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2011/5/26 政策部長談話「皆保険崩す禁じ手『3割負担+定額負担』!! 病人の5割が受診不可能となる、免責制導入に断固反対する」

皆保険崩す禁じ手「3割負担+定額負担」!!

病人の5割が受診不可能となる、免責制導入に断固反対する

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 厚労省は5月19日、社会保障と税に関する集中検討会議に外来患者の窓口負担(原則3割)に一定額を上乗せする「定額負担」を導入し、難病患者の自己負担軽減の財源にあてると提示した。この「3割負担プラス定額負担」は、2002年の3割負担導入時の国会で「この水準が限界」とした厚労省の見解・立場を反故にするとともに、その理由である「長瀬指数」により3割負担を超えると、医療需要の5割を満たせない、つまりは病人の半分も受診できなくなるとの政策判断、見識すら投げ捨て去ったものである。大震災の混乱に乗じ、皆保険制度の根幹を崩し、社会保障の機能弱体化を図るこの暴挙にわれわれは断固反対する。

 

 3割負担は、大幅な患者の受診減少を生んでおり、政府関係の統計も雄弁に物語っている。患者調査(05年→08年)では外来23万人、入院7万人が減少、社会保障・人口問題基本調査(07年)でも病気で受診出来なかった世帯が全世帯の2%、実に105万世帯252万人に上っている。当会調査(10年)でも患者の29%が受診の手控え、9%が治療中断となっている。かなりの過重な負担である。

 

 この3割負担は02年の「医療改革」で導入されたが、国会審議で再三、厚労省より「この負担水準が限界」と触れられ、法案成立後、中村秀一官房審議官(当時)は「患者負担引き上げのカードは全て使い切った」「3割以上負担を上げないということは法律にも堅持とある」と講演で解説している。事実、健保法の附則に「将来にわたって患者負担は3割を限度とする」とあり、国民との約束である。

 旧内務省時代から現在まで使われている患者負担と受診行動の相関を表す「長瀬指数」により、3割負担では医療需要の59.2%を満たすものの、4割負担では48.8%と病人の半分も受診できなくなる。病人の半分が使えない健康保険は、公的医療保険としての意味をなさず、保険料納入の忌避などを招き瓦解するとの政策判断が、これまであったことは明らかである。

 

 よってそれ以降は、給付範囲の縮小のための混合診療領域の拡大や給付抑制のための診療報酬のマイナス改定、点数誘導による病床転換・廃止が繰り返されてきたのである。

 

 報道では100円~200円の定額負担と示されているが、診察と処方のみの受診の場合に患者負担率は37.2%となり4割負担に近い。民主党内では当初、ワンコインと提案されており500円と仮定し、平均的な1日あたり患者医療費7060円(社会医療診療行為別調査)で試算すると患者負担率は37.1%となり、長瀬指数【Y=1-1.6X+0.8X2<2乗>】にあてはめると、51.6%とかろうじて医療需要の5割を満たすにすぎない。これでは、公的保険は形骸化する。

 

 この「3割負担+定額負担」は財務省の審議会で再三取り上げられてきた「免責制」に他ならない。これは受診のたびに1回500円または1,000円までは、医療保険の適用とせずにそれを超えた部分から3割負担を適用するというものだ。この導入のためには医療を現物給付の体系から現金給付(療養費)の体系に転換することが不可欠のため、事実上、実現できなかった。なぜなら現金給付の体系に転換したとたんに混合診療が完全にフリーになるからである。そのため、厚労省案は現物給付の体系は維持し、3割負担プラス定額負担とし、巷の抵抗感を緩和するために100円程度の別負担としたのである。省内に知恵者がいたものである。「上乗せ定額負担」と称されているが、要は「上乗せ免責制」である。導入されれば「打ち出の小槌」となり、いずれ金額が財務省想定の1,000円まで跳ね上がることは確実である。しかも足切り免責に比べ、この上乗せ免責は患者負担実額の財政効果も大きくなる。

 

 この導入にあたり、難病の負担軽減が口実にされているが、これも素直には受け取れない。昨秋の社会保障審議会医療保険部会で、白血病患者のグリベック服用など患者負担が高額で嵩(かさ)む多くの患者団体からの難病公費医療への適応、対象疾患の拡大の要望が出され、代替案として高額療養費の適用水準を80,100円から44,400円へ引き下げることが検討された。結果は2600億円の財源手当の見通しがつかず頓挫した。これの復活と一般には理解されている。しかし、昨秋の議論は難病公費医療の在り方そのものが厚労省から問題提起がなされ、制度を解体して、この治療方法のない難病医療を医療保険に吸収し、低廉な患者負担から3割負担と44,400円の高額療養費への適用に切り替えさせ、制度の一本化・収斂が企図されていた。資料を振りかえれば一目瞭然である。この裏意図が下敷きにある。

 

 そもそも患者負担そのものが、疾病の自己責任を根拠とした、公的医療保険における「免責制」であり、必要十分原則に基づく社会保障理念とは相いれない。また、社会原理と保険原理で設計された「社会保険制度」からみても受診時の負担は矛盾している。更には、民間保険にまねて「免責制」を語り、「受難者」である患者に「受益者負担」との詐術を弄し続け苛斂誅求を敷く施策は、憲法25条第二項、生存権保障における国の責務に完全に背馳(はいち)している。

 

 東日本大震災の「有事」の下、被災地のみならず日本全体は戦後復興にも似た状況で復旧、復興に向け歩みだしている。戦後の荒廃から、社会保障制度審議会「50年勧告」の精神に基づき皆保険制度を敷き、健康達成度世界一の医療制度を築いてきた。皆保険50周年の今年、「有事」のもとで将来に向け厳しい現実が突きつけられている。弥縫策や糊塗を重ねるのではなく、財源調達も正面から問い、本当に社会保障の機能強化と国民の納得のいく制度構築を考えるべきである。このままでは厚生労働の名折れである。

 「3割負担プラス定額負担」の「上乗せ免責制」の撤回を強く求めるとともに、真剣な政策立案を望みたい。

2011年5月26日

 

皆保険崩す禁じ手「3割負担+定額負担」!!

病人の5割が受診不可能となる、免責制導入に断固反対する

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 厚労省は5月19日、社会保障と税に関する集中検討会議に外来患者の窓口負担(原則3割)に一定額を上乗せする「定額負担」を導入し、難病患者の自己負担軽減の財源にあてると提示した。この「3割負担プラス定額負担」は、2002年の3割負担導入時の国会で「この水準が限界」とした厚労省の見解・立場を反故にするとともに、その理由である「長瀬指数」により3割負担を超えると、医療需要の5割を満たせない、つまりは病人の半分も受診できなくなるとの政策判断、見識すら投げ捨て去ったものである。大震災の混乱に乗じ、皆保険制度の根幹を崩し、社会保障の機能弱体化を図るこの暴挙にわれわれは断固反対する。

 

 3割負担は、大幅な患者の受診減少を生んでおり、政府関係の統計も雄弁に物語っている。患者調査(05年→08年)では外来23万人、入院7万人が減少、社会保障・人口問題基本調査(07年)でも病気で受診出来なかった世帯が全世帯の2%、実に105万世帯252万人に上っている。当会調査(10年)でも患者の29%が受診の手控え、9%が治療中断となっている。かなりの過重な負担である。

 

 この3割負担は02年の「医療改革」で導入されたが、国会審議で再三、厚労省より「この負担水準が限界」と触れられ、法案成立後、中村秀一官房審議官(当時)は「患者負担引き上げのカードは全て使い切った」「3割以上負担を上げないということは法律にも堅持とある」と講演で解説している。事実、健保法の附則に「将来にわたって患者負担は3割を限度とする」とあり、国民との約束である。

 旧内務省時代から現在まで使われている患者負担と受診行動の相関を表す「長瀬指数」により、3割負担では医療需要の59.2%を満たすものの、4割負担では48.8%と病人の半分も受診できなくなる。病人の半分が使えない健康保険は、公的医療保険としての意味をなさず、保険料納入の忌避などを招き瓦解するとの政策判断が、これまであったことは明らかである。

 

 よってそれ以降は、給付範囲の縮小のための混合診療領域の拡大や給付抑制のための診療報酬のマイナス改定、点数誘導による病床転換・廃止が繰り返されてきたのである。

 

 報道では100円~200円の定額負担と示されているが、診察と処方のみの受診の場合に患者負担率は37.2%となり4割負担に近い。民主党内では当初、ワンコインと提案されており500円と仮定し、平均的な1日あたり患者医療費7060円(社会医療診療行為別調査)で試算すると患者負担率は37.1%となり、長瀬指数【Y=1-1.6X+0.8X2<2乗>】にあてはめると、51.6%とかろうじて医療需要の5割を満たすにすぎない。これでは、公的保険は形骸化する。

 

 この「3割負担+定額負担」は財務省の審議会で再三取り上げられてきた「免責制」に他ならない。これは受診のたびに1回500円または1,000円までは、医療保険の適用とせずにそれを超えた部分から3割負担を適用するというものだ。この導入のためには医療を現物給付の体系から現金給付(療養費)の体系に転換することが不可欠のため、事実上、実現できなかった。なぜなら現金給付の体系に転換したとたんに混合診療が完全にフリーになるからである。そのため、厚労省案は現物給付の体系は維持し、3割負担プラス定額負担とし、巷の抵抗感を緩和するために100円程度の別負担としたのである。省内に知恵者がいたものである。「上乗せ定額負担」と称されているが、要は「上乗せ免責制」である。導入されれば「打ち出の小槌」となり、いずれ金額が財務省想定の1,000円まで跳ね上がることは確実である。しかも足切り免責に比べ、この上乗せ免責は患者負担実額の財政効果も大きくなる。

 

 この導入にあたり、難病の負担軽減が口実にされているが、これも素直には受け取れない。昨秋の社会保障審議会医療保険部会で、白血病患者のグリベック服用など患者負担が高額で嵩(かさ)む多くの患者団体からの難病公費医療への適応、対象疾患の拡大の要望が出され、代替案として高額療養費の適用水準を80,100円から44,400円へ引き下げることが検討された。結果は2600億円の財源手当の見通しがつかず頓挫した。これの復活と一般には理解されている。しかし、昨秋の議論は難病公費医療の在り方そのものが厚労省から問題提起がなされ、制度を解体して、この治療方法のない難病医療を医療保険に吸収し、低廉な患者負担から3割負担と44,400円の高額療養費への適用に切り替えさせ、制度の一本化・収斂が企図されていた。資料を振りかえれば一目瞭然である。この裏意図が下敷きにある。

 

 そもそも患者負担そのものが、疾病の自己責任を根拠とした、公的医療保険における「免責制」であり、必要十分原則に基づく社会保障理念とは相いれない。また、社会原理と保険原理で設計された「社会保険制度」からみても受診時の負担は矛盾している。更には、民間保険にまねて「免責制」を語り、「受難者」である患者に「受益者負担」との詐術を弄し続け苛斂誅求を敷く施策は、憲法25条第二項、生存権保障における国の責務に完全に背馳(はいち)している。

 

 東日本大震災の「有事」の下、被災地のみならず日本全体は戦後復興にも似た状況で復旧、復興に向け歩みだしている。戦後の荒廃から、社会保障制度審議会「50年勧告」の精神に基づき皆保険制度を敷き、健康達成度世界一の医療制度を築いてきた。皆保険50周年の今年、「有事」のもとで将来に向け厳しい現実が突きつけられている。弥縫策や糊塗を重ねるのではなく、財源調達も正面から問い、本当に社会保障の機能強化と国民の納得のいく制度構築を考えるべきである。このままでは厚生労働の名折れである。

 「3割負担プラス定額負担」の「上乗せ免責制」の撤回を強く求めるとともに、真剣な政策立案を望みたい。

2011年5月26日