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2011/7/15 政策部長談話「医療の産業化、皆保険の瓦解もたらすプロジェクトX 総合特区、医療観光、TPPでの自由診療市場創出に反対する」

医療の産業化、皆保険の瓦解もたらすプロジェクトX

総合特区、医療観光、TPPでの自由診療市場創出に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 6月22日、政府の新成長戦略を実現する突破口となる、総合特区法案が可決・成立した。この総合特区は新成長戦略の21の「国家プロジェクト」のひとつに位置づいており、医療分野においては海外から富裕層の患者を受け入れる「医療ツーリズム」(医療観光)及びに医療の産業化拠点の形成の肝となる制度的枠組みとなる。またTPP(環太平洋経済協定)や、それを包摂するアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想など、今後の関税撤廃と非関税障壁撤廃を睨んだ環境整備の一環でもある。

 この間の米国による薬価自由化や医薬品等の承認・審査の規制緩和、ITヘルス関連事業などの医療の市場化要求や、国内の保険外併用療養費制度の無原則化、民間の先進医療保険や自由診療保険の商品開発の跋扈を踏まえれば、一連の動きは、自由診療市場の創出、形成に拍車をかけ、患者と医療機関に混乱を招き、現物給付と皆保険制度の浸食、荒廃を確実にもたらすと考える。われわれは総合特区、医療観光、TPPをはじめ、昨夏の経産省「医療産業研究会報告書」以来の医療の産業化路線に対し憲法25条(生存権保障と国の責務)と13条(幸福追求権)を守る観点から強く反対する。

 

 総合特区とは、これまでの規制の特例措置の社会実験である自治体単位の構造改革特区や、産官学複合体への規制緩和策のスーパー特区(先端医療開発特区)と違い、複数の規制緩和とあわせ税制・財政・金融上の支援等も措置する、より複合的な地域資源集中の政策パッケージ、地域と国の包括的・戦略的な協同プロジェクトである。しかも地域と国との協働による規制の特例措置を一括で講じることを前提に、政令・省令の規制の特例を条例で独自に制定できる仕組みもある。つまり、健保法や医療法などの法規制の特例を設けることが可能となる。しかも、医療法の施行令(政令)、施行規則(省令)で規定されている医療機関の開設許可や病院の人員基準、安全管理基準などの緩和、特例化が可能となる。これは医療分野にとどまらず、経済成長を金看板とした「治外法権」区域の創出となる。

 

 この総合特区は大都市再生、日本の経済成長のエンジンとなる「国際戦略総合特区」と地域再生、地域資源の最大活用を睨んだ「地域活性化総合特区」の2つの制度で構成される。今年度中に国際戦略総合特区は5地区、地域活性化総合特区は47地区の指定が予定され、前者は20億円、後者は5億円を上限に調整金という名の"つかみ金"が支給される予定である。指定にあたっては、プロジェクトの本気度、つまり特区提案の実現に向けて企業・事業体などの実施主体に対し住民税の軽減や補助金支給などの優遇措置を地域の各自治体がとるかを尺度に厳選すると、国会審議で明らかになっている。

 

 この総合特区を巡っては昨年7月から9月にかけアイディア募集がなされ、文京区からのメディカルツーリズム特区をはじめ450件の提案が出されている。法案成立を受け既に神奈川県と横浜市、川崎市は共同で「ライフサイエンス分野の国際競争拠点形成」の総合特区指定に向け、知事、市長ならびに横浜銀行、慶応大学医学部、KSP(かながわサイエンスパーク)など産官学の代表者50名による地方協議会を設立。この8月にも申請予定で準備しはじめている。

 

 問題の新成長戦略は官民を挙げて「強い経済」の実現を図り、2020年度までの年平均で、名目3%、実質2%を上回る経済成長を目指すとしている。その中で、医療・介護、保育の寄与度は0.3%と省エネの0.4%に次ぎ二番目で、「産業」として政府から高い期待が寄せられている。

 

 この総合特区に関し09年当時、大塚内閣府副大臣(現・厚労副大臣)は「例えば、医療のある規制を構造改革特区で改革しても、当該規制に係る医療行為についてのみ改革されるだけである。産業としての医療発展や地域医療の全体的な向上のために、オーバーオールな規制改革を行わなければならない場合があるという問題意識から総合特区という発想に至っている」と説明している。ここに、ことの本質が見事に現われている。

 

 先述の「ライフサイエンス分野の拠点形成」の総合特区提案では、国に求める規制緩和内容として▽ヒト幹細胞を用いた臨床試験の手続き簡素化、▽医薬品等の承認審査の方法の合理化、▽高度医療のための病床や臨床研究病床について病床規制上限を超えた設置の許容、▽がん治療等に関わる外国人医師の特定の医療行為の許容などが挙げられている。これは医師法、薬事法の特例措置を必要とする。

 

 この下で、国家プロジェクトの中の一つ、「医療の実用化促進のための医療機関の選定制度等」が既に実現。特定の医療機関群において、治験を無視した、国内使用例が1例もない、国内未承認の海外医薬品(抗がん剤)の使用および医療保険との併用が、5月18日、中医協で決定された。要は保険診療の前提である安全性・有効性の担保を全く度外視した混合診療が全国的に始まることになった。未承認薬の保険外併用は医療保険の原則からいって論理破綻しているが制度化されてしまっている。

 過日、治験の実施計画違反で遺族による訴訟がおきていることが報じられているが、今後は治験計画さえ立案されない、化学化合物(海外使用の未承認薬、世界初の全く新規の薬物)のヒトへの使用が横行する。6月27日に厚労省の「抗がん剤などによる健康被害の救済に関する検討会」の初会合がもたれたが、抗がん剤の副作用被害者の救済を、との声におされたものであり、この点からみても治験の度外視は非常に問題が大きいと考える。薬害の苦い教訓は、まったく一顧だにされていない。

 

 昨夏の経産省「医療産業研究会報告書」は、疾病管理、リハビリ、慢性期の生活支援などの自由価格によるサービス創出や、医療本体の産業化、病院による関連産業の多角経営、海外患者の遠隔診療、特殊治療の提供、中国の富裕層を念頭にした医療の国際化、医療滞在ビザの発給などがうたわれていた。われわれは再三、警鐘をならしてきたが、総合特区は、この本格導入の起爆剤となる。

 

 医科大学が集中する文京区のメディカルツーリズムは、そこでの海外患者の自由診療圏の創出となる。保険適用外の治療・手術が市場を形成する。富裕層をあてこんだ自由診療は、高い自由料金となる。当然、国内の富裕層患者の受診も早晩、でてくる。ここにふたつの問題がある。自由診療の市場が形成確立された場合には、その治療・手術は価格の低い、公的医療保険には導入されなくなる。また、国内富裕層の受診は、いずれ、自由診療に関わる診察・診断、検査などに関し、本来は保険外診療であるにもかかわらず、外形的な類似性をとらえて、医療保険給付の部分適用の要求へと発展する。つまり、保険外併用療養(混合診療)である。

 先述のように、未承認の医薬品や医療機器の混合診療が、多少の要件づきでお墨付きを与えられたが、この総合特区では、更にそこの要件すら骨抜き、完全フリーな混合診療が可能となる。

 医療分野の国際競争総合特区が想定される地域は、わが国の医療の基幹的な大学や病院が集中しており、いずれここで教育され就労した人材が、市中の病院や開業へと散っていく。

 医療ツーリズムでの医療経済上の効果は、国民医療費の0.36%(2020年度)との指摘もあり、その他の効果と合わせても限定的である。混合診療問題は、経済的貧富の格差による受診機会の格差、いわゆる階層消費から安全性・有効性の無視という局面に深く突入しだしている。医療者と患者の情報の非対称性から公的医療保険は安全性・有効性の確立したものを対象としてきた。それが、この10年で、承認申請中の医薬品等、治験実施中の医薬品等、臨床研究段階の医薬品等、国内未使用の医薬品等と、公的医療保険の財源の流用が、保険外併用(混合診療)の蓑に隠され、次々と進んできた。

 この治外法権区域を創出する総合特区では尚更、進行する。「いつでも、だれでも、どこでも」の日本医療の特性と世界一の健康達成度(WHO)と、世界最高の医療水準(OECD)の成果が、瓦解する危険性が高い。木を見て森を見ず。目先の利益に目を奪われ、皆保険、社会保障が築いた安全、安心な医療が損なわれていく。

 既に報道にもあった休眠中の工業用地の病院用地への転用が認められるが、化学薬品や金属の溶融による土壌汚染など人体への影響について懸念は払拭されない。特別養護老人ホームの株式会社経営に道も開かれるが、高齢者の権利保護や、今後の株式会社の医療機関経営への波及の懸念もある。

 医療需給のミスマッチが喧伝され市場化が叫ばれているが、「受診出来ないこと」が最大の問題である。しかも将来不安の筆頭は、老後の生活であり、政府要望のトップは医療・年金の充実、とりわけ医療費である。受診時にいくらかかるか不明な定率・3割の窓口負担が元凶である。定率負担を廃止し、欧州諸国なみに低額の定額負担のような負担感のない水準に受診のハードルを低くすることが先決である。生活保護受給者の自殺が総人口比の2.2倍と過日報じられたが、原因のトップは健康問題で頭抜けている。

 

 高齢化社会と生産年齢人口の減少局面で、内需不足の解決が経済再生の主要問題である。この医療への将来不安を助長する政策は改め、金融資産1500兆円が市場に出回るようにすべきである。輸出大企業依存の「いざなみ景気」(02年7月~07年10月)は戦後最長でありながら国民に豊かさをもたらさなかったことに思いを馳せるべきである。

 

 健康・安全の規制は遵守されるべきものである。安全性無視、利益至上主義の行きつく先はJR西日本福知山線の脱線事故である。

 われわれはこの産官学協同によるプロジェクトに強く反対する。

2011年7月15日

 

医療の産業化、皆保険の瓦解もたらすプロジェクトX

総合特区、医療観光、TPPでの自由診療市場創出に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 6月22日、政府の新成長戦略を実現する突破口となる、総合特区法案が可決・成立した。この総合特区は新成長戦略の21の「国家プロジェクト」のひとつに位置づいており、医療分野においては海外から富裕層の患者を受け入れる「医療ツーリズム」(医療観光)及びに医療の産業化拠点の形成の肝となる制度的枠組みとなる。またTPP(環太平洋経済協定)や、それを包摂するアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想など、今後の関税撤廃と非関税障壁撤廃を睨んだ環境整備の一環でもある。

 この間の米国による薬価自由化や医薬品等の承認・審査の規制緩和、ITヘルス関連事業などの医療の市場化要求や、国内の保険外併用療養費制度の無原則化、民間の先進医療保険や自由診療保険の商品開発の跋扈を踏まえれば、一連の動きは、自由診療市場の創出、形成に拍車をかけ、患者と医療機関に混乱を招き、現物給付と皆保険制度の浸食、荒廃を確実にもたらすと考える。われわれは総合特区、医療観光、TPPをはじめ、昨夏の経産省「医療産業研究会報告書」以来の医療の産業化路線に対し憲法25条(生存権保障と国の責務)と13条(幸福追求権)を守る観点から強く反対する。

 

 総合特区とは、これまでの規制の特例措置の社会実験である自治体単位の構造改革特区や、産官学複合体への規制緩和策のスーパー特区(先端医療開発特区)と違い、複数の規制緩和とあわせ税制・財政・金融上の支援等も措置する、より複合的な地域資源集中の政策パッケージ、地域と国の包括的・戦略的な協同プロジェクトである。しかも地域と国との協働による規制の特例措置を一括で講じることを前提に、政令・省令の規制の特例を条例で独自に制定できる仕組みもある。つまり、健保法や医療法などの法規制の特例を設けることが可能となる。しかも、医療法の施行令(政令)、施行規則(省令)で規定されている医療機関の開設許可や病院の人員基準、安全管理基準などの緩和、特例化が可能となる。これは医療分野にとどまらず、経済成長を金看板とした「治外法権」区域の創出となる。

 

 この総合特区は大都市再生、日本の経済成長のエンジンとなる「国際戦略総合特区」と地域再生、地域資源の最大活用を睨んだ「地域活性化総合特区」の2つの制度で構成される。今年度中に国際戦略総合特区は5地区、地域活性化総合特区は47地区の指定が予定され、前者は20億円、後者は5億円を上限に調整金という名の"つかみ金"が支給される予定である。指定にあたっては、プロジェクトの本気度、つまり特区提案の実現に向けて企業・事業体などの実施主体に対し住民税の軽減や補助金支給などの優遇措置を地域の各自治体がとるかを尺度に厳選すると、国会審議で明らかになっている。

 

 この総合特区を巡っては昨年7月から9月にかけアイディア募集がなされ、文京区からのメディカルツーリズム特区をはじめ450件の提案が出されている。法案成立を受け既に神奈川県と横浜市、川崎市は共同で「ライフサイエンス分野の国際競争拠点形成」の総合特区指定に向け、知事、市長ならびに横浜銀行、慶応大学医学部、KSP(かながわサイエンスパーク)など産官学の代表者50名による地方協議会を設立。この8月にも申請予定で準備しはじめている。

 

 問題の新成長戦略は官民を挙げて「強い経済」の実現を図り、2020年度までの年平均で、名目3%、実質2%を上回る経済成長を目指すとしている。その中で、医療・介護、保育の寄与度は0.3%と省エネの0.4%に次ぎ二番目で、「産業」として政府から高い期待が寄せられている。

 

 この総合特区に関し09年当時、大塚内閣府副大臣(現・厚労副大臣)は「例えば、医療のある規制を構造改革特区で改革しても、当該規制に係る医療行為についてのみ改革されるだけである。産業としての医療発展や地域医療の全体的な向上のために、オーバーオールな規制改革を行わなければならない場合があるという問題意識から総合特区という発想に至っている」と説明している。ここに、ことの本質が見事に現われている。

 

 先述の「ライフサイエンス分野の拠点形成」の総合特区提案では、国に求める規制緩和内容として▽ヒト幹細胞を用いた臨床試験の手続き簡素化、▽医薬品等の承認審査の方法の合理化、▽高度医療のための病床や臨床研究病床について病床規制上限を超えた設置の許容、▽がん治療等に関わる外国人医師の特定の医療行為の許容などが挙げられている。これは医師法、薬事法の特例措置を必要とする。

 

 この下で、国家プロジェクトの中の一つ、「医療の実用化促進のための医療機関の選定制度等」が既に実現。特定の医療機関群において、治験を無視した、国内使用例が1例もない、国内未承認の海外医薬品(抗がん剤)の使用および医療保険との併用が、5月18日、中医協で決定された。要は保険診療の前提である安全性・有効性の担保を全く度外視した混合診療が全国的に始まることになった。未承認薬の保険外併用は医療保険の原則からいって論理破綻しているが制度化されてしまっている。

 過日、治験の実施計画違反で遺族による訴訟がおきていることが報じられているが、今後は治験計画さえ立案されない、化学化合物(海外使用の未承認薬、世界初の全く新規の薬物)のヒトへの使用が横行する。6月27日に厚労省の「抗がん剤などによる健康被害の救済に関する検討会」の初会合がもたれたが、抗がん剤の副作用被害者の救済を、との声におされたものであり、この点からみても治験の度外視は非常に問題が大きいと考える。薬害の苦い教訓は、まったく一顧だにされていない。

 

 昨夏の経産省「医療産業研究会報告書」は、疾病管理、リハビリ、慢性期の生活支援などの自由価格によるサービス創出や、医療本体の産業化、病院による関連産業の多角経営、海外患者の遠隔診療、特殊治療の提供、中国の富裕層を念頭にした医療の国際化、医療滞在ビザの発給などがうたわれていた。われわれは再三、警鐘をならしてきたが、総合特区は、この本格導入の起爆剤となる。

 

 医科大学が集中する文京区のメディカルツーリズムは、そこでの海外患者の自由診療圏の創出となる。保険適用外の治療・手術が市場を形成する。富裕層をあてこんだ自由診療は、高い自由料金となる。当然、国内の富裕層患者の受診も早晩、でてくる。ここにふたつの問題がある。自由診療の市場が形成確立された場合には、その治療・手術は価格の低い、公的医療保険には導入されなくなる。また、国内富裕層の受診は、いずれ、自由診療に関わる診察・診断、検査などに関し、本来は保険外診療であるにもかかわらず、外形的な類似性をとらえて、医療保険給付の部分適用の要求へと発展する。つまり、保険外併用療養(混合診療)である。

 先述のように、未承認の医薬品や医療機器の混合診療が、多少の要件づきでお墨付きを与えられたが、この総合特区では、更にそこの要件すら骨抜き、完全フリーな混合診療が可能となる。

 医療分野の国際競争総合特区が想定される地域は、わが国の医療の基幹的な大学や病院が集中しており、いずれここで教育され就労した人材が、市中の病院や開業へと散っていく。

 医療ツーリズムでの医療経済上の効果は、国民医療費の0.36%(2020年度)との指摘もあり、その他の効果と合わせても限定的である。混合診療問題は、経済的貧富の格差による受診機会の格差、いわゆる階層消費から安全性・有効性の無視という局面に深く突入しだしている。医療者と患者の情報の非対称性から公的医療保険は安全性・有効性の確立したものを対象としてきた。それが、この10年で、承認申請中の医薬品等、治験実施中の医薬品等、臨床研究段階の医薬品等、国内未使用の医薬品等と、公的医療保険の財源の流用が、保険外併用(混合診療)の蓑に隠され、次々と進んできた。

 この治外法権区域を創出する総合特区では尚更、進行する。「いつでも、だれでも、どこでも」の日本医療の特性と世界一の健康達成度(WHO)と、世界最高の医療水準(OECD)の成果が、瓦解する危険性が高い。木を見て森を見ず。目先の利益に目を奪われ、皆保険、社会保障が築いた安全、安心な医療が損なわれていく。

 既に報道にもあった休眠中の工業用地の病院用地への転用が認められるが、化学薬品や金属の溶融による土壌汚染など人体への影響について懸念は払拭されない。特別養護老人ホームの株式会社経営に道も開かれるが、高齢者の権利保護や、今後の株式会社の医療機関経営への波及の懸念もある。

 医療需給のミスマッチが喧伝され市場化が叫ばれているが、「受診出来ないこと」が最大の問題である。しかも将来不安の筆頭は、老後の生活であり、政府要望のトップは医療・年金の充実、とりわけ医療費である。受診時にいくらかかるか不明な定率・3割の窓口負担が元凶である。定率負担を廃止し、欧州諸国なみに低額の定額負担のような負担感のない水準に受診のハードルを低くすることが先決である。生活保護受給者の自殺が総人口比の2.2倍と過日報じられたが、原因のトップは健康問題で頭抜けている。

 

 高齢化社会と生産年齢人口の減少局面で、内需不足の解決が経済再生の主要問題である。この医療への将来不安を助長する政策は改め、金融資産1500兆円が市場に出回るようにすべきである。輸出大企業依存の「いざなみ景気」(02年7月~07年10月)は戦後最長でありながら国民に豊かさをもたらさなかったことに思いを馳せるべきである。

 

 健康・安全の規制は遵守されるべきものである。安全性無視、利益至上主義の行きつく先はJR西日本福知山線の脱線事故である。

 われわれはこの産官学協同によるプロジェクトに強く反対する。

2011年7月15日