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2025/12/3 政策部長談話「営利企業の医療参入の梃つくる医療法改正 偽装クリニックの温床、『オンライン診療受診施設』に反対する」
営利企業の医療参入の梃つくる医療法改正
偽装クリニックの温床、「オンライン診療受診施設」に反対する
神奈川県保険医協会
政策部長 磯崎 哲男
◆医療法に「業」を規定し、わざわざオンライン診療の「ハコ」を作らせる「謎」
医療法改正案が11月21日に衆院で審議入りし27日に可決、12月1日には参院で審議入りした。早晩可決成立とみられるが、偽装クリニックの温床の懸念がある「オンライン診療受診施設」に関し殆ど議論がない。この施設は医療機関ではない。設置者も管理者も医師「以外」が設置する、患者の「受診場所」を提供する「ハコもの施設」である。非常に紛らわしい。営利企業による設置が可能となる。
オンライン会議やオンラインショッピングの延長線で、オンライン診療を利便優先でとらえる向きもあるが、基本は対面診療の補完である。この間、法律やガイドラインの盲点を衝いて、営利企業による「オンライン診療ビジネス」が台頭し、トラブルも頻発。われわれは医療安全、医療の非営利性の観点で警鐘を鳴らしてきた。しかし、本法案の「オンライン診療受診施設」は、このビジネスの法的正当性をもった拠点づくりとなる。患者・国民も、医療機関と誤解する可能性が高い。
オンライン診療は医師も患者も居所不問であり、あえて「ハコもの」をつくる必要はない。医療法に「業」の文言を入れ商機を誘発する必要もない。われわれは、オンライン診療受診施設に改めて反対する。
◆健康被害、トラブルがオンライン診療ビジネスで発生 医療安全規制に逆行
この間、自由診療でのオンライン診療に営利企業が介入し、糖尿病薬の痩身目的での利用や、避妊薬、美容医療などで、健康被害やトラブルが発生している。NHKなどで報道特集もされ、厚労省の美容医療の検討会でもこの問題が指摘をされてきた。いわば「オンライン診療ビジネス」である。
厚労省は事後的に医師の本人確認や所属医療機関の明示、急変時の連携医療機関の明示など、医療安全規制の措置をガイドライン改定により敷いてきた。その最中、この逆コースは非常に疑問が多い。
オンライン診療は自宅や、職場の個室など患者のプライバシーが確保されれば、どこでも受診可能な診療となっている。そのためか、患者安全や急変対応など、ガイドライン違反も散見されている。
「医師でない者が診療を行っているとの指摘があっても、オンライン診療においては、そのものを見られないと実態が分からない。」「非医療機関での医行為について、医師法違反と疑わしくても、医療機関ではないため保健所としてどのような対応・指導が可能であるのかが明らかでない。」など、厚労省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」で昨年、問題が剔出されているが、不問のまま改善策もない。
規制改革会議の要望に応え、オンライン診療は初診から認められ、医師が非常駐のブース型診療所での実施など、規制緩和を重ねてきた。今回創設のオンライン診療受診施設(以下「オン診受診施設」)は、この同一線上に位置づくものである。
◆オンライン診療受診施設は設置が容易 「医療機関ではない」ので法規制は皆無
既にいま、医師非常駐でのブース型のオンライン診療専門の診療所は開設が認められている。郵便局への併設開設や公民館や巡回診療車両での一時開設が認められている。これは「医療機関」である。本院の医師がブース型の診療所等に来院した患者をオンラインで診療をするものである。
創設される「オン診受診施設」は医療機関ではない。オンライン診療を受診する「場所」としての「ハコもの」である。医療施設ではないため、感染予防などの安全管理は義務付けられない。設置後10日以内に都道府県知事に届出すればよい。事後届出制である。
「オン診受診施設」でのオンライン診療の実施責任は、医療機関側が負う。また「オンライン診療基準」への適合性確認も、医療機関側が負う。具体的には、受診施設でのプライバシーが十分配慮された環境や、清潔保持、衛生上・防災上・保安上の安全の確保となる。ただ、設置後の知事への届出制のため、事前の確認や保健所による実地検査などはない。つまり設置のハードルが非常に低い。
「場所の提供」が業(なりわい)なので、医療法に規定されながらも医療法上の規制は殆ど対象外となる。当然、療養担当規則も無関係であり制約はない。設置者の責任は軽い。問題発生の際には、医療機関側は重い責任を負うが、「オン診受診施設」は都道府県の指導にとどまる。その際に受診施設を廃止し、別な場所へ速やかに設置し、運営することも可能である。
つまり、医師が開設し、感染予防などの措置を講じ保健所の開設許可をとる必要がある医療機関と格段に違い、「オン診受診施設」は「設置」が容易となる。この施設で、オンラインで医師の診察を受けるので、患者には区別が曖昧となり、「医療機関もどき」、「偽装クリニック」となる。
今回の法改正で、①医療機関は各地にオン診受診施設を容易にブランチ(支店)として設置できるようになる。②調剤薬局も同じように併設できる。③営利企業もショッピングセンターやホテル、コンビニなど、どこでも併設できる。しかも、営利企業が主導で勤務医などを組織すれば、実質的にオンライン診療ビジネスは「お墨付き」を得て、大手を振って活躍できることになる。営利企業の医療本体への参入である。
◆「在宅医療代行サービス」の議論に唖然 「もぬけの殻クリニック」も出現 決壊する医療の非営利性
この話は何も、杞憂ではない。11月12日、中医協では24時間の往診体制確保のため「往診代行サービス」会社の利用ルールに関し議論となっている。このサービス会社は登録された医師を、委託により「かかりつけ医療機関」の非常勤医師として雇用契約を結び往診をさせるというもの。しかし、「代行」ではなく、サービス会社が「本業」として患者からの依頼に応じ往診し、特定の医療機関経由で保険請求を行っている例も実際にある。厚労省も把握していると思われるが、患者や医療機関の需要に応えている面と、既に日常化してしまった実態が厳然とあるため、医療秩序の整備に苦慮しているように見える。
同様なことは営利企業ではないが、在宅医療専門クリニックでも似た経緯がある。2012年頃まで、在宅医療療専門クリニックは、事実上、認められていなかった。が、2013年末に規制改革会議により在宅医療専門診療所が要望され、以降、2016年診療報酬改定で評価が新設、保険医療機関指定のルールを整備し通知発出となっている。
しかし、現在、これを逆手にとった医療機関も誕生している。保険診療のルールで、患家と医療機関の距離が16㎞を超える往診、訪問診療は「特別の事情」がない限り認められない。そこで、この距離要件に抵触しないように、狭小な雑居ビルに在宅医療専門クリニックを医療法人が開設し、そこには日常は誰もおらず閉じ、実際の在宅医療は同一法人の遠方の別の医療機関から医師や看護師等が出動する、パターンが出現している。不在の診療所の電話は転送される、いわば「もぬけの殻クリニック」である。企業家的医師らによる、医療倫理の融解も一方で進みだしている。
◆オンライン診療ビジネスの横行、オン診専門診療所の患者全国募集を懸念 医療秩序破壊なきよう尽力を
医師の所在不問、患者の所在不問のオンライン診療は、「オンライン診療+医薬品提供・配送」を骨格とした、「オンライン診療専門」の自由料金サービスとしても、営利企業によりバーチャル空間、web上で展開されている。いわゆる「オンライン診療ビジネス」である。
今回の「オン診受診施設」は、このビジネスのリアルな拠点づくりとなる。
また、今後はオンライン診療専門医療機関の開設許可、保険医療機関指定さえも想定の範囲となる。現在、オンライン診療は患者の全国募集はできないが、「オン診受診施設」の拠点づくりにより環境整備がなされる。急変対応の地域医療機関の確保、事前合意、患者情報の共有など、オンライン診療はガイドラインで医療安全・安心のための規制がある。この改変緩和も懸念が生じている。こうなれば、厚労省が進める地域包括ケア、かかりつけ医機能の強化、地域医療構想も混乱し、水泡に帰す。
過日の法案の衆院での可決の際についた附帯決議は、この規制緩和を求めており違和感を覚えている。
既に4月9日、われわれは、「オンライン診療ビジネスの跋扈を懸念/医療法改定の部分修正・慎重審議を望む」(https://www.hoken-i.co.jp/outline/h/202549.html)と、談話を発表している。
しかし、この問題は厚労委員会で一顧だにされておらず、先の第217回通常国会で4月3日に衆院本会議での法案への代表質問で医師の猪口幸子議員(維新)が、不正請求の懸念と事前届出制への転換、保健所の立入検査の必要性を質しただけである。
われわれは、オンライン診療受診施設の創設に反対するとともに、慎重審議を参院厚労委員会に求める。また、厚労省には設置者要件、安全管理など医療秩序が崩壊しないよう尽力を強く求める。
2025年12月3日
営利企業の医療参入の梃つくる医療法改正
偽装クリニックの温床、「オンライン診療受診施設」に反対する
神奈川県保険医協会
政策部長 磯崎 哲男
◆医療法に「業」を規定し、わざわざオンライン診療の「ハコ」を作らせる「謎」
医療法改正案が11月21日に衆院で審議入りし27日に可決、12月1日には参院で審議入りした。早晩可決成立とみられるが、偽装クリニックの温床の懸念がある「オンライン診療受診施設」に関し殆ど議論がない。この施設は医療機関ではない。設置者も管理者も医師「以外」が設置する、患者の「受診場所」を提供する「ハコもの施設」である。非常に紛らわしい。営利企業による設置が可能となる。
オンライン会議やオンラインショッピングの延長線で、オンライン診療を利便優先でとらえる向きもあるが、基本は対面診療の補完である。この間、法律やガイドラインの盲点を衝いて、営利企業による「オンライン診療ビジネス」が台頭し、トラブルも頻発。われわれは医療安全、医療の非営利性の観点で警鐘を鳴らしてきた。しかし、本法案の「オンライン診療受診施設」は、このビジネスの法的正当性をもった拠点づくりとなる。患者・国民も、医療機関と誤解する可能性が高い。
オンライン診療は医師も患者も居所不問であり、あえて「ハコもの」をつくる必要はない。医療法に「業」の文言を入れ商機を誘発する必要もない。われわれは、オンライン診療受診施設に改めて反対する。
◆健康被害、トラブルがオンライン診療ビジネスで発生 医療安全規制に逆行
この間、自由診療でのオンライン診療に営利企業が介入し、糖尿病薬の痩身目的での利用や、避妊薬、美容医療などで、健康被害やトラブルが発生している。NHKなどで報道特集もされ、厚労省の美容医療の検討会でもこの問題が指摘をされてきた。いわば「オンライン診療ビジネス」である。
厚労省は事後的に医師の本人確認や所属医療機関の明示、急変時の連携医療機関の明示など、医療安全規制の措置をガイドライン改定により敷いてきた。その最中、この逆コースは非常に疑問が多い。
オンライン診療は自宅や、職場の個室など患者のプライバシーが確保されれば、どこでも受診可能な診療となっている。そのためか、患者安全や急変対応など、ガイドライン違反も散見されている。
「医師でない者が診療を行っているとの指摘があっても、オンライン診療においては、そのものを見られないと実態が分からない。」「非医療機関での医行為について、医師法違反と疑わしくても、医療機関ではないため保健所としてどのような対応・指導が可能であるのかが明らかでない。」など、厚労省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」で昨年、問題が剔出されているが、不問のまま改善策もない。
規制改革会議の要望に応え、オンライン診療は初診から認められ、医師が非常駐のブース型診療所での実施など、規制緩和を重ねてきた。今回創設のオンライン診療受診施設(以下「オン診受診施設」)は、この同一線上に位置づくものである。
◆オンライン診療受診施設は設置が容易 「医療機関ではない」ので法規制は皆無
既にいま、医師非常駐でのブース型のオンライン診療専門の診療所は開設が認められている。郵便局への併設開設や公民館や巡回診療車両での一時開設が認められている。これは「医療機関」である。本院の医師がブース型の診療所等に来院した患者をオンラインで診療をするものである。
創設される「オン診受診施設」は医療機関ではない。オンライン診療を受診する「場所」としての「ハコもの」である。医療施設ではないため、感染予防などの安全管理は義務付けられない。設置後10日以内に都道府県知事に届出すればよい。事後届出制である。
「オン診受診施設」でのオンライン診療の実施責任は、医療機関側が負う。また「オンライン診療基準」への適合性確認も、医療機関側が負う。具体的には、受診施設でのプライバシーが十分配慮された環境や、清潔保持、衛生上・防災上・保安上の安全の確保となる。ただ、設置後の知事への届出制のため、事前の確認や保健所による実地検査などはない。つまり設置のハードルが非常に低い。
「場所の提供」が業(なりわい)なので、医療法に規定されながらも医療法上の規制は殆ど対象外となる。当然、療養担当規則も無関係であり制約はない。設置者の責任は軽い。問題発生の際には、医療機関側は重い責任を負うが、「オン診受診施設」は都道府県の指導にとどまる。その際に受診施設を廃止し、別な場所へ速やかに設置し、運営することも可能である。
つまり、医師が開設し、感染予防などの措置を講じ保健所の開設許可をとる必要がある医療機関と格段に違い、「オン診受診施設」は「設置」が容易となる。この施設で、オンラインで医師の診察を受けるので、患者には区別が曖昧となり、「医療機関もどき」、「偽装クリニック」となる。
今回の法改正で、①医療機関は各地にオン診受診施設を容易にブランチ(支店)として設置できるようになる。②調剤薬局も同じように併設できる。③営利企業もショッピングセンターやホテル、コンビニなど、どこでも併設できる。しかも、営利企業が主導で勤務医などを組織すれば、実質的にオンライン診療ビジネスは「お墨付き」を得て、大手を振って活躍できることになる。営利企業の医療本体への参入である。
◆「在宅医療代行サービス」の議論に唖然 「もぬけの殻クリニック」も出現 決壊する医療の非営利性
この話は何も、杞憂ではない。11月12日、中医協では24時間の往診体制確保のため「往診代行サービス」会社の利用ルールに関し議論となっている。このサービス会社は登録された医師を、委託により「かかりつけ医療機関」の非常勤医師として雇用契約を結び往診をさせるというもの。しかし、「代行」ではなく、サービス会社が「本業」として患者からの依頼に応じ往診し、特定の医療機関経由で保険請求を行っている例も実際にある。厚労省も把握していると思われるが、患者や医療機関の需要に応えている面と、既に日常化してしまった実態が厳然とあるため、医療秩序の整備に苦慮しているように見える。
同様なことは営利企業ではないが、在宅医療専門クリニックでも似た経緯がある。2012年頃まで、在宅医療療専門クリニックは、事実上、認められていなかった。が、2013年末に規制改革会議により在宅医療専門診療所が要望され、以降、2016年診療報酬改定で評価が新設、保険医療機関指定のルールを整備し通知発出となっている。
しかし、現在、これを逆手にとった医療機関も誕生している。保険診療のルールで、患家と医療機関の距離が16㎞を超える往診、訪問診療は「特別の事情」がない限り認められない。そこで、この距離要件に抵触しないように、狭小な雑居ビルに在宅医療専門クリニックを医療法人が開設し、そこには日常は誰もおらず閉じ、実際の在宅医療は同一法人の遠方の別の医療機関から医師や看護師等が出動する、パターンが出現している。不在の診療所の電話は転送される、いわば「もぬけの殻クリニック」である。企業家的医師らによる、医療倫理の融解も一方で進みだしている。
◆オンライン診療ビジネスの横行、オン診専門診療所の患者全国募集を懸念 医療秩序破壊なきよう尽力を
医師の所在不問、患者の所在不問のオンライン診療は、「オンライン診療+医薬品提供・配送」を骨格とした、「オンライン診療専門」の自由料金サービスとしても、営利企業によりバーチャル空間、web上で展開されている。いわゆる「オンライン診療ビジネス」である。
今回の「オン診受診施設」は、このビジネスのリアルな拠点づくりとなる。
また、今後はオンライン診療専門医療機関の開設許可、保険医療機関指定さえも想定の範囲となる。現在、オンライン診療は患者の全国募集はできないが、「オン診受診施設」の拠点づくりにより環境整備がなされる。急変対応の地域医療機関の確保、事前合意、患者情報の共有など、オンライン診療はガイドラインで医療安全・安心のための規制がある。この改変緩和も懸念が生じている。こうなれば、厚労省が進める地域包括ケア、かかりつけ医機能の強化、地域医療構想も混乱し、水泡に帰す。
過日の法案の衆院での可決の際についた附帯決議は、この規制緩和を求めており違和感を覚えている。
既に4月9日、われわれは、「オンライン診療ビジネスの跋扈を懸念/医療法改定の部分修正・慎重審議を望む」(https://www.hoken-i.co.jp/outline/h/202549.html)と、談話を発表している。
しかし、この問題は厚労委員会で一顧だにされておらず、先の第217回通常国会で4月3日に衆院本会議での法案への代表質問で医師の猪口幸子議員(維新)が、不正請求の懸念と事前届出制への転換、保健所の立入検査の必要性を質しただけである。
われわれは、オンライン診療受診施設の創設に反対するとともに、慎重審議を参院厚労委員会に求める。また、厚労省には設置者要件、安全管理など医療秩序が崩壊しないよう尽力を強く求める。
2025年12月3日

