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2014/4/14 政策部長談話「検査の保険外しに連動する『検体測定室』と医療用・検査薬の一般『商品化』策動に反対する

検査の保険外しに連動する「検体測定室」と

医療用・検査薬の一般「商品化」策動に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 規制改革会議が3月17日、診療現場で使う医療用検査薬を、店頭販売できる一般用検査薬として転用できる仕組み(「検査薬のスイッチOTC化」)の早期構築を求める意見書を公表した。「セルフケア」と「国民のニーズ」を言い募り、医学・医療の専門性を軽視、否定する規制改革会議のこの提言は、素人判断での健康への誤解や楽観を増長させ、受診機会を逆に遠ざける危険がある。しかも、これを牽引するかのごとく、民間事業者の店舗で自己採血による生化学検査を可能とする医政局長通知が4月9日に発出されている。われわれは、臨床医家としてこの無責任な提言と施策に断固反対する。

 規制改革会議の提言は、医療用検査薬から市販の一般用検査薬への転用を、「個別製品」毎ではなく「検査項目」毎に転用を認めるべきと、認可方法を大幅に緩めることを提案。例として、(1)尿中の黄体形成ホルモン(=排卵日検査)、(2)尿潜血(=尿路結石等の検査)などの「検査項目」と「判定方法」を予め定め、合致する製品を業者が申請するスキームの構築を挙げている。

 改革会議では具体的に要望49項目の集中検討を求めており、厚生労働省は年内にルール作りを終えたいと前向きに応じている。要望項目はGOTやGPT(肝機能)、PSA(前立腺がん)、ヘリコバクターピロリ抗原(消化潰瘍)、アデノウイルス(肺炎)など多岐にわたっている。

 これと軌を一にし、4月9日、医政局長通知「検体測定室に関するガイドラインについて」(医政発0409第4号)が発出された。これは、利用者が自己採取した検体で、民間事業者が血糖値や中性脂肪などの生化学的検査を行う事業を「検体測定事業」とし、これを行う施設を「検体測定室」と法的に位置づけ、衛生検査所の登録が不要として、事業の手続き、留意点を定めたものである。開設は誰でもよく、運営責任者、精度管理者に検査技師、薬剤師などが常勤していればよい。

 この検体測定室では、「診療の用に供しない検体検査を行う」こととされている。そこでは、利用者による検体の採取、穿刺器具を用いた自己採血がなされ、試薬による測定が行われる。検体採取の前後の消毒・処置は利用者が行い、測定結果も自己で判断するとなっている。測定以外は全て自己責任で完結する。この利用者のことを、このガイドラインでは「受検者」と呼ぶ。

 測定にあたって事業者は、(1)これが健康診断やメタボ健診等ではないこと、(2)出血・感染等のリスクは受検者が負うこと、(3)医療機関を受診の際には検査が必要となることを説明する。

 事業者は測定結果への回答はできず、採血・処置・診断への関与は法令に抵触し処罰対象となる可能性に通知は触れ、しかも、診療所、健診センターや「ワンコイン健診」はじめ診察、診断、治療、健診などの紛らわしい広告の禁止を明確にうたっている。

 つまり、医療関係法令を熟知・意識した、抵触ギリギリでの事業運営のスキームである。

 しかも、この「検体測定室」の開設は、巷の報道にあった薬局に限定されていない。飲食店、公衆浴場の一角も想定範囲にあり、これらは飛沫感染防止の観点から「別室」設置とされ、これ以外は個室など専用場所として区別されていればよいとなっている。コンビニなど広範な開設が前提である。

 更には、測定結果(検査値)の利用、測定結果を踏まえた関連物品の販売に関しても、前者は「受検者同意」があれば、後者は「検体測定室の室外」であれば可能と解せる通知となっており、事業展開も組み込まれている。

 この開設は、「開設届書」に名称、所在地、測定項目、開始日、開設者等の氏名を記し、有資格者の免許証の写しと場所図面を併せ、厚労省医政局指導課の「医療関連サービス室長」に直接、ファクスで送ればよく、書面に不備がなければ受理され「届出番号」が交付される。期間限定の開設も可能としている。非常に簡便である。

 以上、総じると、いわば、お手軽な「簡易検査」ビジネスのハコモノ作り、環境整備となっている。

 よって、このハコモノへのソフトとして、医療用検査薬を転用した、一般用検査薬の製品開発と販売、この規制緩和が重なってくるのである。この議論は医薬食品局の審議会の下、医療機器・対外診断薬部会での議論となる。

 規制改革会議での議論の席で、日本OTC医薬品協会は、OTC検査薬(一般用)の活用で疾病の早期対応、発生の予防に貢献できる、健康寿命を延ばし医療費削減に寄与できる、生活習慣改善の動機づけになるなど、バラ色の効果を並べているが、これらは何も実証も検証もされていない。

 逆にOTC検査薬は、測定値の信頼性、精度管理など、実際の診療には用いることはできないこととは勿論だが、検査値の自己解釈・自己判断による誤解・楽観を招き受診機会を遠ざける危険が高い。当然、検査値異常者の医療機関でのフォローアップが出来なくなる。血液などの検体の処理も課題が多い。

 基本は、医療施設での健康診断、特定健診、がん検診による早期発見・早期治療、そのための受診率向上への啓蒙と体制構築である。あわせて保健事業・公衆衛生の充実・強化が、認知症の増加や結核が拡がりをみせている中、重要である。

 とりわけ、早期受診を可能とするよう、患者負担の解消、負担感のない水準へとすることが何よりである。

 医療用検査薬のスイッチOTC化は、いずれ医薬品と同じ話となる。ビタミン、漢方、うがい薬、湿布薬はOTC化を理由に、健康保険から保険外しが執拗にとなえられ、ビタミン、うがい薬が部分的に外されてきた。検査薬も、保険外しの圧力にさらされることは、誰の目にも明らかだ。

 この検査薬のスイッチOTC化、検体測定室ともに錦の御旗は、成長戦略「日本再興戦略」のセルフ・メディケーションだ。疾病自己責任、健康自己責任である。

 社会保障の充実の歴史が、高度成長を支え、長寿で豊かな国を作ってきた。社会保障を営利産業化し、これを壊し、成長を期するのは本末転倒である。国民の願いとは逆である。

 検査薬のOTC化の推進と、検体測定室の策動に改めて反対する。

2014年4月14日

 

検査の保険外しに連動する「検体測定室」と

医療用・検査薬の一般「商品化」策動に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 規制改革会議が3月17日、診療現場で使う医療用検査薬を、店頭販売できる一般用検査薬として転用できる仕組み(「検査薬のスイッチOTC化」)の早期構築を求める意見書を公表した。「セルフケア」と「国民のニーズ」を言い募り、医学・医療の専門性を軽視、否定する規制改革会議のこの提言は、素人判断での健康への誤解や楽観を増長させ、受診機会を逆に遠ざける危険がある。しかも、これを牽引するかのごとく、民間事業者の店舗で自己採血による生化学検査を可能とする医政局長通知が4月9日に発出されている。われわれは、臨床医家としてこの無責任な提言と施策に断固反対する。

 規制改革会議の提言は、医療用検査薬から市販の一般用検査薬への転用を、「個別製品」毎ではなく「検査項目」毎に転用を認めるべきと、認可方法を大幅に緩めることを提案。例として、(1)尿中の黄体形成ホルモン(=排卵日検査)、(2)尿潜血(=尿路結石等の検査)などの「検査項目」と「判定方法」を予め定め、合致する製品を業者が申請するスキームの構築を挙げている。

 改革会議では具体的に要望49項目の集中検討を求めており、厚生労働省は年内にルール作りを終えたいと前向きに応じている。要望項目はGOTやGPT(肝機能)、PSA(前立腺がん)、ヘリコバクターピロリ抗原(消化潰瘍)、アデノウイルス(肺炎)など多岐にわたっている。

 これと軌を一にし、4月9日、医政局長通知「検体測定室に関するガイドラインについて」(医政発0409第4号)が発出された。これは、利用者が自己採取した検体で、民間事業者が血糖値や中性脂肪などの生化学的検査を行う事業を「検体測定事業」とし、これを行う施設を「検体測定室」と法的に位置づけ、衛生検査所の登録が不要として、事業の手続き、留意点を定めたものである。開設は誰でもよく、運営責任者、精度管理者に検査技師、薬剤師などが常勤していればよい。

 この検体測定室では、「診療の用に供しない検体検査を行う」こととされている。そこでは、利用者による検体の採取、穿刺器具を用いた自己採血がなされ、試薬による測定が行われる。検体採取の前後の消毒・処置は利用者が行い、測定結果も自己で判断するとなっている。測定以外は全て自己責任で完結する。この利用者のことを、このガイドラインでは「受検者」と呼ぶ。

 測定にあたって事業者は、(1)これが健康診断やメタボ健診等ではないこと、(2)出血・感染等のリスクは受検者が負うこと、(3)医療機関を受診の際には検査が必要となることを説明する。

 事業者は測定結果への回答はできず、採血・処置・診断への関与は法令に抵触し処罰対象となる可能性に通知は触れ、しかも、診療所、健診センターや「ワンコイン健診」はじめ診察、診断、治療、健診などの紛らわしい広告の禁止を明確にうたっている。

 つまり、医療関係法令を熟知・意識した、抵触ギリギリでの事業運営のスキームである。

 しかも、この「検体測定室」の開設は、巷の報道にあった薬局に限定されていない。飲食店、公衆浴場の一角も想定範囲にあり、これらは飛沫感染防止の観点から「別室」設置とされ、これ以外は個室など専用場所として区別されていればよいとなっている。コンビニなど広範な開設が前提である。

 更には、測定結果(検査値)の利用、測定結果を踏まえた関連物品の販売に関しても、前者は「受検者同意」があれば、後者は「検体測定室の室外」であれば可能と解せる通知となっており、事業展開も組み込まれている。

 この開設は、「開設届書」に名称、所在地、測定項目、開始日、開設者等の氏名を記し、有資格者の免許証の写しと場所図面を併せ、厚労省医政局指導課の「医療関連サービス室長」に直接、ファクスで送ればよく、書面に不備がなければ受理され「届出番号」が交付される。期間限定の開設も可能としている。非常に簡便である。

 以上、総じると、いわば、お手軽な「簡易検査」ビジネスのハコモノ作り、環境整備となっている。

 よって、このハコモノへのソフトとして、医療用検査薬を転用した、一般用検査薬の製品開発と販売、この規制緩和が重なってくるのである。この議論は医薬食品局の審議会の下、医療機器・対外診断薬部会での議論となる。

 規制改革会議での議論の席で、日本OTC医薬品協会は、OTC検査薬(一般用)の活用で疾病の早期対応、発生の予防に貢献できる、健康寿命を延ばし医療費削減に寄与できる、生活習慣改善の動機づけになるなど、バラ色の効果を並べているが、これらは何も実証も検証もされていない。

 逆にOTC検査薬は、測定値の信頼性、精度管理など、実際の診療には用いることはできないこととは勿論だが、検査値の自己解釈・自己判断による誤解・楽観を招き受診機会を遠ざける危険が高い。当然、検査値異常者の医療機関でのフォローアップが出来なくなる。血液などの検体の処理も課題が多い。

 基本は、医療施設での健康診断、特定健診、がん検診による早期発見・早期治療、そのための受診率向上への啓蒙と体制構築である。あわせて保健事業・公衆衛生の充実・強化が、認知症の増加や結核が拡がりをみせている中、重要である。

 とりわけ、早期受診を可能とするよう、患者負担の解消、負担感のない水準へとすることが何よりである。

 医療用検査薬のスイッチOTC化は、いずれ医薬品と同じ話となる。ビタミン、漢方、うがい薬、湿布薬はOTC化を理由に、健康保険から保険外しが執拗にとなえられ、ビタミン、うがい薬が部分的に外されてきた。検査薬も、保険外しの圧力にさらされることは、誰の目にも明らかだ。

 この検査薬のスイッチOTC化、検体測定室ともに錦の御旗は、成長戦略「日本再興戦略」のセルフ・メディケーションだ。疾病自己責任、健康自己責任である。

 社会保障の充実の歴史が、高度成長を支え、長寿で豊かな国を作ってきた。社会保障を営利産業化し、これを壊し、成長を期するのは本末転倒である。国民の願いとは逆である。

 検査薬のOTC化の推進と、検体測定室の策動に改めて反対する。

2014年4月14日