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2006/1/27 政策部長談話 「事実誤認の開業医所得への偏見をただす」

事実誤認の開業医所得への偏見をただす

                             

神奈川県保険医協会

政策部長  森 壽生


 過去最大のマイナス幅(▲3.16%)の診療報酬改定作業が今、行われている。3期連続で計6.5%(00年度対比)、つまり家計でいえばひと月分の収入がなくなるに等しい(1/15:12ヶ月+賞与3ヶ月)「改革」がなされており、すでに、損益構造からみて「経営破綻」に陥る、との予測(日本医療総合研究所:取締役社長 中村十念氏)も出始めている。

 今回の診療報酬改定の基礎として、昨年11月に公表された中医協医療経済実態調査の収支差額227万円が、イコール開業医所得とマスコミで事実誤認報道がなされ、今回の「引き下げ」の流れが加速されたことは記憶に新しい。

 当協会は、この収支差額は事業所収益であり、従業員の退職金引き当てや借入金の元本返済、医療機器の更新費用を含むものであることをその際に指摘した(池川医療運動部会長談話)。日医は具体的数字を示し、開業医所得を月給約100万円と提示した。

 はたして、開業医所得は怨嗟のまととなるほどの高水準なのか。当協会では、一般に高いと思われている開業医所得は、その責任と社会的な役割からいっても、他職種・他産業に比較しても、決して高いものではない点を指摘し、機械的な医療費削減策の末路は、社会保障としての医療を空洞化させ国民に不幸を招来させつだけであることを改めて強く指摘する。

 既にあるべき合理的医療費、開業医時給に関し、批判に耐えうる研究報告が公表されている。それらによれば、賃金センサスの全産業平均の賃金に医療従事者数を積算するなど客観的データを基礎に、人件費、管理費、外部購入費用、医業再生産費用を算出した医療費総額は1995年度で37.9兆円であり現実の国民医療費28.5兆円と9兆円の乖離がある。賃金は医師・歯科医師などに重み付けをしていないので、つまりは少なくとも9兆円も合理性を欠く規模で医療が提供されていることが明らかとなっている(「合理的な医療費の計算」日医総研・中村十念氏<平成11年3月28日>)。

 また、01年の中医協医療経済実態調査を基に、開業医の実質所得は時給1万円程度で、弁護士の時間制報酬1時間1万円と同程度とはじき出されている(「診療報酬体系のあり方に関する一考察 ‐再生産費用とあるべき医療費の計算‐」日医総研・前田由美子氏<平成15年1月21日>)。

 翻って、全上場企業の「従業員」の平均年収をみると、フジテレビジョン1,567万円(平均年齢39.8歳:以下同じ)、朝日放送1,526万円(39.5歳)、ミレアホールディングス1,499万円(保険業:42.2歳)とベスト50社のうち16社が1,200万円を超え、マスコミ、商社、銀行、保険業などがならぶ。

 経営者である開業医だが、企業の社長年収でみると持田製薬1億4千万円、武田薬品工業1億4千万円、アステラス製薬1億2千万円に及ぶべくもない。公的医療保険の守備範囲の縮小で市場拡大を期待する保険業界の社長年収もアドバンスクリエイト2億9千万円を筆頭にベスト8は3千万円を超えている(週刊ダイヤモンド05年11月5日号)。

 以上、開業医の所得の多寡をスケープゴートにする医療費削減策は、医学医療の進歩・高度化と患者要求の高まりの中、医療の質と安全の確保を損なうだけである。既に、過重労働に疲弊する勤務医が開業医へ転身する傾向にあると報じられたが、転身先の開業医も経営破綻のがけっぷちに立たされている。

 患者負担の引き上げと診療報酬の引き下げ。医療「改革」はこの繰り返しに尽きる。このままでは、医療機関の存立基盤が崩れ、患者の受療権も踏みにじられていくだけである。社会保障としての医療が、ビジネスとボランティアに支えられた医療へと変質することとなる。いわば、憲法25条の実質改憲である。

 長者番付の上位に一部の開業医が名前を連ねてきたことは事実だが、それをもって全体に普遍化することはとても危険であり、この「改革」に群がる市場原理主義者たちの策動を見過ごすことになる。感情に流されず冷静な議論がいま必要である。角を矯めて牛を殺す愚をおかすべきではない。

2006年1月27日

 

事実誤認の開業医所得への偏見をただす

                             

神奈川県保険医協会

政策部長  森 壽生


 過去最大のマイナス幅(▲3.16%)の診療報酬改定作業が今、行われている。3期連続で計6.5%(00年度対比)、つまり家計でいえばひと月分の収入がなくなるに等しい(1/15:12ヶ月+賞与3ヶ月)「改革」がなされており、すでに、損益構造からみて「経営破綻」に陥る、との予測(日本医療総合研究所:取締役社長 中村十念氏)も出始めている。

 今回の診療報酬改定の基礎として、昨年11月に公表された中医協医療経済実態調査の収支差額227万円が、イコール開業医所得とマスコミで事実誤認報道がなされ、今回の「引き下げ」の流れが加速されたことは記憶に新しい。

 当協会は、この収支差額は事業所収益であり、従業員の退職金引き当てや借入金の元本返済、医療機器の更新費用を含むものであることをその際に指摘した(池川医療運動部会長談話)。日医は具体的数字を示し、開業医所得を月給約100万円と提示した。

 はたして、開業医所得は怨嗟のまととなるほどの高水準なのか。当協会では、一般に高いと思われている開業医所得は、その責任と社会的な役割からいっても、他職種・他産業に比較しても、決して高いものではない点を指摘し、機械的な医療費削減策の末路は、社会保障としての医療を空洞化させ国民に不幸を招来させつだけであることを改めて強く指摘する。

 既にあるべき合理的医療費、開業医時給に関し、批判に耐えうる研究報告が公表されている。それらによれば、賃金センサスの全産業平均の賃金に医療従事者数を積算するなど客観的データを基礎に、人件費、管理費、外部購入費用、医業再生産費用を算出した医療費総額は1995年度で37.9兆円であり現実の国民医療費28.5兆円と9兆円の乖離がある。賃金は医師・歯科医師などに重み付けをしていないので、つまりは少なくとも9兆円も合理性を欠く規模で医療が提供されていることが明らかとなっている(「合理的な医療費の計算」日医総研・中村十念氏<平成11年3月28日>)。

 また、01年の中医協医療経済実態調査を基に、開業医の実質所得は時給1万円程度で、弁護士の時間制報酬1時間1万円と同程度とはじき出されている(「診療報酬体系のあり方に関する一考察 ‐再生産費用とあるべき医療費の計算‐」日医総研・前田由美子氏<平成15年1月21日>)。

 翻って、全上場企業の「従業員」の平均年収をみると、フジテレビジョン1,567万円(平均年齢39.8歳:以下同じ)、朝日放送1,526万円(39.5歳)、ミレアホールディングス1,499万円(保険業:42.2歳)とベスト50社のうち16社が1,200万円を超え、マスコミ、商社、銀行、保険業などがならぶ。

 経営者である開業医だが、企業の社長年収でみると持田製薬1億4千万円、武田薬品工業1億4千万円、アステラス製薬1億2千万円に及ぶべくもない。公的医療保険の守備範囲の縮小で市場拡大を期待する保険業界の社長年収もアドバンスクリエイト2億9千万円を筆頭にベスト8は3千万円を超えている(週刊ダイヤモンド05年11月5日号)。

 以上、開業医の所得の多寡をスケープゴートにする医療費削減策は、医学医療の進歩・高度化と患者要求の高まりの中、医療の質と安全の確保を損なうだけである。既に、過重労働に疲弊する勤務医が開業医へ転身する傾向にあると報じられたが、転身先の開業医も経営破綻のがけっぷちに立たされている。

 患者負担の引き上げと診療報酬の引き下げ。医療「改革」はこの繰り返しに尽きる。このままでは、医療機関の存立基盤が崩れ、患者の受療権も踏みにじられていくだけである。社会保障としての医療が、ビジネスとボランティアに支えられた医療へと変質することとなる。いわば、憲法25条の実質改憲である。

 長者番付の上位に一部の開業医が名前を連ねてきたことは事実だが、それをもって全体に普遍化することはとても危険であり、この「改革」に群がる市場原理主義者たちの策動を見過ごすことになる。感情に流されず冷静な議論がいま必要である。角を矯めて牛を殺す愚をおかすべきではない。

2006年1月27日