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2022/4/20 政策部・提言 「『逆ザヤ』解消へ 金パラ価格改定ルールの『提言』(追補)~有事対応と平時ルールの二頭立ての根本的改革を求める~」

「逆ザヤ」解消へ 金パラ価格改定ルールの「提言」(追補)

~有事対応と平時ルールの二頭立ての根本的改革を求める~

 

神奈川県保険医協会

政策部長  磯崎 哲男

 


 

緊急改定は「前倒し」の範囲超えず

 ウクライナ危機による歯科材料・金銀パラジウム合金の急騰に際し、413日、中医協は緊急的対応を承認した。4月の基準材料価格改定で3,149/gだったものが5月から3,413/gへとなる。これは、現下の対応として一歩前進ではある。しかし、これは平時ルールの年4回の随時改定で予定されていた7月改定の「前倒し」の範囲を超えていない。既に指摘しているが、この水準では市場価格が公定価格を上回る、「逆ザヤ」は解消しえない。なお、この前倒しが可能なら、平時ルールとして今後も直近データを反映し、タイムラグを縮めていくことが可能である。

 われわれは昨年3月に「歯科材料・金銀パラジウム合金公定価格改革合理的な価格決定方式へ『提言』」(金パラ「提言」)を厚労省記者会で発表をし、それ以降、時宜に応じて、この提言に重ね、発展させる形で追加、修正などの提案も随時行ってきた。金パラ提言は歯科界へ少なからず影響を与え、素材価格の変動幅に関係なく年4回の随時改定の実施へと、ルール改定に結実している。

 ロシア侵攻による貴金属高騰に関してもこの間、喫緊の緊急時対応を求め発信してきた。

 ここに、有事と平時の対応ルールの改革案について、改めて整理し提案としたい。

 

「有事」は、現行の試算価格(計算式)を超えた、改定ルールの適用が必須

 平時の公定価格ルールは、市場価格の上昇局面では「逆ザヤ」が解消されない致命的欠陥を抱えている。現在は急激な高騰局面であり、「円安」が重なり、今後の更なるパラジウムなど貴金属の価格急上昇は必至である。当然ながら、現行ルールで適用時点を前倒しても矛盾は解決されない。「有事」の「期間」、別途、違うルールを適用し、現場矛盾の解決を図るのが道理となる。過日413日の中医協議論では診療側以外の委員は、その点の理解が十分ではなく、「持ち出し」を当然視する発言も散見されている。

 この矛盾を解決する方法を以下に提示する。

  

<有事対応>

 考え方の基本は「有事限定」で、医療現場と患者の治療への影響が最小限となる方策を講じることである。以下、いずれも患者負担には影響を及ぼさない方法となる。

* 「方法論」の脇のカッコ書きは当協会談話での提案日

【方法論1】急上昇分の補正支払い(2022.3.14)

有事限定で審査支払機関から、20%程度の有事での急上昇分の補正を診療報酬の支払いで行う

【方法論2】ひと月単位の素材価格1.2倍支払い(2022.3.14)

ひと月単位で素材価格(含有貴金属の構成比での理論値)の1.2倍程度を支払い分にのみ適用する

 

<平時対応>

 保険治療材料は医療保険からその材料料は全額償還されるのが大原則である。金パラは市場価格が公定価格を上回る「逆ザヤ」の際に、現行ルールでは「後追い」改定で、かつ市場価格に追いつかず、過去の「逆ザヤ」分の補填もなされない致命的な欠陥がある。これを是正するには、「逆ザヤ」の発生しないルールへの転換が必須となる。当協会が考案した方法論と発展形を列挙する。

*「方法論」「次善策」の脇のカッコ書きは当協会談話での提案日

【方法論1】超過価格設定&事後調整方式(2021.3.18)

2年に一度の基準材料価格改定の際の基準値(告示価)の1.5倍を告示価格とし、「随時改定」の際に、改定判断時点で参照期間分(過去分)の変動を基準値に乗せ、告示価格との乖離幅が5%以上ある場合に、その分を補正する。その際の「1.5倍」の数値は、前年分(1年間分)の平均素材価格と、告示価格との乖離分を毎回、「倍数」で数値化し代替することも方法である。

【方法論2】超過価格設定&事後調整方式の年度更新or倍数の増加(2021.10.28)

方法論1の改良バージョン。金パラの上昇速度が急な場合に、方法論1でも2年間の間に「逆ザヤ」となる。よって、1年単位で基準値に変動分を加え、1.5倍を公定価格として仕切りなおすか、当初時点の倍数を1.7~2倍とする。

【方法論3】素材価格(理論値)の1.21倍(2021.10.28&2022.1.7&2022.2.14)

実態値が素材価格(理論値)のほぼ1.16倍が市場価格となっており、金パラは「一定幅」が4%で公定価格が設定されているので、素材価格の1.21倍(=1.16×1.04)を公定価格とする。ICT化の時代にあって、技術的には素材価格は毎月算出が可能であり、ひと月単位での適用は可能である。

診療報酬は医療機関の診療月の2カ月後に支払われるので、「後追い」ではなく、「支払い時点」での適用は可能であり、患者負担増による治療への影響を考慮し、支払い分(給付分)のみに適用することは選択肢となる。また、これを3カ月単位の随時改定時に適用することでも、市場価格へ近似しタイムラグは残るものの乖離幅は大きく縮小される。

【次善策1】購入価格請求方式(2021.3.18)

各医療機関の購入価格を10円で除し、治療部位毎の「平均使用量」に基づき点数算定をし、請求する。「平均使用量」は、厚労省が指標を示す。

【次善策2】精算補填(2021.10.7)

各医療機関の請求実績に基づき、年度単位で逆ザヤ分を精算し、審査支払機関から支払う。その際の指標は市場調査に基づく市場価格に薬価と同様に4%の一定幅を加算したものと、公定価格の「乖離分」で計算することにする。

【次善策3】月単位の素材価格変動分、給付調整支払い(2021.10.7)

貴金属の素材価格の変動に応じ、変動分を保険給付に加味し、月単位での調整支払いとする。

 

 以上の方法論に関連し、より一層、改定ルールの透明化が図られる必要がある(この間、一定の前進はあるが)。市場調査での公定価格との乖離率の公開は一丁目一番地である。また、改定ルールを専門に議論する「歯科用貴金属価格検討委員会」を中医協の保険医療材料専門部会の下に設置し、根本的解決に至るまで、継続的に議論する場を築くことは肝要である。

 

患者負担問題もセットで解決が必要

免除、負担率軽減、上昇率分控除などの検討も

 ここ10年来、金パラの市場価格は上下動をしながらも、上昇基調で推移し5倍(20104619円/g202243,149/g)になっている。一方、この金パラ材料を使用する歯冠修復・欠損補綴治療の技術料は殆ど水平飛行でプラス評価が少ないままである。今回の緊急的対応で例えば大臼歯の全部金属冠の材料点数は1,108点から1,201点となる。3割の患者負担は279円のアップとなるが、過去の累積で増嵩した金パラ材料での治療の際の患者負担に重なるため、経済的・心理的な負担は決して軽くはない。

 2010年4月に大臼歯に金パラの全部金属冠を装着した際の医療費は866点(うち金パラ材料218点:占有率25.2%)で患者負担は2,600円だったものが、この4月の金パラの基準材料価格改定を経て、1,780点(うち金パラ材料1,108点:占有比率64.9%)となり、患者負担が5,340円と2倍以上になっている。ここに緊急対応分の279円が乗り、5,619円となる。高額感が増し、ひいては治療躊躇へと連動していく。

 この患者負担問題は、金パラ公定価格のルール改革に不即不離で付随する問題である。平時においては、金パラ材料分の患者負担は公費負担とし免除するか負担率の軽減を図る、材料料の上昇率分を患者負担から控除するなどはセットで措置を講じる必要性をわれわれは感じている。それを通じ皆保険下での歯科治療促進、口腔ケアの向上を図り、全身疾患への好影響を与えることとなる。それでこそ、金パラ公定価格改定の改善を図る本旨が生きてくる。

 歯科医療を守る英知の結集と、機動的な実施、財政当局や保険者の理解を改めて求めたい。

2022年420

 

「逆ザヤ」解消へ 金パラ価格改定ルールの「提言」(追補)

~有事対応と平時ルールの二頭立ての根本的改革を求める~

 

神奈川県保険医協会

政策部長  磯崎 哲男

 


 

緊急改定は「前倒し」の範囲超えず

 ウクライナ危機による歯科材料・金銀パラジウム合金の急騰に際し、413日、中医協は緊急的対応を承認した。4月の基準材料価格改定で3,149/gだったものが5月から3,413/gへとなる。これは、現下の対応として一歩前進ではある。しかし、これは平時ルールの年4回の随時改定で予定されていた7月改定の「前倒し」の範囲を超えていない。既に指摘しているが、この水準では市場価格が公定価格を上回る、「逆ザヤ」は解消しえない。なお、この前倒しが可能なら、平時ルールとして今後も直近データを反映し、タイムラグを縮めていくことが可能である。

 われわれは昨年3月に「歯科材料・金銀パラジウム合金公定価格改革合理的な価格決定方式へ『提言』」(金パラ「提言」)を厚労省記者会で発表をし、それ以降、時宜に応じて、この提言に重ね、発展させる形で追加、修正などの提案も随時行ってきた。金パラ提言は歯科界へ少なからず影響を与え、素材価格の変動幅に関係なく年4回の随時改定の実施へと、ルール改定に結実している。

 ロシア侵攻による貴金属高騰に関してもこの間、喫緊の緊急時対応を求め発信してきた。

 ここに、有事と平時の対応ルールの改革案について、改めて整理し提案としたい。

 

「有事」は、現行の試算価格(計算式)を超えた、改定ルールの適用が必須

 平時の公定価格ルールは、市場価格の上昇局面では「逆ザヤ」が解消されない致命的欠陥を抱えている。現在は急激な高騰局面であり、「円安」が重なり、今後の更なるパラジウムなど貴金属の価格急上昇は必至である。当然ながら、現行ルールで適用時点を前倒しても矛盾は解決されない。「有事」の「期間」、別途、違うルールを適用し、現場矛盾の解決を図るのが道理となる。過日413日の中医協議論では診療側以外の委員は、その点の理解が十分ではなく、「持ち出し」を当然視する発言も散見されている。

 この矛盾を解決する方法を以下に提示する。

  

<有事対応>

 考え方の基本は「有事限定」で、医療現場と患者の治療への影響が最小限となる方策を講じることである。以下、いずれも患者負担には影響を及ぼさない方法となる。

* 「方法論」の脇のカッコ書きは当協会談話での提案日

【方法論1】急上昇分の補正支払い(2022.3.14)

有事限定で審査支払機関から、20%程度の有事での急上昇分の補正を診療報酬の支払いで行う

【方法論2】ひと月単位の素材価格1.2倍支払い(2022.3.14)

ひと月単位で素材価格(含有貴金属の構成比での理論値)の1.2倍程度を支払い分にのみ適用する

 

<平時対応>

 保険治療材料は医療保険からその材料料は全額償還されるのが大原則である。金パラは市場価格が公定価格を上回る「逆ザヤ」の際に、現行ルールでは「後追い」改定で、かつ市場価格に追いつかず、過去の「逆ザヤ」分の補填もなされない致命的な欠陥がある。これを是正するには、「逆ザヤ」の発生しないルールへの転換が必須となる。当協会が考案した方法論と発展形を列挙する。

*「方法論」「次善策」の脇のカッコ書きは当協会談話での提案日

【方法論1】超過価格設定&事後調整方式(2021.3.18)

2年に一度の基準材料価格改定の際の基準値(告示価)の1.5倍を告示価格とし、「随時改定」の際に、改定判断時点で参照期間分(過去分)の変動を基準値に乗せ、告示価格との乖離幅が5%以上ある場合に、その分を補正する。その際の「1.5倍」の数値は、前年分(1年間分)の平均素材価格と、告示価格との乖離分を毎回、「倍数」で数値化し代替することも方法である。

【方法論2】超過価格設定&事後調整方式の年度更新or倍数の増加(2021.10.28)

方法論1の改良バージョン。金パラの上昇速度が急な場合に、方法論1でも2年間の間に「逆ザヤ」となる。よって、1年単位で基準値に変動分を加え、1.5倍を公定価格として仕切りなおすか、当初時点の倍数を1.7~2倍とする。

【方法論3】素材価格(理論値)の1.21倍(2021.10.28&2022.1.7&2022.2.14)

実態値が素材価格(理論値)のほぼ1.16倍が市場価格となっており、金パラは「一定幅」が4%で公定価格が設定されているので、素材価格の1.21倍(=1.16×1.04)を公定価格とする。ICT化の時代にあって、技術的には素材価格は毎月算出が可能であり、ひと月単位での適用は可能である。

診療報酬は医療機関の診療月の2カ月後に支払われるので、「後追い」ではなく、「支払い時点」での適用は可能であり、患者負担増による治療への影響を考慮し、支払い分(給付分)のみに適用することは選択肢となる。また、これを3カ月単位の随時改定時に適用することでも、市場価格へ近似しタイムラグは残るものの乖離幅は大きく縮小される。

【次善策1】購入価格請求方式(2021.3.18)

各医療機関の購入価格を10円で除し、治療部位毎の「平均使用量」に基づき点数算定をし、請求する。「平均使用量」は、厚労省が指標を示す。

【次善策2】精算補填(2021.10.7)

各医療機関の請求実績に基づき、年度単位で逆ザヤ分を精算し、審査支払機関から支払う。その際の指標は市場調査に基づく市場価格に薬価と同様に4%の一定幅を加算したものと、公定価格の「乖離分」で計算することにする。

【次善策3】月単位の素材価格変動分、給付調整支払い(2021.10.7)

貴金属の素材価格の変動に応じ、変動分を保険給付に加味し、月単位での調整支払いとする。

 

 以上の方法論に関連し、より一層、改定ルールの透明化が図られる必要がある(この間、一定の前進はあるが)。市場調査での公定価格との乖離率の公開は一丁目一番地である。また、改定ルールを専門に議論する「歯科用貴金属価格検討委員会」を中医協の保険医療材料専門部会の下に設置し、根本的解決に至るまで、継続的に議論する場を築くことは肝要である。

 

患者負担問題もセットで解決が必要

免除、負担率軽減、上昇率分控除などの検討も

 ここ10年来、金パラの市場価格は上下動をしながらも、上昇基調で推移し5倍(20104619円/g202243,149/g)になっている。一方、この金パラ材料を使用する歯冠修復・欠損補綴治療の技術料は殆ど水平飛行でプラス評価が少ないままである。今回の緊急的対応で例えば大臼歯の全部金属冠の材料点数は1,108点から1,201点となる。3割の患者負担は279円のアップとなるが、過去の累積で増嵩した金パラ材料での治療の際の患者負担に重なるため、経済的・心理的な負担は決して軽くはない。

 2010年4月に大臼歯に金パラの全部金属冠を装着した際の医療費は866点(うち金パラ材料218点:占有率25.2%)で患者負担は2,600円だったものが、この4月の金パラの基準材料価格改定を経て、1,780点(うち金パラ材料1,108点:占有比率64.9%)となり、患者負担が5,340円と2倍以上になっている。ここに緊急対応分の279円が乗り、5,619円となる。高額感が増し、ひいては治療躊躇へと連動していく。

 この患者負担問題は、金パラ公定価格のルール改革に不即不離で付随する問題である。平時においては、金パラ材料分の患者負担は公費負担とし免除するか負担率の軽減を図る、材料料の上昇率分を患者負担から控除するなどはセットで措置を講じる必要性をわれわれは感じている。それを通じ皆保険下での歯科治療促進、口腔ケアの向上を図り、全身疾患への好影響を与えることとなる。それでこそ、金パラ公定価格改定の改善を図る本旨が生きてくる。

 歯科医療を守る英知の結集と、機動的な実施、財政当局や保険者の理解を改めて求めたい。

2022年420