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2017/10/6 政策部長談話 「医療費抑制策からの転換を 削減策が効き過ぎた対前年度『マイナス』の意味を問う」

医療費抑制策からの転換を

削減策が効き過ぎた対前年度「マイナス」の意味を問う

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 2016年度概算医療費が41.3兆円と過日発表され(15年度41.5兆円)、対前年度▲2,000億円(▲0.4%)と総額で「マイナス」となったことが明らかとなった。概算医療費は国民医療費の約98%に相当し、労災・全額自費等の費用は含んでいない。厚労省は診療報酬のマイナス改定やC型肝炎治療薬等の抗ウイルス剤の薬剤料の大幅減少を要因にあげているが、政府の当初予算は医療費の増加、+0.6%想定の「プラス」を前提に編成されており数字的に整合性がない。厚労省に照会をしたが「調査中」と、している。われわれは以下に述べるように連綿と続く医療費抑制策、医療費削減策の「効き過ぎ」が招いた結果と考えている。「医療危機」「医療崩壊」の「底抜け」が到来する前に、医療費抑制策からの転換、脱却を図るべきであり、そのことを強く求める。

◆医療費プラス0.6%想定が、結果は▲0.4% 乖離幅▲1%=医療費▲4,000億円!

 社会保障予算は「骨太方針2015」により、2016年度の社会保障関係費は自然増分5,000億円のみを認めるとし、当初要求の6,700億円を1,700億円削減をして組まれた。結果的に医療給付費(国庫分)は616億円増(医療費ベースで2,400億円増相当)、つまり医療費で「+0.6%」の伸びを認めるとされている。これは、厚労省のいう、(1) 診療報酬改定率▲0.84%と枠外改定分▲0.47%(市場拡大再算定▲0.19%+市場拡大再算定特例▲0.28%)の実質、計▲1.31%と、(2) ソバルディ、ハーボニーの抗ウイルス剤の薬価引き下げと関連する院内外処方分による影響▲0.5%、の双方を織り込んだ数字である。

 よって、当初想定の+0.6%が▲0.4%へと、プラスからマイナスに転じており、その乖離幅▲1%分、医療費で▲4,000億円分(国費▲1,000億円)が、「追加的」に医療費抑制、医療費削減となったといえる。政府の2016年度決算での医療給付費は予算に比し600億円程度の減額と見込まれており、それを裏打ちしている。

◆国民医療費▲0.5%の02年度とは異なる様相 改定率のマイナス幅半分、GDP伸び率はプラス

 概算医療費と近似値の国民医療費が対前年度比で「マイナス」となったのは過去には、2000年度の介護保険創設による医療保険からの給付移動を除けば、02年度の▲0.5%と、06年度の▲0.0%(0.004%)しかない。両年とも診療報酬改定率が▲2.7%(02年)、▲3.16%(06年)と3%前後のマイナス幅であり、02年はGDPの伸び率が▲0.7%と経済状況の悪化が重なっている。

 16年度の概算医療費の▲0.4%は02年度の国民医療費の▲0.5%と同程度のマイナス幅だが、診療報酬改定率は▲1.31%(実質)と02年度の半分以下のマイナス幅であり、GDPの伸び率は+1.1%と経済状況はプラスである。02年度とは様相が異なっている。

 「医療費適正化対策」の一環、診療報酬の審査による査定減点の金額や、個別指導、適時調査での返還金は、審査・指導の強化の流れには確かにあるが、金額的には大きな変動はない。

◆受診延べ日数は病院、診療所、歯科診療所で軒並み「マイナス」 国保の医療費の落ち込み大▲4.2%

 16年度概算医療費の内訳を子細に見ると、医療費は「入院外+調剤」での▲2.0%が全体をマイナスに転じさせている。また、入院などプラスであっても伸びが鈍化しており、受診延日数が入院▲0.2%、入院外▲1.0%、歯科▲0.5%とすべてマイナスになったことに起因すると考えられる。

 これを医療機関別にみると医療費は個人病院▲11.0%、診療所▲0.9%であり、受診延日数は病院▲0.9%(大学▲0.7%、公的▲1.6%、法人▲0.3、個人▲9.5%)、診療所▲0.8%、歯科診療所▲0.6%と、すべてがマイナスである。

 これをミクロの「1施設あたり」医療費でみると、個人病院▲0.9%、診療所▲1.1%であり、しかも診療所は内科▲1.2%、小児科▲1.1%、外科▲0.7%、整形外科▲0.6%、皮膚科▲0.3%、産婦人科▲0.3%、眼科▲0.8%、耳鼻咽喉科▲1.1%、その他▲2.5%とすべての診療科目で「マイナス」である。これは直近5年ではなかった事態である。

 1施設あたりの受診延日数は病院▲0.7%(大学▲1.2%、公的▲0.9%、法人▲0.7%、個人+0.7%)、診療所▲1.1%、歯科診療所▲0.7%、歯科病院▲0.6%とほぼすべてが「マイナス」である。診療所を診療科目別にみても皮膚科を除き、内科▲1.0%、小児科▲1.3%、外科▲1.7%、整形外科▲1.2%、産婦人科▲0.8%、眼科▲1.9%、耳鼻咽喉科▲2.0%、その他▲1.5%とすべて「マイナス」である。これも直近5年ではなかったことである。

 また、概算医療費を医療保険適用べつにみると国民健康保険が▲4.2%と大きく落ち込み、75歳以上も過去4年平均3.3%の伸びが平成28年度は1.2%と鈍化、1人当たりでみると75歳未満は▲0.7%、75歳以上は▲2.0%となっている。

◆顕著な外来医療費の減少 受診減も深刻 第一線医療を支える医療費総枠拡大へ

 これらを概括すると、(1) 外来医療費の落ち込みが顕著であり、(2) それは診療所中心に第一線医療にシワ寄せが及んでいる。(3) その要因として患者の受診抑制が入院・入院外・歯科を問わず全体化、深刻化していることがあり、(4) 個々の診療所は診療報酬でカバーできず、全ての診療科目で医療費がマイナスとなっている、(5) 受診減少は一般・高齢者問わず、経済的余力のない世帯が多い国民健康保険でより顕著――、となる。

 日本の医療は外来医療の7割、初診の8割を診療所が担っている。この第一線医療が危うい。16年度の概算医療費の対前年度比「マイナス」の結果は、これまでと違う「特異点」となる様相が濃い。

 医療費抑制策は、(1) 患者負担増と(2) 診療報酬のマイナス改定の2つを軸に、進められてきた。今回の結果は医療危機、医療崩壊の再燃どころか「底抜けの」懸念さえ帯びる。

 われわれは早期に医療費抑制からの施策転換、脱却に舵を切り、総枠拡大を図ることを改めて強く求める。

2017年10月6日


<参考>

16年度政府予算(医療給付費)と概算医療費の伸び率と診療報酬改定率

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16年度「医療費の動向」(抜粋)

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医療費抑制策からの転換を

削減策が効き過ぎた対前年度「マイナス」の意味を問う

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 2016年度概算医療費が41.3兆円と過日発表され(15年度41.5兆円)、対前年度▲2,000億円(▲0.4%)と総額で「マイナス」となったことが明らかとなった。概算医療費は国民医療費の約98%に相当し、労災・全額自費等の費用は含んでいない。厚労省は診療報酬のマイナス改定やC型肝炎治療薬等の抗ウイルス剤の薬剤料の大幅減少を要因にあげているが、政府の当初予算は医療費の増加、+0.6%想定の「プラス」を前提に編成されており数字的に整合性がない。厚労省に照会をしたが「調査中」と、している。われわれは以下に述べるように連綿と続く医療費抑制策、医療費削減策の「効き過ぎ」が招いた結果と考えている。「医療危機」「医療崩壊」の「底抜け」が到来する前に、医療費抑制策からの転換、脱却を図るべきであり、そのことを強く求める。

◆医療費プラス0.6%想定が、結果は▲0.4% 乖離幅▲1%=医療費▲4,000億円!

 社会保障予算は「骨太方針2015」により、2016年度の社会保障関係費は自然増分5,000億円のみを認めるとし、当初要求の6,700億円を1,700億円削減をして組まれた。結果的に医療給付費(国庫分)は616億円増(医療費ベースで2,400億円増相当)、つまり医療費で「+0.6%」の伸びを認めるとされている。これは、厚労省のいう、(1) 診療報酬改定率▲0.84%と枠外改定分▲0.47%(市場拡大再算定▲0.19%+市場拡大再算定特例▲0.28%)の実質、計▲1.31%と、(2) ソバルディ、ハーボニーの抗ウイルス剤の薬価引き下げと関連する院内外処方分による影響▲0.5%、の双方を織り込んだ数字である。

 よって、当初想定の+0.6%が▲0.4%へと、プラスからマイナスに転じており、その乖離幅▲1%分、医療費で▲4,000億円分(国費▲1,000億円)が、「追加的」に医療費抑制、医療費削減となったといえる。政府の2016年度決算での医療給付費は予算に比し600億円程度の減額と見込まれており、それを裏打ちしている。

◆国民医療費▲0.5%の02年度とは異なる様相 改定率のマイナス幅半分、GDP伸び率はプラス

 概算医療費と近似値の国民医療費が対前年度比で「マイナス」となったのは過去には、2000年度の介護保険創設による医療保険からの給付移動を除けば、02年度の▲0.5%と、06年度の▲0.0%(0.004%)しかない。両年とも診療報酬改定率が▲2.7%(02年)、▲3.16%(06年)と3%前後のマイナス幅であり、02年はGDPの伸び率が▲0.7%と経済状況の悪化が重なっている。

 16年度の概算医療費の▲0.4%は02年度の国民医療費の▲0.5%と同程度のマイナス幅だが、診療報酬改定率は▲1.31%(実質)と02年度の半分以下のマイナス幅であり、GDPの伸び率は+1.1%と経済状況はプラスである。02年度とは様相が異なっている。

 「医療費適正化対策」の一環、診療報酬の審査による査定減点の金額や、個別指導、適時調査での返還金は、審査・指導の強化の流れには確かにあるが、金額的には大きな変動はない。

◆受診延べ日数は病院、診療所、歯科診療所で軒並み「マイナス」 国保の医療費の落ち込み大▲4.2%

 16年度概算医療費の内訳を子細に見ると、医療費は「入院外+調剤」での▲2.0%が全体をマイナスに転じさせている。また、入院などプラスであっても伸びが鈍化しており、受診延日数が入院▲0.2%、入院外▲1.0%、歯科▲0.5%とすべてマイナスになったことに起因すると考えられる。

 これを医療機関別にみると医療費は個人病院▲11.0%、診療所▲0.9%であり、受診延日数は病院▲0.9%(大学▲0.7%、公的▲1.6%、法人▲0.3、個人▲9.5%)、診療所▲0.8%、歯科診療所▲0.6%と、すべてがマイナスである。

 これをミクロの「1施設あたり」医療費でみると、個人病院▲0.9%、診療所▲1.1%であり、しかも診療所は内科▲1.2%、小児科▲1.1%、外科▲0.7%、整形外科▲0.6%、皮膚科▲0.3%、産婦人科▲0.3%、眼科▲0.8%、耳鼻咽喉科▲1.1%、その他▲2.5%とすべての診療科目で「マイナス」である。これは直近5年ではなかった事態である。

 1施設あたりの受診延日数は病院▲0.7%(大学▲1.2%、公的▲0.9%、法人▲0.7%、個人+0.7%)、診療所▲1.1%、歯科診療所▲0.7%、歯科病院▲0.6%とほぼすべてが「マイナス」である。診療所を診療科目別にみても皮膚科を除き、内科▲1.0%、小児科▲1.3%、外科▲1.7%、整形外科▲1.2%、産婦人科▲0.8%、眼科▲1.9%、耳鼻咽喉科▲2.0%、その他▲1.5%とすべて「マイナス」である。これも直近5年ではなかったことである。

 また、概算医療費を医療保険適用べつにみると国民健康保険が▲4.2%と大きく落ち込み、75歳以上も過去4年平均3.3%の伸びが平成28年度は1.2%と鈍化、1人当たりでみると75歳未満は▲0.7%、75歳以上は▲2.0%となっている。

◆顕著な外来医療費の減少 受診減も深刻 第一線医療を支える医療費総枠拡大へ

 これらを概括すると、(1) 外来医療費の落ち込みが顕著であり、(2) それは診療所中心に第一線医療にシワ寄せが及んでいる。(3) その要因として患者の受診抑制が入院・入院外・歯科を問わず全体化、深刻化していることがあり、(4) 個々の診療所は診療報酬でカバーできず、全ての診療科目で医療費がマイナスとなっている、(5) 受診減少は一般・高齢者問わず、経済的余力のない世帯が多い国民健康保険でより顕著――、となる。

 日本の医療は外来医療の7割、初診の8割を診療所が担っている。この第一線医療が危うい。16年度の概算医療費の対前年度比「マイナス」の結果は、これまでと違う「特異点」となる様相が濃い。

 医療費抑制策は、(1) 患者負担増と(2) 診療報酬のマイナス改定の2つを軸に、進められてきた。今回の結果は医療危機、医療崩壊の再燃どころか「底抜けの」懸念さえ帯びる。

 われわれは早期に医療費抑制からの施策転換、脱却に舵を切り、総枠拡大を図ることを改めて強く求める。

2017年10月6日


<参考>

16年度政府予算(医療給付費)と概算医療費の伸び率と診療報酬改定率

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16年度「医療費の動向」(抜粋)

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