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2015/11/24 政策部長談話「『医療崩壊』の再来に反対 診療報酬プラス改定を求める 医療機関の休廃業5年で3倍、債権譲渡・差押えは6千施設超が実態」

「医療崩壊」の再来に反対 診療報酬プラス改定を求める

医療機関の休廃業5年で3倍、債権譲渡・差押えは6千施設超が実態

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 次年度の社会保障予算1,700億円の更なる削減が11月16日報じられ(「朝日新聞」)、「医療崩壊」が再来すると、医療界に衝撃が走っている。医療経済実態調査で半数の医療機関が経営悪化と示されており、財務省サイドが提唱する診療報酬の本体マイナス改定はこれに拍車をかけることになる。われわれは地域医療を守るため、改めて診療報酬のプラス改定を強く求める。

◆小泉内閣時代を上回る改定率▲3.5%の危機 自然増の圧縮、本当は3,800億円強

 社会保障費の次年度概算要求6,700億円増を1,700億円分カットし5,000億円増とする、これが焦点となっている。制度改定が2016年度は予定されておらず、カット分は診療報酬改定で吸収することになる。骨太方針2015は今後3年間の社会保障費の伸びを高齢化相当分の1.5兆円としたため、単年度5,000億円増の水準に収めるための攻防が展開されていると解されている。

 しかし、過去3年間の自然増はH25年度8,400億円、H26年度9,900億円、H27年度8,300億円で平均8,867億円であり、当初の6,700億円増ですら、▲2,167億円も少ないのである。これが5,000億円増の水準へ削減が断行されると、▲3,800億円強となり、改定率で▲3.5%となる。この▲3.5%は小泉内閣時代の最悪の改定率▲3.16%(2006年)を大きく上回る。当時「社会保障構造改革」が強行され、「医療崩壊」と称される状況に陥っており、「平成24年版厚生労働白書」も「セーフティ・ネット機能の低下や医療・介護現場の疲弊などの問題が顕著にみられるようになった」と指摘している。

◆消費税増税による充実分のピンハネ、ごまかしは「おかしい」

 実は、骨太方針2015は今後5年間で高齢化相当分の伸びを「+2兆円強~2.5兆円」とは別に、消費税率引き上げによる「社会保障の充実等」分の伸び「+1.5兆円」を織り込んでいる。(2015.10.29「経済財政諮問会義・社会保障ワーキンググループ」財務省提出資料1-1・P2)。つまり社会保障の充実等分は単年度3,000億円であり、先の高齢化相当分5,000億円増と併せて、「8,000億円増」が本来である。これを完全に頬被りし、1,700億円の削減を言い募るのは言語道断である。

 しかも、高齢化相当分とした単年度分も制度改悪等の結果、低くなった伸びを基準にしており、消費税増による充実分も過小見積りした数値である。その上、「高齢化相当分」のみ許容というのは、医療技術進歩の「高度化分」を認めないことと同意であり、実際は高齢化相当分の削減となる。

 「社会保障の充実等」分の計上は当たり前である。なぜなら、消費税5%増税の際に、1%分を社会保障の機能強化にあて、4%分を財政健全化と一部社会保障経費増にあてるとした「国民との約束」だからである。これも税率8%で単年度1.35兆円の充填のはずが過小計上となっている。いわゆるピンハネやごまかしは厳に慎むべきである。

◆医療経済実調の損益差額より、はるかに小さい医療再生産の原資 近畿の休廃業は急増

 中医協医療経済実態調査は、病院、一般診療所、歯科診療所のいずれも半数が対前年度比で損益差額率の悪化となっており、この数字も個人立の院長報酬や建物・医療機器等の借入金返済分を含んだ過大な数字であり、現実との乖離がある。医療の再生産が保障されない経営水準に多くが陥っている。

 医療機関の倒産件数は2012年以降、減少傾向の一方、実は医療機関の休廃業・解散件数は増加傾向にあり、2014年は347件、前年比12.7%増で、5年前の116件の3倍と急増しており経営者は50代以下が25.2%を占め、60代以下でみると49.5%と半数である。地域別では、「近畿」(34件、前年比54.5%増)、「北海道」(36件38.5%増)と、休廃業・解散の増加が目立っている(帝国データバンク調査)。

 折しも診療報酬を債権化・金融商品化したファンドの相次ぐ倒産、破産が報じられた。これは請求2か月後に支払われる診療報酬を債権化し、40日程度で早期に現金化する仕組みで医療機関の資金繰りの手段である。1998年以降の長期にわたる診療報酬の実質マイナス改定の連続の下、広がっている模様で、その綻びの一端が明るみになった格好だが、現実は深刻だ。

◆診療報酬の債権譲渡・差押え、「譲受人」トップはリース会社から卸売業・個人へ移動 苦境極まる

 実際、診療報酬の債権譲渡・差押え等は、支払基金分でH26年度で6,287施設、433億円にのぼり、5年前の4,928施設347億円から医療機関等数で1,400施設、金額で100億円弱と大きく増えている。これは支払基金分のみで、国保連合会分も合わせれば倍におよぶ。

 しかも、その「譲受人」の内訳をみると、5年前は「リース・クレジット会社等」が33.3%、ファンド等の「特別目的会社(SPC)」は16.5%を占めていたが、H26年度はそれらが27.4%、9.5%と比率を下げ、「その他」が37.2%と10ポイント近く増える変化をみせている。この「その他」とは、医薬品などの卸売業や信用保証協会、そして個人等である。ここにも医療機関経営の苦境が見て取れる。

 ▲3.16%改定の06年には高利貸しに手をだし倒産した医療機関が全国で55施設と報じられた(「毎日新聞」2006.6.14)が、マイナス改定の連続の下、水面下では確実に深刻な事態が進行している。

 これらは杞憂ではない。われわれは、医療の再生産を保障するプラス改定を強く求める。

2015年11月24日

◆参考:2015.10.29経済財政諮問会議・社会保障ワーキンググループ 財務省提出資料

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「医療崩壊」の再来に反対 診療報酬プラス改定を求める

医療機関の休廃業5年で3倍、債権譲渡・差押えは6千施設超が実態

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 次年度の社会保障予算1,700億円の更なる削減が11月16日報じられ(「朝日新聞」)、「医療崩壊」が再来すると、医療界に衝撃が走っている。医療経済実態調査で半数の医療機関が経営悪化と示されており、財務省サイドが提唱する診療報酬の本体マイナス改定はこれに拍車をかけることになる。われわれは地域医療を守るため、改めて診療報酬のプラス改定を強く求める。

◆小泉内閣時代を上回る改定率▲3.5%の危機 自然増の圧縮、本当は3,800億円強

 社会保障費の次年度概算要求6,700億円増を1,700億円分カットし5,000億円増とする、これが焦点となっている。制度改定が2016年度は予定されておらず、カット分は診療報酬改定で吸収することになる。骨太方針2015は今後3年間の社会保障費の伸びを高齢化相当分の1.5兆円としたため、単年度5,000億円増の水準に収めるための攻防が展開されていると解されている。

 しかし、過去3年間の自然増はH25年度8,400億円、H26年度9,900億円、H27年度8,300億円で平均8,867億円であり、当初の6,700億円増ですら、▲2,167億円も少ないのである。これが5,000億円増の水準へ削減が断行されると、▲3,800億円強となり、改定率で▲3.5%となる。この▲3.5%は小泉内閣時代の最悪の改定率▲3.16%(2006年)を大きく上回る。当時「社会保障構造改革」が強行され、「医療崩壊」と称される状況に陥っており、「平成24年版厚生労働白書」も「セーフティ・ネット機能の低下や医療・介護現場の疲弊などの問題が顕著にみられるようになった」と指摘している。

◆消費税増税による充実分のピンハネ、ごまかしは「おかしい」

 実は、骨太方針2015は今後5年間で高齢化相当分の伸びを「+2兆円強~2.5兆円」とは別に、消費税率引き上げによる「社会保障の充実等」分の伸び「+1.5兆円」を織り込んでいる。(2015.10.29「経済財政諮問会義・社会保障ワーキンググループ」財務省提出資料1-1・P2)。つまり社会保障の充実等分は単年度3,000億円であり、先の高齢化相当分5,000億円増と併せて、「8,000億円増」が本来である。これを完全に頬被りし、1,700億円の削減を言い募るのは言語道断である。

 しかも、高齢化相当分とした単年度分も制度改悪等の結果、低くなった伸びを基準にしており、消費税増による充実分も過小見積りした数値である。その上、「高齢化相当分」のみ許容というのは、医療技術進歩の「高度化分」を認めないことと同意であり、実際は高齢化相当分の削減となる。

 「社会保障の充実等」分の計上は当たり前である。なぜなら、消費税5%増税の際に、1%分を社会保障の機能強化にあて、4%分を財政健全化と一部社会保障経費増にあてるとした「国民との約束」だからである。これも税率8%で単年度1.35兆円の充填のはずが過小計上となっている。いわゆるピンハネやごまかしは厳に慎むべきである。

◆医療経済実調の損益差額より、はるかに小さい医療再生産の原資 近畿の休廃業は急増

 中医協医療経済実態調査は、病院、一般診療所、歯科診療所のいずれも半数が対前年度比で損益差額率の悪化となっており、この数字も個人立の院長報酬や建物・医療機器等の借入金返済分を含んだ過大な数字であり、現実との乖離がある。医療の再生産が保障されない経営水準に多くが陥っている。

 医療機関の倒産件数は2012年以降、減少傾向の一方、実は医療機関の休廃業・解散件数は増加傾向にあり、2014年は347件、前年比12.7%増で、5年前の116件の3倍と急増しており経営者は50代以下が25.2%を占め、60代以下でみると49.5%と半数である。地域別では、「近畿」(34件、前年比54.5%増)、「北海道」(36件38.5%増)と、休廃業・解散の増加が目立っている(帝国データバンク調査)。

 折しも診療報酬を債権化・金融商品化したファンドの相次ぐ倒産、破産が報じられた。これは請求2か月後に支払われる診療報酬を債権化し、40日程度で早期に現金化する仕組みで医療機関の資金繰りの手段である。1998年以降の長期にわたる診療報酬の実質マイナス改定の連続の下、広がっている模様で、その綻びの一端が明るみになった格好だが、現実は深刻だ。

◆診療報酬の債権譲渡・差押え、「譲受人」トップはリース会社から卸売業・個人へ移動 苦境極まる

 実際、診療報酬の債権譲渡・差押え等は、支払基金分でH26年度で6,287施設、433億円にのぼり、5年前の4,928施設347億円から医療機関等数で1,400施設、金額で100億円弱と大きく増えている。これは支払基金分のみで、国保連合会分も合わせれば倍におよぶ。

 しかも、その「譲受人」の内訳をみると、5年前は「リース・クレジット会社等」が33.3%、ファンド等の「特別目的会社(SPC)」は16.5%を占めていたが、H26年度はそれらが27.4%、9.5%と比率を下げ、「その他」が37.2%と10ポイント近く増える変化をみせている。この「その他」とは、医薬品などの卸売業や信用保証協会、そして個人等である。ここにも医療機関経営の苦境が見て取れる。

 ▲3.16%改定の06年には高利貸しに手をだし倒産した医療機関が全国で55施設と報じられた(「毎日新聞」2006.6.14)が、マイナス改定の連続の下、水面下では確実に深刻な事態が進行している。

 これらは杞憂ではない。われわれは、医療の再生産を保障するプラス改定を強く求める。

2015年11月24日

◆参考:2015.10.29経済財政諮問会議・社会保障ワーキンググループ 財務省提出資料

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