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2017/7/24 政策部長談話 「『医療』を変貌させる蟻の一穴 保険者の禁煙外来、遠隔診療で完結は可、に反対する」

「医療」を変貌させる蟻の一穴

保険者の禁煙外来、遠隔診療で完結は可、に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 7月14日、厚労省は「保険者が実施する禁煙外来」(自由診療)は遠隔診療のみで完結しても可とする、新たな解釈を示す医政局長通知(医政発0714第4号)を発出した。また、通知では患者と医師双方の確認により電子メール、SNS等の組み合わせによる遠隔診療も可能とも示されており、これらは「医療」そのものを変貌させる蟻の一穴となりかねない。6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」では、遠隔診療の診療報酬での評価に踏み込んでおり、この通知の保険診療への影響も懸念される。われわれは、この遠隔診療の解釈改定に反対するとともに、強く警鐘を鳴らすものである。

◆規制改革推進会議への満額回答

 今回の解釈通知の源流は、3月13日の規制改革推進会議・投資等ワーキンググループの会議である。この会議には、スマホ診療などの遠隔診療サービスを運営する株式会社メドレー、ポート株式会社、株式会社リンケージが出席し、各社の「CLINICS」(遠隔診療支援オンライン診療アプリ)、「ポートメディカル」(遠隔診療プラットフォーム)、「D-CUBE」(オンライン面談健康支援ツール)による「禁煙外来事業」の紹介とともにICT(情報通信機器)利用の遠隔診療推進の課題解決が求められている。

 そこでは(1)特定保健指導の「初回面接」がICTで可能となっていることを引き保険者責任の保健事業領域は完全遠隔で可とすることの明確化、(2)遠隔診療の形態の明確化、(3)都市型医療でのテレビ電話の必然性とツール限定の解除・見直し―電子メール、SNS等の文字及び写真のみの情報で診療を完結する事業は医師法違反とした東京都の疑義照会への回答の見直し、(4)初診からの遠隔診療は医師法違反でないことの再度の明確化、(5)初診料の適応、(6)普及のための診療報酬上のインセンティブ、(7)選定療養の活用、(8)ネット診療、オンライン診療への名称変更、(9)外来医療、在宅医療に次ぐオンライン診療の部門の位置付けなどが要望された。

 また国家戦略特区で有名となった藤原審議官からは薬局による遠隔服薬指導(医薬品の郵送)の兵庫県養父市の特区での早期実施への期待と内閣府のサポートが説かれている。

 株式会社リンケージの禁煙外来事業は、海外駐在員の健康支援サービス向けの経産省の2013年度の採択事業を国内でも展開し、15年度より特定保健指導領域で展開されているものである。

 6月9日閣議決定された規制改革実施計画には、遠隔診療の取り扱いの明確化のための新たな通知発出と診療報酬上の評価の拡充が盛り込まれた。新たな解釈通知は、これへの満額回答となっている。

◆保険者の実施する禁煙外来、とういう不思議 「特定健診=禁煙外来=自由診療」のロジック

 禁煙外来は、一般的に保険診療による医療機関での受診である。診療報酬での制度化、ニコチン依存症管理料の導入の際、「予防」の保険診療化として保険者から異論が挟まれ、ひと悶着がありながら落着したものである。「保険者の実施する禁煙外来」の文言に多くは違和感を覚えるのが普通である。

 「保険者の実施する禁煙外来」は、当然ながら保険者が医療機関に委託して実施される。これは、(1)特定保健指導の「積極的支援」として実施を委託するもの、(2)保険者の任意の保健事業として行うもの、を称している。これらは保険者の全額費用負担、ないしは一部利用者負担としており、形態的にみれば自由診療、自費診療の形となる。

 特定保健指導は、特定健診での腹囲、BMIと血糖、脂質、血圧の測定値の異常の際に喫煙歴を重ね対象者を「動機づけ支援」(面接1回)、「積極的支援」(面接と定期的な継続支援)と階層化し、指導プログラムを実施する。実施機関は医療機関に限定はされないが、初回面接は医師、保健師、管理栄養士でなければいけない。禁煙は大きなポイントで、「積極的支援」と「動機づけ支援」の分岐となっており、禁煙を成功させることで「積極的支援」を「動機づけ支援」へと改善することで、実施機関への委託費、コストが削減されることになる。また、特定健診・特定保健指導の実施率は後期高齢者医療制度への支援金の加算・減算と絡むため、「積極的支援」の成功、行動変容の成否は、結果的に実施率の高低にも影響を及ぼしていく。

 任意の保健事業は、データヘルス計画、健康経営として保険者・企業による、被保険者・従業員への健康づくりへの介入として展開されているものである。

 禁煙外来を保険者委託で実施する医療機関は結構ある(厚労省医療費適正化対策推進室)。この間、新たな解釈通知発出を前後し、自由診療の禁煙外来が遠隔診療のみで可と報道されているが、これは、「特定保健指導・保健事業=禁煙外来=自由診療」のロジックによる、概念移動、すり替え連想であり、牽強付会の感は拭えない。この延長線上に完全遠隔診療の保険診療が位置づくという構図になっている。

◆「未来投資戦略2017」に見る糖尿病管理と管理医療の深謀遠慮 

 完全遠隔の禁煙外来は、保険診療では認められていない。医政局医事課は当会の照会に応えており、「保険者の実施する」との冠の意味がそこにあるが、今後の行方は非常に懸念される。

 「未来投資戦略2017」では、「第2 具体的施策」のくだりで、「遠隔診療について、例えばオンライン診察を組み合わせた糖尿病等の生活習慣病患者への効果的な指導・管理や血圧・血糖等の遠隔モニタリングを活用した早期の重症化予防等」とかなり具体的に挙げ、「対面診療と遠隔診療を適切に組み合わせることにより効果的・効率的な医療提供に資するものについては、次期診療報酬改定で評価を行う」と踏み込んだ。自由診療から保険診療への完全遠隔診療の波及、初診料への適応、遠隔糖尿病外来とドミノ倒しが危惧される。

 また、「未来投資戦略2017」では「予防・健康づくり」とし、保険者・経営者による「個人の行動変容の本格化」を挙げ、先述の後期高齢者支援金の加算・減算制度の強化が謳われており、患者・被保険者への介入が強化されるとみられる。

 完全遠隔禁煙外来を梃とし、また雛形とした、患者・被保険者の登録化・組込みが予想され、健康づくり・行動変容から保険診療の前段階での受診の要否を保険者が判断する仕組みへと反転する危険性もともなう。いわゆるマネージド・ケア、管理医療である。

 次期診療報酬改定の内容の如何により、医療界がスマホ診療などの遠隔診療に揺さぶられる可能性も否定できない。「効果的・効率的で質の高い医療を実現する視点」の名のもと、2016年度改定では、かかりつけ医の評価として地域包括診療料の施設基準緩和や、ICT利活用の医療連携として電子的診療情報提供の新設などがおこなわれた。予断は禁物である。

◆「投資」の俎上で議論されてきたICT利用の遠隔診療の拡散に反対する

 ICT利用の遠隔診療は、規制改革推進会議や未来投資会議などで、「健康寿命の延伸」を錦の御旗とし議論されているが、実態は「投資」分野として議論が行われてきたものである。

 遠隔診療は離島・山間僻地などの地理的・物理的な問題や、医師不足・医師偏在などの困難性を克服する「次善策」として認められてきたものである。企図されている、マーケットの大きい都市部のスマホ診療を初診から認め、電子メールやSNSでの患者の心身情報の取得を「診察」とすることは、医療そのものを変容させる。対面診察の軽視・否定は、「診断学の否定」(石川・日医常任理事)となる。診療は、問診の後に医師の診察(視診、触診、聴診、打診等)を行い必要な検査を加えて診断をした上で、医師の指示・管理下で、看護師などコ・メディカルとともに行われる、対面診療が基本である。これが崩れることになる。

 昨年販売の「遠隔診療サービス『ポケットドクター』」(MRT株式会社)は、経済産業省が次世代ヘルスケア産業の担い手を発掘するために開催した「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2016」で、グランプリを受賞している。頻繁に医療機関へ宣伝攻勢をかける遠隔診療ビジネスに抗し、医療界が良識と実践で矜持を保てるかが、医療の将来の分水嶺となる。

 われわれは、ICT利用による遠隔診療の策動に、強く反対する。

2017年7月24日

「医療」を変貌させる蟻の一穴

保険者の禁煙外来、遠隔診療で完結は可、に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 7月14日、厚労省は「保険者が実施する禁煙外来」(自由診療)は遠隔診療のみで完結しても可とする、新たな解釈を示す医政局長通知(医政発0714第4号)を発出した。また、通知では患者と医師双方の確認により電子メール、SNS等の組み合わせによる遠隔診療も可能とも示されており、これらは「医療」そのものを変貌させる蟻の一穴となりかねない。6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」では、遠隔診療の診療報酬での評価に踏み込んでおり、この通知の保険診療への影響も懸念される。われわれは、この遠隔診療の解釈改定に反対するとともに、強く警鐘を鳴らすものである。

◆規制改革推進会議への満額回答

 今回の解釈通知の源流は、3月13日の規制改革推進会議・投資等ワーキンググループの会議である。この会議には、スマホ診療などの遠隔診療サービスを運営する株式会社メドレー、ポート株式会社、株式会社リンケージが出席し、各社の「CLINICS」(遠隔診療支援オンライン診療アプリ)、「ポートメディカル」(遠隔診療プラットフォーム)、「D-CUBE」(オンライン面談健康支援ツール)による「禁煙外来事業」の紹介とともにICT(情報通信機器)利用の遠隔診療推進の課題解決が求められている。

 そこでは(1)特定保健指導の「初回面接」がICTで可能となっていることを引き保険者責任の保健事業領域は完全遠隔で可とすることの明確化、(2)遠隔診療の形態の明確化、(3)都市型医療でのテレビ電話の必然性とツール限定の解除・見直し―電子メール、SNS等の文字及び写真のみの情報で診療を完結する事業は医師法違反とした東京都の疑義照会への回答の見直し、(4)初診からの遠隔診療は医師法違反でないことの再度の明確化、(5)初診料の適応、(6)普及のための診療報酬上のインセンティブ、(7)選定療養の活用、(8)ネット診療、オンライン診療への名称変更、(9)外来医療、在宅医療に次ぐオンライン診療の部門の位置付けなどが要望された。

 また国家戦略特区で有名となった藤原審議官からは薬局による遠隔服薬指導(医薬品の郵送)の兵庫県養父市の特区での早期実施への期待と内閣府のサポートが説かれている。

 株式会社リンケージの禁煙外来事業は、海外駐在員の健康支援サービス向けの経産省の2013年度の採択事業を国内でも展開し、15年度より特定保健指導領域で展開されているものである。

 6月9日閣議決定された規制改革実施計画には、遠隔診療の取り扱いの明確化のための新たな通知発出と診療報酬上の評価の拡充が盛り込まれた。新たな解釈通知は、これへの満額回答となっている。

◆保険者の実施する禁煙外来、とういう不思議 「特定健診=禁煙外来=自由診療」のロジック

 禁煙外来は、一般的に保険診療による医療機関での受診である。診療報酬での制度化、ニコチン依存症管理料の導入の際、「予防」の保険診療化として保険者から異論が挟まれ、ひと悶着がありながら落着したものである。「保険者の実施する禁煙外来」の文言に多くは違和感を覚えるのが普通である。

 「保険者の実施する禁煙外来」は、当然ながら保険者が医療機関に委託して実施される。これは、(1)特定保健指導の「積極的支援」として実施を委託するもの、(2)保険者の任意の保健事業として行うもの、を称している。これらは保険者の全額費用負担、ないしは一部利用者負担としており、形態的にみれば自由診療、自費診療の形となる。

 特定保健指導は、特定健診での腹囲、BMIと血糖、脂質、血圧の測定値の異常の際に喫煙歴を重ね対象者を「動機づけ支援」(面接1回)、「積極的支援」(面接と定期的な継続支援)と階層化し、指導プログラムを実施する。実施機関は医療機関に限定はされないが、初回面接は医師、保健師、管理栄養士でなければいけない。禁煙は大きなポイントで、「積極的支援」と「動機づけ支援」の分岐となっており、禁煙を成功させることで「積極的支援」を「動機づけ支援」へと改善することで、実施機関への委託費、コストが削減されることになる。また、特定健診・特定保健指導の実施率は後期高齢者医療制度への支援金の加算・減算と絡むため、「積極的支援」の成功、行動変容の成否は、結果的に実施率の高低にも影響を及ぼしていく。

 任意の保健事業は、データヘルス計画、健康経営として保険者・企業による、被保険者・従業員への健康づくりへの介入として展開されているものである。

 禁煙外来を保険者委託で実施する医療機関は結構ある(厚労省医療費適正化対策推進室)。この間、新たな解釈通知発出を前後し、自由診療の禁煙外来が遠隔診療のみで可と報道されているが、これは、「特定保健指導・保健事業=禁煙外来=自由診療」のロジックによる、概念移動、すり替え連想であり、牽強付会の感は拭えない。この延長線上に完全遠隔診療の保険診療が位置づくという構図になっている。

◆「未来投資戦略2017」に見る糖尿病管理と管理医療の深謀遠慮 

 完全遠隔の禁煙外来は、保険診療では認められていない。医政局医事課は当会の照会に応えており、「保険者の実施する」との冠の意味がそこにあるが、今後の行方は非常に懸念される。

 「未来投資戦略2017」では、「第2 具体的施策」のくだりで、「遠隔診療について、例えばオンライン診察を組み合わせた糖尿病等の生活習慣病患者への効果的な指導・管理や血圧・血糖等の遠隔モニタリングを活用した早期の重症化予防等」とかなり具体的に挙げ、「対面診療と遠隔診療を適切に組み合わせることにより効果的・効率的な医療提供に資するものについては、次期診療報酬改定で評価を行う」と踏み込んだ。自由診療から保険診療への完全遠隔診療の波及、初診料への適応、遠隔糖尿病外来とドミノ倒しが危惧される。

 また、「未来投資戦略2017」では「予防・健康づくり」とし、保険者・経営者による「個人の行動変容の本格化」を挙げ、先述の後期高齢者支援金の加算・減算制度の強化が謳われており、患者・被保険者への介入が強化されるとみられる。

 完全遠隔禁煙外来を梃とし、また雛形とした、患者・被保険者の登録化・組込みが予想され、健康づくり・行動変容から保険診療の前段階での受診の要否を保険者が判断する仕組みへと反転する危険性もともなう。いわゆるマネージド・ケア、管理医療である。

 次期診療報酬改定の内容の如何により、医療界がスマホ診療などの遠隔診療に揺さぶられる可能性も否定できない。「効果的・効率的で質の高い医療を実現する視点」の名のもと、2016年度改定では、かかりつけ医の評価として地域包括診療料の施設基準緩和や、ICT利活用の医療連携として電子的診療情報提供の新設などがおこなわれた。予断は禁物である。

◆「投資」の俎上で議論されてきたICT利用の遠隔診療の拡散に反対する

 ICT利用の遠隔診療は、規制改革推進会議や未来投資会議などで、「健康寿命の延伸」を錦の御旗とし議論されているが、実態は「投資」分野として議論が行われてきたものである。

 遠隔診療は離島・山間僻地などの地理的・物理的な問題や、医師不足・医師偏在などの困難性を克服する「次善策」として認められてきたものである。企図されている、マーケットの大きい都市部のスマホ診療を初診から認め、電子メールやSNSでの患者の心身情報の取得を「診察」とすることは、医療そのものを変容させる。対面診察の軽視・否定は、「診断学の否定」(石川・日医常任理事)となる。診療は、問診の後に医師の診察(視診、触診、聴診、打診等)を行い必要な検査を加えて診断をした上で、医師の指示・管理下で、看護師などコ・メディカルとともに行われる、対面診療が基本である。これが崩れることになる。

 昨年販売の「遠隔診療サービス『ポケットドクター』」(MRT株式会社)は、経済産業省が次世代ヘルスケア産業の担い手を発掘するために開催した「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2016」で、グランプリを受賞している。頻繁に医療機関へ宣伝攻勢をかける遠隔診療ビジネスに抗し、医療界が良識と実践で矜持を保てるかが、医療の将来の分水嶺となる。

 われわれは、ICT利用による遠隔診療の策動に、強く反対する。

2017年7月24日