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2009/11/6 医療運動部会長談話「健保法の否定 混合診療の脱法手法を認めた最高裁判決に異を唱える」

健保法の否定 混合診療の脱法手法を認めた最高裁判決に異を唱える

神奈川県保険医協会

医療運動部会長 野本 哲夫


 9月29日、混合診療に関し、東京高裁と最高裁で2つの判決がだされた。案件はどちらも、医療保険の適用外のLAK療法(活性化自己リンパ球移入療法)という治療と、保険診療との併用(=混合診療)、について問題とされたものである。奇しくも両方とも同一の保険医療機関で実施した同一内容の混合診療である。

 東京高裁の裁判は、(1)混合診療状態にあっても「療養の給付」を受ける権利を有するとする、患者がおこした国が相手の確認訴訟-で、判決は原告の逆転敗訴で、「混合診療禁止」の健保法解釈に妥当性を与え国の勝訴とした。当会は、この判決を高く評価している。

 一方、別件の最高裁の裁判は、(2)実施された治療が混合診療にあたるとの説明がなかったとして、その無効性を訴え損害賠償を保険医療機関の開設者である神奈川県と医師に遺族が求めた訴訟である。最高裁の判決は、原告の上告を棄却、原告の敗訴が確定。よって「保険診療契約とLAK療法契約は一体の契約として締結されていない」「混合診療を理由に診療契約が無効にならない」などとしたそれまでの一審、二審判決は覆らず、契約関係が健康保険法に優先するという倒錯した解釈が確定することとなった。われわれは、一般法に特別法が優先するとの法の原則さえも無視した、この最高裁判決に異を唱えるものである。

 

 混合診療に関する、現実の制度理解を欠いた議論や幻想論が、依然と絶えない。しかし、04年の混合診療の解禁騒動を経て、現状は「保険外併用療養費」が制度化され、保険適用外の(1)先進医療、(2)未承認薬、(3)差額ベッドや予約診療など患者選択によるもの、と保険診療の併用が可能となっている。しかも、この制度は、今後新たに生じる保険外と保険診療の併用の具体的要望へ概ね全てに応えるとして創設されたものであり、併用する保険適用外の技術・医薬品は順次、拡大されている。この保険外併用療養費は、有効性・安全性の確立ないしは担保措置が条件とされ、先進医療や未承認薬の実施医療機関は当局への届出制となっている。つまりは健保法は厚労省の監督下で、原則を定めて混合診療を認めているのである。有効性・安全性を欠いた技術・医薬品は患者要求といえ、保険料と公費が投入された保険診療と併用することは道理がないことは明らかである。

 

 今回の東京高裁の判決は、混合診療への保険給付が適用されるのは、健保法が規定する「保険外併用療養」に限られており、安全性や有効性が未確立のLAK療法は、保険外併用療養の対象となっていないとして、保険給付を退けた。あわせて、法論理的に「療養の給付」の概念や療養担当規則、診療報酬による保険給付の範囲、保険外併用療養と混合診療の関係性を、極めて論理的に解明しており、われわれは高く評価している。

 

 一方、最高裁で棄却された案件は、(1)一つの保険医療機関内の研究所部門と病院部門が、保険適用外のLAK療法の培養と、保険適用の抗がん剤治療とLAK療法に関する採血と輸注を、各々で行った、(2)LAK療法の培養に関する費用が研究所職員の口座に支払われ、保険医療機関に帰属していないことを理由に、混合診療の実態があるにもにもかかわらず適法とした、横浜地裁判決、東京高裁判決を支持し確定させたのである。つまり、同一の保険医療機関内の検査室や手術室で保険適用外の検査や手術を行って、その費用を検査技師や執刀医に支払ったという構図であり、これを適法としたということである。これは独立した医療機関Aと独立した保険医療機関Bで患者が各々、自由診療と保険診療を受けたという構図とは別物である。

 この最高裁判決を敷衍すると、保険医療機関の職員の個人口座に保険適用外の治療費を振り込む形であれば、あらゆる混合診療が野放図に可能となってしまうのである。保険証の提示により、保険診療が始まり、保険診療の世界で完結する原則が形骸化し崩壊するのである。医療提供の実態や健保法に不理解な最高裁判決は、真摯に別件の東京高裁判決に学ぶべきである。

 

 健保法は不確実な治療から患者を保護するため療養担当規則で特殊療養を禁止し、有効性や安全性が未確立な自由診療に保険給付を補填し経済的に患者を誘導する不当を排すため混合診療を禁止している。現行の保険外併用療養といえども、経済格差による治療内容の格差(階層消費)や、保険給付外しの調整弁、給付外の固定化、安全性・有効性の担保である臨床試験(治験)を前提としない未承認薬使用の容認など、問題を多く内包するが、保険給付適用につなぐ"孵化器"として、許容されているにすぎない。

 

 医療を現物で保険給付する、「療養の給付」は、公的医療保障の必要十分原則や、憲法25条の生存権保障を具体化したものである。この対極が、医療へ現金給付をし、患者が医療を購入する無原則な混合診療である。

 保険適用外の保険導入は"孵化器"を経ずとも一足飛びに導入されたものも多々ある。未承認薬のドラッグ・ラグも審査体制の拡充やメーカー側の姿勢、科学研究予算の問題解決が先決であり、人道的使用(コンパッショネート・ユース)など、きちんとした制度確立と環境整備とセットで行うべきである。

 基本は「療養の給付」の充実に向けた、行政、立法、司法関係者の理解と、患者と医療者の合意、これらの努力による前進であり、そのことを改めて強くお願いする。

2009年11月6日

 

健保法の否定 混合診療の脱法手法を認めた最高裁判決に異を唱える

神奈川県保険医協会

医療運動部会長 野本 哲夫


 9月29日、混合診療に関し、東京高裁と最高裁で2つの判決がだされた。案件はどちらも、医療保険の適用外のLAK療法(活性化自己リンパ球移入療法)という治療と、保険診療との併用(=混合診療)、について問題とされたものである。奇しくも両方とも同一の保険医療機関で実施した同一内容の混合診療である。

 東京高裁の裁判は、(1)混合診療状態にあっても「療養の給付」を受ける権利を有するとする、患者がおこした国が相手の確認訴訟-で、判決は原告の逆転敗訴で、「混合診療禁止」の健保法解釈に妥当性を与え国の勝訴とした。当会は、この判決を高く評価している。

 一方、別件の最高裁の裁判は、(2)実施された治療が混合診療にあたるとの説明がなかったとして、その無効性を訴え損害賠償を保険医療機関の開設者である神奈川県と医師に遺族が求めた訴訟である。最高裁の判決は、原告の上告を棄却、原告の敗訴が確定。よって「保険診療契約とLAK療法契約は一体の契約として締結されていない」「混合診療を理由に診療契約が無効にならない」などとしたそれまでの一審、二審判決は覆らず、契約関係が健康保険法に優先するという倒錯した解釈が確定することとなった。われわれは、一般法に特別法が優先するとの法の原則さえも無視した、この最高裁判決に異を唱えるものである。

 

 混合診療に関する、現実の制度理解を欠いた議論や幻想論が、依然と絶えない。しかし、04年の混合診療の解禁騒動を経て、現状は「保険外併用療養費」が制度化され、保険適用外の(1)先進医療、(2)未承認薬、(3)差額ベッドや予約診療など患者選択によるもの、と保険診療の併用が可能となっている。しかも、この制度は、今後新たに生じる保険外と保険診療の併用の具体的要望へ概ね全てに応えるとして創設されたものであり、併用する保険適用外の技術・医薬品は順次、拡大されている。この保険外併用療養費は、有効性・安全性の確立ないしは担保措置が条件とされ、先進医療や未承認薬の実施医療機関は当局への届出制となっている。つまりは健保法は厚労省の監督下で、原則を定めて混合診療を認めているのである。有効性・安全性を欠いた技術・医薬品は患者要求といえ、保険料と公費が投入された保険診療と併用することは道理がないことは明らかである。

 

 今回の東京高裁の判決は、混合診療への保険給付が適用されるのは、健保法が規定する「保険外併用療養」に限られており、安全性や有効性が未確立のLAK療法は、保険外併用療養の対象となっていないとして、保険給付を退けた。あわせて、法論理的に「療養の給付」の概念や療養担当規則、診療報酬による保険給付の範囲、保険外併用療養と混合診療の関係性を、極めて論理的に解明しており、われわれは高く評価している。

 

 一方、最高裁で棄却された案件は、(1)一つの保険医療機関内の研究所部門と病院部門が、保険適用外のLAK療法の培養と、保険適用の抗がん剤治療とLAK療法に関する採血と輸注を、各々で行った、(2)LAK療法の培養に関する費用が研究所職員の口座に支払われ、保険医療機関に帰属していないことを理由に、混合診療の実態があるにもにもかかわらず適法とした、横浜地裁判決、東京高裁判決を支持し確定させたのである。つまり、同一の保険医療機関内の検査室や手術室で保険適用外の検査や手術を行って、その費用を検査技師や執刀医に支払ったという構図であり、これを適法としたということである。これは独立した医療機関Aと独立した保険医療機関Bで患者が各々、自由診療と保険診療を受けたという構図とは別物である。

 この最高裁判決を敷衍すると、保険医療機関の職員の個人口座に保険適用外の治療費を振り込む形であれば、あらゆる混合診療が野放図に可能となってしまうのである。保険証の提示により、保険診療が始まり、保険診療の世界で完結する原則が形骸化し崩壊するのである。医療提供の実態や健保法に不理解な最高裁判決は、真摯に別件の東京高裁判決に学ぶべきである。

 

 健保法は不確実な治療から患者を保護するため療養担当規則で特殊療養を禁止し、有効性や安全性が未確立な自由診療に保険給付を補填し経済的に患者を誘導する不当を排すため混合診療を禁止している。現行の保険外併用療養といえども、経済格差による治療内容の格差(階層消費)や、保険給付外しの調整弁、給付外の固定化、安全性・有効性の担保である臨床試験(治験)を前提としない未承認薬使用の容認など、問題を多く内包するが、保険給付適用につなぐ"孵化器"として、許容されているにすぎない。

 

 医療を現物で保険給付する、「療養の給付」は、公的医療保障の必要十分原則や、憲法25条の生存権保障を具体化したものである。この対極が、医療へ現金給付をし、患者が医療を購入する無原則な混合診療である。

 保険適用外の保険導入は"孵化器"を経ずとも一足飛びに導入されたものも多々ある。未承認薬のドラッグ・ラグも審査体制の拡充やメーカー側の姿勢、科学研究予算の問題解決が先決であり、人道的使用(コンパッショネート・ユース)など、きちんとした制度確立と環境整備とセットで行うべきである。

 基本は「療養の給付」の充実に向けた、行政、立法、司法関係者の理解と、患者と医療者の合意、これらの努力による前進であり、そのことを改めて強くお願いする。

2009年11月6日