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政策部長談話 「木を見て森を見ず、定額負担誘導の諮問会議委員の誤解を衝く 日本の1人当たり診察回数は多くとも、医療費は低い」

木を見て森を見ず、定額負担誘導の諮問会議委員の誤解を衝く

日本の1人当たり診察回数は多くとも、医療費は低い

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 健康保険への受診時定額負担の導入に関し、民間保険の免責制と同列視し、政府の経済・財政一体改革推進委員会 (*1) 委員が自民党の小委員会 (*2)で7月27日に主張をしている。しかし、近視眼的な外来受診回数の他国比較や、部分的な他国制度の紹介、生活感覚を欠いた医療費分布の紹介など、事実誤認や誤解が見られる。総じていえば日本の外来受診回数は多くても、一人当たり医療費は低く問題視されるものではない。費用対効果の高い医療提供が実態である。われわれは為にする議論で受診時定額負担の導入を誘導する、これらの策動を厳しくただすとともに、この導入に断固反対する。

(*1) 経済財政諮問会議の専門調査会

(*2) 2020年以降の経済財政構想小委員会

 

◆ 早期発見・早期治療の日本のシステムが世界一の健康度に 受診回数多くとも医療費は仏の85%水準

 経済財政諮問会議の経済・財政一体改革推進委員の鈴木準・大和総研主席研究員は、「日本では年間20億回の外来受診」との表題の資料で、1人当たり年間外来受診回数が日本は16回でフランスの8回の2倍、スウェーデンの4回の4倍と、受診頻度を問題視。1人当たり医療費の階級別分布で5,000円未満が4割を占め、1万円未満が2/3、2万円未満が87%とし、「日本の公的保険には免責制はなく、リスクの大小にかかわりなく、どんな少額であっても7~8割の保険給付がなされる(大きなリスクも小さなリスクも共助)」と強調。民間保険の免責制を引き、受診時定額負担の導入を期待。フランスの外来医療でかかりつけ医の利用の有無で自己負担率が30%と70%と差がつくとも紹介をしている。

 

 これらは、物事の一面しか見ておらず、印象付け、世論誘導の感が強く、以下に反証する。

 確かに、「いつでも、どこでも、だれでも」の、原則フリーアクセスの日本では受診回数は多いが、一人当たり医療費でみれば、日本の3,649ドルに対し、フランス4,288ドル、スウェーデン4,106ドルであり、日本はフランスの85%、スウェーデンの89%の医療費水準でしかない。この一人当たり医療費は、総医療費の人口対比であり、患者対比ではない。高齢化率の高さを勘案すれば、日本の方がより受診している患者が多いと推察され、患者一人当たり医療費での比較では更に、日本の医療費水準は諸外国より低いものとなる。

 しかもWHOの健康達成度で日本は世界一と評され、がんや糖尿病などの治療成績も、OECD評価でほとんどAランクと、極めて効率的で費用対効果が高いのである。早期発見、早期治療の日本のシステムと医療者の努力と献身がこれを形作ってきたのである。

 

  日本 フランス スウェーデン
外来受診回数 16回 8回 4回
1人当たり医療費 3,649ドル 4,288ドル 4,106ドル
対日医療費比較 1倍 1.18倍 1.13倍

* 厚生労働省ホームページ「医療保障制度に関する国際関係資料について」より作成

 

◆ 家計調査でひと月の保健医療サービスへの支出は6千円弱 生活感覚欠いた患者負担議論は噴飯もの

 階級別医療費だが、鈴木委員の資料と出所の同じ「医療給付費実態調査」で医療費1万円以上は協会けんぽ、組合健保、共済健保ではそれぞれ27.5%、25.2%、25.1%と1/4を占め、国民健康保険は33.2%であり、後期高齢者医療は41.9%となる。一般保険での患者負担は3,000円以上、後期高齢者医療の患者負担は1,000円となる。この数字は、ひと月の1医療機関の受診の患者負担であり、複数月や複数の医療機関の受診で更に嵩むのである。

 

 実際、家計調査の支出で保健医療サービス費は6,073円である(「家計調査」2015年度)。平均的な一般医療費は11,809円 (*3) で、患者負担は3,542円となり、家族2人が病気になると家計が苦しくなっていくのである。この医療費の水準は、生活感覚として低い水準ではないのである。1万円以下の医療費が大方だから、定額負担の免責制は許容できるはずとの印象操作は、現実とはそぐわず、健保法の本旨からも逸れ、言語道断である。

(*3) H27社会医療診療行為別統計

 

 ◆いまの患者の定率負担は、既に免責制と同じ 現物給付の健康保険制度に無理解な主張は終止符を

 民間保険の免責制とは、「患者負担1,000円を超えた部分」とか「3日を超えた入院」など、保険金の不支給の範囲を定めたものである。定額の金額免責や日数免責が一般的だが、つまりは保険金支給の「足切り」である。現在の健康保険制度での患者3割負担は、定率負担という保険給付の「足切り」であり、形を変えた免責制といえる。定額金額を強調することで、錯覚を誘っている感があるが、既に免責制は入っているのである。

 ちなみに、民間保険では免責範囲を超えた部分は、100%保険金支給であり、7割給付などという設計にはなっていない。

 現物給付、つまり医療そのものを医療保険加入者に保険給付として保障する健康保険では、保険者が医療機関に支払う対価のうち3割分を患者に負わせている関係となる。患者負担自体が制度本旨と逸れており、その上に保険給付の「足切り」を重ねるというのは制度的にも、人道的に無理がある。

 

 現物給付の制度を、金銭支給である療養費支給の制度に改めないと、保険給付の「足切り」はできない。よって、昨今は定率負担の上に定額負担を重ねる、受診時定額負担が主張されるようになっている。つまり、「上乗せ免責制」であり、狙いは保険給付の削減である。

 登録医制を敷くフランスで、登録医(かかりつけ医)以外の受診の際に、患者負担率が倍との鈴木委員の資料の数字も、フランスが共済保険等の2階建て式で患者負担が殆どない制度の下でとられた方式であり、制度の歴史的経緯や制度全体を見ない、ご都合主義的な指摘でしかない。

 

 日本の患者負担3割は、米国を除く先進諸国では異常に高く、受診抑制も深刻になっている (*4) 。門外漢による、医療や医療制度への為にする議論や策動を戒めるとともに、政治はきちんと対応するよう求めたい。われわれは、改めて受診時定額負担の導入に反対する。

(*4) 国立社会保障・人口問題研究所「生活と支え合いに関する調査」(2012、2007)

 

2016年9月5日

 

経済・財政一体改革推進委員の鈴木準・大和総研主席研究員が7月27日の自民党の小委員会に提出した資料

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