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2007/9/10 医療運動部会長談話「民間保険の『現物給付』認める、保険法改定試案は危険!健康保険の根幹崩し米国型を招来する企図の撤回を求める」

民間保険の「現物給付」認める、保険法改定試案は危険!

健康保険の根幹崩し米国型を招来する企図の撤回を求める

 

神奈川県保険医協会

医療運動部会長 池川 明


 法制審議会は民間保険契約の基本ルール、保険法改定に向けた中間試案をまとめ、民間保険に現金以外の「現物給付」を認めることを盛り込んだ。100年ぶりとなるこの改定は、08年通常国会に改定案を提出、年内に法案要綱作成の予定で、現在パブリックコメントを募集している。8月8日に一部報道がなされたものの、医療関係者の間でもあまり問題視されていない。

 しかしながら、「現物給付」は生命保険、損害保険にとどまらず、疾病保険・傷害保険をも対象としており事は重大である。中間試案が立法化された場合、健康保険の根幹、「療養の給付」が崩され、ひいては米国型医療を招来しかねないと、非常に危険視しており、撤回を強く求めるものである。

 

 民間保険は死亡や損壊、傷病などの保険事故に対し現金給付しか認めていない。問題の現物給付とは現金に代えてサービスを直接給付する方法である。これは健康保険が採っている、療養給付(治療・医療サービス)を患者に提供する方法と同じものである。

 

 問題の民間保険の現物給付は、介護サービスや老人ホームへの入居権、医療サービスの直接給付が想定されており、これを実現するためには、民間保険会社が介護施設や医療機関と直接契約を結び、そこから医療サービス等を提供することとなる。

 これにより、公的な健康保険、介護保険と、民間の医療保険、介護保険が共存し、提供するサービスの競合、競争が始まることとなる。また、公的保険と民間保険とを扱う医療機関が出現することになるため、保険証の扱い、医療機関の費用請求、保険の適用範囲など現場の混乱は想像に難くない。

 

 しかも、民間保険の現物給付システムは、公的な健康保険とは決定的に違う。既往歴の告知義務や加入審査、医療機関の囲い込み、保険会社優位の運用など、多くの問題を孕む。利潤追求のための保険金不払い(現金給付拒否)は記憶に新しいが、これが医療現場で起こることになる。つまりは悪名高き米国のHMO(管理医療)と同様のシステムの誕生である。

 

 折しも、次年度の「予算編成の基本的考え方」の中で社会保障に関して、公的分野を「真に必要なものに重点化」することや医療の「国庫負担のあり方の検討」が打ち出された。報道で民間介護保険の現物給付が例に挙げられたが、公的介護保険は給付抑制を度々重ねても増加の一途であり、これに乗じて早晩、民間保険に丸投げする可能性もないとは言い切れない。

 健康保険からリハビリを介護保険へと強制移行する方針や、介護保険との統合が予想される後期高齢者医療制度の発足も、これとの関連で目が離せない。

 更には、健康保険が都道府県単位の再編統合に向けて動き出したが、そもそもの坂口厚労相試案(当時)では、生保・損保に業務運営を委譲することが大きな構想として出されていた(朝日新聞02年9月16日)。民間保険の現物給付の開始は、これに向けた試行錯誤とノウハウ蓄積、実地訓練、周到な準備となる。

 

 今回のこの保険法見直しは昨年9月6日の法務大臣の諮問に基づき、法制審議会の下に設置された保険法部会で昨年11月1日より15回にわたり議論を重ねてきたものである。生保や損保ではない「第三分野」と呼ばれる疾病保険・傷害保険の典型契約化や、保険契約ルールの見直しとともに、「現物給付」が議論の焦点となってきた。当初より討議資料「保険法の現代化に関する検討事項」に盛り込まれ、審議会メンバーからも中間答申と同じ「その他の一定の給付」の文言で位置付けるよう強い意見がだされてきた。

 しかし、議論の中では、将来の現物給付は保険料の支払額相当分を必ずしも担保しないと異論が相次いだほか、慎重論を無視した一方的なまとめに軌道修正がかかる一幕もあり、問題含みで今回に至っている。

 興味深いのは、この審議会のメンバーには三井住友海上火災保険、東京海上日動火災保険、日本生命、第一生命、三菱商事が顔をそろえ、奇しくも混合診療解禁、営利企業の医療機関経営解禁の動きに連なったメンバーと同じ顔ぶれとなっていることである。

 

 振り返って、混合診療は新たに保険外との併用を前提とした04年の大臣合意と首相の「解禁」演説に、産業界が「10兆円の神風」と沸き立ち、06年に「保険外併用療養費」が創設された。医療界の抵抗があり制度の全面展開となっていないため、保険外部分の拡大による民間保険の新たな市場形成への期待は、十分に満たされていない。それどころか、民間医療保険の販売件数は06年度に前年比1割減と初のマイナスとなり、生命保険の主力商品、死亡保険も大幅に減少。割安な保険料の「都道府県民共済」にとって代わられている。一方、これと裏表の関係の医療特区は、自由診療の高度医療5分野に限定されており、安全性・倫理性が国会で問題化したこともあり1企業にとどまっている。

 中間試案の現物給付は新商品開発である。しかも、これらの現状を踏まえて民間保険と共済を区別せずに金融庁の監督の下で一律のルールの下に競争させることも提案されている。つまり、共済に責任準備金の用意や諸規定の整備などの財政負担や規制がかかることとなる。

 また、規制改革会議は企業経営医療機関による先進医療と保険診療との併用への参入を執拗に求めている。このウラには全額自己負担から一部保険適用とすることでの患者数の拡大と、自由診療を対象とする民間保険の開発促進が念頭にある。セコム損保が既にガンの自由診療を対象にメディコムを発売しているが、健康保険の違法な適用疑惑があり、顧客拡大に健康保険の適用が不可欠の証左となっている。
混合診療の本質は現金給付(療養費の支給)、償還払いであり、「療養の給付」では不可能だった、クレジット会社の巨大市場形成や金融商品化、民間保険による公的保険の補填を可能とするのである。

 

 この日本の民間生保・損保の思惑の上に、外圧が重なっている。

 疾病・傷害保険の第三分野は、もともと外国資本の独壇場であり、ガン保険はアメリカンファミリー生命保険のシェアが圧倒的である。対日要求を頻繁に出す、在日米国商工会議所は医薬品、医療機器、保険会社の面々が顔をそろえ、会頭はアフラックの副社長、日本における代表者である。

 この商工会議所は、制度共済と民間保険の平等な競争環境の確立を要望(06年9月14日)し、組織改変・事業譲渡など外国保険会社に不利な保険業法の改定をも要望、日米の経済統合協定の締結に向けて金融制度、医療制度などについて提言を発表(06年11月9日)している。これらは米国HMOの日本上陸のための環境整備となる。事実、前会頭は米下院で「日本は・・高齢化社会に対応する社会的保障を新たに作るにあたり、確固たる民間主導の対策をとらなくてはならない」「医療制度改革は・・米国企業を含んだ革新的な企業が費用効率のよい解決策を提供できる市場本位の対策を取り入れることが必要である」と証言してさえいる(05年9月29日)。

 

 民間保険の現物給付は、保険法の成立後、金融庁サイドの議論に移り、保険業法改定、商品開発といくつも段階を経なければならないが、基本法が変更されれば一瀉千里となる。健康保険を草刈場にした群雄割拠の争奪戦が始まることとなる。

 健康保険は公的責任による「療養の給付」を原則とし、皆保険制度の下、医療・医学の進歩発展を取りいれ、「いつでも、どこでも、だれでも」が医療を受けられる社会を実現してきた。それはWHOが認める世界一の健康度の達成に結実した。

 いま、国保資格証明書の大量発行により、皆保険が崩れかけ、さらに米国型の民間保険主導の医療提供に歩みを進めることは、話題の映画『シッコ』が教える、医療を商品化し市場原理が大手を振るう米国医療に突き進むだけである。

 医療者として、この深謀遠慮に断固反対するととともに、中間試案の撤回を強く求めるものである。

 2007年9月10日

 

民間保険の「現物給付」認める、保険法改定試案は危険!

健康保険の根幹崩し米国型を招来する企図の撤回を求める

 

神奈川県保険医協会

医療運動部会長 池川 明


 法制審議会は民間保険契約の基本ルール、保険法改定に向けた中間試案をまとめ、民間保険に現金以外の「現物給付」を認めることを盛り込んだ。100年ぶりとなるこの改定は、08年通常国会に改定案を提出、年内に法案要綱作成の予定で、現在パブリックコメントを募集している。8月8日に一部報道がなされたものの、医療関係者の間でもあまり問題視されていない。

 しかしながら、「現物給付」は生命保険、損害保険にとどまらず、疾病保険・傷害保険をも対象としており事は重大である。中間試案が立法化された場合、健康保険の根幹、「療養の給付」が崩され、ひいては米国型医療を招来しかねないと、非常に危険視しており、撤回を強く求めるものである。

 

 民間保険は死亡や損壊、傷病などの保険事故に対し現金給付しか認めていない。問題の現物給付とは現金に代えてサービスを直接給付する方法である。これは健康保険が採っている、療養給付(治療・医療サービス)を患者に提供する方法と同じものである。

 

 問題の民間保険の現物給付は、介護サービスや老人ホームへの入居権、医療サービスの直接給付が想定されており、これを実現するためには、民間保険会社が介護施設や医療機関と直接契約を結び、そこから医療サービス等を提供することとなる。

 これにより、公的な健康保険、介護保険と、民間の医療保険、介護保険が共存し、提供するサービスの競合、競争が始まることとなる。また、公的保険と民間保険とを扱う医療機関が出現することになるため、保険証の扱い、医療機関の費用請求、保険の適用範囲など現場の混乱は想像に難くない。

 

 しかも、民間保険の現物給付システムは、公的な健康保険とは決定的に違う。既往歴の告知義務や加入審査、医療機関の囲い込み、保険会社優位の運用など、多くの問題を孕む。利潤追求のための保険金不払い(現金給付拒否)は記憶に新しいが、これが医療現場で起こることになる。つまりは悪名高き米国のHMO(管理医療)と同様のシステムの誕生である。

 

 折しも、次年度の「予算編成の基本的考え方」の中で社会保障に関して、公的分野を「真に必要なものに重点化」することや医療の「国庫負担のあり方の検討」が打ち出された。報道で民間介護保険の現物給付が例に挙げられたが、公的介護保険は給付抑制を度々重ねても増加の一途であり、これに乗じて早晩、民間保険に丸投げする可能性もないとは言い切れない。

 健康保険からリハビリを介護保険へと強制移行する方針や、介護保険との統合が予想される後期高齢者医療制度の発足も、これとの関連で目が離せない。

 更には、健康保険が都道府県単位の再編統合に向けて動き出したが、そもそもの坂口厚労相試案(当時)では、生保・損保に業務運営を委譲することが大きな構想として出されていた(朝日新聞02年9月16日)。民間保険の現物給付の開始は、これに向けた試行錯誤とノウハウ蓄積、実地訓練、周到な準備となる。

 

 今回のこの保険法見直しは昨年9月6日の法務大臣の諮問に基づき、法制審議会の下に設置された保険法部会で昨年11月1日より15回にわたり議論を重ねてきたものである。生保や損保ではない「第三分野」と呼ばれる疾病保険・傷害保険の典型契約化や、保険契約ルールの見直しとともに、「現物給付」が議論の焦点となってきた。当初より討議資料「保険法の現代化に関する検討事項」に盛り込まれ、審議会メンバーからも中間答申と同じ「その他の一定の給付」の文言で位置付けるよう強い意見がだされてきた。

 しかし、議論の中では、将来の現物給付は保険料の支払額相当分を必ずしも担保しないと異論が相次いだほか、慎重論を無視した一方的なまとめに軌道修正がかかる一幕もあり、問題含みで今回に至っている。

 興味深いのは、この審議会のメンバーには三井住友海上火災保険、東京海上日動火災保険、日本生命、第一生命、三菱商事が顔をそろえ、奇しくも混合診療解禁、営利企業の医療機関経営解禁の動きに連なったメンバーと同じ顔ぶれとなっていることである。

 

 振り返って、混合診療は新たに保険外との併用を前提とした04年の大臣合意と首相の「解禁」演説に、産業界が「10兆円の神風」と沸き立ち、06年に「保険外併用療養費」が創設された。医療界の抵抗があり制度の全面展開となっていないため、保険外部分の拡大による民間保険の新たな市場形成への期待は、十分に満たされていない。それどころか、民間医療保険の販売件数は06年度に前年比1割減と初のマイナスとなり、生命保険の主力商品、死亡保険も大幅に減少。割安な保険料の「都道府県民共済」にとって代わられている。一方、これと裏表の関係の医療特区は、自由診療の高度医療5分野に限定されており、安全性・倫理性が国会で問題化したこともあり1企業にとどまっている。

 中間試案の現物給付は新商品開発である。しかも、これらの現状を踏まえて民間保険と共済を区別せずに金融庁の監督の下で一律のルールの下に競争させることも提案されている。つまり、共済に責任準備金の用意や諸規定の整備などの財政負担や規制がかかることとなる。

 また、規制改革会議は企業経営医療機関による先進医療と保険診療との併用への参入を執拗に求めている。このウラには全額自己負担から一部保険適用とすることでの患者数の拡大と、自由診療を対象とする民間保険の開発促進が念頭にある。セコム損保が既にガンの自由診療を対象にメディコムを発売しているが、健康保険の違法な適用疑惑があり、顧客拡大に健康保険の適用が不可欠の証左となっている。
混合診療の本質は現金給付(療養費の支給)、償還払いであり、「療養の給付」では不可能だった、クレジット会社の巨大市場形成や金融商品化、民間保険による公的保険の補填を可能とするのである。

 

 この日本の民間生保・損保の思惑の上に、外圧が重なっている。

 疾病・傷害保険の第三分野は、もともと外国資本の独壇場であり、ガン保険はアメリカンファミリー生命保険のシェアが圧倒的である。対日要求を頻繁に出す、在日米国商工会議所は医薬品、医療機器、保険会社の面々が顔をそろえ、会頭はアフラックの副社長、日本における代表者である。

 この商工会議所は、制度共済と民間保険の平等な競争環境の確立を要望(06年9月14日)し、組織改変・事業譲渡など外国保険会社に不利な保険業法の改定をも要望、日米の経済統合協定の締結に向けて金融制度、医療制度などについて提言を発表(06年11月9日)している。これらは米国HMOの日本上陸のための環境整備となる。事実、前会頭は米下院で「日本は・・高齢化社会に対応する社会的保障を新たに作るにあたり、確固たる民間主導の対策をとらなくてはならない」「医療制度改革は・・米国企業を含んだ革新的な企業が費用効率のよい解決策を提供できる市場本位の対策を取り入れることが必要である」と証言してさえいる(05年9月29日)。

 

 民間保険の現物給付は、保険法の成立後、金融庁サイドの議論に移り、保険業法改定、商品開発といくつも段階を経なければならないが、基本法が変更されれば一瀉千里となる。健康保険を草刈場にした群雄割拠の争奪戦が始まることとなる。

 健康保険は公的責任による「療養の給付」を原則とし、皆保険制度の下、医療・医学の進歩発展を取りいれ、「いつでも、どこでも、だれでも」が医療を受けられる社会を実現してきた。それはWHOが認める世界一の健康度の達成に結実した。

 いま、国保資格証明書の大量発行により、皆保険が崩れかけ、さらに米国型の民間保険主導の医療提供に歩みを進めることは、話題の映画『シッコ』が教える、医療を商品化し市場原理が大手を振るう米国医療に突き進むだけである。

 医療者として、この深謀遠慮に断固反対するととともに、中間試案の撤回を強く求めるものである。

 2007年9月10日