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2010/1/20 政策部長談話「不可解な再診料引き下げ論議 基本診療料の引き上げがプラス改定の道理」

不可解な再診料引き下げ論議

基本診療料の引き上げがプラス改定の道理

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 次期診療報酬改定に向け、一部メディアを通じ「診療所の再診料引き下げ」の既成事実化を企図したような報道が、政務官、学者、財務官僚と、インタビューの形で再三流されている。これに疑問を呈し、病院・診療所ともに初・再診料など「基本診療料」の引き上げがプラス改定の下、道理であることを説き、広く理解を求めるものである。

 改定財源700億円(改定率0.19%)の内訳は診療報酬(本体)5,700億円、薬価・材料▲5,000億円であり、医科の診療報酬本体は入院4,800億円、外来400億円と決められている。従来と異なり入院と外来がともにプラスと明示的に確定した点が特徴である。前回は本体のプラス財源1,000億円すべてを入院にあて、更に400億円を捻出するため外来をマイナス改定とし入院に振り向けたが、今回は外来と入院を区分けし明示したことで、外来と入院の間の財源移転が禁じられたのである。

 入院は4,800億円のうち4,400億円が急性期入院にあて、残り400億円でそれ以外の改定を行うことになっており、既に重点配分がなされている。

 問題の外来だが、再診料はそもそも「統一の方向をめざす」と中医協会長が昨年12月22日に引き取っているが、点数・水準・方法は何も中医協で合意点はない。現在、意見募集中の改定骨子案でもそのことは明確である。統一するなら、病院60点を診療所71点の水準に引き上げるのが筋である。

 なぜならば、病院の再診料を71点にする必要財源は220億円であり、外来の改定財源400億円で十分に賄えるからである。これを66点で統一した場合、病院+120億円、診療所▲500億円で、新たに380億円の財源が浮くことになる。つまり、計780億円が外来改定の財源となる。

 しかし、「浮いた財源は病院に回すべき」と財務官僚は強調するが、公表された改定骨子案では病院外来に関する項目は殆ど示されていない。多くの大学病院や公立病院が再診時に算定する「外来診療料」70点は項目もなければ議論すらされていない。項目があるのは外来の化学療法(現在60億円規模)など財政影響が大きくないものがあるに過ぎない。では、どこに回すのだろう。

 診療所外来に目を転じてみても、プラス評価項目は殆どない。懸案の外来管理加算はどうか。前回改定で財政影響を見誤った外来管理加算「5分ルール」の廃止は合意しているものの、算定制限をつけることに支払側は拘泥しており、外来管理加算そのものの廃止の主張すらある。厚労省は影響額800億円の完全復元や、当初見込みの240億円の復元ですら考慮にいれているようには到底思えない。

 外来で浮いた財源は外来で使われるので、非常に不可解である。

 それどころか、時間外や病診連携、地域医療貢献をしている診療所のみ、再診料と外来管理加算の合計点数を現行水準維持とする、診療報酬に不理解な主張も厚労省からではじめた。現在は、これらの診療所は、再診料への夜間・休日・時間外加算(65点・190点・420点)や診療情報提供料(250点)で、別途評価している。また夜間休日の診療体制は各地区医師会を中心に休日急患診療所などで多くの開業医が輪番で対応しており、その数は全国で在宅当番医制654地区、休日夜間救急センター511地区あり、診療報酬上も時間外特例加算180点と経済評価されている。これが実際の姿である。

 厚労省からの新たな主張は、かつて検討された「外来基本料」構想を髣髴(ほうふつ)させる。再診料と外来管理加算を再編・一本化した「外来基本料」を設定し、連携や時間外の実施を要件化し、満たない場合に「減算」、在宅医療や紹介率に応じて「加算」というスタイルに改編するもので、これが下地にあることが透けている。厚労省の医療課長も「見かけ上引き下げることもあり得る」と意味深長な発言をしている。

 昨年5月の財務省の予算「建議」では医師の定数制の導入や民間保険育成の導入まで盛り込まれた。90年代からの病院病床の選別淘汰が終わり、診療所の選別淘汰・機能別再編に向け、4疾病5事業の展開とともに動き出しており、符合している。前回同様、改定率と結果的に異なる乖離幅の大きい医療費の削減を、今回は診療所の再診料引き下げで行い、財務省が当初案の▲3%改定という「実」をとろうとしているかに思える。

 全国の診療所は既に減少傾向にあり、08年には実数で対前年▲80施設と初めて減少した。第一線医療はいまや、内視鏡、白内障手術など、設備や力量を備えた専門医が数多く開業している。よって連携も、病院への患者紹介や検査依頼ではなく、診療所間の連携で完結している例が数少なくない。

 また、線維筋痛症など難治性疾患は病院で診断はついても、疾病の維持・管理は第一線で行っており、脳卒中もいまや早期に第一線に戻されてくる。糖尿病のインスリン導入も、教育入院で2週間も病院に入院できるほど患者の時間的・経済的余裕がなく外来で導入しているし、便潜血の精密検査も開業医に依頼するほうが実際的になっている。更には、在宅では人工呼吸器を使用する患者の管理、高カロリー輸液の持続点滴、血液透析すら行っている。当然ながら、これらは第一線医療の高度化、充実を物語っており、事実、日本の外来患者の7割は診療所が診ているのである。

 これを根底で保障しているのが、初診料・再診料であり、外来患者の8割を占める再診患者の再診料がとりわけ重要な点数となっているのである。

 

 初診料・再診料は基本診療料と分類されており、(1)診察のみならず、(2)基礎的診療行為、(3)外来看護師などの人件費、(4)光熱費、施設維持管理費、カルテ等の備品費などの物件費を含んだ診療体制へのトータル評価の報酬である。これは診療の都度、一律的に算定する医療機関の医療提供への「土台」となる経済評価である。このことは診療報酬の仕組み上、明確になっており、厚労省も中医協資料できちんと示している。

 しかも、実際は非常に低廉で、再診時に別疾病の初診料算定が出来ないなど不合理や矛盾が多く、点数引き上げと改善が強く求められているものである。

 診察・診断・治療方針の確立、併発疾病の発見、治療方針の変更など、医師の技術・技量・労働の評価の最たるものが初診料・再診料である。狭心症の診断など、問診力がものをいう世界である。正診に至れば、いたずらに検査をせずに済む。決して初・再診料は軽んじられるべきものではない。

 診療所はマイナス改定の下、これまで初診料、再診料を下げられてきた。プラス改定に転換した今回は、引き上げられるのが道理である。これが引き下げでは医療者の心は確実に折れる。

 希望のもてる改定を、関係諸氏に強く訴えたい。

2010年1月20

 

不可解な再診料引き下げ論議

基本診療料の引き上げがプラス改定の道理

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 次期診療報酬改定に向け、一部メディアを通じ「診療所の再診料引き下げ」の既成事実化を企図したような報道が、政務官、学者、財務官僚と、インタビューの形で再三流されている。これに疑問を呈し、病院・診療所ともに初・再診料など「基本診療料」の引き上げがプラス改定の下、道理であることを説き、広く理解を求めるものである。

 改定財源700億円(改定率0.19%)の内訳は診療報酬(本体)5,700億円、薬価・材料▲5,000億円であり、医科の診療報酬本体は入院4,800億円、外来400億円と決められている。従来と異なり入院と外来がともにプラスと明示的に確定した点が特徴である。前回は本体のプラス財源1,000億円すべてを入院にあて、更に400億円を捻出するため外来をマイナス改定とし入院に振り向けたが、今回は外来と入院を区分けし明示したことで、外来と入院の間の財源移転が禁じられたのである。

 入院は4,800億円のうち4,400億円が急性期入院にあて、残り400億円でそれ以外の改定を行うことになっており、既に重点配分がなされている。

 問題の外来だが、再診料はそもそも「統一の方向をめざす」と中医協会長が昨年12月22日に引き取っているが、点数・水準・方法は何も中医協で合意点はない。現在、意見募集中の改定骨子案でもそのことは明確である。統一するなら、病院60点を診療所71点の水準に引き上げるのが筋である。

 なぜならば、病院の再診料を71点にする必要財源は220億円であり、外来の改定財源400億円で十分に賄えるからである。これを66点で統一した場合、病院+120億円、診療所▲500億円で、新たに380億円の財源が浮くことになる。つまり、計780億円が外来改定の財源となる。

 しかし、「浮いた財源は病院に回すべき」と財務官僚は強調するが、公表された改定骨子案では病院外来に関する項目は殆ど示されていない。多くの大学病院や公立病院が再診時に算定する「外来診療料」70点は項目もなければ議論すらされていない。項目があるのは外来の化学療法(現在60億円規模)など財政影響が大きくないものがあるに過ぎない。では、どこに回すのだろう。

 診療所外来に目を転じてみても、プラス評価項目は殆どない。懸案の外来管理加算はどうか。前回改定で財政影響を見誤った外来管理加算「5分ルール」の廃止は合意しているものの、算定制限をつけることに支払側は拘泥しており、外来管理加算そのものの廃止の主張すらある。厚労省は影響額800億円の完全復元や、当初見込みの240億円の復元ですら考慮にいれているようには到底思えない。

 外来で浮いた財源は外来で使われるので、非常に不可解である。

 それどころか、時間外や病診連携、地域医療貢献をしている診療所のみ、再診料と外来管理加算の合計点数を現行水準維持とする、診療報酬に不理解な主張も厚労省からではじめた。現在は、これらの診療所は、再診料への夜間・休日・時間外加算(65点・190点・420点)や診療情報提供料(250点)で、別途評価している。また夜間休日の診療体制は各地区医師会を中心に休日急患診療所などで多くの開業医が輪番で対応しており、その数は全国で在宅当番医制654地区、休日夜間救急センター511地区あり、診療報酬上も時間外特例加算180点と経済評価されている。これが実際の姿である。

 厚労省からの新たな主張は、かつて検討された「外来基本料」構想を髣髴(ほうふつ)させる。再診料と外来管理加算を再編・一本化した「外来基本料」を設定し、連携や時間外の実施を要件化し、満たない場合に「減算」、在宅医療や紹介率に応じて「加算」というスタイルに改編するもので、これが下地にあることが透けている。厚労省の医療課長も「見かけ上引き下げることもあり得る」と意味深長な発言をしている。

 昨年5月の財務省の予算「建議」では医師の定数制の導入や民間保険育成の導入まで盛り込まれた。90年代からの病院病床の選別淘汰が終わり、診療所の選別淘汰・機能別再編に向け、4疾病5事業の展開とともに動き出しており、符合している。前回同様、改定率と結果的に異なる乖離幅の大きい医療費の削減を、今回は診療所の再診料引き下げで行い、財務省が当初案の▲3%改定という「実」をとろうとしているかに思える。

 全国の診療所は既に減少傾向にあり、08年には実数で対前年▲80施設と初めて減少した。第一線医療はいまや、内視鏡、白内障手術など、設備や力量を備えた専門医が数多く開業している。よって連携も、病院への患者紹介や検査依頼ではなく、診療所間の連携で完結している例が数少なくない。

 また、線維筋痛症など難治性疾患は病院で診断はついても、疾病の維持・管理は第一線で行っており、脳卒中もいまや早期に第一線に戻されてくる。糖尿病のインスリン導入も、教育入院で2週間も病院に入院できるほど患者の時間的・経済的余裕がなく外来で導入しているし、便潜血の精密検査も開業医に依頼するほうが実際的になっている。更には、在宅では人工呼吸器を使用する患者の管理、高カロリー輸液の持続点滴、血液透析すら行っている。当然ながら、これらは第一線医療の高度化、充実を物語っており、事実、日本の外来患者の7割は診療所が診ているのである。

 これを根底で保障しているのが、初診料・再診料であり、外来患者の8割を占める再診患者の再診料がとりわけ重要な点数となっているのである。

 

 初診料・再診料は基本診療料と分類されており、(1)診察のみならず、(2)基礎的診療行為、(3)外来看護師などの人件費、(4)光熱費、施設維持管理費、カルテ等の備品費などの物件費を含んだ診療体制へのトータル評価の報酬である。これは診療の都度、一律的に算定する医療機関の医療提供への「土台」となる経済評価である。このことは診療報酬の仕組み上、明確になっており、厚労省も中医協資料できちんと示している。

 しかも、実際は非常に低廉で、再診時に別疾病の初診料算定が出来ないなど不合理や矛盾が多く、点数引き上げと改善が強く求められているものである。

 診察・診断・治療方針の確立、併発疾病の発見、治療方針の変更など、医師の技術・技量・労働の評価の最たるものが初診料・再診料である。狭心症の診断など、問診力がものをいう世界である。正診に至れば、いたずらに検査をせずに済む。決して初・再診料は軽んじられるべきものではない。

 診療所はマイナス改定の下、これまで初診料、再診料を下げられてきた。プラス改定に転換した今回は、引き上げられるのが道理である。これが引き下げでは医療者の心は確実に折れる。

 希望のもてる改定を、関係諸氏に強く訴えたい。

2010年1月20