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2022/1/7 政策部長談話 「中医協提案の『後追い』ルールでは根本的解決にならない 歯科材料・金パラ公定価格の『逆ザヤ』矛盾からの脱却を」

中医協提案の「後追い」ルールでは根本的解決にならない

歯科材料・金パラ公定価格の「逆ザヤ」矛盾からの脱却を

 

神奈川県保険医協会

政策部長  磯崎 哲男

 


 

根本的な解決策が随時改定ルールの改変へ軌道修正?!期待に背反

 昨年1222日の中医協に、歯科材料・金銀パラジウム合金(金パラ)の公定価格改定ルールに関し新たな提案がなされた。が、診療側・支払側双方から意見が出たものの明確な結論のないまま終わっている。22年度診療報酬改定率はネット▲0.94%(本体0.43%、薬価等▲1.37%)で決着しており、財源は手当て済みである。われわれは皆保険下、逆ザヤが生じない合理的なルール策定へ向け、議論を促してきた。しかし、今回提案では「逆ザヤ」の解消も補填もなされず、最大の問題が残る。この提案の評価を示すとともに、歯科界の期待に背く不透明な決着とならないよう、根本的解決を求める。

 

事態の一歩前進は率直に評価 しかし、まだまだ矛盾解決にはほど遠いのが実感

 中医協に事務局(厚労省保険局医療課)より提案された「歯科用貴金属材料の基準材料価格改定について」は、随時改定Ⅰ・Ⅱの、①実施要件の変動幅と②改定に用いる平均素材価格(素材金属の構成比による理論値)の直近値の反映が「論点」として挙げられた。①変動幅は、(1)現行のまま(Ⅰは±5%、Ⅱは±15%)、(2)一律化(±α%:±5%を例示)、(3)±0%(年4回改定の実施=変動幅要件の削除)の3点。②直近値の反映とは、現行の3カ月前までを「2カ月前まで」へと変更し、中医協へ報告後に事務連絡で告示等の内容を事前周知し、1か月程度の期間短縮を図るというもの。

 これに対し、直近値の反映に関しては診療側・支払側の双方が合意。一方、実施要件の変更に関し診療側は、変動幅の「一律化」は現行と比しても「優れた対応とは思えず、タイムリーな改定とは言えない」と否定。ただ、「±0%」(変動幅要件削除)は市場実勢価格を告示価格に反映する「感度を極力高める対応」と理解を示し、「価格決定が後追いとなる理解の得にくい制度だが」とし、代替材料の開発等や中長期的な抜本的な対応を検討しながら「次善の策として進めてほしい」とした。

 支払側は、実態の適時反映が基本と応じ、歯科医療機関の仕入れ・消費の取引実態の透明化の配慮等に言及し、2カ月前までの直近値反映のシミュレーションの提示の上で最終的に判断したいとした。

 不明瞭で曖昧模糊とした恰好で終わっているが、変動幅要件の削除で収斂する方向となっている。

 中医協提案は、関係者の尽力により改定ルールを動かそうとしている点で、確かに「一歩前進」ではある。しかし、①現行より感度が上がっても「3カ月に1回」の随時改定が前提でありタイムラグが長い。また、②市場実勢価格が公定価格を上回る「逆ザヤ」局面では「後追い」となる。しかも、③平均素材価格(理論値)の変動幅(2か月前までの過去3カ月平均値とその前の3カ月平均値との差)を改定幅とするため、低位平準化されて感度は低く、市場実勢価格の急騰局面では乖離は埋まらない。そもそも、④「逆ザヤ」局面では、過去の「逆ザヤ」分は補填されない、ことになる。

 

原点回帰し、根本論議の継続を 市場実勢と公定価格の乖離率の明示は必須

 昨年721日の中医協では「論点」として「歯科用貴金属材料の基準材料価格改定についてどのように考えるか」という根本的な問いが提示された。診療側は「後追いの仕組みでは限界があり、抜本的な制度そのものの検討も必要」とし、「制度設計の構築」を求めた。支払側も理解を示した。が、915日の「中間とりまとめ」では矮小化され、随時改定の頻度や平均素材価格の直近値反映の検討となり、巷では随時改定の変動幅要件削除が取り沙汰されていた。これが今回の提案へと帰着している。

 市場実勢への公定価格の感度を高めるなら、ひと月単位で平均素材価格の1.2倍程度を毎月適用すれば乖離幅は僅少となる(当協会試算)。治療躊躇となる患者負担への考慮をし、保険者の支払い分のみに適用することも方法である。今回提案の「±0%」では、「一律化」と、さほど大差はない(図1)。

 「逆ザヤが常に発生しない仕組み」の根本議論を深めるため、①市場実勢価格との乖離率の明示は必須であり、②中医協の保険医療材料専門部会の下、「歯科用貴金属価格検討委員会」を新設し、継続議論の担保を築くことは最低限必要と考える。さもなければ根本解決の議論は雲散霧消し、歯科界の宿痾からの決別への期待はしぼみ落胆だけが残る。4月改定で告示価格は大幅下落の観測で、コロナ禍で健闘している歯科医療機関の士気の低下を招く。われわれは根本的解決を改めて強く求める。

2022年1月7日

 


 

【参考資料】

【図1】大差がない「一律化」案と「変動幅要件削除」案(随時改定の実施要件:変動幅「±5%」案と「±0%」の比較)

20220107danwa_01.png

* 第507回中医協総会資料「個別事項(その11)歯科用貴金属材料の基準材料価格改定について」の「歯科用貴金属材料の基準材料価格改定の見直しについて②」より(2021.12.22

 

【図2】変動幅「±0%」案でも上昇中の市場実勢価格には追いつかない(作成:神奈川県保険医協会)

20220107danwa_02.png

 

【図3】随時改定の変動幅の直近値の反映のスケジュール案(2021.12.22中医協資料より)

20220107danwa_03.png

 

中医協提案の「後追い」ルールでは根本的解決にならない

歯科材料・金パラ公定価格の「逆ザヤ」矛盾からの脱却を

 

神奈川県保険医協会

政策部長  磯崎 哲男

 


 

根本的な解決策が随時改定ルールの改変へ軌道修正?!期待に背反

 昨年1222日の中医協に、歯科材料・金銀パラジウム合金(金パラ)の公定価格改定ルールに関し新たな提案がなされた。が、診療側・支払側双方から意見が出たものの明確な結論のないまま終わっている。22年度診療報酬改定率はネット▲0.94%(本体0.43%、薬価等▲1.37%)で決着しており、財源は手当て済みである。われわれは皆保険下、逆ザヤが生じない合理的なルール策定へ向け、議論を促してきた。しかし、今回提案では「逆ザヤ」の解消も補填もなされず、最大の問題が残る。この提案の評価を示すとともに、歯科界の期待に背く不透明な決着とならないよう、根本的解決を求める。

 

事態の一歩前進は率直に評価 しかし、まだまだ矛盾解決にはほど遠いのが実感

 中医協に事務局(厚労省保険局医療課)より提案された「歯科用貴金属材料の基準材料価格改定について」は、随時改定Ⅰ・Ⅱの、①実施要件の変動幅と②改定に用いる平均素材価格(素材金属の構成比による理論値)の直近値の反映が「論点」として挙げられた。①変動幅は、(1)現行のまま(Ⅰは±5%、Ⅱは±15%)、(2)一律化(±α%:±5%を例示)、(3)±0%(年4回改定の実施=変動幅要件の削除)の3点。②直近値の反映とは、現行の3カ月前までを「2カ月前まで」へと変更し、中医協へ報告後に事務連絡で告示等の内容を事前周知し、1か月程度の期間短縮を図るというもの。

 これに対し、直近値の反映に関しては診療側・支払側の双方が合意。一方、実施要件の変更に関し診療側は、変動幅の「一律化」は現行と比しても「優れた対応とは思えず、タイムリーな改定とは言えない」と否定。ただ、「±0%」(変動幅要件削除)は市場実勢価格を告示価格に反映する「感度を極力高める対応」と理解を示し、「価格決定が後追いとなる理解の得にくい制度だが」とし、代替材料の開発等や中長期的な抜本的な対応を検討しながら「次善の策として進めてほしい」とした。

 支払側は、実態の適時反映が基本と応じ、歯科医療機関の仕入れ・消費の取引実態の透明化の配慮等に言及し、2カ月前までの直近値反映のシミュレーションの提示の上で最終的に判断したいとした。

 不明瞭で曖昧模糊とした恰好で終わっているが、変動幅要件の削除で収斂する方向となっている。

 中医協提案は、関係者の尽力により改定ルールを動かそうとしている点で、確かに「一歩前進」ではある。しかし、①現行より感度が上がっても「3カ月に1回」の随時改定が前提でありタイムラグが長い。また、②市場実勢価格が公定価格を上回る「逆ザヤ」局面では「後追い」となる。しかも、③平均素材価格(理論値)の変動幅(2か月前までの過去3カ月平均値とその前の3カ月平均値との差)を改定幅とするため、低位平準化されて感度は低く、市場実勢価格の急騰局面では乖離は埋まらない。そもそも、④「逆ザヤ」局面では、過去の「逆ザヤ」分は補填されない、ことになる。

 

原点回帰し、根本論議の継続を 市場実勢と公定価格の乖離率の明示は必須

 昨年721日の中医協では「論点」として「歯科用貴金属材料の基準材料価格改定についてどのように考えるか」という根本的な問いが提示された。診療側は「後追いの仕組みでは限界があり、抜本的な制度そのものの検討も必要」とし、「制度設計の構築」を求めた。支払側も理解を示した。が、915日の「中間とりまとめ」では矮小化され、随時改定の頻度や平均素材価格の直近値反映の検討となり、巷では随時改定の変動幅要件削除が取り沙汰されていた。これが今回の提案へと帰着している。

 市場実勢への公定価格の感度を高めるなら、ひと月単位で平均素材価格の1.2倍程度を毎月適用すれば乖離幅は僅少となる(当協会試算)。治療躊躇となる患者負担への考慮をし、保険者の支払い分のみに適用することも方法である。今回提案の「±0%」では、「一律化」と、さほど大差はない(図1)。

 「逆ザヤが常に発生しない仕組み」の根本議論を深めるため、①市場実勢価格との乖離率の明示は必須であり、②中医協の保険医療材料専門部会の下、「歯科用貴金属価格検討委員会」を新設し、継続議論の担保を築くことは最低限必要と考える。さもなければ根本解決の議論は雲散霧消し、歯科界の宿痾からの決別への期待はしぼみ落胆だけが残る。4月改定で告示価格は大幅下落の観測で、コロナ禍で健闘している歯科医療機関の士気の低下を招く。われわれは根本的解決を改めて強く求める。

2022年1月7日

 


 

【参考資料】

【図1】大差がない「一律化」案と「変動幅要件削除」案(随時改定の実施要件:変動幅「±5%」案と「±0%」の比較)

20220107danwa_01.png

* 第507回中医協総会資料「個別事項(その11)歯科用貴金属材料の基準材料価格改定について」の「歯科用貴金属材料の基準材料価格改定の見直しについて②」より(2021.12.22

 

【図2】変動幅「±0%」案でも上昇中の市場実勢価格には追いつかない(作成:神奈川県保険医協会)

20220107danwa_02.png

 

【図3】随時改定の変動幅の直近値の反映のスケジュール案(2021.12.22中医協資料より)

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