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2008/2/22 医療運動部会長談話「無理解な外来管理加算『5分ルール』報道の是正を求める」

 無理解な外来管理加算「5分ルール」

報道の是正を求める

 

神奈川県保険医協会

医療運動部会長  池川 明


 今次診療報酬改定は厚労省主導の「外来管理加算」の算定要件の見直しが図られ、再診料の実質引き下げで決着した。2月13日の答申前後、「問診5分未満は無料」、「『3分診療』報酬加算せず」、「5分ルール抜け道」と、現場に無用な混乱を生じさせ、患者に疑念を抱かせる報道が矢継ぎ早になされている。また診療所の再診料引き下げによる病院への財源移転がなかったばかりに、勤務医の待遇改善、医師不足解消がなされない、といわんばかりの報道も相次いでいる。これらの情報源は厚労省であり、この一連の情報操作に断固抗議するとともに、情報の吟味、検討作業を報道各社に強く求める。

 

 焦点とされた再診料の病診格差は、そもそも厚労省の敷いた政策である。90年代から機能分担と称し、病院は入院、診療所は外来と点数を重点配分し、病院の外来機能を分離するため診療報酬で点数誘導を図ってきた結果である。しかし実際は、病院機能再編の企図とは別次元で、患者の病院志向により400床以上の大病院ほど外来患者が集中するという、想定外の事態にある。これは失策である。

 また、「勤務医の再診料」と不理解・不勉強な報道が繰り返されたが、病床数で6割強を占める200床以上の病院では「再診料」は算定できない。算定するのは、診察などと簡単な検査・処置を包括した「外来診療料」であり、この報道もなければ、これが中医協で検討俎上にもなかったため点数は1点も上がっていない。

 法定労働時間40時間をはるかに越える、56時間の過酷な勤務は「300?399床」病院の勤務医に集中(「日本病院会調査」)しており、一連の報道は厚労省の記者レクの垂れ流しであり、事実の検証も、バランスも欠いている。再診料に特化させた勤務医の待遇改善の論旨には、相当に無理がある。

 要は、厚労省の仕組んだ、財源移転のための開業医と勤務医の対立構造の演出・分断にはまっただけである。

 

 診療報酬は病院、診療所の医療機関単位に支払われる診療費であり、イコール個々の医師の「収入」でも「所得」でもない。と同時にそれは、患者の受ける治療内容、質・安全を規定するものであることを冷静にみるべきである。食の安全にみるまでもなく、安全・安心・納得の医療はお金がかかる。

 また診療報酬は、技術・労働・施設維持管理・モノの適正評価ならびに合理的計算の下に点数配点がされているわけではない。81年に物価スライド制を廃止して以来、その歪みはなおさらである。矛盾・不合理が多く、いわば「勘と度胸」での点数配点となっている。この下で現場実態と齟齬がないよう調整弁の点数を多々、設定してきたのである。

 その代表格が問題の「外来管理加算」である。これは内科系の調整点数であり、当初は「内科再診料」とよばれ内科系無形技術を分割評価するために考案された点数である。処置・検査など有形技術の治療の際にこの点数を算定不可とし、外科系との費用バランスをとるように設定されたものである。

 つまり、実質的には「加算」ではなく再診料の構成要素なのである。決して問診の評価点数ではない。再診料は、診察・診断、外来看護費用や職員の人件費、光熱水費、施設維持管理費用を含んだ総包括の料金である。しかも、再診時に別疾病が見つかり、初めて診察・診断しても初診料算定とはならず再診料710円のみであり、不合理な点数の最右翼でもある。疾病の発見・確定診断には時間のかかるものがある。医療現場の常識が、適切に評価はされていないのである。

 診療所の再診料引き下げの代替として外来管理加算の算定要件見直しとされたが、この外来管理加算は、診療所、病院ともに共通の点数であり、要件見直しは双方に降りかかる話である。すなわち病院も弊害を被るが、この指摘もほとんどなされていない。

 見直し内容は、診察5分の目安と実質的なSOAPカルテ導入である。非科学的調査を根拠にした「5分」についての「要件化」は回避されたものの、標榜時間数から算出した患者数を上限に医療機関を「指導」で牽制すると厚労省は表明。「何もしない加算」と揶揄し、この是正をすると官僚が発言している。3月8日の課長通知にどう反映されるかが焦眉だが、ここには大きな問題をはらむ。

 

 日本の医療現場は、保険証1枚で「いつでも、だれでも、どこでも」の医療を、先進国22位の低医療費で支えている。つまり、安い費用で多くの患者を忙しく診て、かつ経営基盤を安定させることを強いられている。ゆえに医師の裁量で、治療方針と危険予見性のもと、効率的な時間で治療を行い、医療をなり立たせてきている。標榜時間を超えての診療も日常である。

 今回の見直しは、時間量という指標を、診療の報酬評価の基礎的要素に入れることを企図している。つまり、診療の1単位を5分とし、それ以下は医療を評価しないということだ。

 しかし、医療の評価は治癒、軽快、維持・管理のための「医療内容」でなされるべきである。それは時間量と必ずしも相関しない。早い時間で的確に診られる力量を思い浮べればわかる。ゆえに基礎的評価指標にはならない。患者満足の観点で、あえて時間量を評価するなら単位時間における「時間加算」とすべきである。

 この機械的な時間指標の要件化は、現場にさまざまな混乱と陰をもたらすことは必至である。

 経済的保障のないSOAPカルテ導入も、文書作成を煩瑣にさせるだけである。

 今回、外来管理加算の見直しは、再診料引き下げ以上の効果があると厚労省は発言しているが、財源捻出以上に、1医療機関あたりの患者数の抑制、外来受診回数の削減が企図にある。2002年の『医療制度改革の課題と視点』で日本の外来受診回数が多いと諸外国比較で触れ、以後、財務省も毎年、この件を問題にしてきた。時間量の評価指標導入は2002年から検討されてきたものである。

 

 今次改定は、患者負担の高さを理由に「生活重視」の名による生活習慣病管理料の大幅引き下げ(最大▲27%、▲2,850円)や、「患者にわかりやすく」を理由にした外来管理加算の見直しなど、3割負担導入や不合理な点数表に対する責任を頬被りした、笑止千万、常識はずれの改定内容が多い。診療ガイドラインや歯科での治癒概念の変更など、新たな企図も盛り込まれた。「集中と選択」の名の下、フリーアクセス、プロフェッショナルフリーダム、出来高、皆保険、自由開業医制と日本医療の特性を否定する改定へと踏み込んできている。医療崩壊はリストラや診療侵害では解決しない。

 

 医師不足、過酷な勤務医の労働環境の根源は、97年の医学部定員削減の閣議決定と80年代から続く世界一の極端な低医療費政策にあり、横浜市大の患者取り違え事件を機に過熱した医療事故報道、そして臨床研修の必修義務化により、顕在化したものである。つまり、厚労省の失政が招いた必然の事態である。

 しかも、この間に中小病院淘汰の施策が敷かれ、地域から病院が消え、大病院に患者が集中。低医療費政策により、不採算医療の産科・小児科が第一線医療からの撤退を全国的に余儀なくされ、横浜市でも産科の地域空白区が2区出現。この事態に産科・小児科の病院への「集約化」が礼賛され、勤務医の過酷勤務は解消されるべくもない。いわば、無間地獄のような状況に陥っている。更には早くも初・再診料を巡り、包括制の「外来基本料」の次回導入が中医協で示唆されており危険である。

 報道の社会に与える影響は大きい。第一線に漂う徒労感、疲弊感、厭世観が露骨な医療崩壊で顕在化した時点ではもはや遅い。事実や歴史的経緯、そして現場の実態を踏まえた報道を強く望む。情報提供にはいつでも応じる。医療崩壊を前に、角を矯めて牛を殺す愚をおかすべきではない。

2008年2月22日

 

 無理解な外来管理加算「5分ルール」

報道の是正を求める

 

神奈川県保険医協会

医療運動部会長  池川 明


 今次診療報酬改定は厚労省主導の「外来管理加算」の算定要件の見直しが図られ、再診料の実質引き下げで決着した。2月13日の答申前後、「問診5分未満は無料」、「『3分診療』報酬加算せず」、「5分ルール抜け道」と、現場に無用な混乱を生じさせ、患者に疑念を抱かせる報道が矢継ぎ早になされている。また診療所の再診料引き下げによる病院への財源移転がなかったばかりに、勤務医の待遇改善、医師不足解消がなされない、といわんばかりの報道も相次いでいる。これらの情報源は厚労省であり、この一連の情報操作に断固抗議するとともに、情報の吟味、検討作業を報道各社に強く求める。

 

 焦点とされた再診料の病診格差は、そもそも厚労省の敷いた政策である。90年代から機能分担と称し、病院は入院、診療所は外来と点数を重点配分し、病院の外来機能を分離するため診療報酬で点数誘導を図ってきた結果である。しかし実際は、病院機能再編の企図とは別次元で、患者の病院志向により400床以上の大病院ほど外来患者が集中するという、想定外の事態にある。これは失策である。

 また、「勤務医の再診料」と不理解・不勉強な報道が繰り返されたが、病床数で6割強を占める200床以上の病院では「再診料」は算定できない。算定するのは、診察などと簡単な検査・処置を包括した「外来診療料」であり、この報道もなければ、これが中医協で検討俎上にもなかったため点数は1点も上がっていない。

 法定労働時間40時間をはるかに越える、56時間の過酷な勤務は「300?399床」病院の勤務医に集中(「日本病院会調査」)しており、一連の報道は厚労省の記者レクの垂れ流しであり、事実の検証も、バランスも欠いている。再診料に特化させた勤務医の待遇改善の論旨には、相当に無理がある。

 要は、厚労省の仕組んだ、財源移転のための開業医と勤務医の対立構造の演出・分断にはまっただけである。

 

 診療報酬は病院、診療所の医療機関単位に支払われる診療費であり、イコール個々の医師の「収入」でも「所得」でもない。と同時にそれは、患者の受ける治療内容、質・安全を規定するものであることを冷静にみるべきである。食の安全にみるまでもなく、安全・安心・納得の医療はお金がかかる。

 また診療報酬は、技術・労働・施設維持管理・モノの適正評価ならびに合理的計算の下に点数配点がされているわけではない。81年に物価スライド制を廃止して以来、その歪みはなおさらである。矛盾・不合理が多く、いわば「勘と度胸」での点数配点となっている。この下で現場実態と齟齬がないよう調整弁の点数を多々、設定してきたのである。

 その代表格が問題の「外来管理加算」である。これは内科系の調整点数であり、当初は「内科再診料」とよばれ内科系無形技術を分割評価するために考案された点数である。処置・検査など有形技術の治療の際にこの点数を算定不可とし、外科系との費用バランスをとるように設定されたものである。

 つまり、実質的には「加算」ではなく再診料の構成要素なのである。決して問診の評価点数ではない。再診料は、診察・診断、外来看護費用や職員の人件費、光熱水費、施設維持管理費用を含んだ総包括の料金である。しかも、再診時に別疾病が見つかり、初めて診察・診断しても初診料算定とはならず再診料710円のみであり、不合理な点数の最右翼でもある。疾病の発見・確定診断には時間のかかるものがある。医療現場の常識が、適切に評価はされていないのである。

 診療所の再診料引き下げの代替として外来管理加算の算定要件見直しとされたが、この外来管理加算は、診療所、病院ともに共通の点数であり、要件見直しは双方に降りかかる話である。すなわち病院も弊害を被るが、この指摘もほとんどなされていない。

 見直し内容は、診察5分の目安と実質的なSOAPカルテ導入である。非科学的調査を根拠にした「5分」についての「要件化」は回避されたものの、標榜時間数から算出した患者数を上限に医療機関を「指導」で牽制すると厚労省は表明。「何もしない加算」と揶揄し、この是正をすると官僚が発言している。3月8日の課長通知にどう反映されるかが焦眉だが、ここには大きな問題をはらむ。

 

 日本の医療現場は、保険証1枚で「いつでも、だれでも、どこでも」の医療を、先進国22位の低医療費で支えている。つまり、安い費用で多くの患者を忙しく診て、かつ経営基盤を安定させることを強いられている。ゆえに医師の裁量で、治療方針と危険予見性のもと、効率的な時間で治療を行い、医療をなり立たせてきている。標榜時間を超えての診療も日常である。

 今回の見直しは、時間量という指標を、診療の報酬評価の基礎的要素に入れることを企図している。つまり、診療の1単位を5分とし、それ以下は医療を評価しないということだ。

 しかし、医療の評価は治癒、軽快、維持・管理のための「医療内容」でなされるべきである。それは時間量と必ずしも相関しない。早い時間で的確に診られる力量を思い浮べればわかる。ゆえに基礎的評価指標にはならない。患者満足の観点で、あえて時間量を評価するなら単位時間における「時間加算」とすべきである。

 この機械的な時間指標の要件化は、現場にさまざまな混乱と陰をもたらすことは必至である。

 経済的保障のないSOAPカルテ導入も、文書作成を煩瑣にさせるだけである。

 今回、外来管理加算の見直しは、再診料引き下げ以上の効果があると厚労省は発言しているが、財源捻出以上に、1医療機関あたりの患者数の抑制、外来受診回数の削減が企図にある。2002年の『医療制度改革の課題と視点』で日本の外来受診回数が多いと諸外国比較で触れ、以後、財務省も毎年、この件を問題にしてきた。時間量の評価指標導入は2002年から検討されてきたものである。

 

 今次改定は、患者負担の高さを理由に「生活重視」の名による生活習慣病管理料の大幅引き下げ(最大▲27%、▲2,850円)や、「患者にわかりやすく」を理由にした外来管理加算の見直しなど、3割負担導入や不合理な点数表に対する責任を頬被りした、笑止千万、常識はずれの改定内容が多い。診療ガイドラインや歯科での治癒概念の変更など、新たな企図も盛り込まれた。「集中と選択」の名の下、フリーアクセス、プロフェッショナルフリーダム、出来高、皆保険、自由開業医制と日本医療の特性を否定する改定へと踏み込んできている。医療崩壊はリストラや診療侵害では解決しない。

 

 医師不足、過酷な勤務医の労働環境の根源は、97年の医学部定員削減の閣議決定と80年代から続く世界一の極端な低医療費政策にあり、横浜市大の患者取り違え事件を機に過熱した医療事故報道、そして臨床研修の必修義務化により、顕在化したものである。つまり、厚労省の失政が招いた必然の事態である。

 しかも、この間に中小病院淘汰の施策が敷かれ、地域から病院が消え、大病院に患者が集中。低医療費政策により、不採算医療の産科・小児科が第一線医療からの撤退を全国的に余儀なくされ、横浜市でも産科の地域空白区が2区出現。この事態に産科・小児科の病院への「集約化」が礼賛され、勤務医の過酷勤務は解消されるべくもない。いわば、無間地獄のような状況に陥っている。更には早くも初・再診料を巡り、包括制の「外来基本料」の次回導入が中医協で示唆されており危険である。

 報道の社会に与える影響は大きい。第一線に漂う徒労感、疲弊感、厭世観が露骨な医療崩壊で顕在化した時点ではもはや遅い。事実や歴史的経緯、そして現場の実態を踏まえた報道を強く望む。情報提供にはいつでも応じる。医療崩壊を前に、角を矯めて牛を殺す愚をおかすべきではない。

2008年2月22日