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2005/9/26 政策部長談話「生活習慣病の事業化と混合診療化を 狙う厚労省の責任を指弾する」

生活習慣病の事業化と混合診療化を狙う厚労省の責任を指弾する

                                  神奈川県保険医協会

政策部長  森 壽生


 8月29日、厚労省は、今後の健診・保健指導のあり方での「中間取りまとめ」を行い、生活習慣病の保健指導を民間事業者に外注する方向を認した。また、政府税調では3月18日、生活習慣病の混合診療化が提唱されている。これらの動きに対し、医療現場からの反論を行う。

 生活習慣病という概念が世に出たのはおよそ30年前のことである。当時はこれに当たる疾患群を表すことばとして成人病が用いられていた。この範疇に入る代表的な疾患として、高血圧、糖尿病、高脂血症が挙げられる。いずれも現代日本の最重要疾患群であり、血管病変に基づく多彩な臨床像を形成する。生活習慣病の本来の意味を厚生労働省が曲解し、このような疾患を患う患者に対して、患者自身の生活習慣が悪いからとして自己責任を導入しようとしている。これに関して、行政側は基本的に二つの大きな過ちを犯している。

 まず、第一に血管病変に対して最大の危険性をもたらすものは喫煙であり、専売公社時代を含め現在に至るまで国として、厚生労働省として、タバコの健康に対する明らかな有害性を知りながら、その有害性を国民に周知させる努力をしなかった。また、公社時代にも報告があったが、タバコによる税収よりもタバコによる損失の方が大きい。1996年の報告ではタバコの税収より損失の方が2倍となっている。さらに禁煙の困難さは医師のみならず喫煙者自身も理解している。公社から株式会社化されたタバコ会社にとってタバコの有害性を喧伝しない日本政府はありがたいであろう。しかし、そうだろうか。米国では医療保険に関してタバコによる健康被害にかかわる医療費を、タバコをすわない人がその負担金を負うのは納得できないとして提訴し、大手タバコメーカーは敗訴になることを恐れて多額の金額を支払い和解した。そのタバコ企業を買収したのは日本であった。このような事実は企業の利益が国民の健康被害より優先していること、そして厚生労働省としてのタバコの明らかな有害性を知りながら何ら、対策を採らなかった行政の不作為を端的に示している。

 さらに、糖尿病、高脂血症、高血圧に関しては市場に氾濫するファースト・フード、ソフトドリンク、コンビニ弁当など重要な問題がある。ファースト・フードに含まれる塩分、カロリーそして砂糖について健康のための注意が喚起されたであろうか。企業はおいしく、口当たりがよく、若者の好みに合うようにと、健康については無頓着といえる商品開発を行い市場に提供した。それを各種メディアが宣伝した。一般市民はカロリー過多、脂肪摂取過多、砂糖の摂取過多による健康被害について知らされないまま購入し、厚生労働省がいう「生活習慣病」に罹患したとすれば、患者のみの責任であろうか。カロリーについては厚生労働省自らのホーム・ページを見ればよい。2005年の発表で1歳から39歳までの摂取総カロリーの25%以上を脂質が占めている。総摂取カロリーのうち、脂質の占める割合は25%未満が適正とされている。

 以上のタバコ問題、市場に氾濫するソフトドリンク、ファースト・フードなどに関して行政の無責任といえる放漫政策を「生活習慣病」になった全ての患者の責任としてよいのだろうか。患者が悪いというのであれば、危険性を知りつつ、危険を知らせない企業、国の責任は問われないのだろうか。

 さらに厚生労働省は第三の過ちを犯そうとしている。すなわち、生活習慣病指導料を保険給付からはずして民間に委託しようとしていることだ。生活習慣病の代表的疾患を前述したように三疾患を挙げた。高脂血症といってもいくつかの型がある。いずれの疾患の治療についても高度の医学的知識を必要とする。そこに含まれる知識として、疾患の自然歴、介入した場合の治療成績、最新のメタアナリシスを含むメガスタディに関する知識、用いるべき薬剤についての知識と併用に関する知識などである。

 また生活習慣病は前述した三疾患だけではない。例えば高尿酸血症も含まれる。実際の医療現場では、このような代表的生活習慣病の複数を合併することが多い。疾患の重症度に応じて、治療の優先順位を考慮しつつ、併用すべき薬剤を最新の医学的エビデンスから導き出すことは医療の専門家すなわち現場の医師でなければ、不可能である。百歩譲って、民間に委託した場合、これらの生活習慣病を指導するものは誰なのか、どのような資格を持つものか、例え医師であったとしても医療の現場から遠ざかっている医師には指導できる問題ではない、医師であってもどのような研修を受けたものなのか、指導するものが医師であったとしても疑問符は付きまとうし、民間の会社が医師の職歴や適格性に答えることは考えにくい。さらに保険外しで潤うのは民間の株式会社であって、負担に苦しむのは患者である。いきおい医療費がかさばる事から、民間の指導は受けないこととなろう。その結果、生活習慣病の改善率、コントロール状況は必ずや悪化するであろう。この責任を厚生労働省は取らなければならない。

2005年9月26日

 

生活習慣病の事業化と混合診療化を狙う厚労省の責任を指弾する

                                  神奈川県保険医協会

政策部長  森 壽生


 8月29日、厚労省は、今後の健診・保健指導のあり方での「中間取りまとめ」を行い、生活習慣病の保健指導を民間事業者に外注する方向を認した。また、政府税調では3月18日、生活習慣病の混合診療化が提唱されている。これらの動きに対し、医療現場からの反論を行う。

 生活習慣病という概念が世に出たのはおよそ30年前のことである。当時はこれに当たる疾患群を表すことばとして成人病が用いられていた。この範疇に入る代表的な疾患として、高血圧、糖尿病、高脂血症が挙げられる。いずれも現代日本の最重要疾患群であり、血管病変に基づく多彩な臨床像を形成する。生活習慣病の本来の意味を厚生労働省が曲解し、このような疾患を患う患者に対して、患者自身の生活習慣が悪いからとして自己責任を導入しようとしている。これに関して、行政側は基本的に二つの大きな過ちを犯している。

 まず、第一に血管病変に対して最大の危険性をもたらすものは喫煙であり、専売公社時代を含め現在に至るまで国として、厚生労働省として、タバコの健康に対する明らかな有害性を知りながら、その有害性を国民に周知させる努力をしなかった。また、公社時代にも報告があったが、タバコによる税収よりもタバコによる損失の方が大きい。1996年の報告ではタバコの税収より損失の方が2倍となっている。さらに禁煙の困難さは医師のみならず喫煙者自身も理解している。公社から株式会社化されたタバコ会社にとってタバコの有害性を喧伝しない日本政府はありがたいであろう。しかし、そうだろうか。米国では医療保険に関してタバコによる健康被害にかかわる医療費を、タバコをすわない人がその負担金を負うのは納得できないとして提訴し、大手タバコメーカーは敗訴になることを恐れて多額の金額を支払い和解した。そのタバコ企業を買収したのは日本であった。このような事実は企業の利益が国民の健康被害より優先していること、そして厚生労働省としてのタバコの明らかな有害性を知りながら何ら、対策を採らなかった行政の不作為を端的に示している。

 さらに、糖尿病、高脂血症、高血圧に関しては市場に氾濫するファースト・フード、ソフトドリンク、コンビニ弁当など重要な問題がある。ファースト・フードに含まれる塩分、カロリーそして砂糖について健康のための注意が喚起されたであろうか。企業はおいしく、口当たりがよく、若者の好みに合うようにと、健康については無頓着といえる商品開発を行い市場に提供した。それを各種メディアが宣伝した。一般市民はカロリー過多、脂肪摂取過多、砂糖の摂取過多による健康被害について知らされないまま購入し、厚生労働省がいう「生活習慣病」に罹患したとすれば、患者のみの責任であろうか。カロリーについては厚生労働省自らのホーム・ページを見ればよい。2005年の発表で1歳から39歳までの摂取総カロリーの25%以上を脂質が占めている。総摂取カロリーのうち、脂質の占める割合は25%未満が適正とされている。

 以上のタバコ問題、市場に氾濫するソフトドリンク、ファースト・フードなどに関して行政の無責任といえる放漫政策を「生活習慣病」になった全ての患者の責任としてよいのだろうか。患者が悪いというのであれば、危険性を知りつつ、危険を知らせない企業、国の責任は問われないのだろうか。

 さらに厚生労働省は第三の過ちを犯そうとしている。すなわち、生活習慣病指導料を保険給付からはずして民間に委託しようとしていることだ。生活習慣病の代表的疾患を前述したように三疾患を挙げた。高脂血症といってもいくつかの型がある。いずれの疾患の治療についても高度の医学的知識を必要とする。そこに含まれる知識として、疾患の自然歴、介入した場合の治療成績、最新のメタアナリシスを含むメガスタディに関する知識、用いるべき薬剤についての知識と併用に関する知識などである。

 また生活習慣病は前述した三疾患だけではない。例えば高尿酸血症も含まれる。実際の医療現場では、このような代表的生活習慣病の複数を合併することが多い。疾患の重症度に応じて、治療の優先順位を考慮しつつ、併用すべき薬剤を最新の医学的エビデンスから導き出すことは医療の専門家すなわち現場の医師でなければ、不可能である。百歩譲って、民間に委託した場合、これらの生活習慣病を指導するものは誰なのか、どのような資格を持つものか、例え医師であったとしても医療の現場から遠ざかっている医師には指導できる問題ではない、医師であってもどのような研修を受けたものなのか、指導するものが医師であったとしても疑問符は付きまとうし、民間の会社が医師の職歴や適格性に答えることは考えにくい。さらに保険外しで潤うのは民間の株式会社であって、負担に苦しむのは患者である。いきおい医療費がかさばる事から、民間の指導は受けないこととなろう。その結果、生活習慣病の改善率、コントロール状況は必ずや悪化するであろう。この責任を厚生労働省は取らなければならない。

2005年9月26日