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2021/5/13 政策部長談話 「『単価補正支払い』は患者負担に影響しない 医療を守る現実的で冷静な議論を期待する」

「単価補正支払い」は患者負担に影響しない

医療を守る現実的で冷静な議論を期待する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


単価「変更」と単価「補正」は違う

 財政制度等審議会・財政制度分科会が検討提案した「簡便な手法」(単価補正)の功罪を巡り、皆保険制度の根幹を揺るがし形骸化させるなど、誤解にもとづく過剰反応と思える見解が散見される。単価変更と単価補正の相違を踏まえない混同もある。コロナ禍での医療崩壊の阻止に重なる、財政再建と2040年を見据えた社会保障改革との攻防の下、喫緊は足下の危機からの脱却である。現実的な最適解を採らない限り、医療経営の体力が殺がれ、地域医療体制の連鎖的瓦解は杞憂でなくなる。診療報酬の単価補正支払いと公費支援の二頭立てへの冷静な理解を医療界はじめ関係方面に求める。

日医調査 診療所は年間▲1,000万円

耳鼻咽喉科・小児科は支援金100万円も焼石に水

 4月28日に日本医師会が発表した診療所経営の調査では、2020年4月~21年1月までの10カ月で、1施設あたりの対前年比の医業収入は無床診療所で▲1,091.7万円と大きく落ち込んでいる。診療報酬支払基金、国保中央会の審査統計数値でみると、20年4月から21年2月までに対前年で全体の医療費(保険医療費)は▲1.6兆円で、20年度予算比で▲2.4兆円に及んでいる。1施設あたり平均は対前年度比で診療所は内科が▲887万円(▲9.3%)、小児科▲1,607万円(▲26.2%)、耳鼻咽喉科▲1,883万円(▲24.5%)と、軒並み保険収入の減額が大きい。勿論、病院も平均で▲1億2,409万円(▲4.7%)と減額規模が大きくなっている。

 この間、緊急包括支援交付金等が総計4.6兆円計上されてきたが、その多くは新型コロナ患者受け入れ病院への空床補填・休床補填である。診療所は感染拡大防止等支援事業補助金の100万円が最大限であり、これらは減収分の補填には程遠い。当初より、新型コロナ対応を理由としない公費支出の限界、困難さは指摘されており、医療従事者への慰労金をはじめとする昨夏の二次補正予算での対応は、異例で破格のものであった。われわれは公費支出の限界性を鑑み、確実に余る診療報酬の活用の方法論とし、昨春より「単価補正支払い」を一貫して提案してきた。財政審はそのアイディアの採用まで歩み寄っており、そのこと自体は「大きな前進」とわれわれは理解している。

患者負担へは影響しない 単価補正は事後的に適用する仕組み 

 「単価補正支払い」は、医療機関が診療報酬を1点10円で算定し、患者の一部負担を徴収の上、審査支払機関へ請求をする。月単位の請求であり、請求が出されて初めて前年同月の請求額(保険給付)との対比がされ「減収状況(減収幅)」が判明する。これをもとに、減収状況の逆数値を係数とし、1点10円の単価を補正し、診療報酬を支払う。80/100の減収状況なら、100/80=1.25が補正係数となり、10円×補正係数1.25=12.5円で支払う。医療機関単位での補正なのは、従前の保険収入水準程度を担保することで、その医療機関がこれまで果たしてきた医療機能を毀損しないよう、人員体制や医療物資等を経営的に確実に保障するためである。よって、患者負担へは影響がないし、月々の保険請求は通常通りで何も変わらない。月毎に審査支払機関別に単価を逐次変更するのかとの誤解の余地もない。増収の医療機関へ適用はない。8割の医療機関が減収であり医療を守るためとの理解は可能である。

 ドクターフィーとホスピタルフィーの峻別や、モノと技術の分離、人件費等の固定費と医薬品等の変動費の区分など長年、診療報酬の改革で議論はあったものの、診療報酬は混然一体評価であり、点数単価方式での診療対価支払いの形式をとっている。診療報酬は医療の再生産を保障するものである。災害と違い、カルテ、レセコンの損壊はなく、診療事実は明確であり、「概算」とはならない。現行の診療報酬の仕組みで従前水準を保障するため、とりうる可能な方法は、「有事限定」の臨時的措置での「単価補正支払い」(保険給付調整)となる。財政審も「対価性」の担保に着眼し、「臨時的措置」としアイディアを採用し「簡便な手法」としている。

単価「変更」だと県境問題が発生し皆保険理念は歪む 

 医療界では有事限定であっても、単価を触ることに過剰な反応が示される。財政審の資料には「診療単価」の抑制の文言も散見され不安を覚える向きもある。そこで、まず用語の整理をする。「診療単価」とは「患者一人当たり」の診療費のことである。診療報酬の「1点単価」、「点数単価」の抑制ではない。

 問題となる「1点単価変更」は、全国一律単価の10円を9円や11円へ変更することである。これだと医療機関での患者負担に連動する。1点単価は1963年の甲地・乙地の地域差撤廃以降は全国一律10円で不変である。点数表の矛盾を拡大する(1958年「厚生白書」)とし平時の単価は固定されている。

 地域別や県別の1点単価変更は「医療費適正化計画」との関連で奈良県が提唱したが、「提唱」の域を超えない。法的にも経緯からも不可能であり、過去に問題が焦点化した当時、横倉・前日医会長が患者負担に格差が生じ受療行動に影響し皆保険理念が歪曲する「県境問題」を指摘し、医療界の共通理解となっている。厚労省においても同様の理解がされている。そもそも、地域別報酬は知事に主導権はなく、医療費は「適正化計画」の「目標値」とされていない。この誤解は、医療界には根強い。

 昨年の財政審「建議」では目標値化問題や知事権限の限界を率直に認め、「捲土重来」宣言をしている。

財務省の本丸は都道府県単位の医療費ガバナンスの強化 

 「医療提供体制改革なくして診療報酬改定なし」が22年度の診療報酬改定に向け財務省から発せられたメッセージである。全世代型社会保障改革との関連で、「医療費適正化計画」の機能化について、財務省の一松旬・主計局主計官は「「医療費の見込み」が(計画の)期間中アップデートされないうえ、負担面の保険料水準とも連動しない緊張感に欠けたものとなっている。計画の見直すべき数々の点は示されており、法制として整備すべき」と述べ、とりわけ、都道府県、保険者協議会、審査支払機関の連携・協同でのPDCAサイクルの稼働に力点を置き、後期高齢者医療制度の保険料と医療費の連動、ガバナンス強化を重視している。点数単価の操作より、大仕掛けの構想強化に重点は移動している。

「概算請求」の迷走と混迷 

 コロナ禍で保険収入の激減に騒然とする中、昨春早々に医療界は災害時の「概算請求」の適用を国へ求めた。歩調の統一を優先し先導団体に同調した形だったが、国会で早々に厚労大臣から否定されている。この「概算請求」は紙1枚に診療実日数のみを記載し提出し、審査支払機関が過去3カ月の1日平均の保険診療費をその日数に応じて支払うものである。レセプトは提出しない。「確立」された「概算請求」はこれ以外にはない。この方法を承知しないまま、その後もこの「概算請求」に拘泥した感が強い。要求の趣旨は、前年度水準程度の保険診療費への復元であるが、診療事実の仔細が明確な下での適用や、差額分の補填は、先述の診療報酬の「性格」上、無理があった。整合ある方法論以外に道は開けない。

このままでは、1点単価9円への変更と同じ状況 

 20年度の保険医療費は、19年度の43.6兆円から0.8兆円増の44.4兆円の想定だったが、41.9兆円となり、想定比▲5.6%となる。21年度も同様の規模での減少状況が続き41.9兆円となれば、合計で▲10%近傍となる。つまり、1点単価が10円から9円になったに等しい。実はこの41.9兆円は4年前の2017年度の42.2兆円を下回る水準である。

 21年度は19年度水準の保険医療費43.6兆円に自然増を乗せし予算計上されている。単価補正支払いは顕著に減少していく20年度の保険医療費を、19年度水準に復元することを目的に提案した。財務省は減少した41.9兆円ではなく、19年度の43.6兆円を基に21年度は44.5兆円で国庫負担を積み、「簡便な手法」とし単価補正のアイディアの採用を提案した。20年度は緊急包括支援交付金等4.6兆円が支給措置され、保険診療費との合計46.5兆円が医療現場に投入された。「通常医療」と「コロナ対応医療」との両立には、通常医療を支える従前水準の診療報酬と、臨時対応の新型コロナ対応向けの公費支援の「両輪」が不可欠である。ワクチン接種での集団免疫の獲得に期待をするが当座は収束しない。受診抑制の回復も不透明である。従前の保険医療費の水準への復元は、コロナ収束後を見据えても、これが医療費の「ベースロード」となるだけに今後の医療にとって重要である。財政審の提案は、医療現場にとってはまだまだ不十分なものであるが、医療界は「弱い追い風」(二木立・日本福祉大学名誉教授)を背に、この提案を拡充し医療を守る声を攻勢的に発信すべきと考える。既に、医療機関の機能縮小や人材調整が起きている。冷静な議論を改めて期待する。

2021年5月13日

【参考】

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「単価補正支払い」は患者負担に影響しない

医療を守る現実的で冷静な議論を期待する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


単価「変更」と単価「補正」は違う

 財政制度等審議会・財政制度分科会が検討提案した「簡便な手法」(単価補正)の功罪を巡り、皆保険制度の根幹を揺るがし形骸化させるなど、誤解にもとづく過剰反応と思える見解が散見される。単価変更と単価補正の相違を踏まえない混同もある。コロナ禍での医療崩壊の阻止に重なる、財政再建と2040年を見据えた社会保障改革との攻防の下、喫緊は足下の危機からの脱却である。現実的な最適解を採らない限り、医療経営の体力が殺がれ、地域医療体制の連鎖的瓦解は杞憂でなくなる。診療報酬の単価補正支払いと公費支援の二頭立てへの冷静な理解を医療界はじめ関係方面に求める。

日医調査 診療所は年間▲1,000万円

耳鼻咽喉科・小児科は支援金100万円も焼石に水

 4月28日に日本医師会が発表した診療所経営の調査では、2020年4月~21年1月までの10カ月で、1施設あたりの対前年比の医業収入は無床診療所で▲1,091.7万円と大きく落ち込んでいる。診療報酬支払基金、国保中央会の審査統計数値でみると、20年4月から21年2月までに対前年で全体の医療費(保険医療費)は▲1.6兆円で、20年度予算比で▲2.4兆円に及んでいる。1施設あたり平均は対前年度比で診療所は内科が▲887万円(▲9.3%)、小児科▲1,607万円(▲26.2%)、耳鼻咽喉科▲1,883万円(▲24.5%)と、軒並み保険収入の減額が大きい。勿論、病院も平均で▲1億2,409万円(▲4.7%)と減額規模が大きくなっている。

 この間、緊急包括支援交付金等が総計4.6兆円計上されてきたが、その多くは新型コロナ患者受け入れ病院への空床補填・休床補填である。診療所は感染拡大防止等支援事業補助金の100万円が最大限であり、これらは減収分の補填には程遠い。当初より、新型コロナ対応を理由としない公費支出の限界、困難さは指摘されており、医療従事者への慰労金をはじめとする昨夏の二次補正予算での対応は、異例で破格のものであった。われわれは公費支出の限界性を鑑み、確実に余る診療報酬の活用の方法論とし、昨春より「単価補正支払い」を一貫して提案してきた。財政審はそのアイディアの採用まで歩み寄っており、そのこと自体は「大きな前進」とわれわれは理解している。

患者負担へは影響しない 単価補正は事後的に適用する仕組み 

 「単価補正支払い」は、医療機関が診療報酬を1点10円で算定し、患者の一部負担を徴収の上、審査支払機関へ請求をする。月単位の請求であり、請求が出されて初めて前年同月の請求額(保険給付)との対比がされ「減収状況(減収幅)」が判明する。これをもとに、減収状況の逆数値を係数とし、1点10円の単価を補正し、診療報酬を支払う。80/100の減収状況なら、100/80=1.25が補正係数となり、10円×補正係数1.25=12.5円で支払う。医療機関単位での補正なのは、従前の保険収入水準程度を担保することで、その医療機関がこれまで果たしてきた医療機能を毀損しないよう、人員体制や医療物資等を経営的に確実に保障するためである。よって、患者負担へは影響がないし、月々の保険請求は通常通りで何も変わらない。月毎に審査支払機関別に単価を逐次変更するのかとの誤解の余地もない。増収の医療機関へ適用はない。8割の医療機関が減収であり医療を守るためとの理解は可能である。

 ドクターフィーとホスピタルフィーの峻別や、モノと技術の分離、人件費等の固定費と医薬品等の変動費の区分など長年、診療報酬の改革で議論はあったものの、診療報酬は混然一体評価であり、点数単価方式での診療対価支払いの形式をとっている。診療報酬は医療の再生産を保障するものである。災害と違い、カルテ、レセコンの損壊はなく、診療事実は明確であり、「概算」とはならない。現行の診療報酬の仕組みで従前水準を保障するため、とりうる可能な方法は、「有事限定」の臨時的措置での「単価補正支払い」(保険給付調整)となる。財政審も「対価性」の担保に着眼し、「臨時的措置」としアイディアを採用し「簡便な手法」としている。

単価「変更」だと県境問題が発生し皆保険理念は歪む 

 医療界では有事限定であっても、単価を触ることに過剰な反応が示される。財政審の資料には「診療単価」の抑制の文言も散見され不安を覚える向きもある。そこで、まず用語の整理をする。「診療単価」とは「患者一人当たり」の診療費のことである。診療報酬の「1点単価」、「点数単価」の抑制ではない。

 問題となる「1点単価変更」は、全国一律単価の10円を9円や11円へ変更することである。これだと医療機関での患者負担に連動する。1点単価は1963年の甲地・乙地の地域差撤廃以降は全国一律10円で不変である。点数表の矛盾を拡大する(1958年「厚生白書」)とし平時の単価は固定されている。

 地域別や県別の1点単価変更は「医療費適正化計画」との関連で奈良県が提唱したが、「提唱」の域を超えない。法的にも経緯からも不可能であり、過去に問題が焦点化した当時、横倉・前日医会長が患者負担に格差が生じ受療行動に影響し皆保険理念が歪曲する「県境問題」を指摘し、医療界の共通理解となっている。厚労省においても同様の理解がされている。そもそも、地域別報酬は知事に主導権はなく、医療費は「適正化計画」の「目標値」とされていない。この誤解は、医療界には根強い。

 昨年の財政審「建議」では目標値化問題や知事権限の限界を率直に認め、「捲土重来」宣言をしている。

財務省の本丸は都道府県単位の医療費ガバナンスの強化 

 「医療提供体制改革なくして診療報酬改定なし」が22年度の診療報酬改定に向け財務省から発せられたメッセージである。全世代型社会保障改革との関連で、「医療費適正化計画」の機能化について、財務省の一松旬・主計局主計官は「「医療費の見込み」が(計画の)期間中アップデートされないうえ、負担面の保険料水準とも連動しない緊張感に欠けたものとなっている。計画の見直すべき数々の点は示されており、法制として整備すべき」と述べ、とりわけ、都道府県、保険者協議会、審査支払機関の連携・協同でのPDCAサイクルの稼働に力点を置き、後期高齢者医療制度の保険料と医療費の連動、ガバナンス強化を重視している。点数単価の操作より、大仕掛けの構想強化に重点は移動している。

「概算請求」の迷走と混迷 

 コロナ禍で保険収入の激減に騒然とする中、昨春早々に医療界は災害時の「概算請求」の適用を国へ求めた。歩調の統一を優先し先導団体に同調した形だったが、国会で早々に厚労大臣から否定されている。この「概算請求」は紙1枚に診療実日数のみを記載し提出し、審査支払機関が過去3カ月の1日平均の保険診療費をその日数に応じて支払うものである。レセプトは提出しない。「確立」された「概算請求」はこれ以外にはない。この方法を承知しないまま、その後もこの「概算請求」に拘泥した感が強い。要求の趣旨は、前年度水準程度の保険診療費への復元であるが、診療事実の仔細が明確な下での適用や、差額分の補填は、先述の診療報酬の「性格」上、無理があった。整合ある方法論以外に道は開けない。

このままでは、1点単価9円への変更と同じ状況 

 20年度の保険医療費は、19年度の43.6兆円から0.8兆円増の44.4兆円の想定だったが、41.9兆円となり、想定比▲5.6%となる。21年度も同様の規模での減少状況が続き41.9兆円となれば、合計で▲10%近傍となる。つまり、1点単価が10円から9円になったに等しい。実はこの41.9兆円は4年前の2017年度の42.2兆円を下回る水準である。

 21年度は19年度水準の保険医療費43.6兆円に自然増を乗せし予算計上されている。単価補正支払いは顕著に減少していく20年度の保険医療費を、19年度水準に復元することを目的に提案した。財務省は減少した41.9兆円ではなく、19年度の43.6兆円を基に21年度は44.5兆円で国庫負担を積み、「簡便な手法」とし単価補正のアイディアの採用を提案した。20年度は緊急包括支援交付金等4.6兆円が支給措置され、保険診療費との合計46.5兆円が医療現場に投入された。「通常医療」と「コロナ対応医療」との両立には、通常医療を支える従前水準の診療報酬と、臨時対応の新型コロナ対応向けの公費支援の「両輪」が不可欠である。ワクチン接種での集団免疫の獲得に期待をするが当座は収束しない。受診抑制の回復も不透明である。従前の保険医療費の水準への復元は、コロナ収束後を見据えても、これが医療費の「ベースロード」となるだけに今後の医療にとって重要である。財政審の提案は、医療現場にとってはまだまだ不十分なものであるが、医療界は「弱い追い風」(二木立・日本福祉大学名誉教授)を背に、この提案を拡充し医療を守る声を攻勢的に発信すべきと考える。既に、医療機関の機能縮小や人材調整が起きている。冷静な議論を改めて期待する。

2021年5月13日

【参考】

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