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2010/2/4 政策部長談話「国民を欺く、大病院に無関係の再診料の統一論議 本丸は診療所と中小病院のリストラ」

国民を欺く、大病院に無関係の再診料の統一論議

本丸は診療所と中小病院のリストラ

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 診療報酬改定は2月12日の中医協答申に向け、佳境に入っている。今次改定は、前回同様、診療所の再診料引き下げの議論が再燃、これに「配分見直し」の診療所医療費の圧縮が加わり、議論が続けられている。しかし、引下げで捻出される財源の行方など、この議論は不可解な点が多い。結論からいえば、中小病院の更なる淘汰と、診療所の整理、混合診療待望論の創出が、裏意図に透けている。改めて指摘し、関係諸氏の注意を促したい。

 病院と診療所の統一が問題になっている再診料だが、正確には中小病院(199床以下)の再診料600円と診療所の再診料710円の話であり、二次救急を主に担う大病院(200床以上)の再診料(=「外来診療料」)700円は何も議論の対象になっていない。われわれは、勿論、中小病院の再診料は引き上げで診療所と統一すべきだと考えており、必要額220億円は今次改定の外来財源400億円で十分に賄うことができる。診療所を引き下げる理由がないのである。

 仮に診療所を引下げ、中間点の650円で統一すると、新たに500億円の財源が浮くが、これをあてがう外来の改定項目メニューは、病院、診療所とも僅かしかない。つまり「配分見直し」は行き先が不明で、診療所の医療費が縮減するだけであり、実質の改定率0%がマイナス改定に数字上も転じる危険性が高い。

 しかも、この再診料問題は病院の負担軽減の文脈で語られてきているが、先にもみたように中小病院に限定した問題となる。にもかかわらず、中小病院の多くが入院患者に算定している15対1入院基本料の引下げが決まっており、負担軽減とは逆に、中小病院は苦境に立たされることが必至である。90年代以降、急性期・大病院偏重の点数誘導の政策は一貫しており、今回も貫徹されている。

 前回改定の外来管理加算「5分ルール」も病院救済とは名ばかりで、診療所と中小病院は経営的な打撃を受けている。

 この2年間で全国の中小病院は閉院などで▲150病院▲5,500床と減少。診療所も昨年度、▲449施設と21年ぶりに減少に転じている。

 つまり、二次救急を主に担っている大病院に全く無関係の「再診料問題」は、その議論や報道とは裏腹に、実際に狙われているのは診療所と中小病院のリストラであり、国民の多くは欺かれている。

 昨年6月の財政審の予算「建議」では、(1)診療所の診療報酬の引下げ(配分の見直し)、(2)フリーアクセスの制限(医師の適正配置、自由開業医制の否定、定数制)などを早急の課題と位置付け、急性期病院への医療資源の集中、民間医療保険の育成、後発品使用の促進、混合診療の解禁、と従来より大幅に踏み込んでいる。しかも、これは医師不足、救急体制の再生策とされている。

 しかし、ここに描かれているのは、診療所を連続の診療報酬引き下げで窮地に追い込み、定数制で開業保険医の数を絞り、"貧すれば鈍す"で、混合診療の待望論を医療現場から上げさせ、医療を商品化・市場化することである。

 今次改定骨子に盛られた領収明細書の発行義務化も、医療商品化の先鞭であり、既に販売中の自己負担を補填する民間医療保険の、販売促進のための後押しである。本来、患者請求に応じ保険者が無料でレセプト開示をすれば済む問題である。

 また、規制改革会議は廃止となるものの、行政刷新会議の新たな分科会が後継となり草刈議長はそのメンバーに収まることになっている。1月12日の刷新会議では重要課題として混合診療の議論が再開されており非常に危惧を覚える。

 現実には、保険適用外の医薬品・医療機器を使用した混合診療は可能(=保険外併用療養費)となっている。それどころか既に治験未実施、つまり科学的な安全性と有効性の担保のない医薬品・医療機器の使用を認める「高度医療評価制度」まで解禁されており問題が大きい。今後は市場規模の観点から、安全性と有効性の担保のない高度ではない技術・医薬品への解禁が焦点となっていくため、非常に危険である。第一線医療の混乱、階層消費で公的医療保障が確実に崩されることになる。

 昨今、取り沙汰されるメディカル・ツーリズムや民間保険育成、混合診療解禁などは小泉「構造改革」の下、02年11月の経済財政諮問会議で計画されたものであり、新政権がこの流れを寸断するのかどうかは、今後の大きな試金石である。

 以上、この国の医療政策の転換は、社会保障国民会議による機能強化・医療費拡充路線や総選挙を前後した医療費総枠拡大の政治合意も、束の間の話で、既に水泡に帰している感が強い。

 最大与党民主党は選挙公約で、皆保険の維持発展、医療技術や医薬品の保険適用の迅速化を掲げており、これを遵守されるよう強く期待したい。

 医療再生へ向けた国民・医療者の願いとは逆に、「選択と集中」の名の下、国民的な政策合意も不在のまま、経団連・財務省主導で日本医療の特性―皆保険、フリーアクセス、自由開業制、自由裁量制、出来高が、否定されようとし始めている。

 医療再生に向け、時間はない。泡沫(うたかた)のプラス改定で踊らされている場合ではない。有名無実ではない、腰の座った超党派の医療政策の会議体を創設し、制度・医療実践・保険実務・教育などに精通する医療界の人材と叡智を広く結集して、方策と財源を練るべきである。

2010年2月4日

 

国民を欺く、大病院に無関係の再診料の統一論議

本丸は診療所と中小病院のリストラ

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 診療報酬改定は2月12日の中医協答申に向け、佳境に入っている。今次改定は、前回同様、診療所の再診料引き下げの議論が再燃、これに「配分見直し」の診療所医療費の圧縮が加わり、議論が続けられている。しかし、引下げで捻出される財源の行方など、この議論は不可解な点が多い。結論からいえば、中小病院の更なる淘汰と、診療所の整理、混合診療待望論の創出が、裏意図に透けている。改めて指摘し、関係諸氏の注意を促したい。

 病院と診療所の統一が問題になっている再診料だが、正確には中小病院(199床以下)の再診料600円と診療所の再診料710円の話であり、二次救急を主に担う大病院(200床以上)の再診料(=「外来診療料」)700円は何も議論の対象になっていない。われわれは、勿論、中小病院の再診料は引き上げで診療所と統一すべきだと考えており、必要額220億円は今次改定の外来財源400億円で十分に賄うことができる。診療所を引き下げる理由がないのである。

 仮に診療所を引下げ、中間点の650円で統一すると、新たに500億円の財源が浮くが、これをあてがう外来の改定項目メニューは、病院、診療所とも僅かしかない。つまり「配分見直し」は行き先が不明で、診療所の医療費が縮減するだけであり、実質の改定率0%がマイナス改定に数字上も転じる危険性が高い。

 しかも、この再診料問題は病院の負担軽減の文脈で語られてきているが、先にもみたように中小病院に限定した問題となる。にもかかわらず、中小病院の多くが入院患者に算定している15対1入院基本料の引下げが決まっており、負担軽減とは逆に、中小病院は苦境に立たされることが必至である。90年代以降、急性期・大病院偏重の点数誘導の政策は一貫しており、今回も貫徹されている。

 前回改定の外来管理加算「5分ルール」も病院救済とは名ばかりで、診療所と中小病院は経営的な打撃を受けている。

 この2年間で全国の中小病院は閉院などで▲150病院▲5,500床と減少。診療所も昨年度、▲449施設と21年ぶりに減少に転じている。

 つまり、二次救急を主に担っている大病院に全く無関係の「再診料問題」は、その議論や報道とは裏腹に、実際に狙われているのは診療所と中小病院のリストラであり、国民の多くは欺かれている。

 昨年6月の財政審の予算「建議」では、(1)診療所の診療報酬の引下げ(配分の見直し)、(2)フリーアクセスの制限(医師の適正配置、自由開業医制の否定、定数制)などを早急の課題と位置付け、急性期病院への医療資源の集中、民間医療保険の育成、後発品使用の促進、混合診療の解禁、と従来より大幅に踏み込んでいる。しかも、これは医師不足、救急体制の再生策とされている。

 しかし、ここに描かれているのは、診療所を連続の診療報酬引き下げで窮地に追い込み、定数制で開業保険医の数を絞り、"貧すれば鈍す"で、混合診療の待望論を医療現場から上げさせ、医療を商品化・市場化することである。

 今次改定骨子に盛られた領収明細書の発行義務化も、医療商品化の先鞭であり、既に販売中の自己負担を補填する民間医療保険の、販売促進のための後押しである。本来、患者請求に応じ保険者が無料でレセプト開示をすれば済む問題である。

 また、規制改革会議は廃止となるものの、行政刷新会議の新たな分科会が後継となり草刈議長はそのメンバーに収まることになっている。1月12日の刷新会議では重要課題として混合診療の議論が再開されており非常に危惧を覚える。

 現実には、保険適用外の医薬品・医療機器を使用した混合診療は可能(=保険外併用療養費)となっている。それどころか既に治験未実施、つまり科学的な安全性と有効性の担保のない医薬品・医療機器の使用を認める「高度医療評価制度」まで解禁されており問題が大きい。今後は市場規模の観点から、安全性と有効性の担保のない高度ではない技術・医薬品への解禁が焦点となっていくため、非常に危険である。第一線医療の混乱、階層消費で公的医療保障が確実に崩されることになる。

 昨今、取り沙汰されるメディカル・ツーリズムや民間保険育成、混合診療解禁などは小泉「構造改革」の下、02年11月の経済財政諮問会議で計画されたものであり、新政権がこの流れを寸断するのかどうかは、今後の大きな試金石である。

 以上、この国の医療政策の転換は、社会保障国民会議による機能強化・医療費拡充路線や総選挙を前後した医療費総枠拡大の政治合意も、束の間の話で、既に水泡に帰している感が強い。

 最大与党民主党は選挙公約で、皆保険の維持発展、医療技術や医薬品の保険適用の迅速化を掲げており、これを遵守されるよう強く期待したい。

 医療再生へ向けた国民・医療者の願いとは逆に、「選択と集中」の名の下、国民的な政策合意も不在のまま、経団連・財務省主導で日本医療の特性―皆保険、フリーアクセス、自由開業制、自由裁量制、出来高が、否定されようとし始めている。

 医療再生に向け、時間はない。泡沫(うたかた)のプラス改定で踊らされている場合ではない。有名無実ではない、腰の座った超党派の医療政策の会議体を創設し、制度・医療実践・保険実務・教育などに精通する医療界の人材と叡智を広く結集して、方策と財源を練るべきである。

2010年2月4日