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2009/2/3 地域医療対策部長談話「『公共的施設における受動喫煙防止条例』制定にあたり"全面禁煙"の方針から後退しないことを求める」

「公共的施設における受動喫煙防止条例」

制定にあたり"全面禁煙"の方針から後退しないことを求める

 

神奈川県保険医協会
地域医療対策部部長 桑島 政臣


 神奈川県は、受動喫煙による健康影響を防止し県民の健康の確保を図ることを目的とした「公共的施設における受動喫煙防止条例(仮)」案を2月議会へと提出し、早ければ4月に公布、1年後より施行するとしている。条例の内容は、官公庁、学校、病院など不特定多数の者が出入りする場所を規制対象とし、違反者には罰則を設けるもので、全国的な注目を浴びた。しかしパチンコなどの遊戯店や7割にあたる飲食店は事実上対象外とされ、当初案からは大きく後退した。われわれは医療者として、住民の健康づくりという観点から「全面禁煙」の方針から後退しないよう求めるものである。

 
 喫煙により発生する医療費は1兆3千億円、病気による労働力損失は5兆8千5百億円と、合計7兆1千5百億円もの社会的損失をもたらすとの推計もある(医療経済研究機構)。たばこががん、心臓病を含む脳血管疾患、呼吸器疾患の危険因子となることは既に多くの研究で明らかになっており、喫煙は単独でがんの原因の約30%を占める(厚労省調査)。また副流煙には発がん性物質のニトロソアミンが主流煙の52倍も含まれており(surgeon general report)、複数の疫学研究をまとめた結果、夫の喫煙による非喫煙配偶者の肺がんの相対リスクは1.3?1.5となるともいわれている。喫煙、受動喫煙がもたらす健康被害の大きさはもはや論を待たない。

 

 わが国では『健康増進法』により多数の者が利用する施設には受動喫煙防止の"努力義務"が課せられているが、罰則がない。また『たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約』にも批准し施行されているが、受動喫煙防止対策は事実上たなざらしとされてきた。県の当初の条例案は、「屋内全面禁煙」、「施設管理者及び非喫煙区域での喫煙者に対する罰則(過料)を設ける」という点で画期的であり、実効性のある全国初の試みとして注目された。

 

 条例案後退の背景には、「収益減につながる」との遊戯店や飲食店の反発があった。しかしニュージーランドやアメリカなど屋内禁煙の先進例によると、法施行後に飲食店の売り上げが減ったなどの経済的悪影響はなく、むしろプラスに転じた地域もあり(日本禁煙学会雑誌08年8月号:松崎道幸氏寄稿)、国内でも、屋内禁煙にしたところ売り上げが3割増加したという有名中華店の報告もある。ニューヨーク市が屋内禁煙法施行後に行ったアンケートでは、市民の96%が施行前と同じかそれ以上外食をするようになったと回答(Tim Zagat氏『受動喫煙防止のための政策勧告』より)。屋内禁煙による接客業界への経済的損失はなく、施行前と変わらないかもしくはプラスの経済効果が生み出されたことが先進例で示されている。

 

 また大規模飲食店などは「禁煙」か「分煙」かを選択できるとされたが、発がん性物質は7m先まで届くため(日本禁煙学会)、「分煙」は受動喫煙防止策として完全とは言い難い。喫煙場所を区切っても出入り口から煙が漏れ、大型換気扇の設置でもたばこ煙の粒子状成分は3分の1にしか減らないという報告もあり(厚労省委託研究主任研究者:大和浩氏)、受動喫煙を完全になくすには「屋内禁煙」以外有効な策はないと考える。

 

 屋内完全禁煙は非喫煙者の健康を守るだけでなく、喫煙者自身の喫煙量減少の効果もあり、有効な禁煙推進策ともなりうる。県は受動喫煙の危険性に関する教育活動を十分に行い、健康づくりの先進策として住民の理解を求めていくことが必要と考える。

 

 受動喫煙対策が遅れているわが国において"全国初"となる試みが、真に住民の健康づくりに資する施策となるよう、全面禁煙の旗印を下ろさないことを期待するものである。 

2009年2月3日

 

「公共的施設における受動喫煙防止条例」

制定にあたり"全面禁煙"の方針から後退しないことを求める

 

神奈川県保険医協会
地域医療対策部部長 桑島 政臣


 神奈川県は、受動喫煙による健康影響を防止し県民の健康の確保を図ることを目的とした「公共的施設における受動喫煙防止条例(仮)」案を2月議会へと提出し、早ければ4月に公布、1年後より施行するとしている。条例の内容は、官公庁、学校、病院など不特定多数の者が出入りする場所を規制対象とし、違反者には罰則を設けるもので、全国的な注目を浴びた。しかしパチンコなどの遊戯店や7割にあたる飲食店は事実上対象外とされ、当初案からは大きく後退した。われわれは医療者として、住民の健康づくりという観点から「全面禁煙」の方針から後退しないよう求めるものである。

 
 喫煙により発生する医療費は1兆3千億円、病気による労働力損失は5兆8千5百億円と、合計7兆1千5百億円もの社会的損失をもたらすとの推計もある(医療経済研究機構)。たばこががん、心臓病を含む脳血管疾患、呼吸器疾患の危険因子となることは既に多くの研究で明らかになっており、喫煙は単独でがんの原因の約30%を占める(厚労省調査)。また副流煙には発がん性物質のニトロソアミンが主流煙の52倍も含まれており(surgeon general report)、複数の疫学研究をまとめた結果、夫の喫煙による非喫煙配偶者の肺がんの相対リスクは1.3?1.5となるともいわれている。喫煙、受動喫煙がもたらす健康被害の大きさはもはや論を待たない。

 

 わが国では『健康増進法』により多数の者が利用する施設には受動喫煙防止の"努力義務"が課せられているが、罰則がない。また『たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約』にも批准し施行されているが、受動喫煙防止対策は事実上たなざらしとされてきた。県の当初の条例案は、「屋内全面禁煙」、「施設管理者及び非喫煙区域での喫煙者に対する罰則(過料)を設ける」という点で画期的であり、実効性のある全国初の試みとして注目された。

 

 条例案後退の背景には、「収益減につながる」との遊戯店や飲食店の反発があった。しかしニュージーランドやアメリカなど屋内禁煙の先進例によると、法施行後に飲食店の売り上げが減ったなどの経済的悪影響はなく、むしろプラスに転じた地域もあり(日本禁煙学会雑誌08年8月号:松崎道幸氏寄稿)、国内でも、屋内禁煙にしたところ売り上げが3割増加したという有名中華店の報告もある。ニューヨーク市が屋内禁煙法施行後に行ったアンケートでは、市民の96%が施行前と同じかそれ以上外食をするようになったと回答(Tim Zagat氏『受動喫煙防止のための政策勧告』より)。屋内禁煙による接客業界への経済的損失はなく、施行前と変わらないかもしくはプラスの経済効果が生み出されたことが先進例で示されている。

 

 また大規模飲食店などは「禁煙」か「分煙」かを選択できるとされたが、発がん性物質は7m先まで届くため(日本禁煙学会)、「分煙」は受動喫煙防止策として完全とは言い難い。喫煙場所を区切っても出入り口から煙が漏れ、大型換気扇の設置でもたばこ煙の粒子状成分は3分の1にしか減らないという報告もあり(厚労省委託研究主任研究者:大和浩氏)、受動喫煙を完全になくすには「屋内禁煙」以外有効な策はないと考える。

 

 屋内完全禁煙は非喫煙者の健康を守るだけでなく、喫煙者自身の喫煙量減少の効果もあり、有効な禁煙推進策ともなりうる。県は受動喫煙の危険性に関する教育活動を十分に行い、健康づくりの先進策として住民の理解を求めていくことが必要と考える。

 

 受動喫煙対策が遅れているわが国において"全国初"となる試みが、真に住民の健康づくりに資する施策となるよう、全面禁煙の旗印を下ろさないことを期待するものである。 

2009年2月3日