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2018/5/22 政策部長談話 「地域差撤廃の歴史を反故にする地域別診療報酬の具体化に強く反対する」

地域差撤廃の歴史を反故にする

地域別診療報酬の具体化に強く反対する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 診療報酬の1点単価10円を9円や8円とし独自の項目を設定するなど、都道府県の申し出を厚労省が「特例的に」認める、地域別診療報酬の稼働に向けた具体化が、財政制度等審議会などで議論となっている。皆保険制度は全国一律の診療報酬で、医療の質と経営を保障しており、「格差」の導入となればこの根幹を崩す。皆保険制度発足時、地域により甲地・乙地と1点単価の差があり、この「地域差撤廃」は全国の医療関係者の悲願であった。この先達の労苦や尽力による単価の全国統一の歴史を無にし、社会的混乱を招来させる都道府県別の診療報酬の実働化にわれわれは強く反対する。

◆ 都道府県別診療報酬は「医療費適正化計画」と一対 2023年▲6千億円は織込み済み

 地域別診療報酬といわれる「診療報酬の特例」は高齢者医療確保法の第14条に定められている。これは医療費適正化計画の目標の達成に関し、厚労大臣は「必要があると認めるときは、一の都道府県の区域内における診療報酬について、地域の実情を踏まえつつ、適切な医療を各都道府県間において公平に提供する観点から見て合理的であると認められる範囲内において、他の都道府県の区域内における診療報酬と異なる定めをすることができる」、その「定めをするに当たっては、あらかじめ、関係都道府県知事に協議するもの」とされている。

 地域別診療報酬とは、「都道府県」別の診療報酬である。都道府県別診療報酬は、県ごとに作成する「医療費適正化計画」と一対の関係にある。しかも、医療費適正化計画は1期6年の計画終了後に目標達成の実績評価を行い、「次期計画」の目標達成の方策を検討し、その際に「必要」と判断した場合に、県が「保険者協議会」の議論を踏まえ、国に意見を提出する「プロセス」をとることになる。簡単に発動はできない仕組みとなっている。

 医療費適正化計画は、医療費の見込み(目標)が「必須」であり、いまは第3期(2018年度~2023年度)である。①後発医薬品の普及(80%)、②特定健診等の実施率、③1人当たり外来医療費の地域差縮減(半減)、④病床機能の分化・連携―の4つの施策による適正化効果を織り込んで、推計をすることになっており、策定済みである。厚労省はこれにより、2023年度に全国で▲6千億円の適正化効果があるとしている。そもそもこの計画そのものが、▽医療・医学的検証が不在での後発品普及率向上、▽医療資源、医療人材の地域偏在を不問とした外来医療費縮減などの問題を孕んでもいる。

◆ 2008年の法律制定以来、実例はなし 医療費抑制の「調整弁」の「特例」は無理筋 反発続出

 この地域別診療報酬はこれまでに実働はなく、具体的な運用・方法が詰められていない。財務省は、社会保障費抑制の「骨太方針2018」策定の議論にあわせ、4月11日の財政制度等審議会財政制度分科会で提案。「具体的に活用可能なメニューを国が示すべき」と提言。奈良県が「積極的活用」を検討していると紹介した。委員からは国保への法定外繰り入れをなくし、「負担と給付のバランスをとる観点からも重要」との趣旨の意見が出てもいる。

 点数単価の「切り下げ」に限らず、項目点数の「減点」、点数項目の「改変」、「削除」など、全国と異なる設定が可能となる。「診療報酬の特例」を医療費抑制の「調整弁」へと露骨に踏み込んでいる。

 さすがに、日医は同日に横倉会長が反対を旗幟鮮明にし、県境の患者動向の変化、医療従事者の移動をもたらし偏在加速、医療の質の低下を招くと指摘。社保審医療保険部会で保険者からの反対表明や全国知事会長、全国市長会長代理、全国町村会長から、この制度創設時から、妥当性や実効性が疑問視され慎重論、反対意見がだされているとも紹介。

 4月19日の医療保険部会でも全国知事会、健保連や日医、日歯から慎重・反対意見が相次いだ。与党内にも慎重論が根強く存在している。

 意欲を見せる奈良県だが、3月28日に当局が記者会見で公表。これに対し地元の奈良県医師会は4月13日に「地域別診療報酬」に関する緊急会議を開催、4月25日の地区協議会で「医療の質が低下する」「容認できない」と断固反対を決議。郡市医師会も連動し、反発と波紋が広がっている。

◆ 地域差撤廃以降、全国一律の診療報酬は医療保障の発展の土台 歴史を無にする策動に反対

 診療報酬の地域差は1963年9月に撤廃された。地域差とは6 大都市と川崎、尼崎など4 市を「甲地」、その他の市町村を「乙地」とし1点単価に格差をつけたものである。この撤廃は大阪府医師会、京都府医師会などをはじめ全国の保険医の5年にわたる強力な運動により自民党が動き、「四要求」とし日医が厚生省に要請し成し得たものである。四要求とは①1点単価引き上げ、②制限診療撤廃、③甲乙点数表の一本化、④地域差撤廃―であり、医師会、開業医がたたかって果実を得たのである。

 皆保険制度の揺籃期にこの撤廃がなされた以降、単価格差を診療報酬制度は認めておらず、それが全国の医療の均霑化に大きく貢献をしてきた。医療の技術・労働を全国一律単価で保障し、医療の再生産を支えてきた。

 診療報酬は個々の項目の「点数」は「技術指数」を示し、「単価」は「経済指数」を示すといわれるが、1点単価は「10円」で事実上、固定化され高度経済成長やバブル経済・地価高騰でも不変できた。点数の「高低・多寡」と項目設定の「対象」「範囲」の「増減」や「内容」で技術評価と経済評価を混在させ、両立させてきた。不十分さはありながらも、医療の質を全国的に担保する、全国一律単価、全国一様の診療報酬は、社会的共通資本としての医療を守る上で不可欠である。

 われわれは、財政至上主義で、医療の実態を顧みない、地域別診療報酬の稼働・実働の具体化に強く反対する。

2018年5月22日

地域差撤廃の歴史を反故にする

地域別診療報酬の具体化に強く反対する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 診療報酬の1点単価10円を9円や8円とし独自の項目を設定するなど、都道府県の申し出を厚労省が「特例的に」認める、地域別診療報酬の稼働に向けた具体化が、財政制度等審議会などで議論となっている。皆保険制度は全国一律の診療報酬で、医療の質と経営を保障しており、「格差」の導入となればこの根幹を崩す。皆保険制度発足時、地域により甲地・乙地と1点単価の差があり、この「地域差撤廃」は全国の医療関係者の悲願であった。この先達の労苦や尽力による単価の全国統一の歴史を無にし、社会的混乱を招来させる都道府県別の診療報酬の実働化にわれわれは強く反対する。

◆ 都道府県別診療報酬は「医療費適正化計画」と一対 2023年▲6千億円は織込み済み

 地域別診療報酬といわれる「診療報酬の特例」は高齢者医療確保法の第14条に定められている。これは医療費適正化計画の目標の達成に関し、厚労大臣は「必要があると認めるときは、一の都道府県の区域内における診療報酬について、地域の実情を踏まえつつ、適切な医療を各都道府県間において公平に提供する観点から見て合理的であると認められる範囲内において、他の都道府県の区域内における診療報酬と異なる定めをすることができる」、その「定めをするに当たっては、あらかじめ、関係都道府県知事に協議するもの」とされている。

 地域別診療報酬とは、「都道府県」別の診療報酬である。都道府県別診療報酬は、県ごとに作成する「医療費適正化計画」と一対の関係にある。しかも、医療費適正化計画は1期6年の計画終了後に目標達成の実績評価を行い、「次期計画」の目標達成の方策を検討し、その際に「必要」と判断した場合に、県が「保険者協議会」の議論を踏まえ、国に意見を提出する「プロセス」をとることになる。簡単に発動はできない仕組みとなっている。

 医療費適正化計画は、医療費の見込み(目標)が「必須」であり、いまは第3期(2018年度~2023年度)である。①後発医薬品の普及(80%)、②特定健診等の実施率、③1人当たり外来医療費の地域差縮減(半減)、④病床機能の分化・連携―の4つの施策による適正化効果を織り込んで、推計をすることになっており、策定済みである。厚労省はこれにより、2023年度に全国で▲6千億円の適正化効果があるとしている。そもそもこの計画そのものが、▽医療・医学的検証が不在での後発品普及率向上、▽医療資源、医療人材の地域偏在を不問とした外来医療費縮減などの問題を孕んでもいる。

◆ 2008年の法律制定以来、実例はなし 医療費抑制の「調整弁」の「特例」は無理筋 反発続出

 この地域別診療報酬はこれまでに実働はなく、具体的な運用・方法が詰められていない。財務省は、社会保障費抑制の「骨太方針2018」策定の議論にあわせ、4月11日の財政制度等審議会財政制度分科会で提案。「具体的に活用可能なメニューを国が示すべき」と提言。奈良県が「積極的活用」を検討していると紹介した。委員からは国保への法定外繰り入れをなくし、「負担と給付のバランスをとる観点からも重要」との趣旨の意見が出てもいる。

 点数単価の「切り下げ」に限らず、項目点数の「減点」、点数項目の「改変」、「削除」など、全国と異なる設定が可能となる。「診療報酬の特例」を医療費抑制の「調整弁」へと露骨に踏み込んでいる。

 さすがに、日医は同日に横倉会長が反対を旗幟鮮明にし、県境の患者動向の変化、医療従事者の移動をもたらし偏在加速、医療の質の低下を招くと指摘。社保審医療保険部会で保険者からの反対表明や全国知事会長、全国市長会長代理、全国町村会長から、この制度創設時から、妥当性や実効性が疑問視され慎重論、反対意見がだされているとも紹介。

 4月19日の医療保険部会でも全国知事会、健保連や日医、日歯から慎重・反対意見が相次いだ。与党内にも慎重論が根強く存在している。

 意欲を見せる奈良県だが、3月28日に当局が記者会見で公表。これに対し地元の奈良県医師会は4月13日に「地域別診療報酬」に関する緊急会議を開催、4月25日の地区協議会で「医療の質が低下する」「容認できない」と断固反対を決議。郡市医師会も連動し、反発と波紋が広がっている。

◆ 地域差撤廃以降、全国一律の診療報酬は医療保障の発展の土台 歴史を無にする策動に反対

 診療報酬の地域差は1963年9月に撤廃された。地域差とは6 大都市と川崎、尼崎など4 市を「甲地」、その他の市町村を「乙地」とし1点単価に格差をつけたものである。この撤廃は大阪府医師会、京都府医師会などをはじめ全国の保険医の5年にわたる強力な運動により自民党が動き、「四要求」とし日医が厚生省に要請し成し得たものである。四要求とは①1点単価引き上げ、②制限診療撤廃、③甲乙点数表の一本化、④地域差撤廃―であり、医師会、開業医がたたかって果実を得たのである。

 皆保険制度の揺籃期にこの撤廃がなされた以降、単価格差を診療報酬制度は認めておらず、それが全国の医療の均霑化に大きく貢献をしてきた。医療の技術・労働を全国一律単価で保障し、医療の再生産を支えてきた。

 診療報酬は個々の項目の「点数」は「技術指数」を示し、「単価」は「経済指数」を示すといわれるが、1点単価は「10円」で事実上、固定化され高度経済成長やバブル経済・地価高騰でも不変できた。点数の「高低・多寡」と項目設定の「対象」「範囲」の「増減」や「内容」で技術評価と経済評価を混在させ、両立させてきた。不十分さはありながらも、医療の質を全国的に担保する、全国一律単価、全国一様の診療報酬は、社会的共通資本としての医療を守る上で不可欠である。

 われわれは、財政至上主義で、医療の実態を顧みない、地域別診療報酬の稼働・実働の具体化に強く反対する。

2018年5月22日