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2020/2/7 政策部長談話 「多焦点眼内レンズの選定療養は医療技術の差額化 保険外併用療養(合法的混合診療)の融解を警鐘する」

多焦点眼内レンズの選定療養は医療技術の差額化

保険外併用療養(合法的混合診療)の融解を警鐘する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 中医協は昨年12月13日、「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」を差額ベッドなどの「選定療養」に位置付けることを了承した。診療報酬の改定率決定の陰に隠れ、大きな話題となってきていないが、保険外併用療養(混合診療)の大きな転換となる。席上、「例外的位置づけ」と確認はされたが、これは「パンドラの箱」となる危険性が高い。われわれは、この問題の深さを説き、警鐘する。

2006年の参院付帯決議に反す、保険外併用療養の拡大と融解

 医療保険は、確立した標準治療の医療サービスそのものを患者に提供することで自己完結する、「療養の給付」を原則とする。よって給付範囲の枠外の医療サービスやモノとの併用は制度が想定しておらず、混合診療として禁止されている。ただ、特例的に一部、保険外併用療養として合法的混合診療が認められている。外形的に保険診療と自由診療(保険外)の併用に見えるが、その本質は自由診療への医療保険財源の「補填」である。

 この合法的混合診療は、①保険導入の方向性を持ち導入検討が前提の「評価療養」と、②保険導入を前提としない「選定療養」に大別される。前者は医療技術の「先進医療」や、医薬品・医療器の「治験」や「適応外使用」を内容とし、後者は差額ベッドなどのアメニティーとなっている。

 ただ、先進医療は、未承認薬の使用を伴わない「先進医療A」と、それを伴ういわゆる臨床研究の「先進医療B」へと広がり、臨床研究の適格基準外でも保険が併用できる「患者申出療養」へと拡散、融解している。

 保険外併用療養が法改定により創設された2006年、参院厚生労働委員会では、「新たな保険外併用療養費制度においては、医療における安全性・有効性が十分確保されるよう対処するとともに、保険給付外の範囲が無制限に拡大されないよう適切に配慮すること」の附帯決議(6月13日)がつけられている。しかし、その後、安全性・有効性の確保は、臨床研究の倫理指針に抵触するほど危ういものとなっており、その範囲は拡大の一途である。

先進医療の費用の大半は多焦点眼内レンズ 保険導入技術は数百万円規模

 懸案の多焦点眼内レンズだが、白内障治療に用いられ、2008年7月より先進医療とし適用されてきた。その費用総額は、先進医療88種類(A29種類、B59種類)の総金額248億6,266万円(保険外分229億7,932万円+保険診療分18億8,333万円)の73.6%、保険外の先進医療の総費用の79.1%を占める。また多焦点眼内レンズの実施件数は33,868件で全体の88.5%、実施医療機関数も883機関で全体の85.8%と、圧倒的な比率となっている(2019.6.30時点:2019.12.13中医協総会資料)。

 これを保険導入しない理由を中医協は、安全性・有効性は確認されるものの、既存の保険導入されている単焦点眼内レンズに比して優越性が認められないこととした。

 先進医療(保険外)の医療技術の保険導入は①安全性、②有効性、③普及性、④技術的成熟度、⑤社会的妥当性(社会的倫理的問題等)、⑥効率性、の6つの指標によりその可否が評価、判断される。

 多焦点眼内レンズは、保険導入の判断で効率性が問題となったことになる。ただ、多焦点眼内レンズの保険外分229億7,932万円は、総医療費42兆円の僅か0.05%に過ぎない。つまり、このことは、最近の診療報酬改定率が、1%未満のコンマ二桁の攻防となっていることと重ね合わせると、今後、230億円規模程度の医療技術は、既存の医療技術に比して費用的に大きく代替するものでなければ、安全性・有効性があり、普及性があっても保険導入は困難、ということを意味している。

 1月22日の中医協で264の医療技術の保険導入が了承されたが、医療保険への財政影響額は総計で数十億円に満たない。そのうち先進医療からの導入は6技術で、影響額の大きな技術でも600万円であり、「減額」影響8億円となる技術は「先進医療B」から、「先進医療A」を飛び越え導入されている。学会から中医協・医療技術評価分科会へ提案があり保険導入となったものには数億円規模のものがあるが、これらに比して先進医療からの保険導入は影響額の遥かに小さいものしかないのである。

医療技術がアメニティーに? 選定療養の歪(いびつ)化

 多焦点の眼内レンズは、中医協の議論により、選定療養の範疇に振り分けられるが、実は選定療養の実績額は、差額ベッドの約4千億円を除けば、保険外の金額規模は大きくない。項目別に200床以上病院の初診は約48億円、同じく再診は約0.5億円、予約診療は1億円未満、時間外診察1億円未満、前歯部歯冠修復の金合金・白金加金は数十億円、金属床総義歯は数百億円、齲蝕の指導管理は約約1億円、180日超入院は約4.4億円、回数超診療は数億円(いずれも当協会推計)である。

 金属床総義歯と同程度となるが、1件単位の金額は60万円であり、金属床の総義歯の倍、差額ベッド代の一か月入院の21万円の3倍と、1患者で見ると大きな金額となる。

 2006年の保険外併用療養費制度創設に伴い、従前の特定療養費が再編・整理され、それまでの保険外の医療技術(金属床総義歯など)や保険外の診療部分(180日超入院など)が追認・編入されて以降、初めての医療技術の選定療養費化となる。これはこれまでの考え方と相違し、転換点となる。

 先進医療は、①実績0や実績が乏しい、②科学的根拠不明などの理由で、評価の篩にかけられ実施実績がありながらも、該当から除外されているものが40種類弱と、数少なくない。これらの中で、自費診療としていまだ実施されているものもあるとみられる。保険診療の補填がなくなっても、丸まる自費診療として需要があれば、市場が成立するのである。

 このような中で、先進医療で一定の有効性が確認され普及されたものであっても、金額の多寡で保険導入とはならず、「削除」されても選定療養としてカテゴリーを違えて「復活」となり、保険外併用療養(=合法的な混合診療)の継続と、多焦点眼内レンズはなったのである。

 先進医療の保険導入の篩からこぼれた「落選」組の受け皿の性格を選定療養が帯びることになったのである。これは特例措置とされたが、医療技術でありながら「アメニティー」と称し分離され、差額ベッドと同列化された点の意味も大きい。生体に埋め込む医療機器であり、人工骨や人工心臓と同列であるが、選択的医療とされたのである。療養費支給となる補装具(義肢や義眼)のような保険でのカバーはされず、給付外の眼鏡などの視力矯正器具と同列の取り扱いとなったのである。

医療技術の届出制での混合診療への懸念と財務省の思惑への牽制を

 選定療養は、事前審査制の先進医療と違い届出制であり事後に実績報告をし、行政は事後チェックとなる。多焦点眼内レンズの今回の措置は、医療技術が届出制で合法的混合診療(保険外併用療養)の対象となる先鞭となる危険性が高い。かつて、2010年6月7日に行政刷新会議の規制・制度改革に関する分科会が報告書をまとめ、「評価療養」と「選定療養」のうち直接的な医療技術を「届出制」とし、先述の落選組の受け皿の制度化となる提案がなされている。これは医療分野全般を「事前規制から事後チェック」とする大前提の原則を冒頭に掲げたものであった。

 保険局医療課は当協会の照会(2020年2月5日)に際し、多焦点眼内レンズの届出制、実績報告に関し具体的な扱いについて検討中としている。

 昨年、財務省の主計局次長が後発医薬品がある医薬品の参照価格制度を例に挙げ「保険外併用療養の分野の拡大の余地があるのではないか」とし、医薬品や医療技術などを、1) 給付縮小で保険外しや一部給付制限したものを医療現場で利用できるようにし、2) 汎用性の高い医療技術等を保険導入しない「留め置き」状態のままにし、民間保険にカバーさせることを含意した提案をシンポジウムでしている。今回の多焦点眼内レンズの選定療養費化は、この水先案内を担うかのように映る。

 中医協は昨年10月25日、「患者や家族への時間外の病状説明」以外は選定療養の範囲見直しで対応しないとしていただけに要注意である。加えて、保険適用の医療技術の再評価目的の臨床研究での保険外検査等を含むものの対応へ、法改定を含む「評価療養」の見直しも検討課題に挙げている。

 われわれは医療技術の差額化、保険外併用療養の制度融解に対し、皆保険制度を守る見地から強く反対する。

2020年2月7日

多焦点眼内レンズの選定療養は医療技術の差額化

保険外併用療養(合法的混合診療)の融解を警鐘する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 中医協は昨年12月13日、「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」を差額ベッドなどの「選定療養」に位置付けることを了承した。診療報酬の改定率決定の陰に隠れ、大きな話題となってきていないが、保険外併用療養(混合診療)の大きな転換となる。席上、「例外的位置づけ」と確認はされたが、これは「パンドラの箱」となる危険性が高い。われわれは、この問題の深さを説き、警鐘する。

2006年の参院付帯決議に反す、保険外併用療養の拡大と融解

 医療保険は、確立した標準治療の医療サービスそのものを患者に提供することで自己完結する、「療養の給付」を原則とする。よって給付範囲の枠外の医療サービスやモノとの併用は制度が想定しておらず、混合診療として禁止されている。ただ、特例的に一部、保険外併用療養として合法的混合診療が認められている。外形的に保険診療と自由診療(保険外)の併用に見えるが、その本質は自由診療への医療保険財源の「補填」である。

 この合法的混合診療は、①保険導入の方向性を持ち導入検討が前提の「評価療養」と、②保険導入を前提としない「選定療養」に大別される。前者は医療技術の「先進医療」や、医薬品・医療器の「治験」や「適応外使用」を内容とし、後者は差額ベッドなどのアメニティーとなっている。

 ただ、先進医療は、未承認薬の使用を伴わない「先進医療A」と、それを伴ういわゆる臨床研究の「先進医療B」へと広がり、臨床研究の適格基準外でも保険が併用できる「患者申出療養」へと拡散、融解している。

 保険外併用療養が法改定により創設された2006年、参院厚生労働委員会では、「新たな保険外併用療養費制度においては、医療における安全性・有効性が十分確保されるよう対処するとともに、保険給付外の範囲が無制限に拡大されないよう適切に配慮すること」の附帯決議(6月13日)がつけられている。しかし、その後、安全性・有効性の確保は、臨床研究の倫理指針に抵触するほど危ういものとなっており、その範囲は拡大の一途である。

先進医療の費用の大半は多焦点眼内レンズ 保険導入技術は数百万円規模

 懸案の多焦点眼内レンズだが、白内障治療に用いられ、2008年7月より先進医療とし適用されてきた。その費用総額は、先進医療88種類(A29種類、B59種類)の総金額248億6,266万円(保険外分229億7,932万円+保険診療分18億8,333万円)の73.6%、保険外の先進医療の総費用の79.1%を占める。また多焦点眼内レンズの実施件数は33,868件で全体の88.5%、実施医療機関数も883機関で全体の85.8%と、圧倒的な比率となっている(2019.6.30時点:2019.12.13中医協総会資料)。

 これを保険導入しない理由を中医協は、安全性・有効性は確認されるものの、既存の保険導入されている単焦点眼内レンズに比して優越性が認められないこととした。

 先進医療(保険外)の医療技術の保険導入は①安全性、②有効性、③普及性、④技術的成熟度、⑤社会的妥当性(社会的倫理的問題等)、⑥効率性、の6つの指標によりその可否が評価、判断される。

 多焦点眼内レンズは、保険導入の判断で効率性が問題となったことになる。ただ、多焦点眼内レンズの保険外分229億7,932万円は、総医療費42兆円の僅か0.05%に過ぎない。つまり、このことは、最近の診療報酬改定率が、1%未満のコンマ二桁の攻防となっていることと重ね合わせると、今後、230億円規模程度の医療技術は、既存の医療技術に比して費用的に大きく代替するものでなければ、安全性・有効性があり、普及性があっても保険導入は困難、ということを意味している。

 1月22日の中医協で264の医療技術の保険導入が了承されたが、医療保険への財政影響額は総計で数十億円に満たない。そのうち先進医療からの導入は6技術で、影響額の大きな技術でも600万円であり、「減額」影響8億円となる技術は「先進医療B」から、「先進医療A」を飛び越え導入されている。学会から中医協・医療技術評価分科会へ提案があり保険導入となったものには数億円規模のものがあるが、これらに比して先進医療からの保険導入は影響額の遥かに小さいものしかないのである。

医療技術がアメニティーに? 選定療養の歪(いびつ)化

 多焦点の眼内レンズは、中医協の議論により、選定療養の範疇に振り分けられるが、実は選定療養の実績額は、差額ベッドの約4千億円を除けば、保険外の金額規模は大きくない。項目別に200床以上病院の初診は約48億円、同じく再診は約0.5億円、予約診療は1億円未満、時間外診察1億円未満、前歯部歯冠修復の金合金・白金加金は数十億円、金属床総義歯は数百億円、齲蝕の指導管理は約約1億円、180日超入院は約4.4億円、回数超診療は数億円(いずれも当協会推計)である。

 金属床総義歯と同程度となるが、1件単位の金額は60万円であり、金属床の総義歯の倍、差額ベッド代の一か月入院の21万円の3倍と、1患者で見ると大きな金額となる。

 2006年の保険外併用療養費制度創設に伴い、従前の特定療養費が再編・整理され、それまでの保険外の医療技術(金属床総義歯など)や保険外の診療部分(180日超入院など)が追認・編入されて以降、初めての医療技術の選定療養費化となる。これはこれまでの考え方と相違し、転換点となる。

 先進医療は、①実績0や実績が乏しい、②科学的根拠不明などの理由で、評価の篩にかけられ実施実績がありながらも、該当から除外されているものが40種類弱と、数少なくない。これらの中で、自費診療としていまだ実施されているものもあるとみられる。保険診療の補填がなくなっても、丸まる自費診療として需要があれば、市場が成立するのである。

 このような中で、先進医療で一定の有効性が確認され普及されたものであっても、金額の多寡で保険導入とはならず、「削除」されても選定療養としてカテゴリーを違えて「復活」となり、保険外併用療養(=合法的な混合診療)の継続と、多焦点眼内レンズはなったのである。

 先進医療の保険導入の篩からこぼれた「落選」組の受け皿の性格を選定療養が帯びることになったのである。これは特例措置とされたが、医療技術でありながら「アメニティー」と称し分離され、差額ベッドと同列化された点の意味も大きい。生体に埋め込む医療機器であり、人工骨や人工心臓と同列であるが、選択的医療とされたのである。療養費支給となる補装具(義肢や義眼)のような保険でのカバーはされず、給付外の眼鏡などの視力矯正器具と同列の取り扱いとなったのである。

医療技術の届出制での混合診療への懸念と財務省の思惑への牽制を

 選定療養は、事前審査制の先進医療と違い届出制であり事後に実績報告をし、行政は事後チェックとなる。多焦点眼内レンズの今回の措置は、医療技術が届出制で合法的混合診療(保険外併用療養)の対象となる先鞭となる危険性が高い。かつて、2010年6月7日に行政刷新会議の規制・制度改革に関する分科会が報告書をまとめ、「評価療養」と「選定療養」のうち直接的な医療技術を「届出制」とし、先述の落選組の受け皿の制度化となる提案がなされている。これは医療分野全般を「事前規制から事後チェック」とする大前提の原則を冒頭に掲げたものであった。

 保険局医療課は当協会の照会(2020年2月5日)に際し、多焦点眼内レンズの届出制、実績報告に関し具体的な扱いについて検討中としている。

 昨年、財務省の主計局次長が後発医薬品がある医薬品の参照価格制度を例に挙げ「保険外併用療養の分野の拡大の余地があるのではないか」とし、医薬品や医療技術などを、1) 給付縮小で保険外しや一部給付制限したものを医療現場で利用できるようにし、2) 汎用性の高い医療技術等を保険導入しない「留め置き」状態のままにし、民間保険にカバーさせることを含意した提案をシンポジウムでしている。今回の多焦点眼内レンズの選定療養費化は、この水先案内を担うかのように映る。

 中医協は昨年10月25日、「患者や家族への時間外の病状説明」以外は選定療養の範囲見直しで対応しないとしていただけに要注意である。加えて、保険適用の医療技術の再評価目的の臨床研究での保険外検査等を含むものの対応へ、法改定を含む「評価療養」の見直しも検討課題に挙げている。

 われわれは医療技術の差額化、保険外併用療養の制度融解に対し、皆保険制度を守る見地から強く反対する。

2020年2月7日