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地域医療問題ニュース 「県・医療グランドデザイン 医学部新設巡り波乱 協会・パブコメで歯科軽視、財政担保など指摘 」

神奈川県県医療グランドデザイン

「医学部新設」巡り波乱 県医代表・抗議の辞任

 

「県医療グランドデザイン・中間まとめ」に対する協会のパブコメ保険医協会が提出したパブリックコメントの全文はこちらから閲覧できます

 

 神奈川県は12月8日、 「医療のグランドデザイン・中間とりまとめ」 を発表し、パブリックコメントを募集。年末年始を挟んだ僅か3週間あまりで締め切った。年度内に発表する最終報告に向け、議論を急ピッチで進めている。

 しかし医学部新設を巡り検討チームの総意を翻す知事の独断専行も見られ、県医師会代表の委員が抗議の辞任をする事態にまで発展している。

 

「受け手主体の医療体制に」 策定趣旨に知事のこだわり

 医療の提供体制についてはもともと、5年毎に策定される「神奈川県保健医療計画」(医療計画)において定められている。「グランドデザイン」は黒岩知事の「医療は受け手である患者、家族や県民が納得できるものでなければならない」というこだわりのもと、医療計画とは別途、独自に策定された。

 中間とりまとめでは、神奈川県が目指すべき医療の姿として、1)効率的で切れ目のない安全な医療提供体制の構築、2)連携・協働・自律の医療の推進、3)医療情報のオープン化・共有化、治療の選択肢の多様化、4)健康寿命の延伸―の4つの大目標が掲げられ、それぞれの具体策が示された。

 

高齢者救急にリビングウィルカード、有床診活用も

 1)では、県央二次医療圏(相模原、厚木市等)における二次救急医療機関減少及び救急輪番体制の窮状に言及。「集約化」「拠点化」を進めるなどして医療提供体制の再構築をすること、集約化に伴うデメリットへの対応として「かかりつけ医」の役割強化を挙げた。また、救急に占める高齢者の増加に対し「リビングウィルカード(延命治療が不要である旨の本人の意思を書面に残すもの)」の導入、受け皿としての老健施設や有床診療所の活用を挙げている。

 「集約化」「拠点化」には課題も多い。かつて、小児科・産科の医療崩壊が進む中、医師を拠点病院へ集中させることにより医療資源の効率化を図る方針が打ち出されたが、搬送時間の長時間化や、拠点病院の疲弊が起こり、上手く機能しなかった経緯がある。リビングウィルカード構想は、08年に創設された「後期高齢者終末期相談支援料」が各方面からの反発で廃止された経緯からも、『尊厳死』に対する国民的議論はまだ煮詰まっていない。拙速な導入は患者・家族のみならず、医療現場にも混乱をもたらしかねない。有床診療所はその2割弱が在宅療養支援診療所の届け出を行い、終末期医療において一定の役割を果たしているが、医療法上の位置付けが曖昧なまま、診療報酬上で冷遇されてきた。終末期の受け皿として期待するならば、財政担保(診療報酬&県からの補助金等)が必要である。

 

医師確保は「両論併記」のはずだったが―

 2)では、神奈川県が人口あたりの医師・看護師数が全国水準で低い現状から(医師39位、看護師最下位)、『医師養成増』の方向性を打ち出している。医師養成については、08年度から全国的に定員増が開始され、県内4医科大学においても入学定員は過去最高となっている(表1)。医師養成増の方法として、医学部定員増と医学部新設の両方について触れる一方で、教員及び施設確保での課題について言及。慎重論との両論併記となっていた。

 

総合特区で選択肢の多様化 マイカルテ導入は拙速

 3)ではICTを活用した医療情報の医療機関⇔患者間の共有を掲げ、患者が自己医療情報を携帯電話等で閲覧できる「マイカルテ」導入し、患者のセルフケアを推進したいとしている。

 昨今医療のIT化が謳われ、共通番号制導入と並行し、EHR(電子健康記録)構想も議論が活発化している。しかし医療情報は最もセンシティブな個人情報であり、国レベルでさえ共通番号制導入に際しては医療を他の分野と切り離し、2013年に特別法を設ける予定だ。それだけ取り扱いには厳重な運用が求められるが、そのような法整備ができていない中「マイカルテ」を導入するのは危険極まりない。そもそも現行の枠組みでも患者が希望すれば情報開示請求によりカルテ閲覧は可能であり、県民のニーズがあるのかも疑問である。

 このほか「西洋医学と東洋医学の連携」では東洋医学の研究を進めるとし、未承認薬や医療機器の早期国内導入に関する「国際戦略総合特区」(横浜)の取り組みに期待を寄せ、東洋医学とともに多様な治療の選択肢を県民に提示したいとしている。

 総合特区は、健保法や医療法に特例を設け、医療機関の開設許可や病院の人員基準、安全基準などの緩和が想定されている。そのような「治外法権」区域で行われた実験的医療の成果をもとに、治療の選択を県民に提示することは、人命軽視ではなかろうか。東洋医学についても、国の専門会議の議論では『有効性の根拠が乏しい』として一定の結論をみるに至ってない。

 このほか、4)では、黒岩氏が国に先行して不活化ポリオワクチンを導入したことにみられるように、VPD(ワクチン接種により防ぎ得る病気)の予防推進、「医食農同源」の取り組みが挙げられている。

 

一転、「医学部新設」を国へ要望 チームの総意翻す

 中間とりまとめ発表から間もない12月20日、黒岩県知事は突如、宮城県・新潟県・静岡県各知事との連名で、民主党及び文科大臣宛に医学部新設の規制緩和等を求める要望書を提出。「グランドデザイン」検討会議では県下4大学及び医師会はじめ多くの委員が反対していたにも関わらず、チームの総意を翻す知事の独断専行に、県医師会代表の菊岡委員は抗議の辞任。医学部新設は、一旦創設した場合に廃止が困難であり、将来的な人口減少社会に対し、医師過剰をもたらすことは必至。実際県も、人口あたり医師数は今後増加するという試算を示していた。

 

利益誘導指摘する声も

 黒岩知事の専行の背景には、国際福祉大学(小田原市に保健医療学部)の医学部新設構想がある。同大学は2010年3月から医学部設置準備委員会を設置。黒岩知事は09年10月から同大学の客員教授を務めた経緯もあり、関わりの深い大学への医学部新設を要求することは、「利益誘導では」との声も上がっている。

 この他にも、「グランドデザイン」はパブコメの募集期間が非常に短く、議事録の公表も遅い、更にパブコメの募集結果を公表しない等、策定の趣旨と相反し県民への理解・周知が不十分な中非常に速いテンポで議論が進められている。はじめから結論ありきの、出来レースの印象が強い。

 

歯科軽視、財政担保など指摘 協会・パブコメ提出

 協会では、前述の点を指摘した地域医療対策部長名のパブリックコメントを提出(別表)。この他神奈川県では昨年7月、「神奈川県歯及び口腔の健康づくり推進条例」が施行され、歯の健康について県が積極的に取り組むこととなっているが、「グランドデザイン」では歯科医療についての記述が皆無であること、様々掲げる施策に対し、財政担保を取ること等求めた。

神奈川県県医療グランドデザイン

「医学部新設」巡り波乱 県医代表・抗議の辞任

 

「県医療グランドデザイン・中間まとめ」に対する協会のパブコメ保険医協会が提出したパブリックコメントの全文はこちらから閲覧できます

 

 神奈川県は12月8日、 「医療のグランドデザイン・中間とりまとめ」 を発表し、パブリックコメントを募集。年末年始を挟んだ僅か3週間あまりで締め切った。年度内に発表する最終報告に向け、議論を急ピッチで進めている。

 しかし医学部新設を巡り検討チームの総意を翻す知事の独断専行も見られ、県医師会代表の委員が抗議の辞任をする事態にまで発展している。

 

「受け手主体の医療体制に」 策定趣旨に知事のこだわり

 医療の提供体制についてはもともと、5年毎に策定される「神奈川県保健医療計画」(医療計画)において定められている。「グランドデザイン」は黒岩知事の「医療は受け手である患者、家族や県民が納得できるものでなければならない」というこだわりのもと、医療計画とは別途、独自に策定された。

 中間とりまとめでは、神奈川県が目指すべき医療の姿として、1)効率的で切れ目のない安全な医療提供体制の構築、2)連携・協働・自律の医療の推進、3)医療情報のオープン化・共有化、治療の選択肢の多様化、4)健康寿命の延伸―の4つの大目標が掲げられ、それぞれの具体策が示された。

 

高齢者救急にリビングウィルカード、有床診活用も

 1)では、県央二次医療圏(相模原、厚木市等)における二次救急医療機関減少及び救急輪番体制の窮状に言及。「集約化」「拠点化」を進めるなどして医療提供体制の再構築をすること、集約化に伴うデメリットへの対応として「かかりつけ医」の役割強化を挙げた。また、救急に占める高齢者の増加に対し「リビングウィルカード(延命治療が不要である旨の本人の意思を書面に残すもの)」の導入、受け皿としての老健施設や有床診療所の活用を挙げている。

 「集約化」「拠点化」には課題も多い。かつて、小児科・産科の医療崩壊が進む中、医師を拠点病院へ集中させることにより医療資源の効率化を図る方針が打ち出されたが、搬送時間の長時間化や、拠点病院の疲弊が起こり、上手く機能しなかった経緯がある。リビングウィルカード構想は、08年に創設された「後期高齢者終末期相談支援料」が各方面からの反発で廃止された経緯からも、『尊厳死』に対する国民的議論はまだ煮詰まっていない。拙速な導入は患者・家族のみならず、医療現場にも混乱をもたらしかねない。有床診療所はその2割弱が在宅療養支援診療所の届け出を行い、終末期医療において一定の役割を果たしているが、医療法上の位置付けが曖昧なまま、診療報酬上で冷遇されてきた。終末期の受け皿として期待するならば、財政担保(診療報酬&県からの補助金等)が必要である。

 

医師確保は「両論併記」のはずだったが―

 2)では、神奈川県が人口あたりの医師・看護師数が全国水準で低い現状から(医師39位、看護師最下位)、『医師養成増』の方向性を打ち出している。医師養成については、08年度から全国的に定員増が開始され、県内4医科大学においても入学定員は過去最高となっている(表1)。医師養成増の方法として、医学部定員増と医学部新設の両方について触れる一方で、教員及び施設確保での課題について言及。慎重論との両論併記となっていた。

 

総合特区で選択肢の多様化 マイカルテ導入は拙速

 3)ではICTを活用した医療情報の医療機関⇔患者間の共有を掲げ、患者が自己医療情報を携帯電話等で閲覧できる「マイカルテ」導入し、患者のセルフケアを推進したいとしている。

 昨今医療のIT化が謳われ、共通番号制導入と並行し、EHR(電子健康記録)構想も議論が活発化している。しかし医療情報は最もセンシティブな個人情報であり、国レベルでさえ共通番号制導入に際しては医療を他の分野と切り離し、2013年に特別法を設ける予定だ。それだけ取り扱いには厳重な運用が求められるが、そのような法整備ができていない中「マイカルテ」を導入するのは危険極まりない。そもそも現行の枠組みでも患者が希望すれば情報開示請求によりカルテ閲覧は可能であり、県民のニーズがあるのかも疑問である。

 このほか「西洋医学と東洋医学の連携」では東洋医学の研究を進めるとし、未承認薬や医療機器の早期国内導入に関する「国際戦略総合特区」(横浜)の取り組みに期待を寄せ、東洋医学とともに多様な治療の選択肢を県民に提示したいとしている。

 総合特区は、健保法や医療法に特例を設け、医療機関の開設許可や病院の人員基準、安全基準などの緩和が想定されている。そのような「治外法権」区域で行われた実験的医療の成果をもとに、治療の選択を県民に提示することは、人命軽視ではなかろうか。東洋医学についても、国の専門会議の議論では『有効性の根拠が乏しい』として一定の結論をみるに至ってない。

 このほか、4)では、黒岩氏が国に先行して不活化ポリオワクチンを導入したことにみられるように、VPD(ワクチン接種により防ぎ得る病気)の予防推進、「医食農同源」の取り組みが挙げられている。

 

一転、「医学部新設」を国へ要望 チームの総意翻す

 中間とりまとめ発表から間もない12月20日、黒岩県知事は突如、宮城県・新潟県・静岡県各知事との連名で、民主党及び文科大臣宛に医学部新設の規制緩和等を求める要望書を提出。「グランドデザイン」検討会議では県下4大学及び医師会はじめ多くの委員が反対していたにも関わらず、チームの総意を翻す知事の独断専行に、県医師会代表の菊岡委員は抗議の辞任。医学部新設は、一旦創設した場合に廃止が困難であり、将来的な人口減少社会に対し、医師過剰をもたらすことは必至。実際県も、人口あたり医師数は今後増加するという試算を示していた。

 

利益誘導指摘する声も

 黒岩知事の専行の背景には、国際福祉大学(小田原市に保健医療学部)の医学部新設構想がある。同大学は2010年3月から医学部設置準備委員会を設置。黒岩知事は09年10月から同大学の客員教授を務めた経緯もあり、関わりの深い大学への医学部新設を要求することは、「利益誘導では」との声も上がっている。

 この他にも、「グランドデザイン」はパブコメの募集期間が非常に短く、議事録の公表も遅い、更にパブコメの募集結果を公表しない等、策定の趣旨と相反し県民への理解・周知が不十分な中非常に速いテンポで議論が進められている。はじめから結論ありきの、出来レースの印象が強い。

 

歯科軽視、財政担保など指摘 協会・パブコメ提出

 協会では、前述の点を指摘した地域医療対策部長名のパブリックコメントを提出(別表)。この他神奈川県では昨年7月、「神奈川県歯及び口腔の健康づくり推進条例」が施行され、歯の健康について県が積極的に取り組むこととなっているが、「グランドデザイン」では歯科医療についての記述が皆無であること、様々掲げる施策に対し、財政担保を取ること等求めた。