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地域医療対策部長談話 「公取委が『混合介護』の弾力化を提言?! 介護保険充実に背馳する『地獄の沙汰も金次第』の後押しに反対する」

公取委が「混合介護」の弾力化を提言?!

介護保険充実に背馳する「地獄の沙汰も金次第」の後押しに反対する

 

神奈川県保険医協会

地域医療対策部長 鈴木 悦朗


 公正取引委員会が9月5日、介護分野の規制改革を促す提言をまとめた。その内容は介護保険と保険外サービスに「付加価値」分を組み合わせた“新しい形”での「混合介護」の弾力化を柱としている。しかも「日本再興戦略2016」、「ニッポン一億総活躍プラン」に盛られた保険外の介護サービスの市場創出を目的としている。われわれは社会保障の介護保険制度は、保険給付を充実させ利用者負担の過重化を解消する方向が、要介護世帯の願いであると考えており、これに逆行する公正取引委員会の提言に強く反対する。

 

◆独立性の担保された公正取引委員会が、「成長戦略」に加担? 異例の報告書

 公正取引委員会は独占禁止法を所管する、独立性の高い行政委員会、いわゆる三条委員会である。情報提供に基づき事情聴取、立ち入り検査など調査の上、違反行為をした企業へ排除措置命令を出し市場競争の回復を図ったり、カルテル、入札談合、一定の不当取引をした企業に課徴金納付命令を出すなど、「企業のルール違反にイエローカード (*1) 」を出すのが仕事である。内閣府の外局に位置し、総理大臣の任命による委員長と、ほか4人の委員により構成され、事務総局を持ち部局組織に800名の職員を抱えている。

 公正取引委員会は、他から指揮監督を受けない組織性格を持つが、今回の提言は介護分野の「消費者の権益保護」のため、競争政策の推進の観点で調査作成されており、成長戦略を意識したものである (*2) 。本来の公正取引委員会の役割からすれば、「消費者の権益保護」をすべきなのに、成長戦略を意識して、弱者の消費者(被介護者)を更に行き過ぎた商業主義の介護サービスに晒すのを推進していることになる。

 これまで2002年に政府規制等へ包括的にまとめた報告書の中で介護分野に触れた (*3) ことはあるが、今回のように介護分野に特化した提言は初めてであり、異例である。

 

◆介護保険はサービス費用支給で「混合介護」が可能な仕組み

 そもそも介護保険は、1990年代の介護心中、介護地獄の社会問題化を背景に、家族介護の解消、介護の社会化の名の下、2000年に制度化されたものである。しかし、当初より必要なサービス量を満たす財源規模の制度設計とされず、しかも公的保険の給付範囲限定で民業との共存を前提とした「公民補完」構想を下地に設計された。よって、医療でいうところの混合診療に相当する「混合介護」が可能である。医療と違い「現物給付」を原則とせず、「サービス費用の支給」としている。ただ実際は、サービス費用を事業者に介護保険から支給しているため、見かけ上は、医療と同じ扱い、「現物給付」化となっているのである。

 

 巷で誤解があるが、国の定めた基準(支給限度基準額)を超えたサービス量・時間の「上乗せサービス」、介護保険制度の範囲にないメニューの「横だしサービス」は、いずれも市町村(保険者)が65歳以上(第1号被保険者)の保険料を財源に独自におこなうものである。前者は1割負担で、後者は一定額の利用者負担であり、全額自己負担ではない。

 上乗せサービスは居宅介護サービス、地域密着型介護サービス、福祉用具購入費、住宅改修費などが適用となり、横出しサービスは食事の配食、通院などの送迎、外出時の付き添い、紙おむつの支給・購入補助、寝具の丸洗い・乾燥、出張理美容などとなる。ただ実際は、ほとんど見当たらないのが実情である。

 混合介護が認められている介護保険は、要介護度ごとに国が定めた介護サービスの支給限度基準額を超えて、事業者が用意する介護サービスを10割負担、全額自己負担で利用することは、何ら自由である。これらをもあえて「上乗せ」「横だし」サービスと社会的に称されているが、本来は呼称する必要はないのである。

 

◆家政婦サービス、ヘルパー指名料を保険内サービスに付帯し、隣接サービス低価格化、差額料金徴収へ

 今回の公正取引委員会の提言は、「混合介護の弾力化」とし、①訪問介護サービス等の際にヘルパーが要介護者の同居人の食事の支度を行う、<保険内外のサービスの同時一体的な提供>、②特定の訪問介護のヘルパーの指名料の上乗せ、<サービスの質に応じた料金徴収>による、サービスの多様化を提案している。

 ①は家政婦的なサービスなど、本来の介護保険の介護サービスに「付帯的サービス」を認めるもの、②は介護サービスへの「質的差額」を認めるものである。いずれも、現在認められていない保険給付内の介護サービスの提供時に「付加価値」を乗せ「差額料金」を事業者が徴収していくシステムとなる。

 導入理由として前者は介護と無関係の隣接サービスの効率的提供での低価格化、後者は要介護者の利便性の向上と差額料金による事業者収入の増加、それによる介護職員の処遇改善が並び、皮算用されている。

 そのほか、非営利の社会福祉法人に限定されている特別養護老人ホーム開設への株式会社の参入解禁、社会福祉法人への補助金・税制措置の見直しも提言し、競争政策の観点で株式会社と社会福祉法人の同一条件下での競争環境の整備をうたっている。

 

 しかし、これらは社会保障制度の介護保険を、完全競争市場と同列視した暴論である。医療・介護は憲法第25条の生存権・生活権を保障するものとし、競争市場から外されて制度化されているものである。介護保険も措置制度による高齢者福祉施策を再編し、保険料財源を得て発足し、営利事業体の参入など中途半端な格好ながらも社会保障制度であり、制度のベクトルは競争市場に向かうものではないのである。提言は「要介護者」ではなく「利用者」とし一貫しており、ここに思想・哲学の違いが如実に現れている。

 

◆介護サービスは負担が重く利用率は6割以下 利用上限超えは1% 苦しい高齢者に超過負担はムリ

 果たして、このような展開になるのか。介護保険は要介護度に応じ、保険給付の上限となる区分支給限度基準額が定められている。軽度の要支援1は50,030円、中等度の要介護1は166,920円、重度の要介護5は360,650円などとなっているが、原則1割の利用者負担があるため、いずれも利用率が低く、要支援1で39.4%、要介護1で42.4%、サービスを最も必要とする要介護5でも61.8%に過ぎない (*4) 。

 要介護者の多くは基礎疾患を抱え、医療の患者負担があり介護保険の利用者負担が重なるため、負担が過重であり介護の支給限度基準額いっぱいまでは、使うことができないのである。

 一方、支給限度基準額を超え、全額自己負担で保険外サービスを利用する要介護者は全体で1.3%と僅少であり、要介護5に限ってみても2.9%と圧倒的少数である。必要があっても追加的にサービスを全額自己負担で「購入」する層は殆どいないのである (*4) 。これが現実の姿である。

 

 要介護者となる高齢者世帯は1,271万世帯で全世帯の25.2%を占め半分は単身世帯である。年収は297.3万円で家計状況に関し「苦しい」が58%と6割弱を占めている (*5) 。また毎月の可処分所得187,098円(税込収入217,412円)に対し消費支出が246,085円とそれ以上に多く、毎月58,986円の差額分を金融資産の取り崩しで賄っている。保健医療の支出構成比は6.1%と世帯平均の1.39倍と高くなっている (*6) 。

 

 このような状況で、混合介護の弾力化の促進は、「地獄の沙汰も金次第」に拍車をかけ惨憺たる状況を加速するだけである。「消費者の保護」「消費者の利益の確保」とは全く相容れないのである。

 

 今回の報告書は公正取引委員会の「介護分野に関する意見交換会」の2回の議論でまとめられた。社会福祉の専門家の委員や老人福祉施設協議会副会長のまっとうな意見表明があったものの、八代尚宏氏など新旧の規制改革会議に名を連ねる委員が主導しまとめられ、今後、規制改革推進会議での議論が期待されている。

 われわれは、社会保障政策を踏みにじる競争政策、混合介護の弾力化に改めて強く反対する。

2016年9月21日

 

(*1) 公正取引員会HP

(*2) 公正取引委員会「(平成28年9月5日)介護分野に関する調査報告書について

(*3) 「社会的規制分野における競争促進の在り方」について―政府規制等と競争政策に関する研究会報告書(H.14.11.20)

(*4) 厚労省HP 介護保険制度の概要 介護保険とは(「公的介護保険制度の現状と今後の役割」)

(*5) 厚労省「国民生活基礎調査 平成27年版

(*6) 総務省統計局 平成26年「統計からみた我が国の高齢者(65歳以上)」