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2010/6/16 政策部長談話「安全性・有効性の『未確立』な医療との併用療養 行政刷新会議がめざす、危険な混合診療拡大を憂う」

安全性・有効性の「未確立」な医療との併用療養

行政刷新会議がめざす、危険な混合診療拡大を憂う

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 6月7日、行政刷新会議の規制・制度改革に関する分科会は、保険外併用療養の範囲拡大をめざす報告書をまとめた。6月中にも閣議決定するとされ、民主党の参院選挙公約へも影響を与えることとなる。保険外併用療養とは制度化された混合診療の枠組みである。今報告書の示す方向は有効性・安全性の未確立な医療を医療保険制度の中に組み込むことであり、人体への危険性や皆保険の瓦解誘因の疑念は払拭できない。われわれは保険外併用療養の拡大を撤回し、菅内閣はこの報告書を閣議決定しないよう求める。

 

 報告書は今年度中に保険外併用療養について「現在の先進医療制度よりも手続が柔軟かつ迅速な新たな仕組みを検討し、結論を得る」とした。この「対処方針」が中間報告と記述が違うため、一部報道で「譲歩」との誤解が生じているが、何も変更はない。中間報告にあった、倫理審査委員会設置の医療機関による同委員会の承認した療養の届出制での実施は、「一定の施設要件を満たす医療機関」での実施と、表現が曖昧になったにすぎない。当会が指摘(5月21日政策部長談話)した医療機関の「お手盛り」での混合診療の実施に対しては、安全性・有効性の評価を厚労省の外部の機関で行うと、医療保険制度および医療制度の監督官庁の厚労省の関与すら外す方針が示されている。

 中間報告と最終報告に示された「基本的な考え方」に盛られた項目は一言一句、同じである。ここに先進医療の届出制への変更、未承認医薬品のコンパッショネート・ユースなどが盛り込まれている。今後はこの考え方に沿って具体的に検討がなされる。つまり当会が指摘した「安全性と有効性の担保すらない混合診療の制度化」へと歩みを進めることになる。

 

 現在、先進医療は(1)薬事法の承認・適応のある医薬品・医療機器を使用した医療技術(=先進医療)と(2)薬事法の承認・適応のない医薬品・医療機器を使用した医療技術(=高度医療)の2つがある。前者は厚労省の先進医療専門家会議で実施にあたり医師数、医療機器などの「施設基準」が定められ、後者は医療機関からの試験計画、宣誓書等を基に高度医療評価会議での承認と先進医療専門家会議での決定により実施されている。

 高度医療は厚労省の事前承認を経てはいるが、未承認の医薬品・医療機器を使用している点で、有効性・安全性を欠いている。しかも、いわば臨床研究に医療保険を部分的にあてがう、財源補填をしている点で制度上も問題が大きい。

 今回の規制・制度改革に関する分科会の最終報告は、この事前承認をなくし事後チェックの届出制にすることを提案している。これは高度医療ばかりか先進医療についてもその対象としている。報告書は保険外併用療養に限らず、医療分野全般において「事前規制から事後チェック」とするパラダイムシフトを大前提におくと原則を冒頭に掲げているのである。

 この文脈でみれば追加的に盛られた、厚労省の外部機関による、安全性・有効性の評価は、なにもその担保は約束しておらず、被害や副作用の補償もない。

 

 しかも注目は、この届出制の対象として「評価療養」に加え、「選定療養」のうち直接的な医療技術、医薬品、機器に限定するとし、それを盛り込んだ点である。選定療養とは保険導入の検討対象としない保険外の療養で、差額ベッドや、180日超の入院などのほか、AFP検査(がんの検査)やリハビリなどの医療保険の制限回数を超えた医療行為、歯科材料が含まれ、現在は事後報告制となっている。

 

 先進医療と高度医療は「評価療養」とされ、保険導入の検討対象とされているが、あくまでも検討対象であり、「導入前提」ではない。つまり、保険導入されるものもあるが、"落選"する技術がある。しかも、検討の篩(ふるい)にかけられるのは先進医療であり、高度医療は使用する医薬品が治験を経て承認され先進医療へとステップを踏んだ段階でやっと対象となる。

 保険導入の判定は有効性、安全性、技術的成熟度、社会的妥当性(倫理的問題)、普及性、効率性の6つの評価項目で行われている。現在、先進医療は86技術あるが、これまで36技術が導入されたものの、21技術は実施実績がありながらも削除されている。削除された技術は自費診療となっている。

 

 今回、先進医療についての柔軟・迅速な制度の検討とし、届出制への転換と範囲(評価療養と選定療養の一部)が提示されたということは、落選した技術の受け皿を選定療養に設けるということである。そしてそれは、落選組ばかりか、はなから保険導入を念頭におかない、医療技術、医薬品、医療機器を用いた実験的な医療をも含み、「お手盛り」の混合診療として制度化されることになる。

 

 更に最終報告書は、新たな医療技術や画期的新薬の保険収載へメーカーが申請しなくなる懸念に触れてはいるが、患者や学会の要請があれば保険収載するとし、治験を度外視した現行法の改定すら匂わせている。

 

 保険外併用療養(=混合診療)は、先進医療、高度医療、臨床研究へと境界線を巧妙にずらし、公的医療保険制度を組みこみ、本来の制度の立脚点をないがしろにし、さらに変容させようとしている。有効性・安全性の確立された医療の現物保障、最適保障が医療保険制度の本来である。安全性・有効性の度外視に至ってはヘルシンキ宣言にもとる。

 そもそも医薬品・医療機器の開発、未承認の医薬品・医療機器の治験と承認申請、代替品のない医薬品の使用(人道的使用)など、本来、医療保険制度とは別物、無関係な話である。保険外併用(混合診療)が、これらを解決する福音とは決してならない。先進医療86技術は何らかの問題があるから保険導入がされていないのである。

 

 保険外併用療養の拡大に関し、経済的思惑を絡めたバラ色の議論も散見するが、現実に立脚すべきである。ここ1年間で先進医療は患者数6,419人、91.1億円(うち保険診療分34.7億円)、高度医療は患者13,594人、81.7億円(うち保険診療分72.7億円)。要は保険分を含んでも172.8億円にすぎず、公的医療費の34.1兆円の0.05%相当である。

 

 皆保険のこの日本で、経済波及効果・雇用効果が大きいのは公的医療費の総枠拡大にほかならない。行き過ぎた低医療費政策は90年代の早くから『「世界一」の医療費抑制策を見直す時期』(二木立氏)と警鐘が鳴らされ、『福祉は経済を活かす』(故・滝上宗次郎氏)と説かれている。

 

 WHOの評価で日本の医療制度は世界一である。それ以上に、医療内容でも、がん、循環器、糖尿病、筋骨格系疾患、精神疾患、医療事故の各々の死亡率の低さはAランクであり、しかも総合評価は世界一である。昨今の医療崩壊は医療費抑制策の帰結であり、そのもとでもこの評価を営々と築いてきた医療者の献身と努力を検証すべきである。
皆保険の充実・発展へ向けた社会保障の機能強化の舵取りを、内閣に真に望むものである。


2010年6月16日

安全性・有効性の「未確立」な医療との併用療養

行政刷新会議がめざす、危険な混合診療拡大を憂う

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 6月7日、行政刷新会議の規制・制度改革に関する分科会は、保険外併用療養の範囲拡大をめざす報告書をまとめた。6月中にも閣議決定するとされ、民主党の参院選挙公約へも影響を与えることとなる。保険外併用療養とは制度化された混合診療の枠組みである。今報告書の示す方向は有効性・安全性の未確立な医療を医療保険制度の中に組み込むことであり、人体への危険性や皆保険の瓦解誘因の疑念は払拭できない。われわれは保険外併用療養の拡大を撤回し、菅内閣はこの報告書を閣議決定しないよう求める。

 

 報告書は今年度中に保険外併用療養について「現在の先進医療制度よりも手続が柔軟かつ迅速な新たな仕組みを検討し、結論を得る」とした。この「対処方針」が中間報告と記述が違うため、一部報道で「譲歩」との誤解が生じているが、何も変更はない。中間報告にあった、倫理審査委員会設置の医療機関による同委員会の承認した療養の届出制での実施は、「一定の施設要件を満たす医療機関」での実施と、表現が曖昧になったにすぎない。当会が指摘(5月21日政策部長談話)した医療機関の「お手盛り」での混合診療の実施に対しては、安全性・有効性の評価を厚労省の外部の機関で行うと、医療保険制度および医療制度の監督官庁の厚労省の関与すら外す方針が示されている。

 中間報告と最終報告に示された「基本的な考え方」に盛られた項目は一言一句、同じである。ここに先進医療の届出制への変更、未承認医薬品のコンパッショネート・ユースなどが盛り込まれている。今後はこの考え方に沿って具体的に検討がなされる。つまり当会が指摘した「安全性と有効性の担保すらない混合診療の制度化」へと歩みを進めることになる。

 

 現在、先進医療は(1)薬事法の承認・適応のある医薬品・医療機器を使用した医療技術(=先進医療)と(2)薬事法の承認・適応のない医薬品・医療機器を使用した医療技術(=高度医療)の2つがある。前者は厚労省の先進医療専門家会議で実施にあたり医師数、医療機器などの「施設基準」が定められ、後者は医療機関からの試験計画、宣誓書等を基に高度医療評価会議での承認と先進医療専門家会議での決定により実施されている。

 高度医療は厚労省の事前承認を経てはいるが、未承認の医薬品・医療機器を使用している点で、有効性・安全性を欠いている。しかも、いわば臨床研究に医療保険を部分的にあてがう、財源補填をしている点で制度上も問題が大きい。

 今回の規制・制度改革に関する分科会の最終報告は、この事前承認をなくし事後チェックの届出制にすることを提案している。これは高度医療ばかりか先進医療についてもその対象としている。報告書は保険外併用療養に限らず、医療分野全般において「事前規制から事後チェック」とするパラダイムシフトを大前提におくと原則を冒頭に掲げているのである。

 この文脈でみれば追加的に盛られた、厚労省の外部機関による、安全性・有効性の評価は、なにもその担保は約束しておらず、被害や副作用の補償もない。

 

 しかも注目は、この届出制の対象として「評価療養」に加え、「選定療養」のうち直接的な医療技術、医薬品、機器に限定するとし、それを盛り込んだ点である。選定療養とは保険導入の検討対象としない保険外の療養で、差額ベッドや、180日超の入院などのほか、AFP検査(がんの検査)やリハビリなどの医療保険の制限回数を超えた医療行為、歯科材料が含まれ、現在は事後報告制となっている。

 

 先進医療と高度医療は「評価療養」とされ、保険導入の検討対象とされているが、あくまでも検討対象であり、「導入前提」ではない。つまり、保険導入されるものもあるが、"落選"する技術がある。しかも、検討の篩(ふるい)にかけられるのは先進医療であり、高度医療は使用する医薬品が治験を経て承認され先進医療へとステップを踏んだ段階でやっと対象となる。

 保険導入の判定は有効性、安全性、技術的成熟度、社会的妥当性(倫理的問題)、普及性、効率性の6つの評価項目で行われている。現在、先進医療は86技術あるが、これまで36技術が導入されたものの、21技術は実施実績がありながらも削除されている。削除された技術は自費診療となっている。

 

 今回、先進医療についての柔軟・迅速な制度の検討とし、届出制への転換と範囲(評価療養と選定療養の一部)が提示されたということは、落選した技術の受け皿を選定療養に設けるということである。そしてそれは、落選組ばかりか、はなから保険導入を念頭におかない、医療技術、医薬品、医療機器を用いた実験的な医療をも含み、「お手盛り」の混合診療として制度化されることになる。

 

 更に最終報告書は、新たな医療技術や画期的新薬の保険収載へメーカーが申請しなくなる懸念に触れてはいるが、患者や学会の要請があれば保険収載するとし、治験を度外視した現行法の改定すら匂わせている。

 

 保険外併用療養(=混合診療)は、先進医療、高度医療、臨床研究へと境界線を巧妙にずらし、公的医療保険制度を組みこみ、本来の制度の立脚点をないがしろにし、さらに変容させようとしている。有効性・安全性の確立された医療の現物保障、最適保障が医療保険制度の本来である。安全性・有効性の度外視に至ってはヘルシンキ宣言にもとる。

 そもそも医薬品・医療機器の開発、未承認の医薬品・医療機器の治験と承認申請、代替品のない医薬品の使用(人道的使用)など、本来、医療保険制度とは別物、無関係な話である。保険外併用(混合診療)が、これらを解決する福音とは決してならない。先進医療86技術は何らかの問題があるから保険導入がされていないのである。

 

 保険外併用療養の拡大に関し、経済的思惑を絡めたバラ色の議論も散見するが、現実に立脚すべきである。ここ1年間で先進医療は患者数6,419人、91.1億円(うち保険診療分34.7億円)、高度医療は患者13,594人、81.7億円(うち保険診療分72.7億円)。要は保険分を含んでも172.8億円にすぎず、公的医療費の34.1兆円の0.05%相当である。

 

 皆保険のこの日本で、経済波及効果・雇用効果が大きいのは公的医療費の総枠拡大にほかならない。行き過ぎた低医療費政策は90年代の早くから『「世界一」の医療費抑制策を見直す時期』(二木立氏)と警鐘が鳴らされ、『福祉は経済を活かす』(故・滝上宗次郎氏)と説かれている。

 

 WHOの評価で日本の医療制度は世界一である。それ以上に、医療内容でも、がん、循環器、糖尿病、筋骨格系疾患、精神疾患、医療事故の各々の死亡率の低さはAランクであり、しかも総合評価は世界一である。昨今の医療崩壊は医療費抑制策の帰結であり、そのもとでもこの評価を営々と築いてきた医療者の献身と努力を検証すべきである。
皆保険の充実・発展へ向けた社会保障の機能強化の舵取りを、内閣に真に望むものである。


2010年6月16日