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2014/5/7 政策部長談話「安全性無視、患者不在の『選択療養』を隠れ蓑にした保険外併用療養の『大幅拡大』『大転換』に反対する」

安全性無視、患者不在の「選択療養」を隠れ蓑にした

保険外併用療養の「大幅拡大」「大転換」に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 規制改革会議が提案した、患者の同意、自己責任で混合診療を「何でも」できるとする「選択療養」が、難病患者団体、保険者三団体、日本医師会、マスコミと怨嗟の的となっている。このような中、保険外併用療養(=混合診療)は産業競争力会議の提案を軸に着地点が探られはじめている。しかし、その内容は再生医療の先進医療への迅速適応、費用対効果の低い先進医療の恒久化、選定療養のメニュー増加、治験の対象外の患者への未承認薬の使用など4つを柱とした保険外併用療養の「大幅拡大」「大転換」である。これは患者の選択肢拡大を盾に、安全性・有効性を担保した保険診療の拡充を反故にし、自費負担を前提にした経済格差による医療格差を助長していく。われわれは皆保険制度を守るため、乱暴で荒唐無稽な「選択療養」撤回を求め、保険外併用療養の「大幅拡大」に断固反対する。

 規制改革会議は「選択療養」の旗を依然、降ろしていない。4月16日、規制改革会議は、「選択療養」の手続き等を提案。これに重ね、直後に開催された経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会議で、首相より保険外併用療養の拡大に関し、「制度を大きく変える」と指示が出され衝撃が走った。4月23日の規制改革会議で厚労省は、安全性・有効性のデータ集積に関し、規制改革会議の提案は、科学的考慮に値しないと一刀両断とした。記者会見で岡議長は患者不在を問われ、気色ばむ一幕となっているが、強気である。

 規制改革会議は、最低限、倫理審査委員会の承認があれば「選択療養」対象の医療とし、その有効性の判断を「中立的な専門家」に仰ぎ実施するとの手続きを提案している。当会は4月21日、規制改革推進室に照会したが、「院内倫理審査委員会、セントラルIRBにするかは未定」とし、専門家の「中立性」の担保方法についても未定と、明確な返答はできず、 "お手盛り" を排除する仕組みは描けていない。また、「もっぱら保険外診療を目的としない」との排除規定も、「もっぱら」の定義も比率も定かでない。

 厚労省は、安全性・有効性と、保険収載が前提とし、「選択療養」に難色を示し否定的だが、規制改革会議との折り合いは可能としている。一部報道でも折衷案を模索中とされている。

 厚労省は4月16日の経済財政諮問会議へ具体案を提示したが、これは昨年12月に産業競争力会議医療・介護等分科会が提案した「中間整理」(H25.12.26)の内容と「瓜二つ」である。

 首相の指示は「制度を大きく変える」であり、選択療養には言及はしていない。「困難な病気と闘う患者」の枕言葉が、規制改革会議と一緒なだけであり、「着地点」がここになると観測されている。

 しかし、楽観は禁物である。厚労省の提案内容は、保険外併用療養の変質を大きく図るものである。内容は(1)再生医療、医療機器の迅速審査による評価療養への対象化、(2)費用対効果の低い医薬品等への対応、(3)重篤な患者への未承認薬の迅速使用、(4)選定療養のメニュー増加の仕組みの構築である。

 とりわけ、産業競争力会議の提案では、(2)は「有効性等はあるが保険適用が見込めない医療技術等の保険外併用療養費制度上の取り扱いの検討」とし、1) 費用対効果が低い医療技術の保険外併用療養の継続的利用、 2) 開発コストの回収が難しく治験が進まず保険適用が見込めない医療技術の取り扱いとして、挙げられたものである。これは、保険収載を前提にした評価療養の在り方を大きく転換し、毀損することとなる。

 昨年11月28日の規制改革会議の保険外併用療養に関する公開ディスカッションで、俎上にあがったのが、費用対効果の低い重粒子線治療と、市場性がないため治験に至らない悪性骨軟部腫瘍へのカフェイン併用化学療法の、まさにこの二つであり、規制改革担当大臣をはじめ委員から、新たなカテゴリーの必要性を畳み込まれ、厚労省が「検討」を約束したものである。

 これは、保険導入への評価の篩を一定期間ごとにかけ保険導入に至らないものの、保険外併用療養への「留め置き」、常態化となる。これは日医が評価療養の「選定療養」化として早くからその危険性へ警鐘を鳴らしていたものである。

 また、再生医療、医療機器の迅速評価は抗がん剤に次ぐ「先進医療ハイウエイ構想」での拡張、保険外併用療養の拡大であり、産業競争力会議は、国内15カ所の臨床研究中核病院等に限定せず、国家戦略特区での国際医療拠点でも使用ができるよう求めているものである。いずれも、臨床研究の範疇であり、実施計画(プロトコル)が前提となるが、これらのデータは治験データへの活用はできないのであり、被験者保護の観点からも、保険財政上の観点からも、保険外併用療養と位置づけること自体が本末転倒である。

 重篤な患者への未承認薬の迅速使用は、「日本版コンパッショネートユース」(未承認薬の人道的使用)とし、治験対象者以外への利用を念頭に産業競争力会議が求めているものである。これは、過去に「迅速検討会」で議論されたものの形にはならず、それどころか生活保護患者へのサリドマイド等の未承認薬の使用を医師と患者の自己責任で認めるという論外な通知が発出(2008.3.12)される異例の事態に展開している。諸外国のコンパッショネートユースの制度は様々だが、輸入する医薬品の品質確保・管理、安全監視、事故・被害の補償など問題は数多く、「人道的」の名の下で、未承認薬がすぐ使えるというのは幻想に過ぎない。ドラッグラグの放置、治験遅滞なども付随する課題となる。

 「選定療養」は保険収載を前提にしない、保険外併用療養のカテゴリーである。個室や二人部屋の差額ベッドや、予約診療、時間外診療、大病院への紹介状なし初診の「アメニティ」と称されるものに加え、保険ルールの制限回数を超える、検査(AFP、CEA)や精神科ナイト・ケアなどの医療行為も含まれている。産業競争力会議は、「対象の拡充」を挙げており、これが増えるということは、保険診療の充実と逆行することになる。つまり、団塊世代の高齢化を前にしても、プライバシーを配慮した個室化は保険診療では否定されているが、この傾向が益々強まっていく、場合によっては汎用的な医療行為の保険診療の拡充さえも放棄されることを意味する。

 産業競争力会議は、これらは「関係省庁と相当きちんとすり合わせをしてたどりついた成果」としており(13年2月25日会議)、この方向で、規制改革会議との調整にも舵が切られ、収束モードに入っていくかのように見える。おりしも「選択療養」を牽制した混合診療推進派の読売、産経の社説は、その後押しの感がある。(読売「混合診療 拡充は患者の選択肢を広げる」<2012.4.23>、産経「混合診療の拡大 患者の利益こそ最重要だ」<2012.4.28>)。

 規制改革会議と産業競争力会議、厚生労働省と各々の主張は一様ではなく、意見の衝突や利害の不一致も見られるが、俯瞰すると「選択療養」の暴論を隠れ蓑に保険外併用療養の「制度が大きく変えられ」ようとしている。これがいまの客観的な構図である。

 医療医学の進歩は否定するものではなく、それへの飽くなき挑戦はまた同様である。しかし、臨床研究は、本来、科学研究費で対応すべきものである。また治験(臨床試験)も、患者の治療への効果は定かではないが、将来の患者への貢献のため被験者として参加協力を求めるものである。これらは、安全性・有効性を担保とした診療とは一線を画しており、これを保険外併用療養と詐称し、保険財源を「流用」し、際限なく拡張することは、被験者保護、ヘルシンキ宣言にも悖る行為である。

 いわんや、実用性や商業性の枷を成長戦略の名の下で課すことは、有害事象報告の欠落や科学的統計データの操作などの倫理違反を招きやすく、臨床研究の歪曲が危惧される。まして自身の名声のため患者を「誘導」することなどがあれば、言語道断である。

 4月22日、金沢大学病院はカフェイン併用化学療法の倫理違反を記者会見した。これは昨年11月に規制改革会議のディスカッションで担当大臣が保険外併用療養の新たなカテゴリーの検討のために、推したものである。これが倫理審査委員会に継続手続きをとらず1年9カ月もの間、継続実施し去年12月に中止としたことを、死亡例の必要な報告を欠いていたことと併せ、この時期に発表した。

 実は厚労省も保険外併用療養を、違反状態の昨年まで1年以上も支給していたことが資料で判明している。千葉県がんセンターでの適用外の腹腔鏡手術の事故事例と不正請求も明るみになるなど、先進医療の美名の下、杜撰な実態の発覚が続いている。保険外併用療養の先進医療とされながら、実績が年間に1例もない医療技術が9件もあること等、世間的には意外と知られていないのが現実である。

 臨床研究、治験は保険外併用療養から「切り離し」、きちんと峻別した上で、指針と法令での対応という二重基準を解消し、被験者保護法を新設の下、再構成をしなおすよう制度を大きく変え、必要で適正な財源を投入すべきである。

 保険外併用療養の拡大への「誘惑」は尽きない。医療費抑制策の下、医療技術の保険導入は遅々とし、保険ルールの厳格化、制限化、査定の強化による、宿命的な保険診療の不自由さの解決を、保険外併用療養に求めることは、皆保険の理念・功績と相反する。

 保険外併用療養の拡張は、保険診療の縮小であり、それは十分な治療を保険診療で難しくし、産業界にとっては良質な労働力の確保を難しくする。はたまた米国のGM(General Motors)のように、社員への過重な福利厚生として、保険外に備える民間保険の購入資金や賃金の上乗せに帰着していく。

 財政健全化、財政再建が至上命題の、政府・財務省にとっても、臨床研究や未確立な再生医療に保険財源が費消され、さらに有効なデータ蓄積とならずに医療・科学政策としても有意とならない。

 10年前、首相の混合診療解禁指示の下、政治問題化し、「保険外併用療養費制度」で落着した。当時は、衆参両院で、混合診療解禁阻止で決議がなされている。が、その後の制度変遷は潜脱が著しい。

 この制度を「パンドラの箱」とせず、「文殊の知恵」とする良識が何よりである。このままでは保険診療がどんどん蹂躙されていく。いま皆保険制度が泣いている。

 「選択療養」は「医療の安全や質の保証への配慮を欠いた、実にアブナイ提案」(二木立・日本福祉大学学長『日本医事新報』<2014.4.19>P17)であり、保険外併用療養の「大幅拡大」は「未確立な医療の蔓延」(出河雅彦・朝日新聞青森総局長『混合診療―「市場原理が医療を破壊する」』)を加速する。

 われわれは選択療養の撤回は勿論のこと、保険外併用療養の「大幅拡大」に強く反対する。

2014年5月7日

 

安全性無視、患者不在の「選択療養」を隠れ蓑にした

保険外併用療養の「大幅拡大」「大転換」に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 規制改革会議が提案した、患者の同意、自己責任で混合診療を「何でも」できるとする「選択療養」が、難病患者団体、保険者三団体、日本医師会、マスコミと怨嗟の的となっている。このような中、保険外併用療養(=混合診療)は産業競争力会議の提案を軸に着地点が探られはじめている。しかし、その内容は再生医療の先進医療への迅速適応、費用対効果の低い先進医療の恒久化、選定療養のメニュー増加、治験の対象外の患者への未承認薬の使用など4つを柱とした保険外併用療養の「大幅拡大」「大転換」である。これは患者の選択肢拡大を盾に、安全性・有効性を担保した保険診療の拡充を反故にし、自費負担を前提にした経済格差による医療格差を助長していく。われわれは皆保険制度を守るため、乱暴で荒唐無稽な「選択療養」撤回を求め、保険外併用療養の「大幅拡大」に断固反対する。

 規制改革会議は「選択療養」の旗を依然、降ろしていない。4月16日、規制改革会議は、「選択療養」の手続き等を提案。これに重ね、直後に開催された経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会議で、首相より保険外併用療養の拡大に関し、「制度を大きく変える」と指示が出され衝撃が走った。4月23日の規制改革会議で厚労省は、安全性・有効性のデータ集積に関し、規制改革会議の提案は、科学的考慮に値しないと一刀両断とした。記者会見で岡議長は患者不在を問われ、気色ばむ一幕となっているが、強気である。

 規制改革会議は、最低限、倫理審査委員会の承認があれば「選択療養」対象の医療とし、その有効性の判断を「中立的な専門家」に仰ぎ実施するとの手続きを提案している。当会は4月21日、規制改革推進室に照会したが、「院内倫理審査委員会、セントラルIRBにするかは未定」とし、専門家の「中立性」の担保方法についても未定と、明確な返答はできず、 "お手盛り" を排除する仕組みは描けていない。また、「もっぱら保険外診療を目的としない」との排除規定も、「もっぱら」の定義も比率も定かでない。

 厚労省は、安全性・有効性と、保険収載が前提とし、「選択療養」に難色を示し否定的だが、規制改革会議との折り合いは可能としている。一部報道でも折衷案を模索中とされている。

 厚労省は4月16日の経済財政諮問会議へ具体案を提示したが、これは昨年12月に産業競争力会議医療・介護等分科会が提案した「中間整理」(H25.12.26)の内容と「瓜二つ」である。

 首相の指示は「制度を大きく変える」であり、選択療養には言及はしていない。「困難な病気と闘う患者」の枕言葉が、規制改革会議と一緒なだけであり、「着地点」がここになると観測されている。

 しかし、楽観は禁物である。厚労省の提案内容は、保険外併用療養の変質を大きく図るものである。内容は(1)再生医療、医療機器の迅速審査による評価療養への対象化、(2)費用対効果の低い医薬品等への対応、(3)重篤な患者への未承認薬の迅速使用、(4)選定療養のメニュー増加の仕組みの構築である。

 とりわけ、産業競争力会議の提案では、(2)は「有効性等はあるが保険適用が見込めない医療技術等の保険外併用療養費制度上の取り扱いの検討」とし、1) 費用対効果が低い医療技術の保険外併用療養の継続的利用、 2) 開発コストの回収が難しく治験が進まず保険適用が見込めない医療技術の取り扱いとして、挙げられたものである。これは、保険収載を前提にした評価療養の在り方を大きく転換し、毀損することとなる。

 昨年11月28日の規制改革会議の保険外併用療養に関する公開ディスカッションで、俎上にあがったのが、費用対効果の低い重粒子線治療と、市場性がないため治験に至らない悪性骨軟部腫瘍へのカフェイン併用化学療法の、まさにこの二つであり、規制改革担当大臣をはじめ委員から、新たなカテゴリーの必要性を畳み込まれ、厚労省が「検討」を約束したものである。

 これは、保険導入への評価の篩を一定期間ごとにかけ保険導入に至らないものの、保険外併用療養への「留め置き」、常態化となる。これは日医が評価療養の「選定療養」化として早くからその危険性へ警鐘を鳴らしていたものである。

 また、再生医療、医療機器の迅速評価は抗がん剤に次ぐ「先進医療ハイウエイ構想」での拡張、保険外併用療養の拡大であり、産業競争力会議は、国内15カ所の臨床研究中核病院等に限定せず、国家戦略特区での国際医療拠点でも使用ができるよう求めているものである。いずれも、臨床研究の範疇であり、実施計画(プロトコル)が前提となるが、これらのデータは治験データへの活用はできないのであり、被験者保護の観点からも、保険財政上の観点からも、保険外併用療養と位置づけること自体が本末転倒である。

 重篤な患者への未承認薬の迅速使用は、「日本版コンパッショネートユース」(未承認薬の人道的使用)とし、治験対象者以外への利用を念頭に産業競争力会議が求めているものである。これは、過去に「迅速検討会」で議論されたものの形にはならず、それどころか生活保護患者へのサリドマイド等の未承認薬の使用を医師と患者の自己責任で認めるという論外な通知が発出(2008.3.12)される異例の事態に展開している。諸外国のコンパッショネートユースの制度は様々だが、輸入する医薬品の品質確保・管理、安全監視、事故・被害の補償など問題は数多く、「人道的」の名の下で、未承認薬がすぐ使えるというのは幻想に過ぎない。ドラッグラグの放置、治験遅滞なども付随する課題となる。

 「選定療養」は保険収載を前提にしない、保険外併用療養のカテゴリーである。個室や二人部屋の差額ベッドや、予約診療、時間外診療、大病院への紹介状なし初診の「アメニティ」と称されるものに加え、保険ルールの制限回数を超える、検査(AFP、CEA)や精神科ナイト・ケアなどの医療行為も含まれている。産業競争力会議は、「対象の拡充」を挙げており、これが増えるということは、保険診療の充実と逆行することになる。つまり、団塊世代の高齢化を前にしても、プライバシーを配慮した個室化は保険診療では否定されているが、この傾向が益々強まっていく、場合によっては汎用的な医療行為の保険診療の拡充さえも放棄されることを意味する。

 産業競争力会議は、これらは「関係省庁と相当きちんとすり合わせをしてたどりついた成果」としており(13年2月25日会議)、この方向で、規制改革会議との調整にも舵が切られ、収束モードに入っていくかのように見える。おりしも「選択療養」を牽制した混合診療推進派の読売、産経の社説は、その後押しの感がある。(読売「混合診療 拡充は患者の選択肢を広げる」<2012.4.23>、産経「混合診療の拡大 患者の利益こそ最重要だ」<2012.4.28>)。

 規制改革会議と産業競争力会議、厚生労働省と各々の主張は一様ではなく、意見の衝突や利害の不一致も見られるが、俯瞰すると「選択療養」の暴論を隠れ蓑に保険外併用療養の「制度が大きく変えられ」ようとしている。これがいまの客観的な構図である。

 医療医学の進歩は否定するものではなく、それへの飽くなき挑戦はまた同様である。しかし、臨床研究は、本来、科学研究費で対応すべきものである。また治験(臨床試験)も、患者の治療への効果は定かではないが、将来の患者への貢献のため被験者として参加協力を求めるものである。これらは、安全性・有効性を担保とした診療とは一線を画しており、これを保険外併用療養と詐称し、保険財源を「流用」し、際限なく拡張することは、被験者保護、ヘルシンキ宣言にも悖る行為である。

 いわんや、実用性や商業性の枷を成長戦略の名の下で課すことは、有害事象報告の欠落や科学的統計データの操作などの倫理違反を招きやすく、臨床研究の歪曲が危惧される。まして自身の名声のため患者を「誘導」することなどがあれば、言語道断である。

 4月22日、金沢大学病院はカフェイン併用化学療法の倫理違反を記者会見した。これは昨年11月に規制改革会議のディスカッションで担当大臣が保険外併用療養の新たなカテゴリーの検討のために、推したものである。これが倫理審査委員会に継続手続きをとらず1年9カ月もの間、継続実施し去年12月に中止としたことを、死亡例の必要な報告を欠いていたことと併せ、この時期に発表した。

 実は厚労省も保険外併用療養を、違反状態の昨年まで1年以上も支給していたことが資料で判明している。千葉県がんセンターでの適用外の腹腔鏡手術の事故事例と不正請求も明るみになるなど、先進医療の美名の下、杜撰な実態の発覚が続いている。保険外併用療養の先進医療とされながら、実績が年間に1例もない医療技術が9件もあること等、世間的には意外と知られていないのが現実である。

 臨床研究、治験は保険外併用療養から「切り離し」、きちんと峻別した上で、指針と法令での対応という二重基準を解消し、被験者保護法を新設の下、再構成をしなおすよう制度を大きく変え、必要で適正な財源を投入すべきである。

 保険外併用療養の拡大への「誘惑」は尽きない。医療費抑制策の下、医療技術の保険導入は遅々とし、保険ルールの厳格化、制限化、査定の強化による、宿命的な保険診療の不自由さの解決を、保険外併用療養に求めることは、皆保険の理念・功績と相反する。

 保険外併用療養の拡張は、保険診療の縮小であり、それは十分な治療を保険診療で難しくし、産業界にとっては良質な労働力の確保を難しくする。はたまた米国のGM(General Motors)のように、社員への過重な福利厚生として、保険外に備える民間保険の購入資金や賃金の上乗せに帰着していく。

 財政健全化、財政再建が至上命題の、政府・財務省にとっても、臨床研究や未確立な再生医療に保険財源が費消され、さらに有効なデータ蓄積とならずに医療・科学政策としても有意とならない。

 10年前、首相の混合診療解禁指示の下、政治問題化し、「保険外併用療養費制度」で落着した。当時は、衆参両院で、混合診療解禁阻止で決議がなされている。が、その後の制度変遷は潜脱が著しい。

 この制度を「パンドラの箱」とせず、「文殊の知恵」とする良識が何よりである。このままでは保険診療がどんどん蹂躙されていく。いま皆保険制度が泣いている。

 「選択療養」は「医療の安全や質の保証への配慮を欠いた、実にアブナイ提案」(二木立・日本福祉大学学長『日本医事新報』<2014.4.19>P17)であり、保険外併用療養の「大幅拡大」は「未確立な医療の蔓延」(出河雅彦・朝日新聞青森総局長『混合診療―「市場原理が医療を破壊する」』)を加速する。

 われわれは選択療養の撤回は勿論のこと、保険外併用療養の「大幅拡大」に強く反対する。

2014年5月7日