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政策部長談話 「大病院の『紹介状なし受診』への差額徴収"義務化"に反対する 荒業の上乗せ『定額負担』は、新たな政策誘導の装置」

大病院の「紹介状なし受診」への差額徴収“義務化”に反対する

荒業の上乗せ「定額負担」は、新たな政策誘導の装置

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 「紹介状なし」で大病院を受診した場合に、患者が3割負担に追加して新たに5,000円~1万円の定額負担をすることが、国会で審議中の医療保険制度改革法案に盛り込まれている。これは差額ベッドと同様の選定療養(混合診療)の仕組みを使い、特定機能病院(大学病院等)と500床以上の大病院に「義務化」するもの。従来の患者負担と制度的に質が違う、大病院受診を理由とした「差額徴収」の強制化となる。病診の外来機能分化、患者の受療行動の変容を目的としているが、その実効性には疑問符がつく。それ以上にこの仕組みは、政策誘導の「新手法」「新機軸」であり、頓挫した上乗せ「定額負担」の先鞭となる。われわれは、「経済格差」を医療に持ち込み、今後の政策目的達成のための「装置」に転化しうる、選定療養の義務化、大病院受診の差額徴収の撤回を強く求める。

 

◆「紹介」を医療機関の「責務」とした選定療養の義務化の荒業

 この大病院受診の差額負担は、当初、保険給付の範囲内で「定率負担」に、「定額負担」を重ねることが昨年10月まで有力だった。これが一転、選定療養の義務化で落着した。この背景には、当初の有力案では実質7割負担となり、患者負担は3割が限度とした健保法附則に反する事態となることがあったと明らかにされている。

 しかも、審議会では当初、保険給付の範囲外、「外だし」で定額負担を設計することは、「法制的に困難」としていたものを、法律の荒業(あらわざ)ともいえる、捻り技を駆使して法制化した。

 具体的には、保険医療機関の「責務規定」(健保法第70条)に大病院による患者の他への「紹介」と、「機能分担」、「業務連携」の「措置」を義務づけ、その措置内容を「療養担当規則」に盛り込み、保険外併用療養の「掲示告示」で選定療養に追加メニュー化するとした。つまりは、紹介状のない大病院受診の際に“定率負担の額を超える(選定療養に定める)金額の支払いを受けるものとする”旨を療養担当規則で規定。選定療養の掲示告示に、紹介状のない特定機能病院と500床以上の大病院に係る初診、再診を項目に加え、通知で金額の明示とする模様だ。

 

 これまで「紹介」「業務連携」のように、医療機関の機能・役割を法律で定めたものはなく、その点では今回が“初めて”であり、しかも医療施設を規定する医療法ではなく、健康保険で「特定」の医療機関の責務、義務として法制化が図られることになる。またその履行を担保するための経済的制裁が患者に強いられるという「搦め手」が講じられることになる。この仕組みの意味は大きい。

 

 つまり、この法制化の仕組みを、転用、波及させることで、例えば「主治医機能」や「在宅医療の提供」を診療所の責務と位置づけ、主治医以外の診療所受診への経済制裁や、在宅医療を提供していない診療所への診療報酬減額の組合せも法的根拠を持つことで容易となる。

 

◆給付削減での受診時定額負担を可能とする新たなツール

 しかも、それだけにとどまらない。頓挫した「受診時定額負担」が、経済財政諮問会議や財政制度等審議会で提言され、再燃している。この受診時定額負担へも選定療養の義務化の手法が転用できる。診療報酬本体を下げ、その補填分として、定額料金徴収の選定療養の義務化を敷くことで、保険料と公費の財源投入の節減となる。

 もともと受診時定額負担は保険財政の寄与のため考案されたものである。2011年当時、その導入に関し選定療養だと病院収入にしかならず保険財政に影響しない、と社保審医療保険部会で議論されている。最終的に導入見送りとなったものの、その代わりに12年の診療報酬改定で、紹介率の低い大病院(特定機能病院と500床以上の地域医療支援病院)への紹介状なしの初診料が引き下げられ、次いで14年改定で再診料が引き下げられている。その際、選定療養の活用の推進、つまりは減額分の収入の差額料金での補填が中医協で奨励されたのである。この目的とされたのが、外来機能の分化、病院勤務医の負担軽減である。ここで低いとされた紹介率は40%である。現実には対象の病院の自己努力により、この減額した初・再診料の該当となった例はないが、既に萌芽が出ているのである。

 

 紹介状なし大病院受診の差額徴収、この選定療養はこれまで「任意」だったが、今法案で「義務化」が可能となる。こうなると話が変わってくる。既に見たことの裏返しで、法案成立後に中医協の議論で決定される定額の差額徴収相当分は、初診料、再診料から減額となることが容易に予想される。

 今回の選定療養の義務化は、財務省からの強い要請との話もあり、深謀遠慮が伺える。医療技術や医薬品の混合診療と違い、保険財源の減額補填の差額料金は、患者需要を誘発し医療財政を増嵩させる心配がない。

 

◆検証もないまま法案化 差額ベッド類似の差額受診は健保法に反す

 今回の紹介状なし受診の差額徴収義務化で、外来機能の分化の促進、勤務医の負担軽減に、期待する向きがある。しかし、既に任意ながらも1996年に導入された200床以上の大病院での同種の差額徴収の「効果」に関する「検証」は何らなされていない。また今回の義務化にあたっても「定量的」な受診動向の変化の推計も出されていない。審議会でも効果に疑問符が出されていた。

 

 今回対象の特定機能病院は紹介率50%以上、地域医療支援病院は紹介率80%以上が基本の要件であり、この数字は周囲の医療機関等との機能分担や、関係構築に努めてきた中でのものであり、高額な差額徴収によって成したものではない。

 実際、紹介なし受診は漸減しているが、それは差額徴収よりも、主には「紹介率」を指標とした法定の病院類型の「要件」化や、初診料や処方料など診療報酬での要件化、施設基準化に拠っていると見られる。

 

 大病院の外来患者の平均的医療費(月)は診療所の10,586円に対し特定機能病院(大学病院等)は27,551円と医療密度に差があり、外来患者もガンや循環器疾患など診療所より疾患分布で重症が多い。一律に紹介状の有無で、差額徴収の高い金額で経済制裁を敷き、受診抑制に拍車をかけるのは、健保法の本旨に反している。

 この差額徴収の義務化は患者からも早くも不評であり、協会けんぽのアンケートで、紹介状なしの大病院受診の定額負担に55%が「求めるべきではない」と反対の意を示している。

 患者の受療行動の交通整理は、患者教育と周辺医療機関との連携関係構築が、本道であるべきだ。これでは、不適正な運用が時折、問題とされる差額ベッドと同様、保険給付の充実が阻害される。

 

 われわれは医療費抑制と患者負担を強化し、差額ベッド同様の差額受診を大病院から一般化する、選定療養の義務化に改めて強く反対する。

2015年4月6日