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2018/3/22 政策部長談話 「オンライン診療の『医療ビジネス化』へ医療界は警戒を エビデンス確立に先行する診療報酬・点数化の不思議」

オンライン診療の「医療ビジネス化」へ医療界は警戒を

エビデンス確立に先行する診療報酬・点数化の不思議

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 情報通信機器を用いた「遠隔診療」が、「オンライン診療」と名称と装いを変え、この4月から保険診療で独立点数化する。診療報酬の点数化は3月5日の運用通知で整理されたが、遵守すべき医師法上のルール「オンライン診療の適切な実施に関する指針(案)」(以下、「オンライン診療指針」案)は、いまパブリックコメントの募集中である。われわれは「オンライン診療」は、医療の変貌を内包した「パンドラの箱」と考えており、医療のビジネス化を危険視している。医療界の警戒を強く求めたい。

◆ 既成事実を追認し点数化 エビデンスの話はどこに 

 遠隔診療は、本来、離島・僻地などの「医師不足地域」への医療提供を目的に、法規制を柔軟にしICT機器による診療を認めたものである。これを2016年に企業のお膳立てで都市部での「スマホ診療」を「遠隔診療」と称し、医政局長通知の拡大解釈により遠隔地以外での「解禁」と解し、既成事実化が図られてきた。昨年3月13日の規制改革推進会議・投資等ワーキンググループでの集中討議では、「オンライン診療」への名称変更、外来医療、在宅医療に次ぐ3番目の独立部門の位置づけなど、攻勢的な要望が多く出されており、今次診療報酬改定ではこれに応えたものとなっている。

 ただし、医療界の慎重論や反発を踏まえ、オンライン診療は「対面診療の補完」であるとの原則は崩さず、「オンライン診療料」(70点/月)は初診での算定は不可、初診から6カ月経過、連月算定2カ月限度、再診患者の1割以下と、「縛り」が厳しく設けられている。

 しかし、「蟻の一穴」があき、「オンライン診療」がお墨付きを得た格好となっている。

 遠隔診療は医政局長通知で、対面診療との取得情報の代替性が謳われ、オンライン診療を運営する企業幹部からもエビデンスの構築が言われてきた。が、既成事実の追認で点数化となっている。

◆ 「医療相談」「受診勧奨」「オンライン診療」―複層化するオンライン診療指針

 診療報酬を算定するにあたり遵守すべき医師法のオンライン診療指針は、いま策定中である。順番が逆転している。

 オンライン診療指針(案)では、ICT機器を活用した遠隔医療を、(1)「遠隔医療相談」(診察なし・非医師で可)、(2)「オンライン受診勧奨」(診察あり・診断不可)、(3)「オンライン診療」(診断可)と3区分とし、指針の対象から「遠隔医療相談」を外した。「オンライン受診勧奨」は、問診を行い適切な診療科へ受診勧奨をする、いわゆる「振分け」である。これは「初診」で認めることとなり保険診療上は算定不可ではあるが、自費かサービスとし、自院や診療グループへの誘導が可能となる。

 この指針(案)で、遠隔医療相談はビジネス・サービスの水先案内として、オンライン受診勧奨は初診からの保険適用の導火線としての懸念が残る。

◆ マッキンゼー経由の医師のビジネス展開 実証検証は統計的検証はなし

 オンライン診療の支援サービスを展開する企業は、(株)インテグリティ・ヘルスケア(「YaDoc」)、(株)メドレー(「CLINICS」)、(株)情報医療(「curon」)と、経営トップは医師でマッキンゼー・アンド・カンパニー(戦略系コンサルティング会社)を経て、この分野に進出している。(株)情報医療のトップは「保健医療2035」作成の事務局でもある。

 中医協に唯一、資料が出されたオンライン診療システムの「YaDoc」は、福岡市で有効性を検証する実証事業を実施中だが、過日3月5日に実証報告会を開催。そこでの検証報告は導入した22医療機関のアンケート結果と意見交換会での発言の発表でしかない。症例報告もなく治療成績のデータや統計学的な検証はなされていない。この事業は「ICTを活用した『かかりつけ医』機能強化事業」であり、九州厚生局が相談役となっているが、実証報告会は診療報酬の点数化の説明もされており、重きがこちらにある感が強い。

 未来投資会議は3月9日、早くも厚労省に対し要件緩和を求めており、これら先駆的企業は2年後の要件緩和に向け実績作りが課題としている。

◆ 本末転倒 離島・僻地は保険診療が不可に???

 診療報酬でのオンライン診療料は「施設基準」で、緊急時に30分以内の対面診療の体制を求めている。都市部のオンライン診療の安易な運用・流通を牽制するあまり、本来の出発点である離島・僻地のオンライン診療が不可能となる矛盾を生じている。医療課は疑義解釈通知で是正する方向であるが、医師不足・医師不在地域への医療提供の有用性を認めたICT機器活用の診療が、医師が比較的充足する都市部での運用に舵を切ったことで、整合性を取る点で混乱を来す弊害もでている。

◆ 「診療システム」のビジネス化 医療の非営利原則の浸食を危惧

 オンライン診療の企業運営は、検査機器や診断機器、医薬品・医療材料の企業開発・販売とは違い、診察・診断、処方、患者負担の料金決済と、「医療システム」そのもののビジネス化である。

 本来の遠隔地や寝たきり、歩行困難など、医療が届かないところへの次善策として、ICT機器を活用した遠隔診療、オンライン診療の有用性はあるが、あくまでも対面診療の補完である。

 都市部でのオンライン診療は、医師の労働時間の延長、労働強化の懸念の声が現場からは早くもあがっている。24時間365日ともなれば、働き方改革に、医師のみ逆行する。

 在宅医療での活用への過大なイメージが巷にはあるが、実際は訪問診療となるのでそれほどの実用はないとの指摘も在宅医療の現場からはある。

 オンライン診療は診療データのリアルタイムのデジタル化の促進でもある。最近問題の個人データの国外流出へ歯止めをかけるため、EUの個人データ保護規制(「一般データ保護規則」<GDPR>)にならい規制強化、体制整備も急ぐ必要がある。

 オンライン診療は、身体所見の不完全な診察と処方、医学管理と限界があり、医療そのものの変貌を内包する。「診断学の否定」(石川日医常任理事:保団連2017年夏セミナー)への懸念は尽きない。

 オンライン診療は、患者・国民、社会の受け止めと動向が今後を大きく左右する。と同時に医療界が医療・医学の見地からどう対峙していくかが鋭く問われる。便利がゆえに対面診療を軽視する姿勢につながる恐れがある。オンライン診療を運営する企業は、大企業からの転身組をスタッフに多く抱えるなど、将来を見据えた戦略があると考えるのは自然である。医療の非営利原則の浸食、医療のビジネス化がとなりあわせとなっている。医療変貌の大きな分水嶺にある。医療界の警戒を強く望む。

2018年3月22日

オンライン診療の「医療ビジネス化」へ医療界は警戒を

エビデンス確立に先行する診療報酬・点数化の不思議

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 情報通信機器を用いた「遠隔診療」が、「オンライン診療」と名称と装いを変え、この4月から保険診療で独立点数化する。診療報酬の点数化は3月5日の運用通知で整理されたが、遵守すべき医師法上のルール「オンライン診療の適切な実施に関する指針(案)」(以下、「オンライン診療指針」案)は、いまパブリックコメントの募集中である。われわれは「オンライン診療」は、医療の変貌を内包した「パンドラの箱」と考えており、医療のビジネス化を危険視している。医療界の警戒を強く求めたい。

◆ 既成事実を追認し点数化 エビデンスの話はどこに 

 遠隔診療は、本来、離島・僻地などの「医師不足地域」への医療提供を目的に、法規制を柔軟にしICT機器による診療を認めたものである。これを2016年に企業のお膳立てで都市部での「スマホ診療」を「遠隔診療」と称し、医政局長通知の拡大解釈により遠隔地以外での「解禁」と解し、既成事実化が図られてきた。昨年3月13日の規制改革推進会議・投資等ワーキンググループでの集中討議では、「オンライン診療」への名称変更、外来医療、在宅医療に次ぐ3番目の独立部門の位置づけなど、攻勢的な要望が多く出されており、今次診療報酬改定ではこれに応えたものとなっている。

 ただし、医療界の慎重論や反発を踏まえ、オンライン診療は「対面診療の補完」であるとの原則は崩さず、「オンライン診療料」(70点/月)は初診での算定は不可、初診から6カ月経過、連月算定2カ月限度、再診患者の1割以下と、「縛り」が厳しく設けられている。

 しかし、「蟻の一穴」があき、「オンライン診療」がお墨付きを得た格好となっている。

 遠隔診療は医政局長通知で、対面診療との取得情報の代替性が謳われ、オンライン診療を運営する企業幹部からもエビデンスの構築が言われてきた。が、既成事実の追認で点数化となっている。

◆ 「医療相談」「受診勧奨」「オンライン診療」―複層化するオンライン診療指針

 診療報酬を算定するにあたり遵守すべき医師法のオンライン診療指針は、いま策定中である。順番が逆転している。

 オンライン診療指針(案)では、ICT機器を活用した遠隔医療を、(1)「遠隔医療相談」(診察なし・非医師で可)、(2)「オンライン受診勧奨」(診察あり・診断不可)、(3)「オンライン診療」(診断可)と3区分とし、指針の対象から「遠隔医療相談」を外した。「オンライン受診勧奨」は、問診を行い適切な診療科へ受診勧奨をする、いわゆる「振分け」である。これは「初診」で認めることとなり保険診療上は算定不可ではあるが、自費かサービスとし、自院や診療グループへの誘導が可能となる。

 この指針(案)で、遠隔医療相談はビジネス・サービスの水先案内として、オンライン受診勧奨は初診からの保険適用の導火線としての懸念が残る。

◆ マッキンゼー経由の医師のビジネス展開 実証検証は統計的検証はなし

 オンライン診療の支援サービスを展開する企業は、(株)インテグリティ・ヘルスケア(「YaDoc」)、(株)メドレー(「CLINICS」)、(株)情報医療(「curon」)と、経営トップは医師でマッキンゼー・アンド・カンパニー(戦略系コンサルティング会社)を経て、この分野に進出している。(株)情報医療のトップは「保健医療2035」作成の事務局でもある。

 中医協に唯一、資料が出されたオンライン診療システムの「YaDoc」は、福岡市で有効性を検証する実証事業を実施中だが、過日3月5日に実証報告会を開催。そこでの検証報告は導入した22医療機関のアンケート結果と意見交換会での発言の発表でしかない。症例報告もなく治療成績のデータや統計学的な検証はなされていない。この事業は「ICTを活用した『かかりつけ医』機能強化事業」であり、九州厚生局が相談役となっているが、実証報告会は診療報酬の点数化の説明もされており、重きがこちらにある感が強い。

 未来投資会議は3月9日、早くも厚労省に対し要件緩和を求めており、これら先駆的企業は2年後の要件緩和に向け実績作りが課題としている。

◆ 本末転倒 離島・僻地は保険診療が不可に???

 診療報酬でのオンライン診療料は「施設基準」で、緊急時に30分以内の対面診療の体制を求めている。都市部のオンライン診療の安易な運用・流通を牽制するあまり、本来の出発点である離島・僻地のオンライン診療が不可能となる矛盾を生じている。医療課は疑義解釈通知で是正する方向であるが、医師不足・医師不在地域への医療提供の有用性を認めたICT機器活用の診療が、医師が比較的充足する都市部での運用に舵を切ったことで、整合性を取る点で混乱を来す弊害もでている。

◆ 「診療システム」のビジネス化 医療の非営利原則の浸食を危惧

 オンライン診療の企業運営は、検査機器や診断機器、医薬品・医療材料の企業開発・販売とは違い、診察・診断、処方、患者負担の料金決済と、「医療システム」そのもののビジネス化である。

 本来の遠隔地や寝たきり、歩行困難など、医療が届かないところへの次善策として、ICT機器を活用した遠隔診療、オンライン診療の有用性はあるが、あくまでも対面診療の補完である。

 都市部でのオンライン診療は、医師の労働時間の延長、労働強化の懸念の声が現場からは早くもあがっている。24時間365日ともなれば、働き方改革に、医師のみ逆行する。

 在宅医療での活用への過大なイメージが巷にはあるが、実際は訪問診療となるのでそれほどの実用はないとの指摘も在宅医療の現場からはある。

 オンライン診療は診療データのリアルタイムのデジタル化の促進でもある。最近問題の個人データの国外流出へ歯止めをかけるため、EUの個人データ保護規制(「一般データ保護規則」<GDPR>)にならい規制強化、体制整備も急ぐ必要がある。

 オンライン診療は、身体所見の不完全な診察と処方、医学管理と限界があり、医療そのものの変貌を内包する。「診断学の否定」(石川日医常任理事:保団連2017年夏セミナー)への懸念は尽きない。

 オンライン診療は、患者・国民、社会の受け止めと動向が今後を大きく左右する。と同時に医療界が医療・医学の見地からどう対峙していくかが鋭く問われる。便利がゆえに対面診療を軽視する姿勢につながる恐れがある。オンライン診療を運営する企業は、大企業からの転身組をスタッフに多く抱えるなど、将来を見据えた戦略があると考えるのは自然である。医療の非営利原則の浸食、医療のビジネス化がとなりあわせとなっている。医療変貌の大きな分水嶺にある。医療界の警戒を強く望む。

2018年3月22日