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2009/4/10 保険診療対策部長談話「オンライン請求義務化は本当に医療のIT化の画竜点睛か」

オンライン請求義務化は

本当に医療のIT化の画竜点睛か

神奈川県保険医協会

保険診療対策部長 入澤 彰仁


 日本経済新聞は4月9日付けに「規制改革に再点火し危機を克服せよ」と題した社説を掲載した。ちょうど1カ月前の3月9日に 社説「レセプト完全電子化を後退させるな」を掲載し、我々をはじめ各医療関係団体から抗議が相次いだことは記憶に新しい。にもかかわらず、レセプトのオンライン請求義務化が医療のIT化の「画竜点睛」であるかのような主張をした。

 冷静になってよく考えていただきたい。医療機関において一番の目的は患者の病を治すことである。レセプト請求はあくまで医療費の請求であって、レセプトを紙で提出しようがフロッピーディスクで提出しようが、インターネットで送信しようが、患者が受ける医療には変わりがない。直接患者の治療には役立つものではない。同紙の3月9日の社説においてIT化が最も遅れている分野の一つに医療が挙げられている。はたしてこれは事実であろうか。医療の現場においては文献検索等にインターネットは盛んに用いられている。また、新薬開発あるいはそのフェーズ試験のデータ収集に関してITが応用されている。さらに最近の医療現場ではITの応用によるMEが発達している。一例として心臓手術、並びに急性心筋梗塞の管理等にスワンガンツカテーテル等が使用されることがある。このカテーテルの先端は温度センサーとなっており通常肺動脈内に設置する。末梢静脈から冷たい(4℃)液体を注入すると、温度センサーが反応し瞬時にコンピューター解析による心拍出量(L/Min.)が測定できる。また同時に中心静脈圧が測定され、動脈圧波計、心電図モニターにより、最適な昇圧剤、あるいは血管拡張剤の投与量が綿密に計算されICU管理が行われている。その他にも人工呼吸器などの治療機器、CT、enhancementCT、種々の血管造影検査においてもIT技術が応用されており、このような高度なデジタル化は医療現場においては枚挙に暇がない。これが医療のIT化というものであり、百歩譲ってレセプトを電子化し、オンラインで請求することが医療のIT化としても「画竜点睛」とはいえないことは明らかだ。

 また、社説では「電子レセプトがあまねく行き渡れば、実際に行われている治療方法の分析がたやすくなり、医療の向上に役立つ」と記している。現実のレセプトには病名と行われた検査や処置が記載されている。しかし、その検査結果や処置後の経過などが記載されることはないといっていい。つまりこれでは、治療方法の分析は出来ないに等しい。
 治療方法の分析を行うにはカルテレベルの情報が必要だ。とすると、レセプトオンライン請求義務化は、将来の健康情報の産業化の布石を思わせる。社説が掲載された4月9日と日を同じくして、「IT 戦略の今後の在り方に関する専門調査会」が「デジタル新時代に向けた新たな戦略~三か年緊急プラン~」をまとめた。そこに「日本健康コミュニティ(仮称)」構想が提起され、「医療機関間の連携の基盤を確立するために、早急に医療機関等におけるオンライン・ネットワークを構築できるよう、レセプト電算処理システムの導入を支援するなど、診療所・薬局等へのレセプトオンライン化への取組を支援する」と記載された。その上で、「健康情報の伝送が可能な高速通信ネットワークの整備」を謳い「目指すべき成果」として「医療機関等の情報化、健康情報のデジタル化、(中略)により国民及び医療従事者にとって最良の医療環境を実現する」とし、「それを支える地域に根ざした総合健康サービス産業群を創出し、国民の健康に関する多様なニーズを満たす」として、新たな健康産業の創出も狙いとしている。要は、医療機関にネットワークの準備をさせ、そのインフラを基に健康産業で一儲けしようという魂胆が透けて見える。

 社説では「万策尽くして『オンライン請求が困難な医療機関』を一つも出さないことが肝要である」と締めくくっているが、それもそのはず、すべての医療機関がオンラインで結ばれることが新たな健康産業で一儲けする「画竜点睛」だからなのではあるまいか。
 そうなると社説の最初に記している「小泉政権による規制改革の強化がワーキングプアを生む温床になったなどという、根拠の薄い批判」という行にある規制改革強化の擁護は、さまざまな分野での市場開放にブレーキをかけることを止めるための言い掛かりと指摘しておきたい。

2009年4月10日
 

オンライン請求義務化は

本当に医療のIT化の画竜点睛か

神奈川県保険医協会

保険診療対策部長 入澤 彰仁


 日本経済新聞は4月9日付けに「規制改革に再点火し危機を克服せよ」と題した社説を掲載した。ちょうど1カ月前の3月9日に 社説「レセプト完全電子化を後退させるな」を掲載し、我々をはじめ各医療関係団体から抗議が相次いだことは記憶に新しい。にもかかわらず、レセプトのオンライン請求義務化が医療のIT化の「画竜点睛」であるかのような主張をした。

 冷静になってよく考えていただきたい。医療機関において一番の目的は患者の病を治すことである。レセプト請求はあくまで医療費の請求であって、レセプトを紙で提出しようがフロッピーディスクで提出しようが、インターネットで送信しようが、患者が受ける医療には変わりがない。直接患者の治療には役立つものではない。同紙の3月9日の社説においてIT化が最も遅れている分野の一つに医療が挙げられている。はたしてこれは事実であろうか。医療の現場においては文献検索等にインターネットは盛んに用いられている。また、新薬開発あるいはそのフェーズ試験のデータ収集に関してITが応用されている。さらに最近の医療現場ではITの応用によるMEが発達している。一例として心臓手術、並びに急性心筋梗塞の管理等にスワンガンツカテーテル等が使用されることがある。このカテーテルの先端は温度センサーとなっており通常肺動脈内に設置する。末梢静脈から冷たい(4℃)液体を注入すると、温度センサーが反応し瞬時にコンピューター解析による心拍出量(L/Min.)が測定できる。また同時に中心静脈圧が測定され、動脈圧波計、心電図モニターにより、最適な昇圧剤、あるいは血管拡張剤の投与量が綿密に計算されICU管理が行われている。その他にも人工呼吸器などの治療機器、CT、enhancementCT、種々の血管造影検査においてもIT技術が応用されており、このような高度なデジタル化は医療現場においては枚挙に暇がない。これが医療のIT化というものであり、百歩譲ってレセプトを電子化し、オンラインで請求することが医療のIT化としても「画竜点睛」とはいえないことは明らかだ。

 また、社説では「電子レセプトがあまねく行き渡れば、実際に行われている治療方法の分析がたやすくなり、医療の向上に役立つ」と記している。現実のレセプトには病名と行われた検査や処置が記載されている。しかし、その検査結果や処置後の経過などが記載されることはないといっていい。つまりこれでは、治療方法の分析は出来ないに等しい。
 治療方法の分析を行うにはカルテレベルの情報が必要だ。とすると、レセプトオンライン請求義務化は、将来の健康情報の産業化の布石を思わせる。社説が掲載された4月9日と日を同じくして、「IT 戦略の今後の在り方に関する専門調査会」が「デジタル新時代に向けた新たな戦略~三か年緊急プラン~」をまとめた。そこに「日本健康コミュニティ(仮称)」構想が提起され、「医療機関間の連携の基盤を確立するために、早急に医療機関等におけるオンライン・ネットワークを構築できるよう、レセプト電算処理システムの導入を支援するなど、診療所・薬局等へのレセプトオンライン化への取組を支援する」と記載された。その上で、「健康情報の伝送が可能な高速通信ネットワークの整備」を謳い「目指すべき成果」として「医療機関等の情報化、健康情報のデジタル化、(中略)により国民及び医療従事者にとって最良の医療環境を実現する」とし、「それを支える地域に根ざした総合健康サービス産業群を創出し、国民の健康に関する多様なニーズを満たす」として、新たな健康産業の創出も狙いとしている。要は、医療機関にネットワークの準備をさせ、そのインフラを基に健康産業で一儲けしようという魂胆が透けて見える。

 社説では「万策尽くして『オンライン請求が困難な医療機関』を一つも出さないことが肝要である」と締めくくっているが、それもそのはず、すべての医療機関がオンラインで結ばれることが新たな健康産業で一儲けする「画竜点睛」だからなのではあるまいか。
 そうなると社説の最初に記している「小泉政権による規制改革の強化がワーキングプアを生む温床になったなどという、根拠の薄い批判」という行にある規制改革強化の擁護は、さまざまな分野での市場開放にブレーキをかけることを止めるための言い掛かりと指摘しておきたい。

2009年4月10日