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2014/6/9 政策部長談話「『選択療養』の衣替え、『新たな仕組み』の導入に反対する 混合診療の全面解禁に道開く、厚労省の弱腰を批判する」

「選択療養」の衣替え、「新たな仕組み」の導入に反対する

混合診療の全面解禁に道開く、厚労省の弱腰を批判する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 患者の自己責任で混合診療を行う「選択療養」を巡り、医療機関を限定し、専門家会議の関与・判断により実施を認める、「新たな仕組み」の導入で政府方針が固まったとの報道が相次いでいる。選択療養の名称を変更し、来年の通常国会に法案を提出、2016年度導入とされている。これは、保険導入を担保しない、混合診療の解禁であり、皆保険制度を壊す。われわれは、この導入に反対するとともに、規制改革会議に大幅に譲歩せず、厚労省には矜持を持って抗することを強く求める。

 混合診療は、保険外併用療養費として制度化され、保険導入を前提とした医療技術・医薬品を対象とする「評価療養」、差額ベッドなどアメニティー部分の「選定療養」の2類型がある。

 この間、規制改革会議は、患者と医師の契約による、自己責任の混合診療「選択療養」を提案。安全性・有効性の担保措置がない、この危ない医療の混合診療の新「カテゴリー」の導入要望に、医療界は勿論のこと、保険者三団体、難病患者団体、財務省からも、「反対」が突きつけられていた。

 厚労省も慎重姿勢を崩さず、臨床研究中核病院での限定化の方向で、規制改革会議と調整を図っていた。

 しかし、報道を総合すると、「新たな仕組み」は、(1)病気の種類、治療法に制限なし、(2) [1] 国内実績のない治療や医薬品使用は、国内15か所の臨床研究中核病院が、実施計画を国の専門会議に提出、[2] 同会議は実施の是非を6週間以内に判断する。(3) [1] 国内実績のある治療は、実施希望の病院が臨床研究中核病院に申請し、[2] 同病院が2週間以内に実施環境を判断する、[3] 診療所でも可能、(4)費用対効果の低い医療技術は保険適用から外し混合診療とする(逆評価療養)となっている。

 つまり、国内実績のない、治療や医薬品は、臨床研究中核病院をフィルターにして、使用実績が作られ、協力病院や市中病院、診療所でできることになる。

 現在の「評価療養」(先進医療、医薬品・医療機器)では、安全性・有効性が確立し薬事承認がされた医薬品・医療機器を使用する「先進医療A」と、治験未実施の未承認薬・機器を使用する「先進医療B」の保険外併用療養(混合診療)が認められている。「先進医療B」は、実施にあたり施設設備・機能、専門医などの人員などの「基準」に合致した医療機関が、「実施計画」を国に申請し、治験、保険導入のプロセスに載せることを前提に認められているのであり、その審査に6か月を要している。

 報道は、これと同列視し、審査期間の短縮を焦点に記事化しているが、「新たな仕組み」は「保険導入」は度外視されており、「評価療養」とは全く異質、別物である。

 現行の「評価療養」でさえ、先進医療Aからの保険導入は69技術のうち8技術(H26.1)しかなく、先進医療Bは制度創設以来、1件で殆どない。

 この「新たな仕組み」の導入は、「評価療養」の意義さえも、崩しかねない。しかも「治験」を経ずに未確立な医療の臨床応用がいま以上に蔓延、跋扈する危険が高い。被験者保護法のないわが国で、なおさらである。

 6月5日の参議院厚労委員会では羽生田議員により、稲田規制改革担当相が、新「カテゴリー」の要望で引き合いに出した金沢大学のカフェイン併用化学療法が倫理違反、書類送検となった点を衝かれている。これに対し、後藤田副大臣は、「利便性」「患者起点」「一刻の猶予もない患者の救済」を盾に理解を求める答弁をした。

 しかし、一刻の猶予もない患者に未確立な医療を提供することは、人道的に疑問がある。また患者起点と再三、言われるが、実際の治療場面では医療機関の患者への提示がなければ、保険適用のない先進医療の希望は、ありえない。医療機関のキャパシティーを超えた医療は、そもそも、そこでは提供できないからである。

 一刻の猶予もない患者は、患者負担が重く治療できない患者も同様であり、当県はじめ全国で死亡事例が多数報告されている。その解決は、なぜ強調されないのか不思議である。

 混合診療は、自費診療への保険診療の適用であり、自費部分の負担能力のある患者に、保険財源が費消され、制度の公正・平等を欠くことになる。

 規制改革会議の主張は、会議のたびに変転し、岡議長は記者会見で質問に対する答えが、二転三転し不整合が多くボロボロである。ここまで拘泥するのは、カバーする民間保険の開発・販売なのか、医薬品・医療機器開発の安易な臨床実験なのか、はたまた訴訟案件の増加なのか、その期待するところが非常に邪なところにあるとしか思えない。患者の声、姿が見えない。

 「成長戦略に混合診療」(読売新聞6月3日)と、依然、幻想をふりまき多くを眩惑させているが、決して経済成長に資さない。経済学的にも国民会議の委員が明晰に解き明かしている(権丈善一・慶應義塾大学教授『日本医師会 平成24・25年度医療政策会議報告書』(第1章)の「医療の経済特性と制度設計」)。

 われわれは、皆保険の形骸化、空洞化に収斂していく、保険外併用療養への「新たな仕組み」の導入に断固反対する。また空理空論の規制改革会議の無理無体に対し、皆保険の守り手としての矜持をもって厚労省が抗すること強く望む。

2014年6月9日

 

「選択療養」の衣替え、「新たな仕組み」の導入に反対する

混合診療の全面解禁に道開く、厚労省の弱腰を批判する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 患者の自己責任で混合診療を行う「選択療養」を巡り、医療機関を限定し、専門家会議の関与・判断により実施を認める、「新たな仕組み」の導入で政府方針が固まったとの報道が相次いでいる。選択療養の名称を変更し、来年の通常国会に法案を提出、2016年度導入とされている。これは、保険導入を担保しない、混合診療の解禁であり、皆保険制度を壊す。われわれは、この導入に反対するとともに、規制改革会議に大幅に譲歩せず、厚労省には矜持を持って抗することを強く求める。

 混合診療は、保険外併用療養費として制度化され、保険導入を前提とした医療技術・医薬品を対象とする「評価療養」、差額ベッドなどアメニティー部分の「選定療養」の2類型がある。

 この間、規制改革会議は、患者と医師の契約による、自己責任の混合診療「選択療養」を提案。安全性・有効性の担保措置がない、この危ない医療の混合診療の新「カテゴリー」の導入要望に、医療界は勿論のこと、保険者三団体、難病患者団体、財務省からも、「反対」が突きつけられていた。

 厚労省も慎重姿勢を崩さず、臨床研究中核病院での限定化の方向で、規制改革会議と調整を図っていた。

 しかし、報道を総合すると、「新たな仕組み」は、(1)病気の種類、治療法に制限なし、(2) [1] 国内実績のない治療や医薬品使用は、国内15か所の臨床研究中核病院が、実施計画を国の専門会議に提出、[2] 同会議は実施の是非を6週間以内に判断する。(3) [1] 国内実績のある治療は、実施希望の病院が臨床研究中核病院に申請し、[2] 同病院が2週間以内に実施環境を判断する、[3] 診療所でも可能、(4)費用対効果の低い医療技術は保険適用から外し混合診療とする(逆評価療養)となっている。

 つまり、国内実績のない、治療や医薬品は、臨床研究中核病院をフィルターにして、使用実績が作られ、協力病院や市中病院、診療所でできることになる。

 現在の「評価療養」(先進医療、医薬品・医療機器)では、安全性・有効性が確立し薬事承認がされた医薬品・医療機器を使用する「先進医療A」と、治験未実施の未承認薬・機器を使用する「先進医療B」の保険外併用療養(混合診療)が認められている。「先進医療B」は、実施にあたり施設設備・機能、専門医などの人員などの「基準」に合致した医療機関が、「実施計画」を国に申請し、治験、保険導入のプロセスに載せることを前提に認められているのであり、その審査に6か月を要している。

 報道は、これと同列視し、審査期間の短縮を焦点に記事化しているが、「新たな仕組み」は「保険導入」は度外視されており、「評価療養」とは全く異質、別物である。

 現行の「評価療養」でさえ、先進医療Aからの保険導入は69技術のうち8技術(H26.1)しかなく、先進医療Bは制度創設以来、1件で殆どない。

 この「新たな仕組み」の導入は、「評価療養」の意義さえも、崩しかねない。しかも「治験」を経ずに未確立な医療の臨床応用がいま以上に蔓延、跋扈する危険が高い。被験者保護法のないわが国で、なおさらである。

 6月5日の参議院厚労委員会では羽生田議員により、稲田規制改革担当相が、新「カテゴリー」の要望で引き合いに出した金沢大学のカフェイン併用化学療法が倫理違反、書類送検となった点を衝かれている。これに対し、後藤田副大臣は、「利便性」「患者起点」「一刻の猶予もない患者の救済」を盾に理解を求める答弁をした。

 しかし、一刻の猶予もない患者に未確立な医療を提供することは、人道的に疑問がある。また患者起点と再三、言われるが、実際の治療場面では医療機関の患者への提示がなければ、保険適用のない先進医療の希望は、ありえない。医療機関のキャパシティーを超えた医療は、そもそも、そこでは提供できないからである。

 一刻の猶予もない患者は、患者負担が重く治療できない患者も同様であり、当県はじめ全国で死亡事例が多数報告されている。その解決は、なぜ強調されないのか不思議である。

 混合診療は、自費診療への保険診療の適用であり、自費部分の負担能力のある患者に、保険財源が費消され、制度の公正・平等を欠くことになる。

 規制改革会議の主張は、会議のたびに変転し、岡議長は記者会見で質問に対する答えが、二転三転し不整合が多くボロボロである。ここまで拘泥するのは、カバーする民間保険の開発・販売なのか、医薬品・医療機器開発の安易な臨床実験なのか、はたまた訴訟案件の増加なのか、その期待するところが非常に邪なところにあるとしか思えない。患者の声、姿が見えない。

 「成長戦略に混合診療」(読売新聞6月3日)と、依然、幻想をふりまき多くを眩惑させているが、決して経済成長に資さない。経済学的にも国民会議の委員が明晰に解き明かしている(権丈善一・慶應義塾大学教授『日本医師会 平成24・25年度医療政策会議報告書』(第1章)の「医療の経済特性と制度設計」)。

 われわれは、皆保険の形骸化、空洞化に収斂していく、保険外併用療養への「新たな仕組み」の導入に断固反対する。また空理空論の規制改革会議の無理無体に対し、皆保険の守り手としての矜持をもって厚労省が抗すること強く望む。

2014年6月9日