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2008/9/9 歯科部会抗議声明「歯科保険医療を死地に追いやる『歯科補綴の保険外し』 国民的視点が欠如した今回の歯科医学会長発言に抗議する」

歯科保険医療を死地に追いやる「歯科補綴の保険外し」

国民的視点が欠如した今回の歯科医学会長発言に抗議する

 

神奈川県保険医協会

歯科部会


 先般7月に行われた日本歯科医療管理学会学術講演で、江藤日本歯科医学会長は、「歯科再生の道をさぐる」というテーマで特別講演を行った。その中で同会長は、現在の歯科業界を打開する手段として、保険外併用療養制度の活用を図ると共に、歯科補綴の保険外しともとれる重大かつ危険な発言を行った。

 同講演の内容を概括的に述べると、現在の歯科業界が厳しい状況下に置かれるに至ったのは、70年代の脱保険路線に始まり、差額徴収についての51年通知(1976年)や1981年の薬価差益問題が尾を引いてしまったーと、歴史的経緯を語り、そのために先端歯科医療技術の停滞、器械開発や材料開発の低下、そして偏差値の低下をきたした。それを打開するには、保険診療の総枠2兆5千億円、自費診療分5千億円、併せて3兆円を3兆5千億円にするために、保険外併用療養制度(選定療養)乃至は自費診療に活路を見出すことが一つの考え方だとした。さらに、その狙いとして補綴を挙げ、諸外国では保険給付外となっているし、隣国韓国を取上げて補綴は勿論のこと保存、歯周など金になる分野は全て保険給付外だとし、それで景気が良い。しかし、補綴は一般の医療保険で7.8%、老人保健では30%のシェアを占めているので、軽々には補綴外しとはいかないーとの見通しを述べている。また、日本の歯科医療は、例えば65歳以上の無歯顎者率でも英国46%、フィンランド36%、独国・米国25%に比して、日本は21%であることを示して優秀さを強調した。そして同会長は、「(こういうことを)日歯が言うと政治問題になるが、(日本歯科医学会は)学会であり、一つの学術的な提案」と、付け足している。

 

 今回の発言は、何を企図しているのかは定かではないが、同会長は7月の大阪での講演以外にも同月に長野県で開かれた全国歯科大学同窓会・校友会学術連絡会でも同様の主旨の講演をしており、学術部門からの一つの提案との形をとっているものの、「補綴の保険外し」への地均しを行っている感が拭えない。
その考えは、全国の歯科保険医が低点数の中で、しかも地域によっては不当な審査・指導に不満を抱えつつも患者・住民の健康を支えている実態とはあまりにも乖離した姿勢をさらけ出したといえる。歯科の保険診療において日常的に使用頻度が高い治療行為を保険から外すような考えは、国民歯科医療の破壊につながりかねない。しかも、外国では金目になるものを保険給付外にすることによって、歯科業界の景気がよくなっているーという発言に至っては噴飯もので、この発言を知ったならば、多くの国民、マスコミから歯科界は袋叩きにあうことは火を見るよりも明らかなことと言える。

 

 また、国民歯科医療の視点は、発言としては出てくるが、今回の講演の主軸とはなっておらず、一人歯科界のみが成功する道、しかも大変に理論的にも脆弱な路線を提唱していることが読み取れる。全く本末転倒も甚だしい。

 同会長は、現状を打破する戦略目標として、歯科医療費の総枠を拡大するにはどうすればいいか」との命題を出し、具体的には「保険診療の総枠2兆5千億円、自費診療の総枠は(多分)5千億円で、3兆円。それを3兆5千億円にするには...保険の財源をこれ以上増やすのは至難のわざ」として、保険外併用療養制度(選定療養)に活路を見出すべきとの踏み込んだ指摘をおこなった。しかし、現実の問題としては選定療養は保険導入を前提としないものであり、国民皆保険制度が定着した日本では患者・住民にとってはなじみにくいものであり、補綴のシェアがおよそ45%を占めると言われている中で、その補綴を保険から外すという考えは暴論と言える。「保険で良い歯科医療を」「保険の範囲を拡げてほしい」との多くの患者・住民の願いに背を向ける今回の発言は到底受入れられないものである。

 

 さらに敷衍するならば、保険診療から外された補綴分の医療費が他の歯科分野に振り当てられる補償はなく、むしろ厚労省が狙っている歯科の公的保険範囲の縮小に絶好の口実を与えることになる。総額33兆1276億円と言われる国民医療費(06年度)に占める歯科の割合は7.6%、約2兆5039億円であり、05年度よりも0.2%後退しており、この減少傾向はここ最近継続してきており、それに拍車をかけることを危惧するものである。

 

 ここで思い起こしていただきたいのは、2年前の2006年5月、神奈川県湘南国際村に日本歯科医師会、日本歯科医学会、日本歯科医師連盟などが集い、「湘南宣言」をまとめた。この中で保険外併用療養費制度への積極的な取組み、つまりは混合診療容認と拡大に道を拓く方向に舵をきった。その主要なメンバーに日本歯科医学会が名を連ねていたことである。

 

 今回の発言は、「補綴の保険外し」を一つの例に取上げ、歯科の混合診療、自費診療志向の考えを、日本歯科医師会が発言すれば、政治的な物議をかもすが、日本歯科医学会からであれば、学問的提言なのでという免罪符を自ら与えつつ、歯科保険医療を危険な方向に誘導する発言を行い、さらに同学会としてその道を追及する姿勢さえ示している。

 歯科部会は、この発言(講演)に対して、強い憤りを感ずると同時に、日夜地域医療に従事し、国民歯科医療に貢献している歯科開業保険医を代表して、江藤日本歯科医学会長に抗議する。あわせて、同学会と日本歯科医師会に猛省を促すものである。

2008年9月9日

 

歯科保険医療を死地に追いやる「歯科補綴の保険外し」

国民的視点が欠如した今回の歯科医学会長発言に抗議する

 

神奈川県保険医協会

歯科部会


 先般7月に行われた日本歯科医療管理学会学術講演で、江藤日本歯科医学会長は、「歯科再生の道をさぐる」というテーマで特別講演を行った。その中で同会長は、現在の歯科業界を打開する手段として、保険外併用療養制度の活用を図ると共に、歯科補綴の保険外しともとれる重大かつ危険な発言を行った。

 同講演の内容を概括的に述べると、現在の歯科業界が厳しい状況下に置かれるに至ったのは、70年代の脱保険路線に始まり、差額徴収についての51年通知(1976年)や1981年の薬価差益問題が尾を引いてしまったーと、歴史的経緯を語り、そのために先端歯科医療技術の停滞、器械開発や材料開発の低下、そして偏差値の低下をきたした。それを打開するには、保険診療の総枠2兆5千億円、自費診療分5千億円、併せて3兆円を3兆5千億円にするために、保険外併用療養制度(選定療養)乃至は自費診療に活路を見出すことが一つの考え方だとした。さらに、その狙いとして補綴を挙げ、諸外国では保険給付外となっているし、隣国韓国を取上げて補綴は勿論のこと保存、歯周など金になる分野は全て保険給付外だとし、それで景気が良い。しかし、補綴は一般の医療保険で7.8%、老人保健では30%のシェアを占めているので、軽々には補綴外しとはいかないーとの見通しを述べている。また、日本の歯科医療は、例えば65歳以上の無歯顎者率でも英国46%、フィンランド36%、独国・米国25%に比して、日本は21%であることを示して優秀さを強調した。そして同会長は、「(こういうことを)日歯が言うと政治問題になるが、(日本歯科医学会は)学会であり、一つの学術的な提案」と、付け足している。

 

 今回の発言は、何を企図しているのかは定かではないが、同会長は7月の大阪での講演以外にも同月に長野県で開かれた全国歯科大学同窓会・校友会学術連絡会でも同様の主旨の講演をしており、学術部門からの一つの提案との形をとっているものの、「補綴の保険外し」への地均しを行っている感が拭えない。
その考えは、全国の歯科保険医が低点数の中で、しかも地域によっては不当な審査・指導に不満を抱えつつも患者・住民の健康を支えている実態とはあまりにも乖離した姿勢をさらけ出したといえる。歯科の保険診療において日常的に使用頻度が高い治療行為を保険から外すような考えは、国民歯科医療の破壊につながりかねない。しかも、外国では金目になるものを保険給付外にすることによって、歯科業界の景気がよくなっているーという発言に至っては噴飯もので、この発言を知ったならば、多くの国民、マスコミから歯科界は袋叩きにあうことは火を見るよりも明らかなことと言える。

 

 また、国民歯科医療の視点は、発言としては出てくるが、今回の講演の主軸とはなっておらず、一人歯科界のみが成功する道、しかも大変に理論的にも脆弱な路線を提唱していることが読み取れる。全く本末転倒も甚だしい。

 同会長は、現状を打破する戦略目標として、歯科医療費の総枠を拡大するにはどうすればいいか」との命題を出し、具体的には「保険診療の総枠2兆5千億円、自費診療の総枠は(多分)5千億円で、3兆円。それを3兆5千億円にするには...保険の財源をこれ以上増やすのは至難のわざ」として、保険外併用療養制度(選定療養)に活路を見出すべきとの踏み込んだ指摘をおこなった。しかし、現実の問題としては選定療養は保険導入を前提としないものであり、国民皆保険制度が定着した日本では患者・住民にとってはなじみにくいものであり、補綴のシェアがおよそ45%を占めると言われている中で、その補綴を保険から外すという考えは暴論と言える。「保険で良い歯科医療を」「保険の範囲を拡げてほしい」との多くの患者・住民の願いに背を向ける今回の発言は到底受入れられないものである。

 

 さらに敷衍するならば、保険診療から外された補綴分の医療費が他の歯科分野に振り当てられる補償はなく、むしろ厚労省が狙っている歯科の公的保険範囲の縮小に絶好の口実を与えることになる。総額33兆1276億円と言われる国民医療費(06年度)に占める歯科の割合は7.6%、約2兆5039億円であり、05年度よりも0.2%後退しており、この減少傾向はここ最近継続してきており、それに拍車をかけることを危惧するものである。

 

 ここで思い起こしていただきたいのは、2年前の2006年5月、神奈川県湘南国際村に日本歯科医師会、日本歯科医学会、日本歯科医師連盟などが集い、「湘南宣言」をまとめた。この中で保険外併用療養費制度への積極的な取組み、つまりは混合診療容認と拡大に道を拓く方向に舵をきった。その主要なメンバーに日本歯科医学会が名を連ねていたことである。

 

 今回の発言は、「補綴の保険外し」を一つの例に取上げ、歯科の混合診療、自費診療志向の考えを、日本歯科医師会が発言すれば、政治的な物議をかもすが、日本歯科医学会からであれば、学問的提言なのでという免罪符を自ら与えつつ、歯科保険医療を危険な方向に誘導する発言を行い、さらに同学会としてその道を追及する姿勢さえ示している。

 歯科部会は、この発言(講演)に対して、強い憤りを感ずると同時に、日夜地域医療に従事し、国民歯科医療に貢献している歯科開業保険医を代表して、江藤日本歯科医学会長に抗議する。あわせて、同学会と日本歯科医師会に猛省を促すものである。

2008年9月9日