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2014/3/28 政策部長談話「産科医療に激震、帝王切開の大幅点数引き下げの『中止』を求める 産科医療補償制度の『負の連鎖』と不明朗金へもメスを」

産科医療に激震、帝王切開の大幅点数引き下げの「中止」を求める

産科医療補償制度の「負の連鎖」と不明朗金へもメスを

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 今次診療報酬改定で、産科の帝王切開術22,160点が20,140点へと、実に▲2,020点(=2万200円)の大幅な点数の引き下げとなった。下げ幅は▲9.1%と、今次改定の▲1.26%(実質)の7倍強と異常である。産科医療補償制度の創設以来、自然分娩から帝王切開への流れが止まらない。この極端な下げ幅により、産科診療所での分娩は確実に立ちいかなくなり、分娩の病院への紹介・分娩の集中を来し、産科医療はパンクする。産科医療崩壊が、いま現場では悲愴感をもって語られ始めている。われわれは日本の未来をつくる産科医療を破壊する、帝王切開術の大幅な点数引き下げの即刻中止、凍結を強く求める。

 日本の医療機関での帝王切開率は出産数(104万人)の2割(19.2%)、約20万人である。病院24%、診療所13%となっている。(11年)。近年、高齢出産などの「ハイリスク分娩」が増え続けており、分娩件数は減少傾向の一方、安全を最優先に考えた帝王切開率は増加し、20年前までの5%前後から19.2%へと跳ね上がっている。逆子、子宮筋腫の術後、既往帝王切開術の方なども帝王切開である。

 帝王切開は、看護師、助産師、麻酔科医などの人的資源や、薬剤、点滴資材、モニター類などの物的資源を多く必要とし、術後のケアなど手間が増すが母子の安全のため医学的に選択されてきている。

 今回の点数引き下げに関し、当会の照会に厚労省保険局医療課は「外保連試案」(外科系学会社会保険委員会連合)を踏まえて設定したと応じた。しかし、確認すると外保連は増点要求であり、手術時間が2時間から1時間へ短縮になった「現場努力」への評価を求めたのであり、これを逆手に取った点数引き下げは晴天の霹靂で抗議をしたと怒りを顕わにした。医療課は再照会に、人件費が半分になったと解し、厳しい財源の中での措置だったと応じている。

 医療費抑制や点数誘導による帝王切開の数の減少を企図したとすれば、政策的大間違いである。日本の分娩の5割弱(47%)は診療所が担っている。1人医師の診療所では、帝王切開へ複数対応するため大学等から、謝礼を支払い応援医師を依頼することも少なくなく、現行の診療報酬ではギリギリである。今回の大幅引き下げは、経営体力の弱い診療所にとって帝王切開は不採算となり敬遠され、総合病院などの三次医療機関に紹介となり、過度な集中を招き、パンクをすることは想像に難くない。お産難民の増加、産科医療崩壊となることは確実である。

 これに拍車をかける問題もある。訴訟リスクの増大である。産科事故への刑事介入を機に産科からの撤退と医学生の希望者激減、産科崩壊の危機となり、その防止、訴訟リスクの減殺のため「産科医療補償制度」が09年に創設された。脳性麻痺児への3千万円の補償を主とするこの制度は、民間運営ながらカルテ提出の強要、ガイドラインを絶対視した医療技術の優劣の評価判定、その個別報告書の公表と、目的とは対極の訴訟を誘発する仕組みを内在したため、訴訟リスク回避のための帝王切開を増加させることになる。訴訟大国、米国は帝王切開率は30%に上っている。

 この制度は過日、見直し報告書がまとめられたが上記の問題点の改善はなく、不明朗なお金の運用に一部変化をみせただけである。日本医療機能評価機構(「機構」)が運営するこの制度は、妊産婦が支払う一分娩3万円の掛け金を「機構」がとりまとめ、東京海上日動火災等と保険契約を結んでいる。しかし、補償対象数の過大見積りにより、剰余金200億円が毎年発生、これを保険会社に30億円、機構へ160億円の分配としてきた。また別途、歪な収入使途の分配により、事務経費を保険会社に30億円、機構10億円とし、巨額の費用が流れている。さすがに保険会社への「制度リスク対策費」名目の16億円は、理屈が立たないとの指摘受け、減額にはなったが巨利を保証する構図は不変である。保険料の原資は、公的医療保険の出産育児一時金の増額分であり公金、これが損保会社と民間の機構の「財布」に流れている。

 そもそも公的性格の強いこの制度は、厚労省の強い要請で、公的制度ではなく、民間運営の制度として作られ、いまも厚労省が社会保障審議会を通じ関与している。

 この話には奥がある。昨年、厚労省の事務次官に次ぐ、事務方No.2の審議官が、東京海上日動火災に天下りをしている。更には官民人事交流の名の下、厚労省の医政局から現役課長補佐が東京海上日動へ出向し、逆に東京海上日動から保険局の課長補佐の役職で、人材を迎えている。

 問題とされた巨額の保険収入「運用益」の解消では「機構」は全額保護をする無利息の「決済性預金」としたが、銀行にとっては利息支払なしで資金運用が可能となる。この銀行業界へも、厚生労働省から多くが天下り、人材交流も活発である。

 これらを見るにつけ、産科医療を真剣に守り、安全な出産と、子供たちの健やかな生育を保障し、日本の次世代、未来を築こうとしているのか、甚だ疑問であり、現場は憤りを感じている。

 改めて求める。帝王切開術の点数引き下げは即刻、中止し、公金の不適正運用となっている産科医療補償制度は公的管理の下、余剰や不明朗金は、保険料の減額、補償金の増額はじめ産科医療の充実にあてることを、政府は誠実に検討するよう要望する。

2014年3月28日

 

産科医療に激震、帝王切開の大幅点数引き下げの「中止」を求める

産科医療補償制度の「負の連鎖」と不明朗金へもメスを

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 今次診療報酬改定で、産科の帝王切開術22,160点が20,140点へと、実に▲2,020点(=2万200円)の大幅な点数の引き下げとなった。下げ幅は▲9.1%と、今次改定の▲1.26%(実質)の7倍強と異常である。産科医療補償制度の創設以来、自然分娩から帝王切開への流れが止まらない。この極端な下げ幅により、産科診療所での分娩は確実に立ちいかなくなり、分娩の病院への紹介・分娩の集中を来し、産科医療はパンクする。産科医療崩壊が、いま現場では悲愴感をもって語られ始めている。われわれは日本の未来をつくる産科医療を破壊する、帝王切開術の大幅な点数引き下げの即刻中止、凍結を強く求める。

 日本の医療機関での帝王切開率は出産数(104万人)の2割(19.2%)、約20万人である。病院24%、診療所13%となっている。(11年)。近年、高齢出産などの「ハイリスク分娩」が増え続けており、分娩件数は減少傾向の一方、安全を最優先に考えた帝王切開率は増加し、20年前までの5%前後から19.2%へと跳ね上がっている。逆子、子宮筋腫の術後、既往帝王切開術の方なども帝王切開である。

 帝王切開は、看護師、助産師、麻酔科医などの人的資源や、薬剤、点滴資材、モニター類などの物的資源を多く必要とし、術後のケアなど手間が増すが母子の安全のため医学的に選択されてきている。

 今回の点数引き下げに関し、当会の照会に厚労省保険局医療課は「外保連試案」(外科系学会社会保険委員会連合)を踏まえて設定したと応じた。しかし、確認すると外保連は増点要求であり、手術時間が2時間から1時間へ短縮になった「現場努力」への評価を求めたのであり、これを逆手に取った点数引き下げは晴天の霹靂で抗議をしたと怒りを顕わにした。医療課は再照会に、人件費が半分になったと解し、厳しい財源の中での措置だったと応じている。

 医療費抑制や点数誘導による帝王切開の数の減少を企図したとすれば、政策的大間違いである。日本の分娩の5割弱(47%)は診療所が担っている。1人医師の診療所では、帝王切開へ複数対応するため大学等から、謝礼を支払い応援医師を依頼することも少なくなく、現行の診療報酬ではギリギリである。今回の大幅引き下げは、経営体力の弱い診療所にとって帝王切開は不採算となり敬遠され、総合病院などの三次医療機関に紹介となり、過度な集中を招き、パンクをすることは想像に難くない。お産難民の増加、産科医療崩壊となることは確実である。

 これに拍車をかける問題もある。訴訟リスクの増大である。産科事故への刑事介入を機に産科からの撤退と医学生の希望者激減、産科崩壊の危機となり、その防止、訴訟リスクの減殺のため「産科医療補償制度」が09年に創設された。脳性麻痺児への3千万円の補償を主とするこの制度は、民間運営ながらカルテ提出の強要、ガイドラインを絶対視した医療技術の優劣の評価判定、その個別報告書の公表と、目的とは対極の訴訟を誘発する仕組みを内在したため、訴訟リスク回避のための帝王切開を増加させることになる。訴訟大国、米国は帝王切開率は30%に上っている。

 この制度は過日、見直し報告書がまとめられたが上記の問題点の改善はなく、不明朗なお金の運用に一部変化をみせただけである。日本医療機能評価機構(「機構」)が運営するこの制度は、妊産婦が支払う一分娩3万円の掛け金を「機構」がとりまとめ、東京海上日動火災等と保険契約を結んでいる。しかし、補償対象数の過大見積りにより、剰余金200億円が毎年発生、これを保険会社に30億円、機構へ160億円の分配としてきた。また別途、歪な収入使途の分配により、事務経費を保険会社に30億円、機構10億円とし、巨額の費用が流れている。さすがに保険会社への「制度リスク対策費」名目の16億円は、理屈が立たないとの指摘受け、減額にはなったが巨利を保証する構図は不変である。保険料の原資は、公的医療保険の出産育児一時金の増額分であり公金、これが損保会社と民間の機構の「財布」に流れている。

 そもそも公的性格の強いこの制度は、厚労省の強い要請で、公的制度ではなく、民間運営の制度として作られ、いまも厚労省が社会保障審議会を通じ関与している。

 この話には奥がある。昨年、厚労省の事務次官に次ぐ、事務方No.2の審議官が、東京海上日動火災に天下りをしている。更には官民人事交流の名の下、厚労省の医政局から現役課長補佐が東京海上日動へ出向し、逆に東京海上日動から保険局の課長補佐の役職で、人材を迎えている。

 問題とされた巨額の保険収入「運用益」の解消では「機構」は全額保護をする無利息の「決済性預金」としたが、銀行にとっては利息支払なしで資金運用が可能となる。この銀行業界へも、厚生労働省から多くが天下り、人材交流も活発である。

 これらを見るにつけ、産科医療を真剣に守り、安全な出産と、子供たちの健やかな生育を保障し、日本の次世代、未来を築こうとしているのか、甚だ疑問であり、現場は憤りを感じている。

 改めて求める。帝王切開術の点数引き下げは即刻、中止し、公金の不適正運用となっている産科医療補償制度は公的管理の下、余剰や不明朗金は、保険料の減額、補償金の増額はじめ産科医療の充実にあてることを、政府は誠実に検討するよう要望する。

2014年3月28日