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2014/2/18 政策部長談話「外来軽視、地域包括ケア偏重の今次診療報酬改定を糺す 虎視眈々の医療ビジネス化へは警戒を」

外来軽視、地域包括ケア偏重の今次診療報酬改定を糺す

虎視眈々の医療ビジネス化へは警戒を

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 2月12日、今次診療報酬改定の点数が答申された。焦点の主治医制、「地域包括診療加算」は20点と、再診料72点の3割強の水準となった。今次改定は、診療所の根幹的評価の初診料、再診料は消費税補填を除き、実質アップは全くないだけに、今後の動向が非常に注目される。しかも、同「加算」は研修要件や患者と他院との調整など、本格稼働へはその選択判断に「逡巡」や「待機」が付随し、「迷走」が予想される。その間、国会では医療法・介護保険法改定の一括法案の審議となり、医療提供体制の整備に関する県の「規制」権限強化や、県が診療所にピンポイントでお金を落とす「基金」のメニューが示されることになる。自立・自助を社会保障の基本に据えたプログラム法の下、「住まい」を中心に医療・介護が連携し、病院完結型から「地域完結型」へ、提供体制の転換が図られる。

 この国策「地域包括ケア」は、2025年の超高齢社会を乗り切り、財政再生・財政再建への起死回生策だが、同時に100兆円のビジネスチャンスを当て込む企業群による医療の「商品」化を狙う思惑もあり、「同床異夢」で進んでいく。われわれは、今後の展開への危険性について、新たに警鐘する。

 今次改定で消費税対応とし、初診料12点、再診料3点、各々アップする。消費税は本来、事業者は負担をしない。「消費者」が負担をする。医療は社会保障であり「商品」ではない。「患者」も消費者ではない、よって消費税は負担をしない。しかし、「政策の失敗」により、事業者の医療機関が消費税を負担しつづける矛盾がある。この解決が税制大綱でうたわれ、途上の措置として補填がされた。一部にある執拗な批判報道は無理解に過ぎず、診療所にとって根幹の、初診料、再診料のプラス評価は何もなされなかったのである。つまり、外来全体の評価が軽視されたことになる。初・再診料は診療所の保険収益の2割を占めウエイトが大きく、診察・診断、外来看護、スタッフ人件費、事務費、光熱費、施設維持管理など技術・労働・管理を広範囲に経済評価したものであるが低廉であることが問題視されてきた。外来患者の7割、初診患者の8割は診療所が診ている。

 これに代わり、重点評価となったのは、「地域包括診療加算」20点(1点=10円)である。この算定要件は、(1)高血圧症、糖尿病、脂質異常症、認知症の4疾病のうち「複数を診る」、(2)関係団体主催の研修を修了した「担当医」の専任、(3)患者同意の下、計画的な医学管理、(4)患者の受診医療機関すべての把握と服薬管理、(5)自院検査と院内処方、(6)健康管理・検診勧奨、(7)主治医意見書ほか介護サービス提供等で、全ての患者が対象である。研修要件は15年4月適用で、その間は暫定運用となる。

 内科の診療所の外来診療費は1,120.8点(月)、通院日数は月1.59日であり、この加算の算定で31.8点増、プラス2.8%の増となる。年間医療費で200万円程度の保険収益増となる。

 ただ、この加算を算定できる診療所は、24時間対応の「時間外対応加算1」または夜間対応の同「加算2」を算定する診療所が対象であり、各々9,197、1万5,555で計2万4千と対象は絞られる。診療所は全国10万、うち内科系は6万、うち在宅療養支援診療所(在支診)は1万3千施設である。報道で注目された「地域包括診療料」1,503点は、24時間在宅医療に応じる在支診の中でも医師が3人在籍する強化型が対象であり、全国に359施設しかない。

 2025年の75歳以上人口は2170万人、年間の死亡者150万人。これを極力、地域で診て、看取るためにつくられる「地域包括ケアシステム」は、人口1万人に1つ(中学校区単位)の想定で全国1万となる。このネットワークの拠点に、「地域包括診療加算」算定の診療所が位置づくことになる。

 この間、在宅医療連携拠点事業100か所が全国でモデル展開されたが、多くは診療所、病院、医師会などを実施主体とし、主治医・副主治医制の構築や「多職種連携」、「ケアカンファレンス」など、地域実情に応じ実践され高評価となっている。13年度からは在宅医療推進事業として、この音頭取り、マネージメントを「地域包括支援センター」に担わせるモデルが緒についたが力量的に未知数である。

 今次改定では、病院を専門外来に特化し、一般外来を診療所へ移行させるため、大学病院や大病院(500床以上)の入院基本料算定における患者の「紹介率・逆紹介率」のハードルを極端にあげた。紹介率は外来患者数を分母にとるため、一般患者の整理と、治療連携のため診療所の大病院への「登録」関係が強化されることになる。いわば、グループ化である。

 また、地域包括ケア支援病棟など在宅復帰率7割が指標とされ、多くが在宅に戻されて行く。

 診療所を中心に団塊世代の患者、大病院の外来・退院患者を診て行く構図だ。が、主軸を担う「地域包括診療加算」算定の診療所に、経済誘導で「複数疾病」を診させ医学管理させる構想には無理がある。高血圧を診る循環器の専門医療機関と糖尿病を診る専門医療機関では、治療内容に明確な差がある。これは「病診」の機能分担のゲートキーパーと違い、「診診」の連携を制限する性格を帯びたものである。しかも医学管理料も自ずと1医療機関算定に整理されていくため専門治療が崩れる。患者の4割は複数医療機関ないしは複数科受診が実態である(受療行動調査、中医協資料)。

 医療機関と患者を「1対1」の関係に縛り、患者を診療所に「登録」し、病院や専門医療機関へはここを「経由」し受診する。フリーアクセスを制限したものが「登録医」制であり、英国などヨーロッパが採用している。聴診器1本で、振り分けをすることから「ゲートキーパー」と揶揄される。

 日本では、この登録医制は古くは80年代の家庭医構想にはじまり、小泉内閣の02年に医療費の総枠管理制の方策として浮上。最近は国保中央会が06年に提言、厚労省幹部も07年に「登録料」「コーディネーター料」構想を公表、08年の後期高齢者診療料として、連綿として導入が狙われてきた。

 日本の診療所は専門医が開業し、専門性を柱に日常診療で遭遇する頻度の高い疾患にも対応している。この特徴ゆえに、病院紹介をせずとも、内視鏡的治療や冠動脈CT、重症の糖尿病など診診連携で完結している例もある。今回の「地域包括診療加算」算定は、緩やかなゲートキーパーではなく、現実を無視した自己完結型の登録医である。今回、4疾病の患者を先鞭に導入されるが、いずれ全患者に広がることは確実である。現場の混乱、齟齬は広がり、患者の保険適用でのトラブルにもなる。

 国会審議予定の医療法・介護保険法改定の一括法案は、民間主体の医療体制を、医療需要データにより再編・淘汰するため、「県」に地域医療ビジョンを策定させ、規制権限を与える。病床機能の報告をさせ必要数に応じ医療機関の機能転換を要請、従わない医療機関名公表、地域医療支援病院の承認取り消しなど可能とする。また新たな「基金」により、地域包括ケアの整備に使える補助金を県が差配できるようにする。向こう3年、市町村国保は県国保に統合され県は保険者として財政運営するだけに本気度は医療計画と格段に違ってくる。医療機関は「医療の絵図面」と無関係でいられなくなる。

 また一括法案は、会社法なみの医療法人の合併・再編に向けた手続きの規制緩和、法人種別の異なる財団と社団の合併に道を開くが、これは国公立の医療機関の経営部門と民間医療法人の合併などホールディングカンパニー化を睨んだものとなる。これは功罪半ばし、有名チェーン病院のような事務部門の効率化や医薬品・衛生材料・医療機器の一括購入、人材統合など、医療機関の系列・グループ化を促進する一方、産業競争力会議がこの改革を筆頭にあげ、融資や配当を可能とするよう要請するなど医療費の非営利性を壊し、会社化・企業化に大きく道を開くことになる。

 社会保障改革は、「施設から地域へ、医療から介護へ」がキーワードだが、裏を返せば、"住まいで医療を頼らず介護で"となる。すでに産業界は高齢者市場100兆円の皮算用のもと、生活支援サービスの高齢化シフトが顕著となり、介護周辺では配食・移動・家事など企業サービスが膨らみ、土建業が介護保険給付の住宅改修を当て込み訪問介護事業に参入するなど活発化している。

 しかし、本丸は医療である。地域包括診療加算は、院内処方が原則だが、院外処方の場合に、24時間対応の薬局との連携が要件となる。分業率が80%と高い神奈川県では連携が現実的となる。現在、この薬局は数が僅少であるが、ここに企業が進出している。ローソンが調剤薬局併設型コンビニを1都3県で展開、今年から佐賀県のチェーン薬局と業務提携し薬局併設コンビニが、複数の医療機関が入った医療モールで開業する。このモールは有料老人ホームと一体となっている。楽天のOTCのネット販売騒動は記憶に新しいが、本当の狙いは処方箋を切った、医療用医薬品であると公になっている。両社社長は産業競争力会議の委員だ。

 「地域包括診療加算」算定の診療所は、健康管理と「検診勧奨」が要件となっている。ローソンは「マチの健康ステーション」の新型店舗の展開を進めており、尼崎市と提携しメタボ健診の若年層の受診率向上へ「場」を提供し実をあげている。さらには、がん検診の受診率50%達成へ、都道府県とアフラックや東京海上日動などが提携し検診受診の啓発事業を行い関係性を強めている。国の審議会では、検診率50%超の韓国を視察し、検診受診による割引制、患者5割負担、混合診療など韓国の医療保険との対比が資料提出されている。

 メタボ健診は保険者の成績に応じ、高齢者医療の支援金にペナルティーが課せられ、適用が始まった。医療費適正化計画の達成のため独自の診療報酬設定を県が要望することは可能となっている。メタボ健診の受診へのポイント制(景品交換など)を一部、保険者が実施しているが、国としての導入検討が予定されている。かつてがん検診未受診者に保険料へのペナルティーをと官僚発言があった。県が国保の保険者となり提供体制の規制権限をもつことと、企業連携の動きを重ね合わせると意味深長である。健康管理、検診勧奨が、主治医の要件とされた意味合いは、単純ではない。

 医療の商品化の企図は執拗である。生活産業と医療・介護のグレーゾーンの峻別を説く産業界は、行政改革推進会議を通じた要望、市販薬類似薬の保険外しに成功した。うがい薬の保険外しだ。単剤使用を対象というが風邪症状で来院し咽頭の炎症治療でうがい薬の単剤処方は現場ではある。これが不可となると、複数処方の誘因となり医療経済上も負担が嵩む。患者も自費購入となり、放置し悪化の可能性もでる。それ以上に想定の医療費240億円(国費61億円)は院内処方で960万人分、院外処方でも480万人分に相当する。国民10人に一人という膨大な数であり、「治療目的外」の投与とされたが、審査・指導を通じ全てが外れされる可能性が高い。すでにビタミンの一部が外され、今後は漢方、湿布が射程に入るのは規定路線だ。厚労省は医学的反論をしたが押し切られている。

 商業性がなく治験が見込めない、または費用対効果の低い先進医療の保険外併用(混合診療)の恒常化の「検討」もしかりであり、厚労省みずから新薬の保険適用に混合診療を検討する始末である。

 歯科においては「かかりつけ歯科初診料」以来、一貫する患者口腔の「長期維持管理」路線、PL法(製造物責任法)準拠路線が強固なまま、口腔リハビリテーションへと有床義歯の管理が衣替えとなり、自費との混合が可能な介護保険への移行が準備された。

 地域包括ケアは、高齢化が急激な都市部のプランであり、交通が不便で医療・介護資源が少なく単位面積が広い地方や過疎地、豪雪地帯では不合理である。施設集約型に理がある。また都市部であっても生活圏に潤沢なサービス提供があり、低い負担で利用できなければ画餅に帰す。退院強要に途方に暮れる患者・家族の苦境は一向に解消されず、高齢者医療と介護保険は患者負担が今後、引きあがる。介護地獄からの解放をうたった介護保険は家族介護を前提に組まれたまま、介護心中が後を絶たない。孤独死を例に出すまでもなく、単身者は増加の一途であり、2025年に65歳以上で700万人、単身世帯は34.8%となり、非常に心もとない。

 その一方、医療の商品化、市場化に向け、医療機関との結合を進める企業群が蠢いている。われわれは医療機器や医薬品の開発など産業化、企業活動を否定しているのではない。「医療提供」そのものを「商品」としていく流れを危険視しているのである。

 今次改定は、主治医制を軸に医療提供体制の大転換への嚆矢となる。企業の伸長は医療・介護需要に応えている証左でもある。医療界が主導権を確実に握り医療実践と広報で、「商品化」の濁流を砕くことを広く呼び掛けたい。

2014年2月18日

 

外来軽視、地域包括ケア偏重の今次診療報酬改定を糺す

虎視眈々の医療ビジネス化へは警戒を

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 2月12日、今次診療報酬改定の点数が答申された。焦点の主治医制、「地域包括診療加算」は20点と、再診料72点の3割強の水準となった。今次改定は、診療所の根幹的評価の初診料、再診料は消費税補填を除き、実質アップは全くないだけに、今後の動向が非常に注目される。しかも、同「加算」は研修要件や患者と他院との調整など、本格稼働へはその選択判断に「逡巡」や「待機」が付随し、「迷走」が予想される。その間、国会では医療法・介護保険法改定の一括法案の審議となり、医療提供体制の整備に関する県の「規制」権限強化や、県が診療所にピンポイントでお金を落とす「基金」のメニューが示されることになる。自立・自助を社会保障の基本に据えたプログラム法の下、「住まい」を中心に医療・介護が連携し、病院完結型から「地域完結型」へ、提供体制の転換が図られる。

 この国策「地域包括ケア」は、2025年の超高齢社会を乗り切り、財政再生・財政再建への起死回生策だが、同時に100兆円のビジネスチャンスを当て込む企業群による医療の「商品」化を狙う思惑もあり、「同床異夢」で進んでいく。われわれは、今後の展開への危険性について、新たに警鐘する。

 今次改定で消費税対応とし、初診料12点、再診料3点、各々アップする。消費税は本来、事業者は負担をしない。「消費者」が負担をする。医療は社会保障であり「商品」ではない。「患者」も消費者ではない、よって消費税は負担をしない。しかし、「政策の失敗」により、事業者の医療機関が消費税を負担しつづける矛盾がある。この解決が税制大綱でうたわれ、途上の措置として補填がされた。一部にある執拗な批判報道は無理解に過ぎず、診療所にとって根幹の、初診料、再診料のプラス評価は何もなされなかったのである。つまり、外来全体の評価が軽視されたことになる。初・再診料は診療所の保険収益の2割を占めウエイトが大きく、診察・診断、外来看護、スタッフ人件費、事務費、光熱費、施設維持管理など技術・労働・管理を広範囲に経済評価したものであるが低廉であることが問題視されてきた。外来患者の7割、初診患者の8割は診療所が診ている。

 これに代わり、重点評価となったのは、「地域包括診療加算」20点(1点=10円)である。この算定要件は、(1)高血圧症、糖尿病、脂質異常症、認知症の4疾病のうち「複数を診る」、(2)関係団体主催の研修を修了した「担当医」の専任、(3)患者同意の下、計画的な医学管理、(4)患者の受診医療機関すべての把握と服薬管理、(5)自院検査と院内処方、(6)健康管理・検診勧奨、(7)主治医意見書ほか介護サービス提供等で、全ての患者が対象である。研修要件は15年4月適用で、その間は暫定運用となる。

 内科の診療所の外来診療費は1,120.8点(月)、通院日数は月1.59日であり、この加算の算定で31.8点増、プラス2.8%の増となる。年間医療費で200万円程度の保険収益増となる。

 ただ、この加算を算定できる診療所は、24時間対応の「時間外対応加算1」または夜間対応の同「加算2」を算定する診療所が対象であり、各々9,197、1万5,555で計2万4千と対象は絞られる。診療所は全国10万、うち内科系は6万、うち在宅療養支援診療所(在支診)は1万3千施設である。報道で注目された「地域包括診療料」1,503点は、24時間在宅医療に応じる在支診の中でも医師が3人在籍する強化型が対象であり、全国に359施設しかない。

 2025年の75歳以上人口は2170万人、年間の死亡者150万人。これを極力、地域で診て、看取るためにつくられる「地域包括ケアシステム」は、人口1万人に1つ(中学校区単位)の想定で全国1万となる。このネットワークの拠点に、「地域包括診療加算」算定の診療所が位置づくことになる。

 この間、在宅医療連携拠点事業100か所が全国でモデル展開されたが、多くは診療所、病院、医師会などを実施主体とし、主治医・副主治医制の構築や「多職種連携」、「ケアカンファレンス」など、地域実情に応じ実践され高評価となっている。13年度からは在宅医療推進事業として、この音頭取り、マネージメントを「地域包括支援センター」に担わせるモデルが緒についたが力量的に未知数である。

 今次改定では、病院を専門外来に特化し、一般外来を診療所へ移行させるため、大学病院や大病院(500床以上)の入院基本料算定における患者の「紹介率・逆紹介率」のハードルを極端にあげた。紹介率は外来患者数を分母にとるため、一般患者の整理と、治療連携のため診療所の大病院への「登録」関係が強化されることになる。いわば、グループ化である。

 また、地域包括ケア支援病棟など在宅復帰率7割が指標とされ、多くが在宅に戻されて行く。

 診療所を中心に団塊世代の患者、大病院の外来・退院患者を診て行く構図だ。が、主軸を担う「地域包括診療加算」算定の診療所に、経済誘導で「複数疾病」を診させ医学管理させる構想には無理がある。高血圧を診る循環器の専門医療機関と糖尿病を診る専門医療機関では、治療内容に明確な差がある。これは「病診」の機能分担のゲートキーパーと違い、「診診」の連携を制限する性格を帯びたものである。しかも医学管理料も自ずと1医療機関算定に整理されていくため専門治療が崩れる。患者の4割は複数医療機関ないしは複数科受診が実態である(受療行動調査、中医協資料)。

 医療機関と患者を「1対1」の関係に縛り、患者を診療所に「登録」し、病院や専門医療機関へはここを「経由」し受診する。フリーアクセスを制限したものが「登録医」制であり、英国などヨーロッパが採用している。聴診器1本で、振り分けをすることから「ゲートキーパー」と揶揄される。

 日本では、この登録医制は古くは80年代の家庭医構想にはじまり、小泉内閣の02年に医療費の総枠管理制の方策として浮上。最近は国保中央会が06年に提言、厚労省幹部も07年に「登録料」「コーディネーター料」構想を公表、08年の後期高齢者診療料として、連綿として導入が狙われてきた。

 日本の診療所は専門医が開業し、専門性を柱に日常診療で遭遇する頻度の高い疾患にも対応している。この特徴ゆえに、病院紹介をせずとも、内視鏡的治療や冠動脈CT、重症の糖尿病など診診連携で完結している例もある。今回の「地域包括診療加算」算定は、緩やかなゲートキーパーではなく、現実を無視した自己完結型の登録医である。今回、4疾病の患者を先鞭に導入されるが、いずれ全患者に広がることは確実である。現場の混乱、齟齬は広がり、患者の保険適用でのトラブルにもなる。

 国会審議予定の医療法・介護保険法改定の一括法案は、民間主体の医療体制を、医療需要データにより再編・淘汰するため、「県」に地域医療ビジョンを策定させ、規制権限を与える。病床機能の報告をさせ必要数に応じ医療機関の機能転換を要請、従わない医療機関名公表、地域医療支援病院の承認取り消しなど可能とする。また新たな「基金」により、地域包括ケアの整備に使える補助金を県が差配できるようにする。向こう3年、市町村国保は県国保に統合され県は保険者として財政運営するだけに本気度は医療計画と格段に違ってくる。医療機関は「医療の絵図面」と無関係でいられなくなる。

 また一括法案は、会社法なみの医療法人の合併・再編に向けた手続きの規制緩和、法人種別の異なる財団と社団の合併に道を開くが、これは国公立の医療機関の経営部門と民間医療法人の合併などホールディングカンパニー化を睨んだものとなる。これは功罪半ばし、有名チェーン病院のような事務部門の効率化や医薬品・衛生材料・医療機器の一括購入、人材統合など、医療機関の系列・グループ化を促進する一方、産業競争力会議がこの改革を筆頭にあげ、融資や配当を可能とするよう要請するなど医療費の非営利性を壊し、会社化・企業化に大きく道を開くことになる。

 社会保障改革は、「施設から地域へ、医療から介護へ」がキーワードだが、裏を返せば、"住まいで医療を頼らず介護で"となる。すでに産業界は高齢者市場100兆円の皮算用のもと、生活支援サービスの高齢化シフトが顕著となり、介護周辺では配食・移動・家事など企業サービスが膨らみ、土建業が介護保険給付の住宅改修を当て込み訪問介護事業に参入するなど活発化している。

 しかし、本丸は医療である。地域包括診療加算は、院内処方が原則だが、院外処方の場合に、24時間対応の薬局との連携が要件となる。分業率が80%と高い神奈川県では連携が現実的となる。現在、この薬局は数が僅少であるが、ここに企業が進出している。ローソンが調剤薬局併設型コンビニを1都3県で展開、今年から佐賀県のチェーン薬局と業務提携し薬局併設コンビニが、複数の医療機関が入った医療モールで開業する。このモールは有料老人ホームと一体となっている。楽天のOTCのネット販売騒動は記憶に新しいが、本当の狙いは処方箋を切った、医療用医薬品であると公になっている。両社社長は産業競争力会議の委員だ。

 「地域包括診療加算」算定の診療所は、健康管理と「検診勧奨」が要件となっている。ローソンは「マチの健康ステーション」の新型店舗の展開を進めており、尼崎市と提携しメタボ健診の若年層の受診率向上へ「場」を提供し実をあげている。さらには、がん検診の受診率50%達成へ、都道府県とアフラックや東京海上日動などが提携し検診受診の啓発事業を行い関係性を強めている。国の審議会では、検診率50%超の韓国を視察し、検診受診による割引制、患者5割負担、混合診療など韓国の医療保険との対比が資料提出されている。

 メタボ健診は保険者の成績に応じ、高齢者医療の支援金にペナルティーが課せられ、適用が始まった。医療費適正化計画の達成のため独自の診療報酬設定を県が要望することは可能となっている。メタボ健診の受診へのポイント制(景品交換など)を一部、保険者が実施しているが、国としての導入検討が予定されている。かつてがん検診未受診者に保険料へのペナルティーをと官僚発言があった。県が国保の保険者となり提供体制の規制権限をもつことと、企業連携の動きを重ね合わせると意味深長である。健康管理、検診勧奨が、主治医の要件とされた意味合いは、単純ではない。

 医療の商品化の企図は執拗である。生活産業と医療・介護のグレーゾーンの峻別を説く産業界は、行政改革推進会議を通じた要望、市販薬類似薬の保険外しに成功した。うがい薬の保険外しだ。単剤使用を対象というが風邪症状で来院し咽頭の炎症治療でうがい薬の単剤処方は現場ではある。これが不可となると、複数処方の誘因となり医療経済上も負担が嵩む。患者も自費購入となり、放置し悪化の可能性もでる。それ以上に想定の医療費240億円(国費61億円)は院内処方で960万人分、院外処方でも480万人分に相当する。国民10人に一人という膨大な数であり、「治療目的外」の投与とされたが、審査・指導を通じ全てが外れされる可能性が高い。すでにビタミンの一部が外され、今後は漢方、湿布が射程に入るのは規定路線だ。厚労省は医学的反論をしたが押し切られている。

 商業性がなく治験が見込めない、または費用対効果の低い先進医療の保険外併用(混合診療)の恒常化の「検討」もしかりであり、厚労省みずから新薬の保険適用に混合診療を検討する始末である。

 歯科においては「かかりつけ歯科初診料」以来、一貫する患者口腔の「長期維持管理」路線、PL法(製造物責任法)準拠路線が強固なまま、口腔リハビリテーションへと有床義歯の管理が衣替えとなり、自費との混合が可能な介護保険への移行が準備された。

 地域包括ケアは、高齢化が急激な都市部のプランであり、交通が不便で医療・介護資源が少なく単位面積が広い地方や過疎地、豪雪地帯では不合理である。施設集約型に理がある。また都市部であっても生活圏に潤沢なサービス提供があり、低い負担で利用できなければ画餅に帰す。退院強要に途方に暮れる患者・家族の苦境は一向に解消されず、高齢者医療と介護保険は患者負担が今後、引きあがる。介護地獄からの解放をうたった介護保険は家族介護を前提に組まれたまま、介護心中が後を絶たない。孤独死を例に出すまでもなく、単身者は増加の一途であり、2025年に65歳以上で700万人、単身世帯は34.8%となり、非常に心もとない。

 その一方、医療の商品化、市場化に向け、医療機関との結合を進める企業群が蠢いている。われわれは医療機器や医薬品の開発など産業化、企業活動を否定しているのではない。「医療提供」そのものを「商品」としていく流れを危険視しているのである。

 今次改定は、主治医制を軸に医療提供体制の大転換への嚆矢となる。企業の伸長は医療・介護需要に応えている証左でもある。医療界が主導権を確実に握り医療実践と広報で、「商品化」の濁流を砕くことを広く呼び掛けたい。

2014年2月18日