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2022/3/3 地域医療対策部長談話 「老健の入所での医療の不条理の解決を 医療の円滑な提供が可能な改善を求める」

老健の入所での医療の不条理の解決を

医療の円滑な提供が可能な改善を求める

 

神奈川県保険医協会

地域医療対策部長  岡田 孝弘

 


 

切れ目のない医療提供が困難な老健入所者の医療

 団塊の世代が全員、後期高齢者となる2025年を目前に控え、医療・介護の多職種連携の自主的ネットワークである「地域包括ケア」の構築が推進されている。これは「在宅生活の限界点を高める」ための社会基盤になる。しかし、その一翼を担い中心的役割を期待される在宅医、かかりつけ医にとって、老人保健施設の入所者への医療が十分に提供できない不条理に直面している。これは老健施設が定額・包括報酬で常勤医師管理を理由とした過去からの制度矛盾の堆積によるものである。われわれは、特別養護老人ホーム入所が要介護3以上で施設入所が難しくなり、経済的に有料老人ホーム等もまた容易でない中、現場は医療提供の寸断がないよう便法や知恵を駆使し対応している。この現実を踏まえ、医療提供の円滑化を図る制度改善の実現を、われわれは強く求める。(*数字は介護給付費分科会資料より)

 

老健施設の医療機能は十分ではない

退所先の4割は医療機関、在宅復帰は3割

 基本的なことをまず触れる。老人保健施設(老健施設)は、医療と福祉の一体的サービス提供のため両施設の長所を統合した「中間施設」として1986年に老人保健法で規定創設された。全国で7施設のモデル事業を経て1988年に本格実施し、1997年に介護保険法に根拠規定が移り今日に至っている。

 この施設は、在宅復帰、在宅療養支援を目的とし、入所者への医学的管理と看護の下、心身機能の維持回復へリハビリテーションを提供することになっている。主眼は在宅生活への復帰にある。

 しかしながら、在所日数の平均は311日と一年近い。しかも「退所先」の筆頭は医療機関(36.6)であり、死亡(12.0)と合わせ5割に及ぶ。家庭(33.1)は3割にとどまり、特別養護老人ホームなど老人福祉施設(8.2%)は多くはない。在宅復帰の機能を充分に果たすことが叶わない実態がある。

 在宅復帰率はリハビリ専門職5人超の施設でも、復帰率50%を超えるのは4割弱でしかない。非常勤・配置医師の特養と違い、老健施設は「常勤」医師の管理だが、入所100人に1人が基準である。リハビリ専門職も100人に1人。看護・介護職員は3人に1人だが看護職員はその2/7程度で、つまり10人に1人でしかない。医療機能は弱く、包括報酬は低額である。経営は赤字施設が2割である。

 

老健入所での医療の寸断、便法駆使の黙認制度の改善を

 この老健施設は、定額包括報酬であり医療の出来高払いとは違う。よって高額医薬品の投与や積極的治療は経営的な不採算へ連動する。実際に医療型ショートステイも受け入れてはいるが、肺炎や尿路感染症などの急性症状に際し、医療機関へ転院する例が、前者で33.7%、後者で7.7%ある。

 そのため、入所に際し在宅医、かかりつけ医への事前の処方依頼が現実にあり、事実上、「条件化」している。しかし、行政サイドから常勤医師のいる老健施設の性格上、入所期間中の医薬品の在宅医、かかりつけ医の処方は認めていない。これは制度上の道理である。

 具体的には、認知症やパーキンソン病の薬、抗がん剤や麻薬などが該当し、後発医薬品が存在するものは何とか、処方を変更し対応してもらえるものの、不存在や変更不可は入所拒否となる。後発品のない麻薬は入所時に少量でも、入所中の病状悪化を懸念され拒否となっているのが現実である。

 困るのは患者である。これを現実にどう乗り切っているのか。この板挟みの下で、在宅医、かかりつけ医の側は妥協し、老健施設に入所するとは知らなかったという体で、3カ月処方をしている。この矛盾に満ちた事態が社会的に容認されてきているのである。

 中には患者家族が、お薬の代理受領の形で来院する例もあり、事後にそれを知らない医療機関が保険審査で大幅査定をされ多額の返還・減収となる例も出ている。

 行政側も矛盾を認識しており、横浜市は厚労省へ、医療の別建てを要望しているとの話もある。

 老健施設は在宅復帰や短期入所、準入所施設の役割も担っている。介護報酬の加算・上積みと連動する、在宅復帰率、ベッド回転率の計算指標の「6カ月」、「3カ月」で退所誘因が働くため、生活介護施設に比べ入所待ち期間もほとんどなく入所が可能で、「止まり木」的な役割も担っている。厚労省調査でもケアマネからも「医療ニーズ対応の向上」要望が多い。「地域包括ケア」構築へ、医療の寸断がなく、多職種連携の円滑化を図ることが重要である。老健施設の医療提供裁量の余裕を保障するとともに、医療側が余計な便法など駆使せずに、患者本位の医療が十分にできる制度整備が肝要である。

 われわれは、老健施設への医療提供が、切れ目なく十分にできることの実現を改めて求める。

2022年33

 

老健の入所での医療の不条理の解決を

医療の円滑な提供が可能な改善を求める

 

神奈川県保険医協会

地域医療対策部長  岡田 孝弘

 


 

切れ目のない医療提供が困難な老健入所者の医療

 団塊の世代が全員、後期高齢者となる2025年を目前に控え、医療・介護の多職種連携の自主的ネットワークである「地域包括ケア」の構築が推進されている。これは「在宅生活の限界点を高める」ための社会基盤になる。しかし、その一翼を担い中心的役割を期待される在宅医、かかりつけ医にとって、老人保健施設の入所者への医療が十分に提供できない不条理に直面している。これは老健施設が定額・包括報酬で常勤医師管理を理由とした過去からの制度矛盾の堆積によるものである。われわれは、特別養護老人ホーム入所が要介護3以上で施設入所が難しくなり、経済的に有料老人ホーム等もまた容易でない中、現場は医療提供の寸断がないよう便法や知恵を駆使し対応している。この現実を踏まえ、医療提供の円滑化を図る制度改善の実現を、われわれは強く求める。(*数字は介護給付費分科会資料より)

 

老健施設の医療機能は十分ではない

退所先の4割は医療機関、在宅復帰は3割

 基本的なことをまず触れる。老人保健施設(老健施設)は、医療と福祉の一体的サービス提供のため両施設の長所を統合した「中間施設」として1986年に老人保健法で規定創設された。全国で7施設のモデル事業を経て1988年に本格実施し、1997年に介護保険法に根拠規定が移り今日に至っている。

 この施設は、在宅復帰、在宅療養支援を目的とし、入所者への医学的管理と看護の下、心身機能の維持回復へリハビリテーションを提供することになっている。主眼は在宅生活への復帰にある。

 しかしながら、在所日数の平均は311日と一年近い。しかも「退所先」の筆頭は医療機関(36.6)であり、死亡(12.0)と合わせ5割に及ぶ。家庭(33.1)は3割にとどまり、特別養護老人ホームなど老人福祉施設(8.2%)は多くはない。在宅復帰の機能を充分に果たすことが叶わない実態がある。

 在宅復帰率はリハビリ専門職5人超の施設でも、復帰率50%を超えるのは4割弱でしかない。非常勤・配置医師の特養と違い、老健施設は「常勤」医師の管理だが、入所100人に1人が基準である。リハビリ専門職も100人に1人。看護・介護職員は3人に1人だが看護職員はその2/7程度で、つまり10人に1人でしかない。医療機能は弱く、包括報酬は低額である。経営は赤字施設が2割である。

 

老健入所での医療の寸断、便法駆使の黙認制度の改善を

 この老健施設は、定額包括報酬であり医療の出来高払いとは違う。よって高額医薬品の投与や積極的治療は経営的な不採算へ連動する。実際に医療型ショートステイも受け入れてはいるが、肺炎や尿路感染症などの急性症状に際し、医療機関へ転院する例が、前者で33.7%、後者で7.7%ある。

 そのため、入所に際し在宅医、かかりつけ医への事前の処方依頼が現実にあり、事実上、「条件化」している。しかし、行政サイドから常勤医師のいる老健施設の性格上、入所期間中の医薬品の在宅医、かかりつけ医の処方は認めていない。これは制度上の道理である。

 具体的には、認知症やパーキンソン病の薬、抗がん剤や麻薬などが該当し、後発医薬品が存在するものは何とか、処方を変更し対応してもらえるものの、不存在や変更不可は入所拒否となる。後発品のない麻薬は入所時に少量でも、入所中の病状悪化を懸念され拒否となっているのが現実である。

 困るのは患者である。これを現実にどう乗り切っているのか。この板挟みの下で、在宅医、かかりつけ医の側は妥協し、老健施設に入所するとは知らなかったという体で、3カ月処方をしている。この矛盾に満ちた事態が社会的に容認されてきているのである。

 中には患者家族が、お薬の代理受領の形で来院する例もあり、事後にそれを知らない医療機関が保険審査で大幅査定をされ多額の返還・減収となる例も出ている。

 行政側も矛盾を認識しており、横浜市は厚労省へ、医療の別建てを要望しているとの話もある。

 老健施設は在宅復帰や短期入所、準入所施設の役割も担っている。介護報酬の加算・上積みと連動する、在宅復帰率、ベッド回転率の計算指標の「6カ月」、「3カ月」で退所誘因が働くため、生活介護施設に比べ入所待ち期間もほとんどなく入所が可能で、「止まり木」的な役割も担っている。厚労省調査でもケアマネからも「医療ニーズ対応の向上」要望が多い。「地域包括ケア」構築へ、医療の寸断がなく、多職種連携の円滑化を図ることが重要である。老健施設の医療提供裁量の余裕を保障するとともに、医療側が余計な便法など駆使せずに、患者本位の医療が十分にできる制度整備が肝要である。

 われわれは、老健施設への医療提供が、切れ目なく十分にできることの実現を改めて求める。

2022年33