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2014/6/23 政策部長談話「医療秩序を混乱させ、皆保険制度を壊す『患者申出療養』に反対する」

医療秩序を混乱させ、皆保険制度を壊す

「患者申出療養」に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 6月10日、安倍首相が「患者申出療養」の創設を表明し、規制改革会議第二次答申、日本再興戦略に盛り込まれた。これは患者の自己責任で、混合診療を認める仕組みであり、これまでの「臨床研究」を診療名目で実施する「評価療養」(先進医療B)にも値しない、保険外併用療養(=混合診療)の類型となる。来年の通常国会に法案を提出し、2016年度導入とされている。「保険収載に向け」との枕がついているものの、担保措置には矛盾や疑問も多く、安全性・有効性に疑義がつき、保険外の恒久化の危険がある。われわれは、皆保険制度を壊す突破口となる「患者申出療養」の創設に反対する。

 新設予定の「患者申出療養」は、(1)患者の申し出、(2)臨床研究中核病院の介在、(3)「前例」の有無がポイントの仕組みである。現在の「評価療養」(先進医療、治験医薬品等)や「選定療養」(差額ベッド等)に該当しない医療が対象となる(保険局医療課)。

 具体的には、「患者申出療養」として [1] 「前例のない診療」は、患者申出を受け、臨床研究中核病院が国に申請し原則6週間で国が判断し、受診できるようにする。この場合、患者の身近な医療機関を「協力医療機関」としてリストを添付し申請すれば、その医療機関で受診できる。

 [2] 「前例のある診療」は、医療機関が前例を取り扱った臨床研究中核病院へ申請、同病院が原則2週間で、実施体制などを判断し受診できるようにするというものである。

 実はこの枠組みは、臨床研究中核病院の介在を除けば、自己責任の混合診療である「選択療養」の修正版として、規制改革会議が5月28日に提案した中身と、「瓜二つ」である。それゆえに、規制改革会議は、この着地点に満足している。甘利経済再生担当相は「歴史的改革」と強調してさえいる。

 「患者申出療養」は、スピーディーに臨床研究中核病院で「前例」を作り、市中の病院、診療所でも混合診療が実施できるようにする仕組みである。「できるだけ身近な医療機関で、迅速に受診」が基本方針とされている。

 この「前例」作り、未承認の医療(医薬品・医療技術等)の「第一例」の実施は、臨床研究中核病院が「実施計画」(プロトコル)を作成し、国の専門家の「合議」で安全性・有効性を「判断」する。実施計画の「対象外の患者」の申出にも応じ、臨床研究中核病院で安全性・倫理性を検討の上、国が実施を「承認」するとしている。

 現在、「臨床研究」(先進医療B)段階のものを「評価療養」の枠組みで認めているが、これに値しない臨床研究「未満」の医療を僅か1カ月半の短時日で判断し実施させるのは、その安全性・有効性の確認に大きな疑問符がつく。臨床研究(先進医療B)の実施判断は6カ月、抗がん剤の迅速評価でさえ3カ月を要しており、これに比し、実施計画の十分な検討時間の確保がない。迅速実施のため、現在の先進医療専門家会議とは別の陣容で専門家が選定されるが、運営は「会議」でなく、「合議」としている点も拙速な感が拭えない。

 実施計画は、臨床研究と同水準のものを求める(保険局医療課)としているが、対象外の患者への実施を追加的に認めるため、計画デザインの変更が常に余儀なくされ、実施計画に値しない杜撰なものとなる可能性が大である。規制改革の答申では、首相発表資料と異なり、対象外患者の実施がメインに位置づいている。事務手続きの簡略化に医療課長は言及しており、求める「実施計画」の水準が非常に簡素なものになりかねない。「実施計画」の質、水準は極めて重要である。

 そもそも、安全性・有効性の確認のために、ヒト介入の「臨床試験」を実施し(指針対応)、次いで薬事法下の治験を実施するプロセスを踏んでいるのであり、それ以前において安全性・有効性の確認を図ることは、論理矛盾をしているのである。

 折しも、首相が視察後記者発表した慶應大の教授らがベンチャー企業と共同で、これまで猿で成功した、「HGF」タンパク質投与による脊髄損傷の新治療法のヒトへの臨床試験開始を6月16日に発表。その数日前には同じ教授らのグループが、難病の網膜色素変性症患者から作り出したiPS細胞を使い原因遺伝子を解明したとし、新薬開発の可能性、予防治療の可能性を発表してもいる。

 この教授らのグループは神奈川県の国家戦略特区に関与しており、これらはプロジェクト事業に位置づいている。この特区の医療の規制緩和項目は、先進医療ハイウエイ構想による抗がん剤・再生医療・医療機器の迅速評価とともに、未承認薬を希望する患者(治験対象外)への保険外併用の実施が成長戦略で要望されており、「患者申出療養」はこれに適うものとなる。

 保険収載でも問題がある。首相は最終的に保険適用を行っていくと発表し、その資料や規制改革会議の答申では「保険収載に向け」、治験等に進むための判断ができるよう、実施計画の作成、国による確認、重篤な有害事象や実施状況、結果の報告を求めるとした。これは、何も「保険収載」が前提と約束したものではない。

 皆保険、現物給付のわが国の医療保険制度において、安全性・有効性の確立した医療技術・医薬品・医療機器は、保険収載に向けたベクトルが、社会的にも法制度上も常に働くことになる。保険外併用療養であろうが、自由診療であろうが、保険収載以前のものは皆そうである。「患者申出療養」も同様である、その旨を明記したに過ぎない。それをもって、「患者申出療養」が、正当性や妥当性を帯びたとはいえない。

 「評価療養」や学会要望項目は、中医協で保険収載の「篩(ふるい)」がある。反面この制度は、実績の集積状況により、治験等への移行を判断する「材料」として報告はあるものの、臨床研究、治験のプロセスを経て保険導入の評価をすることは、何ら担保されていない。事実上、保険導入は度外視である。保険外の恒久化の公算が高い。

 「患者申出療養」の実施医療機関は、人員・技量や設備などの「施設基準」を臨床研究中核病院が設定し、協力医療機関の承認をしていく。制度が稼働をすれば実施する未承認の医療、医療機関の数は、これまで以上に「拡散」していく。報道では医療機関は1,000カ所超の数字が早くも踊っている。

 対象の医療は、単なる未承認薬の使用や世界初の研究も排除されない。「リスクの低いものは対応可能な地域の病院」との明記があえてあり、先進性がなくなり陳腐化した技術、汎用性があるが保険収載されていない技術(学会要望)なども、臨床研究中核病院のフィルターを通じ、「患者申出療養」として実施することも十分にある。「実施計画」が"免罪符"となる。こうなると、実質、混合診療の全面解禁である。

 過日、成立した医療・介護総合確保法により、臨床研究中核病院は、予算事業から法的な位置づけとなり、法的要件の下、現在の15カ所から増加承認の予定だ。すでに「患者申出療養」を念頭に国立病院機構大阪医療センターが申請の意向を示している。しかし、研究不正で国際的に日本の医学研究の信頼が揺らいでいる中、軽々な承認や、科学研究費に保険財源を補填する「患者申出療養」の類の横行は厳に慎むべきだと考える。

 「患者申出療養」は、難病患者団体、日医、保険者三団体、などの怨嗟の的となった、「選択療養」の衣替えでしかない。「臨床研究中核病院」と「専門家の合議」の関与を、"錦の御旗"とした、事実上、混合診療の全面解禁の仕組みである。「困難な病気と闘う患者」を盾にしながら、患者ヒアリングも全くなく、「成長戦略」として位置づいている。社会保障戦略では決してない。

 時同じくして6月10日、「健康・医療戦略推進本部」が法定設置され、医療・健康分野の研究・開発、新産業の創出に向け、より力を入れ出した。

 この「患者申出療養」は、「第3の道」(保険局医療課)であり、「評価療養」の延長線にはなく、評価療養の意義を崩し、未確立な医療を蔓延させる危険が高い。医療事故も、患者の自己責任となり、医師賠償責任保険の対象外とされかねない。被験者保護法が確立していないゆえになおさらである。

 「患者申出療養」の保険外の部分をカバーする民間保険の開発・販売、それに起因する医療事故を補償する民間保険商品や特約契約などの、マーケットの拡大が連動する。

 住友生命は6月16日、金融庁が昨年、認めた医療保険の保険金の、医療機関への「直接支払いサービス」(民間版「健康保険」)を開始すると発表したが、先進医療特約保険を通じた、保険会社と医療機関の「紐帯」が、歩調をあわせて形成されていくことになる。

 患者申出療養が医療現場に与えるインパクトは大きく、医療倫理や高額医療の跋扈など、医療界のモラルの問題となる恐れも秘めている。

 混合診療は、10年前の騒動を経て保険外併用療養と制度化されたが、(1)自費診療分の負担が可能な経済格差が診療格差となる、(2)自費(民間保険)市場形成で保険収載・給付範囲拡充が遅滞する、(3)逆に保険外しの調整弁とし作用する、(4)未確立な医療を蔓延らせる、(5)自費診療の補填に保険財源が費消され、制度の公正・公平を欠く、(6)皆保険・保険制度の形骸化を生む―ことが、孕んでいる根本問題である。

 あくまでも保険収載までの例外措置として機能させるべきであり、この拡張は社会保障に反し、逆行している。

 新成長戦略(日本再興戦略)では、重粒子線を念頭にした費用対効果の低い技術の保険外併用療養への「留め置き」や、現在モデル事業中の医薬品アクセス制度を無視した、治験薬の対象外患者への日本版コンパッショネートユースの来年度導入も盛られており、保険外併用療養の「融解」が非常に危惧される。

 10年前、中医協で先進医療の創設議論の席上、麦谷医療課長(当時)の「保険導入するのは、ずっと将来でもいいじゃないですか」との発言は、いまもって意味深長である。

 皆保険は、有効性・安全性の確立した医療を給付・充実させ、今日の世界一の健康度を達成した。戦後復興、新国家建設の希望に燃えた社会保障制度審議会50年勧告の精神の開花、結実である。これを蹂躙し、時代を逆行させる流れ、「患者申出療養」の法制化に、われわれは断固反対する。

2014年6月23日

医療秩序を混乱させ、皆保険制度を壊す

「患者申出療養」に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 6月10日、安倍首相が「患者申出療養」の創設を表明し、規制改革会議第二次答申、日本再興戦略に盛り込まれた。これは患者の自己責任で、混合診療を認める仕組みであり、これまでの「臨床研究」を診療名目で実施する「評価療養」(先進医療B)にも値しない、保険外併用療養(=混合診療)の類型となる。来年の通常国会に法案を提出し、2016年度導入とされている。「保険収載に向け」との枕がついているものの、担保措置には矛盾や疑問も多く、安全性・有効性に疑義がつき、保険外の恒久化の危険がある。われわれは、皆保険制度を壊す突破口となる「患者申出療養」の創設に反対する。

 新設予定の「患者申出療養」は、(1)患者の申し出、(2)臨床研究中核病院の介在、(3)「前例」の有無がポイントの仕組みである。現在の「評価療養」(先進医療、治験医薬品等)や「選定療養」(差額ベッド等)に該当しない医療が対象となる(保険局医療課)。

 具体的には、「患者申出療養」として [1] 「前例のない診療」は、患者申出を受け、臨床研究中核病院が国に申請し原則6週間で国が判断し、受診できるようにする。この場合、患者の身近な医療機関を「協力医療機関」としてリストを添付し申請すれば、その医療機関で受診できる。

 [2] 「前例のある診療」は、医療機関が前例を取り扱った臨床研究中核病院へ申請、同病院が原則2週間で、実施体制などを判断し受診できるようにするというものである。

 実はこの枠組みは、臨床研究中核病院の介在を除けば、自己責任の混合診療である「選択療養」の修正版として、規制改革会議が5月28日に提案した中身と、「瓜二つ」である。それゆえに、規制改革会議は、この着地点に満足している。甘利経済再生担当相は「歴史的改革」と強調してさえいる。

 「患者申出療養」は、スピーディーに臨床研究中核病院で「前例」を作り、市中の病院、診療所でも混合診療が実施できるようにする仕組みである。「できるだけ身近な医療機関で、迅速に受診」が基本方針とされている。

 この「前例」作り、未承認の医療(医薬品・医療技術等)の「第一例」の実施は、臨床研究中核病院が「実施計画」(プロトコル)を作成し、国の専門家の「合議」で安全性・有効性を「判断」する。実施計画の「対象外の患者」の申出にも応じ、臨床研究中核病院で安全性・倫理性を検討の上、国が実施を「承認」するとしている。

 現在、「臨床研究」(先進医療B)段階のものを「評価療養」の枠組みで認めているが、これに値しない臨床研究「未満」の医療を僅か1カ月半の短時日で判断し実施させるのは、その安全性・有効性の確認に大きな疑問符がつく。臨床研究(先進医療B)の実施判断は6カ月、抗がん剤の迅速評価でさえ3カ月を要しており、これに比し、実施計画の十分な検討時間の確保がない。迅速実施のため、現在の先進医療専門家会議とは別の陣容で専門家が選定されるが、運営は「会議」でなく、「合議」としている点も拙速な感が拭えない。

 実施計画は、臨床研究と同水準のものを求める(保険局医療課)としているが、対象外の患者への実施を追加的に認めるため、計画デザインの変更が常に余儀なくされ、実施計画に値しない杜撰なものとなる可能性が大である。規制改革の答申では、首相発表資料と異なり、対象外患者の実施がメインに位置づいている。事務手続きの簡略化に医療課長は言及しており、求める「実施計画」の水準が非常に簡素なものになりかねない。「実施計画」の質、水準は極めて重要である。

 そもそも、安全性・有効性の確認のために、ヒト介入の「臨床試験」を実施し(指針対応)、次いで薬事法下の治験を実施するプロセスを踏んでいるのであり、それ以前において安全性・有効性の確認を図ることは、論理矛盾をしているのである。

 折しも、首相が視察後記者発表した慶應大の教授らがベンチャー企業と共同で、これまで猿で成功した、「HGF」タンパク質投与による脊髄損傷の新治療法のヒトへの臨床試験開始を6月16日に発表。その数日前には同じ教授らのグループが、難病の網膜色素変性症患者から作り出したiPS細胞を使い原因遺伝子を解明したとし、新薬開発の可能性、予防治療の可能性を発表してもいる。

 この教授らのグループは神奈川県の国家戦略特区に関与しており、これらはプロジェクト事業に位置づいている。この特区の医療の規制緩和項目は、先進医療ハイウエイ構想による抗がん剤・再生医療・医療機器の迅速評価とともに、未承認薬を希望する患者(治験対象外)への保険外併用の実施が成長戦略で要望されており、「患者申出療養」はこれに適うものとなる。

 保険収載でも問題がある。首相は最終的に保険適用を行っていくと発表し、その資料や規制改革会議の答申では「保険収載に向け」、治験等に進むための判断ができるよう、実施計画の作成、国による確認、重篤な有害事象や実施状況、結果の報告を求めるとした。これは、何も「保険収載」が前提と約束したものではない。

 皆保険、現物給付のわが国の医療保険制度において、安全性・有効性の確立した医療技術・医薬品・医療機器は、保険収載に向けたベクトルが、社会的にも法制度上も常に働くことになる。保険外併用療養であろうが、自由診療であろうが、保険収載以前のものは皆そうである。「患者申出療養」も同様である、その旨を明記したに過ぎない。それをもって、「患者申出療養」が、正当性や妥当性を帯びたとはいえない。

 「評価療養」や学会要望項目は、中医協で保険収載の「篩(ふるい)」がある。反面この制度は、実績の集積状況により、治験等への移行を判断する「材料」として報告はあるものの、臨床研究、治験のプロセスを経て保険導入の評価をすることは、何ら担保されていない。事実上、保険導入は度外視である。保険外の恒久化の公算が高い。

 「患者申出療養」の実施医療機関は、人員・技量や設備などの「施設基準」を臨床研究中核病院が設定し、協力医療機関の承認をしていく。制度が稼働をすれば実施する未承認の医療、医療機関の数は、これまで以上に「拡散」していく。報道では医療機関は1,000カ所超の数字が早くも踊っている。

 対象の医療は、単なる未承認薬の使用や世界初の研究も排除されない。「リスクの低いものは対応可能な地域の病院」との明記があえてあり、先進性がなくなり陳腐化した技術、汎用性があるが保険収載されていない技術(学会要望)なども、臨床研究中核病院のフィルターを通じ、「患者申出療養」として実施することも十分にある。「実施計画」が"免罪符"となる。こうなると、実質、混合診療の全面解禁である。

 過日、成立した医療・介護総合確保法により、臨床研究中核病院は、予算事業から法的な位置づけとなり、法的要件の下、現在の15カ所から増加承認の予定だ。すでに「患者申出療養」を念頭に国立病院機構大阪医療センターが申請の意向を示している。しかし、研究不正で国際的に日本の医学研究の信頼が揺らいでいる中、軽々な承認や、科学研究費に保険財源を補填する「患者申出療養」の類の横行は厳に慎むべきだと考える。

 「患者申出療養」は、難病患者団体、日医、保険者三団体、などの怨嗟の的となった、「選択療養」の衣替えでしかない。「臨床研究中核病院」と「専門家の合議」の関与を、"錦の御旗"とした、事実上、混合診療の全面解禁の仕組みである。「困難な病気と闘う患者」を盾にしながら、患者ヒアリングも全くなく、「成長戦略」として位置づいている。社会保障戦略では決してない。

 時同じくして6月10日、「健康・医療戦略推進本部」が法定設置され、医療・健康分野の研究・開発、新産業の創出に向け、より力を入れ出した。

 この「患者申出療養」は、「第3の道」(保険局医療課)であり、「評価療養」の延長線にはなく、評価療養の意義を崩し、未確立な医療を蔓延させる危険が高い。医療事故も、患者の自己責任となり、医師賠償責任保険の対象外とされかねない。被験者保護法が確立していないゆえになおさらである。

 「患者申出療養」の保険外の部分をカバーする民間保険の開発・販売、それに起因する医療事故を補償する民間保険商品や特約契約などの、マーケットの拡大が連動する。

 住友生命は6月16日、金融庁が昨年、認めた医療保険の保険金の、医療機関への「直接支払いサービス」(民間版「健康保険」)を開始すると発表したが、先進医療特約保険を通じた、保険会社と医療機関の「紐帯」が、歩調をあわせて形成されていくことになる。

 患者申出療養が医療現場に与えるインパクトは大きく、医療倫理や高額医療の跋扈など、医療界のモラルの問題となる恐れも秘めている。

 混合診療は、10年前の騒動を経て保険外併用療養と制度化されたが、(1)自費診療分の負担が可能な経済格差が診療格差となる、(2)自費(民間保険)市場形成で保険収載・給付範囲拡充が遅滞する、(3)逆に保険外しの調整弁とし作用する、(4)未確立な医療を蔓延らせる、(5)自費診療の補填に保険財源が費消され、制度の公正・公平を欠く、(6)皆保険・保険制度の形骸化を生む―ことが、孕んでいる根本問題である。

 あくまでも保険収載までの例外措置として機能させるべきであり、この拡張は社会保障に反し、逆行している。

 新成長戦略(日本再興戦略)では、重粒子線を念頭にした費用対効果の低い技術の保険外併用療養への「留め置き」や、現在モデル事業中の医薬品アクセス制度を無視した、治験薬の対象外患者への日本版コンパッショネートユースの来年度導入も盛られており、保険外併用療養の「融解」が非常に危惧される。

 10年前、中医協で先進医療の創設議論の席上、麦谷医療課長(当時)の「保険導入するのは、ずっと将来でもいいじゃないですか」との発言は、いまもって意味深長である。

 皆保険は、有効性・安全性の確立した医療を給付・充実させ、今日の世界一の健康度を達成した。戦後復興、新国家建設の希望に燃えた社会保障制度審議会50年勧告の精神の開花、結実である。これを蹂躙し、時代を逆行させる流れ、「患者申出療養」の法制化に、われわれは断固反対する。

2014年6月23日