑制効果はあったものの、医療現場の危機的状況は依然、予断を許さない。日本集中治療医学会、日本感染症学会はじめ日本医師会、東京都医師会などは早くから警鐘を鳴らしてきたが劇的な好転はしていない。第一線医療を担う、開業医、開業歯科医、中小病院でも、その影響は早くから影を落とし、日常診療が危うい状況も出ている。日本の医療の「崩落」すら、危険視されている。この医療体制を全力で守る政治と、冷静に正しく恐れ行動変容を促す報道の力を痛切に望む。

制御困難な新型コロナ 現在は引き延ばし作戦の渦中、感染爆発の抑制が戦略

 新型コロナウイルス感染症への基本的対処方針の肝は、重症者、死亡者数を減少させ、医療の機能不全、医療崩壊を防ぐことにある。感染者の8割が軽症・中等症、2割が重症で5%部分が重篤、死亡となり、重篤化への急変速度が速い。感染爆発となれば重篤患者の「実数」が増え、医療資源・医療人材が不足し対応不能で機能麻痺となる。このため8割の接触削減が目標に据えられてきた。

 新型コロナ感染症は解明の途上にあり、潜伏期間が長く、無症状感染者が存在し、変異株が多数と未だ制御が難しい疾病である。しかも治療薬は既存薬の適応拡大の治験により科学的評価の確立の途上にある。過日、点滴のレムデシビルが重症者治療で特例承認となったが、早期治療の経口投与薬アビガンなどは観察研究や臨床研究に参加する病院で患者は被験者として投与され、奏功例があるものの治験での科学的評価は定まっていない。

 ノーベル賞受賞者が期待を寄せるアクテムラやイベルメクチンの治験はこれからである。新薬開発は、数年単位とみられている。一方、ワクチン開発はWHOが1年数か月以上はかかるとしており、実用化まで数年単位と専門家からも見られている。長期化不可避の下、医療が展開されている。

 「予防、感染防御、診断、治療」の医療のプロセスの中で、いま死者を減らす治療法の確立、とりわけ治療薬の承認による国民の安心感の醸成、「出口戦略」に期待が大きくなっている。

 この間、感染爆発抑制のため、国民的協力の下で外出自粛が重ねられてきた。今後、感染拡大が鈍化しても第2波や第3波は必至と観測され、「新たな生活様式」が提唱されるに至っている。

再生産数1未満による集団免疫率向上へ 感染症疫学の数理モデル

 1人の感染者が何人に感染させるかの「基本再生産数」は新型コロナウイルスは平均1.4人から2.5人(WHOの暫定値)だが、手指消毒・うがい・接触削減などの対策をとった「実効再生産数」は政府の専門家会議によれば東京都は3月下旬に1.7、緊急事態宣言後の4月10日は0.5と推計された。1未満であれば新規感染者数は「減少」に転じる。感染爆発した欧米では2~4程度だった。

 実効再生産数を低下させれば、転換点の1に至るまでの集団免疫率(未感染者の盾となる既感染者の割合)も連動して低下していき、死者数も抑制できる。無論、日々の新規感染者数の山は低くなり緩慢なカーブを描き、重症者数を抑制でき医療崩壊を防ぐ。この感染症疫学数理により接触削減で時間を稼ぎ、ワクチン実用化による人工的な集団免疫の達成、治療薬の実用化、検査方法の開発など、医療を充実していく。この戦略が展開されている渦中である。

少ない感染症対応の医療体制と資源 今後の備えも重要

 新型コロナ感染症は二類感染症相当であり、結核と同様に診断の際、保健所への届出と隔離が感染症法で決められている。ただ専用の指定感染症病床(個室・陰圧制御)も全国351病院1,758病床と限られ、重篤化した際の集中治療室ICUは781病院6,556病室でしかない。全国の二次医療圏344地域に1つ程度しかなく、専用病床も1病院あたり一桁と僅少である。重篤の際の人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)の稼働には医師、看護師、臨床工学士など多人数の医療人材が投入される。

 新型コロナ感染者は1万人超と隔離の病床数を超えており、首都圏、近畿圏では、無症状者や軽症者は自治体が契約した宿泊施設等で療養とし、医師・看護師が管理する体制がとられている。また二次医療での中等症・重症者受け入れの重点医療機関の設置や、感染症病床の時限的な拡大・弾力運用、特例的なICUの適応病床拡大などの現実的な柔軟対応で、この間ギリギリ乗り切ってきている。

機能分担、重層構造、新型感染症対応とそれ以外の医療を守る必要性にも光を

 新型コロナ感染症の重症者の治療にあたる医療機関は、高度な医療や三次救急をも担っているが、医療者を含む院内感染のため、救急外来の休止や縮小、手術の延期や中止を余儀なくされており、二次救急を担う医療機関がこれらの重症者の治療を高い感染リスクと隣り合わせで行っている。また地域の中小病院や開業医は新型コロナ感染症が疑わしい患者のトリアージを担っている。発熱外来の設置のほか、診療時間帯の区分や患者動線の区分け、車中での診療等、発熱外来的専門対応を含め、病状の鑑別や、保健所や保健所を通じた「帰国者・接触者外来」(非公開)でのPCR検査へと患者の「交通整理」にあたっている。このように機能分担が重層構造で行われている。

 ただ、第一線の医療機関では、感染を怖がり受診を回避する患者の増加が顕著となっている。歯科医療機関ではガイドラインに沿い、緊急性のない患者の治療の予約先延ばし対応をとるなど地域的トリアージをしており、減収幅が5割近い医療機関もあり深刻である。これらの来院減少は特定警戒都道府県のみならず全国的な傾向で、2月以降は8割の医療機関で、再診患者が前年同月比で減少している。既に4月分請求を終え前年比で30%超の減額の診療所も出始め危機意識は強い。

 日医や日歯、四病協などからも深刻な経営状況が報告され、政府への要望も相次いでいる。

 加えて今後予想されるのは失業による保険料滞納や窓口負担困難で治療を中断する患者の増加である。社会保険料の減免や納入延期など検討されるようだが、一時的な窓口負担の無料化や低率化は検討すべきだ。糖尿病や高血圧などでは中断後すぐにでも重症化する人たちがいるのである。

新規患者抑制、通常医療、医療機関支援の3つで PCR検査キット開発、体制強化も

 今後①新型コロナ感染症の治療と新規患者数の抑制、②それ「以外」の患者の治療継続・持続の保障、③医療機関の経営体力維持への強力な支援、の3本柱が医療体制を守る上で要諦となってくる。その点でPCR検査の増大と検査キットの開発支援が重要度を増しており、専門家会議からも改善が求められている。

 遺伝子検査のPCR検査は、咽頭・鼻咽頭の拭い液の「検体採取」の際の飛沫曝露や接触の感染リスクが高く防護服や高い技術を要し、遺伝子増殖のための臨床検査技師などの専門要員、採取検体の運搬、検査試薬・機器による解析など、インフルエンザの医療機関での検査とは大きく異なる。ひとり医師の診療所での曝露、感染者発症は、業務休止となり地域医療に穴が開くことになる。

 保健所の「行政検査」だったPCR検査は3月6日に保険診療の適用となったが、基本は行政検査の医療機関への委託である。都道府県が「感染症指定医療機関等」(感染症指定医療機関、新型コロナ患者の入院する病院、「帰国者・接触者外来」設置機関など)と指定契約をし、患者負担分を行政が当該機関に直接支払い、当該機関から県へ実績報告を求める形式である。

 「帰国者・接触者相談センター」(保健所)に電話がつながりにくい状況の中で、かかりつけ医から、保健所を介さずに医師の必要性判断で、「帰国者・接触者外来」に紹介可能と通知上は示されたが、医療機関にさえも「帰国者・接触者外来」は非公開のため空文化している。結局、かかりつけ医は保健所に電話し検査依頼となり、しかも医師の必要性判断では話は通らず、当初基準(相談目安)が厳守されCT画像を求められたりし、業務過多の保健所と医療機関の双方に負荷がかかるままである。

 保健所は、①受診相談、②PCR検査(実施・分析、委託先の検体回収、分析機関への運搬)、③隔離先の調整・同行(入院・宿泊調整)、④陽性者フォロー、⑤濃厚接触者の「積極的疫学調査」(いわゆる健康観察)と、多岐にわたる業務を休みなくこなし受けた依頼の検査適応を厳格に判断している。一方、かかりつけ医は、発熱者、無症状感染者をリスク管理、院内トリアージしながら、必要と判断して依頼をしても検査にこぎつけず、不満と不安をかかえ、患者の対応に苦慮する事態となっている。

PCR検査改善へ 医療機関に限定し「帰国者・接触者外来」の公開を 唾液キット等も

 さすがに医療的危機事態に瀕する東京都医師会は事態打開へ、開業医が輪番でリスクをとり検体採取を行い、民間の検査会社に分析を依頼する形の、「PCR検査外来」の設置を医師会主導で行った。日医も後押しし、これを厚労省が通知で追認する動きとなっている。この動きは神奈川県はじめ各県に広がり、PCR検査スポット、PCR検査外来、ドライブスルー形式、ウォークスルー形式などと様々出ている。医療機関要件や保険指定など運用を緩和し認めているが設置場所は非公開原則である。

 PCR検査は、大学病院や基幹病院などで院内感染や職員感染のリスク管理の観点から、手術や緊急入院患者に病院負担で実施している。無症状のコロナ患者が一定数いることを踏まえれば、これを保険適用すべきである。これは、PCR検査体制のない、そのほかの病院においても必要である。

 その点で、PCR検査が可能な体制にある医療機関について、「紹介」を前提に各医療機関へは「公開」とし、検査委託がスムーズな体制を敷き、医学的必要性、感染抑制の観点で必要なものは全例実施へと切り替えることが医療政策上、必要だと考える。感染リスクの低い唾液検体でのPCR検査キットの早期の薬事承認や、大学や研究機関などの検査協力体制の充実も必要と考える。

マスク、防護服の確保配布は、リアルタイムで 診療報酬の単価の臨時的増額で経営補償

 政府は、サージカルマスクやN95、フェースガードや防護服など一括購入し、優先順位をつけ都道府県を通じ配布し始めた。WEB登録を医療機関に勧め、不足量を把握している。日医総研の試算ではマスクは日に数億枚単位が必要であり、この面での努力は一層、求めたい。

 それにも増して、医療機関の減収はこのままでは深刻となる。過日、ICUや感染症等医療機関など最前線の診療報酬の点数倍加が行われたが、重層構造で機能分担をしている医療機関の多くは深刻である。災害時対応の概算請求の要望もあるが、緊急避難的対応として「1点単価20円」のような単価変更の時限的・特例的対応は最低限と考える。内部的には診療報酬支払基金、国保中央会で2、3、4月診療分の請求・支払の金額・件数の速報値・暫定値は出ており、対前年同月比の減少分の逆数値程度の補正単価とし、今後の3か月分に適応させるのも方法である。8/10の減少なら10/8×10円を単価とするのである。患者負担金は1点10円計算のままとし、医療機関への支払い分の適用とする。過日、中医協で保険者側から、経済活動の停滞による保険財政への懸念が出されているが、医療体制・機能の維持を目的とした、従前程度の医療経営原資の保障であれば合意は可能と思われる。

 これに加え、「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金」(国費1,490億円、公費2,972億円)のように、「都道府県が地域の実情に応じて柔軟かつ機動的に実施できる」という医療機関支援のアイディアのある交付金の思い切った増額を強く望みたい。

 自民党の厚労部会と医療委員会は5月1日、医療体制の重層構造を念頭に、地域の通常医療の確保とともに新型コロナウイルス感染症対策へ「数兆円規模の迅速な対応」を厚労大臣に要望している。

政治は自らの言葉で語り、医療と国民生活を守ることに腐心を

 この間、ダイヤモンドプリンセンス号の感染患者の治療にあたった自衛隊中央病院の様子が公開報道され、ベーシックなことを徹底して実践する高度な熟練度に、感染症の専門家が得心していた。ウイルスは1ミリの1万分の一であり、どの病院、医療機関も細心の感染防御策をとっているが、無症状感染者もおり、残念ながら院内感染は起こる。無用な差別・偏見の発生の温床とならない報道に心して欲しい。医療対応の構図・構造を示した報道をより一層期待したい。

 特定警戒都道府県の期間満了前の「解除」を5月7日に官房長官が言及した。経済活動の回復含みであろうが、日本経済の雇用の7割を占め、企業数の99%を占める中小企業への十分な休業補償措置とあわせ、医学・科学的知見に照らし、これまでの努力を無にしない慎重な対応を願いたい。

 新型コロナの難局にあたり、国債発行による積極的財政を敷かざるをない。GDPの2倍の国債を抱えるこの国での舵取りは容易ではないが、財務省には胆力とその手腕、底力の発揮を期待したい。

 この間の医療機関や医療従事者と保健所の献身で、新型コロナ感染症への対応になんとか当たってきているが、厚労省職員の不眠不休の下支え―法令・法文の最大限の解釈拡大・弾力運用、診療報酬対応や専門家会議や国会、官邸対応などは、様々な批判はあるが、隠れた功労者である。

 世界を震撼させるこの有事に、覚悟をもって全力で事に当たり、責任をとる政治の真価が問われている。医療体制を守り国民に向き合うことを切に求める。

2020年5月11日