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医療情報問題ニュース 「医療独自の『番号制』導入か!? 厚労省、特別法制定に向け報告書を公表 協会、パブコメで問題点を指摘」

  厚生労働省は2012年9月18日、 「医療等分野における情報の利活用と保護のための環境整備のあり方に関する報告書」を公表した。これは、先の通常国会で上程された共通番号制法案で対象外とした医療等分野の個人情報の取り扱いについて、医療等情報独自の特別法の制定に向けて出されたもの。

 

 本報告書では、医療・介護の分野は情報連携や医学の発展等のため、他分野よりも情報の利活用の必要性が高いと指摘。期待できる効果として、(1)より質が高く事務的に効率のよいサービスの享受、(2)自己の医療等分野の可視化・透明化の促進、(3)エビデンスに基づく医療や医療政策等の推進―の3点をあげている。

 

 その上で、共通番号制とは異なる医療等分野の独自の番号(医療等ID)と情報連携基盤(医療等中継DB)を構築することを提案している。

 

 一方、情報保護については、医療等情報の機微性を踏まえ厳格な取扱いを確保する必要性にも言及はしているものの、検討会議で出された意見の報告に止まり、具体的な対策は示されていない。

 厚生労働省では、パブリックコメント(締切:2012年10月17日)を実施した後に更なる検討を重ね、来年の通常国会での法案提出を目指すとしている。

 

医療市場化、漏洩・不正を懸念

 本報告書は医療等情報の利活用に重点が置かれており、医療等IDと医療等中継DBによる情報連携基盤の構築が焦点とされている。また、「日本再生戦略」等の医療市場化・産業化構想との関係性にも言及。民間企業による無秩序な医療市場化を助長する恐れがある。

 特に医療等IDについては、目視可能な番号を国民一人ひとりに付番するとしており、共通番号制でも争点となっているプライバシー侵害や「なりすまし」等の犯罪など、多くの問題を引き起こす危険性が高い。

 

 協会は前述のパブリックコメントを提出し問題点を指摘。プライバシー侵害や医療市場化等に繋がる「医療等ID」、「医療等DB」の導入に反対するとともに、医療等分野の個人情報保護法の制定を優先すべきとの見解を示した(下記参照)。

 

2012年10月17日

厚生労働省政策統括官付

情報政策担当参事官室 御中

 

「医療等分野における情報の利活用と保護のための環境整備のあり方に関する報告書」に対する意見

 

氏名:神奈川県保険医協会 医療情報部  田辺 由紀夫

住所:神奈川県横浜市神奈川区鶴屋町2-23-2-2F

電話:045-313-2111 / FAX:045-313-2113


 

 「医療等分野における情報の利活用と保護のための環境整備のあり方に関する報告書」について、問題とすべき点は多岐にわたるが、主な問題点に絞って、意見を述べる。

 

問題点1.医療等情報の利活用推進 営利優先の無秩序な医療市場化を助長

 医療等情報の機微性や秘匿性等を勘案し、患者の情報保護の観点から、マイナンバー制度とは切り離し、特段の措置として医療分野の個人情報保護法を制定することは必要だと考える。

 しかし、本報告書は医療等情報を利活用の推進を優先している印象を受ける。本報告書では「日本再生戦略」や「医療イノベーション5か年戦略」等との関係性について言及しており、50兆円規模の医療市場化・産業化を実現するための基盤構築と法整備という要素が多分に含まれている。

 現在でも、レセプト点検の請負業者からのレセプトデータの流出、製薬企業によるレセプト情報の営利利用など、個人情報保護法の拡大解釈による目的外利用が問題視されている。

 こうした問題の解決を見ずに、「医療等ID(仮称)」「医療等中継DB」により医療等情報の民間企業による利活用を進めれば、調査や研究成果の企業の独占権行使や商用利用、果ては民間保険会社の参入など、その利用対象や利用範囲はなし崩しに広がり、営利優先の無秩序な医療市場化に繋がりかねない。

 

問題点2.医療等IDはプライバシー侵害、不正・悪用の温床に

 本報告書の焦点となる「医療等ID(仮称)」は、国民一人に1つ付番する目視可能な連携番号とされており、これは医療・介護分野における国民総背番号制に他ならない。医療・介護の分野は医療機関、介護事業者の他にも官民の様々な機関・業種(民間企業含む)が関係するため、いくらセキュリティや罰則を強化しても、プライバシーに重大な脅威をもたらす可能性は現状よりも数段高まる。また、番号が目視可能である以上、なりすまし等の犯罪の引き金となることは火を見るよりも明らかだ。

 

問題点3.共通番号制との境界線が曖昧 公的医療費の抑制策への懸念

 共通番号制との関係性についても疑問が残る。7月23日の合同会合で出された資料では、医療保険者の管理する情報は共通番号制、医療等個別法ともに対応が可能とされている分野とされている(資料4「医療等分野の情報連携のための基盤のあり方について(イメージ)」より)。また、本報告書では共通番号制の情報連携基盤の一部共有が検討事項とされており、公的医療保険の給付情報(レセプト含む)・保険料等の情報については、境界線が曖昧になっている。

 これまで当会は共通番号制法案に対して、共通番号を前提とした「総合合算制度(仮称)」が「社会保障個人会計」に変容する危険性を指摘し続けてきた。国や行政、保険者等による医療等情報の過剰な一元管理は、公的医療費や医療給付をコントロールし、公的医療給付の制限や医療機関へのアクセス制限など、恣意的な過度の公的医療費の抑制に繋がる懸念がある。

 

問題点4.一般診療所のITICT対応の実態を無視 保険医への過重な負担強要を懸念

 本報告書では、「地域における医療・介護の連携にICTが活用されることが一般化してきた」と記述しているが(本報告書P.4)、医療の最前線である一般診療所でIT・ICTを活用した情報連携の実践は、政府の補助を受けたモデルケースを除けば、極めて少ないのが実態だ。

 そもそも、一般診療所のIT・ICT化が進んでいるとする厚生労働省の評価には疑問がある。社会保険診療報酬支払基金の報告によると、2012年7月時点での電子レセプト請求の普及状況(医療機関数)は、医科診療所で82.8%、歯科では41.5%となっているが、オンラインによる請求を見ると医科診療所が44.9%、歯科では僅か6.7%となっている。レセプト請求の実態だけで判断することは出来ないが、少なくとも一般診療所や歯科医療機関での医療等情報の伝達手段としてIT・ICT化が一般化していないことは分かるだろう。こうした実態の背景には、単に費用面や技術面で対応が困難というだけでなく、情報漏洩等のリスク、患者情報保護の観点からオンライン接続を避けている面も見受けられる。

 2009年に全国の保険医約2,200名が国を相手に起こした「レセプトオンライン請求義務化撤回訴訟」では、IT化に対応できない医療機関の廃業危機の他にも、情報漏洩等のリスクや患者のプライバシー権侵害等も争点として闘い、結果として省令改正によりオンライン義務化を撤回させた。「医療等ID(仮称)」、「医療等中継DB(仮称)」によるオンライン化の強要は、開業保険医にインターネット回線の敷設や維持に関わる費用負担だけでなく、高度な情報漏洩対策、仮に漏洩等が生じた際の補償など、過重な負担の強要に繋がる恐れがある。

 

当会の意見

 経済危機や雇用・生活破壊、格差社会が深刻な社会問題となっている昨今、いつでも誰もが平等に医療を受けられるセーフティネットとして、生存権保障の「憲法25条」の理念に立脚した国民皆保険制度を堅持し拡充させることは、国民誰もが望むものである。

 当会としては、今後制定される医療等情報個別法は患者の医療等分野の個人情報保護法と位置付け、まずは患者の医療・健康情報をいかに守るか、また現在の医療等情報の問題点を整理・改善するための厳格な規定とすべきものと考える。特に、プライバシー侵害や過度の医療費抑制、無秩序無制限な医療市場化に繋がる恐れのある「医療等ID(仮称)」、「医療等中継DB」の導入には断固反対する。

 また、本報告書に示された医療等情報の利活用については、現在の医療等情報の利活用の範囲を超えた、あくまで“未来像”である。よって、医療等に係る個人情報保護法(仮称)が制定・運用された後に「推進法」など別の枠組みとして検討すべきものと考える。

 その際、患者・国民の理解と賛同が得られ、全医療機関数の9割を占める医療の最前線である開業医のIT対応の実態やIT連携の有用性を勘案し、確実に実現可能な範囲から検討していくべきものと考える。

以 上

 

 

 

  厚生労働省は2012年9月18日、 「医療等分野における情報の利活用と保護のための環境整備のあり方に関する報告書」を公表した。これは、先の通常国会で上程された共通番号制法案で対象外とした医療等分野の個人情報の取り扱いについて、医療等情報独自の特別法の制定に向けて出されたもの。

 

 本報告書では、医療・介護の分野は情報連携や医学の発展等のため、他分野よりも情報の利活用の必要性が高いと指摘。期待できる効果として、(1)より質が高く事務的に効率のよいサービスの享受、(2)自己の医療等分野の可視化・透明化の促進、(3)エビデンスに基づく医療や医療政策等の推進―の3点をあげている。

 

 その上で、共通番号制とは異なる医療等分野の独自の番号(医療等ID)と情報連携基盤(医療等中継DB)を構築することを提案している。

 

 一方、情報保護については、医療等情報の機微性を踏まえ厳格な取扱いを確保する必要性にも言及はしているものの、検討会議で出された意見の報告に止まり、具体的な対策は示されていない。

 厚生労働省では、パブリックコメント(締切:2012年10月17日)を実施した後に更なる検討を重ね、来年の通常国会での法案提出を目指すとしている。

 

医療市場化、漏洩・不正を懸念

 本報告書は医療等情報の利活用に重点が置かれており、医療等IDと医療等中継DBによる情報連携基盤の構築が焦点とされている。また、「日本再生戦略」等の医療市場化・産業化構想との関係性にも言及。民間企業による無秩序な医療市場化を助長する恐れがある。

 特に医療等IDについては、目視可能な番号を国民一人ひとりに付番するとしており、共通番号制でも争点となっているプライバシー侵害や「なりすまし」等の犯罪など、多くの問題を引き起こす危険性が高い。

 

 協会は前述のパブリックコメントを提出し問題点を指摘。プライバシー侵害や医療市場化等に繋がる「医療等ID」、「医療等DB」の導入に反対するとともに、医療等分野の個人情報保護法の制定を優先すべきとの見解を示した(下記参照)。

 

2012年10月17日

厚生労働省政策統括官付

情報政策担当参事官室 御中

 

「医療等分野における情報の利活用と保護のための環境整備のあり方に関する報告書」に対する意見

 

氏名:神奈川県保険医協会 医療情報部  田辺 由紀夫

住所:神奈川県横浜市神奈川区鶴屋町2-23-2-2F

電話:045-313-2111 / FAX:045-313-2113


 

 「医療等分野における情報の利活用と保護のための環境整備のあり方に関する報告書」について、問題とすべき点は多岐にわたるが、主な問題点に絞って、意見を述べる。

 

問題点1.医療等情報の利活用推進 営利優先の無秩序な医療市場化を助長

 医療等情報の機微性や秘匿性等を勘案し、患者の情報保護の観点から、マイナンバー制度とは切り離し、特段の措置として医療分野の個人情報保護法を制定することは必要だと考える。

 しかし、本報告書は医療等情報を利活用の推進を優先している印象を受ける。本報告書では「日本再生戦略」や「医療イノベーション5か年戦略」等との関係性について言及しており、50兆円規模の医療市場化・産業化を実現するための基盤構築と法整備という要素が多分に含まれている。

 現在でも、レセプト点検の請負業者からのレセプトデータの流出、製薬企業によるレセプト情報の営利利用など、個人情報保護法の拡大解釈による目的外利用が問題視されている。

 こうした問題の解決を見ずに、「医療等ID(仮称)」「医療等中継DB」により医療等情報の民間企業による利活用を進めれば、調査や研究成果の企業の独占権行使や商用利用、果ては民間保険会社の参入など、その利用対象や利用範囲はなし崩しに広がり、営利優先の無秩序な医療市場化に繋がりかねない。

 

問題点2.医療等IDはプライバシー侵害、不正・悪用の温床に

 本報告書の焦点となる「医療等ID(仮称)」は、国民一人に1つ付番する目視可能な連携番号とされており、これは医療・介護分野における国民総背番号制に他ならない。医療・介護の分野は医療機関、介護事業者の他にも官民の様々な機関・業種(民間企業含む)が関係するため、いくらセキュリティや罰則を強化しても、プライバシーに重大な脅威をもたらす可能性は現状よりも数段高まる。また、番号が目視可能である以上、なりすまし等の犯罪の引き金となることは火を見るよりも明らかだ。

 

問題点3.共通番号制との境界線が曖昧 公的医療費の抑制策への懸念

 共通番号制との関係性についても疑問が残る。7月23日の合同会合で出された資料では、医療保険者の管理する情報は共通番号制、医療等個別法ともに対応が可能とされている分野とされている(資料4「医療等分野の情報連携のための基盤のあり方について(イメージ)」より)。また、本報告書では共通番号制の情報連携基盤の一部共有が検討事項とされており、公的医療保険の給付情報(レセプト含む)・保険料等の情報については、境界線が曖昧になっている。

 これまで当会は共通番号制法案に対して、共通番号を前提とした「総合合算制度(仮称)」が「社会保障個人会計」に変容する危険性を指摘し続けてきた。国や行政、保険者等による医療等情報の過剰な一元管理は、公的医療費や医療給付をコントロールし、公的医療給付の制限や医療機関へのアクセス制限など、恣意的な過度の公的医療費の抑制に繋がる懸念がある。

 

問題点4.一般診療所のITICT対応の実態を無視 保険医への過重な負担強要を懸念

 本報告書では、「地域における医療・介護の連携にICTが活用されることが一般化してきた」と記述しているが(本報告書P.4)、医療の最前線である一般診療所でIT・ICTを活用した情報連携の実践は、政府の補助を受けたモデルケースを除けば、極めて少ないのが実態だ。

 そもそも、一般診療所のIT・ICT化が進んでいるとする厚生労働省の評価には疑問がある。社会保険診療報酬支払基金の報告によると、2012年7月時点での電子レセプト請求の普及状況(医療機関数)は、医科診療所で82.8%、歯科では41.5%となっているが、オンラインによる請求を見ると医科診療所が44.9%、歯科では僅か6.7%となっている。レセプト請求の実態だけで判断することは出来ないが、少なくとも一般診療所や歯科医療機関での医療等情報の伝達手段としてIT・ICT化が一般化していないことは分かるだろう。こうした実態の背景には、単に費用面や技術面で対応が困難というだけでなく、情報漏洩等のリスク、患者情報保護の観点からオンライン接続を避けている面も見受けられる。

 2009年に全国の保険医約2,200名が国を相手に起こした「レセプトオンライン請求義務化撤回訴訟」では、IT化に対応できない医療機関の廃業危機の他にも、情報漏洩等のリスクや患者のプライバシー権侵害等も争点として闘い、結果として省令改正によりオンライン義務化を撤回させた。「医療等ID(仮称)」、「医療等中継DB(仮称)」によるオンライン化の強要は、開業保険医にインターネット回線の敷設や維持に関わる費用負担だけでなく、高度な情報漏洩対策、仮に漏洩等が生じた際の補償など、過重な負担の強要に繋がる恐れがある。

 

当会の意見

 経済危機や雇用・生活破壊、格差社会が深刻な社会問題となっている昨今、いつでも誰もが平等に医療を受けられるセーフティネットとして、生存権保障の「憲法25条」の理念に立脚した国民皆保険制度を堅持し拡充させることは、国民誰もが望むものである。

 当会としては、今後制定される医療等情報個別法は患者の医療等分野の個人情報保護法と位置付け、まずは患者の医療・健康情報をいかに守るか、また現在の医療等情報の問題点を整理・改善するための厳格な規定とすべきものと考える。特に、プライバシー侵害や過度の医療費抑制、無秩序無制限な医療市場化に繋がる恐れのある「医療等ID(仮称)」、「医療等中継DB」の導入には断固反対する。

 また、本報告書に示された医療等情報の利活用については、現在の医療等情報の利活用の範囲を超えた、あくまで“未来像”である。よって、医療等に係る個人情報保護法(仮称)が制定・運用された後に「推進法」など別の枠組みとして検討すべきものと考える。

 その際、患者・国民の理解と賛同が得られ、全医療機関数の9割を占める医療の最前線である開業医のIT対応の実態やIT連携の有用性を勘案し、確実に実現可能な範囲から検討していくべきものと考える。

以 上