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2013/8/2 政策部長談話「これは二重の利益相反ではないのか 官僚も幹事会社に出向 剰余金で損保会社を儲けさせる産科医療補償制度を問う」

これは二重の利益相反ではないのか 官僚も幹事会社に出向

剰余金で損保会社を儲けさせる産科医療補償制度を問う

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 7月25日、社会保障審議会医療保険部会で産科医療補償制度が議論され、毎年発生する200億円の剰余や運用益に関し、「保険会社を儲けさせるための制度」との指摘がなされた。いまこの産科医療補償制度は発足5年後の見直しを来年1月に控え、「中間報告」が出されたが制度骨格は何も変わっておらず、巨額の剰余金は問題化されたものの、依然と問題山積のままである。医療全般の医療事故補償制度の先行例であるだけに、補償と原因分析・再発防止の仕組みの分離・峻別、不明朗なお金の透明化と剰余金の帰属の明確化などを解決し、公的制度として改めて再構築をすべきだと考える。

 2009年1月発足の産科医療補償制度は、訴訟リスクの高い産科医療の崩壊を救済するため創設された。短兵急な創設のため補償対象を脳性麻痺児の発症に限定し、20年間で3,000万円(一時金600万円、分割金2,400万円)の経済救済とした。しかし、目的とは裏腹に訴訟を助長する仕組みを内在するものとなった。それは小児科医の診断で補償の適用が判断できるにもかかわらず、産科医療機関からのカルテ提出の強要を組み込み、また医療行為にのみ小児脳性麻痺の発症の原因を矮小化し専門家がカルテ等を分析、その分析結果を公表、提供するとした点である。しかもこの分析には当該産科医療機関による説明などの発言権は認められていない。つまり、このことは補償額の低さともあいまって、一時金を訴訟費用の着手金とし、分析報告書を裁判資料とした訴訟への誘導を容易にする。 

 このことに気づいている産科施設の医師、助産師は、訴訟に伴う心理的・時間的・物理的な負担に戦々恐々である。これでは産科医療の崩壊は止まらない。翻って、安心なお産は覚束ない。

 これに加え、この制度はおカネに絡む不明朗さが際立っている。この制度の運営は日本医療機能評価機構(以下、「機構」)という民間団体が担っている。産科医療機関を通じ、妊産婦が一分娩あたり3万円の掛け金を「機構」に支払う形をとり、それを「機構」がとりまとめて東京海上日動火災を幹事とする損害保険会社5社と保険契約を結んでいる。つまり「機構」は保険代理店の位置付けとなる。また掛け金の原資は、この制度のために3万円が上積みされた出産育児一時金、公金である。

 問題はこの掛け金が年間の脳性麻痺児の発症を、現場実感の200人とは違い、800人と過大に見積もり設定された点にある。しかも、剰余金に関し保険会社と「機構」で分配するルールとなっており、補償人数に対し300人を下回る人数分との差の剰余金は保険会社へ、300人を超える剰余金は「機構」への帰属となっている。補償申請の期限は出生後5年のため制度発足の09年出生の補償確定値は来年夏といわれるが、現在、補償対象は205件にとどまり、毎年200億円強の剰余金が発生する見込みだ。これは「保険会社」へ30億円、機構へ160億円強の分配となる。

 さすがに昨年7月、11月とこの巨額の剰余金が問題とされ、過日の社保審医療保険部会で補償対象の「推計値」が481人と下方修正され、剰余金は140億程度と説明されたが、巨額の剰余には変わりない。しかも、保険料(掛け金)収入から回される事務経費は「機構」が7億5千万円、保険会社が29億7千万円の計37億円に上る(2012年)。これが昨年の問題視を経て今年の計上分で、突如、保険会社分が10億円も一挙に削減されており、社保審でも指摘がなければ不変だったのかと疑念が持たれている。

 更には、年間300億円に上る保険料収入の「運用益」の扱いも不明で、年率0.7%の国債購入が一般的との「機構」の回答にとどまっているが、この5年間で10億円強に上る。

 つまり、保険会社にとっては「濡れ手に粟」である。「保険会社を儲けさせる制度」の指摘は正鵠を射ている。

 保険料と税金(国庫負担)を原資とした出産育児一時金の上乗せ分3万円を掛け金とする、この産科医療補償制度は、公的制度であり、なぜ民間団体が運営し、損害保険会社が巨利を貪るのかについて、7月25日の社保審医療保険部会では、このそもそもの疑問が出されている。しかも、制度発足の責任と公的制度とし見直しをすることに関し、担当の医政局が質されている。

 しかし、担当の医政局総務課の医療安全推進室長は、この質問にはまともに答えていない。剰余金が明白な下、掛け金3万円を次年度から政令で2万円に下げる提案にも明確な応答がなされていない。

 実は驚くことに、産科医療補償制度を担当する医政局総務課の課長補佐は、現在、批判の対象である東京海上日動火災に出向し、企業商品業務部責任保険グループ担当課長に収まっている。これは明らかに「利益相反」の誹りを免れない。

 それどころか、厚生労働省から東京海上日動火災への出向はこれ以外も何名もおり、逆に東京海上日動火災から派遣され厚生労働省の保険局医療課の課長補佐に収まっている者さえいる。双方の"紐帯"が強化されている。

 改めて問う。産科医療補償制度は、妊産婦と産科医療機関のためのものである。それは脳性麻痺児の発症への補償と、産科が背負う訴訟リスクの減殺と産科志望者数の回復、産科の未来を作ることにある。損保会社の巨利を保証し、訴訟を誘発する仕組みの内在は本末転倒である。制度会計の明朗化と剰余金の妊産婦への還元、公的制度としての再構築と補償と原因分析と再発防止の分離峻別を強く求める。

2013年8月2日

 

これは二重の利益相反ではないのか 官僚も幹事会社に出向

剰余金で損保会社を儲けさせる産科医療補償制度を問う

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 7月25日、社会保障審議会医療保険部会で産科医療補償制度が議論され、毎年発生する200億円の剰余や運用益に関し、「保険会社を儲けさせるための制度」との指摘がなされた。いまこの産科医療補償制度は発足5年後の見直しを来年1月に控え、「中間報告」が出されたが制度骨格は何も変わっておらず、巨額の剰余金は問題化されたものの、依然と問題山積のままである。医療全般の医療事故補償制度の先行例であるだけに、補償と原因分析・再発防止の仕組みの分離・峻別、不明朗なお金の透明化と剰余金の帰属の明確化などを解決し、公的制度として改めて再構築をすべきだと考える。

 2009年1月発足の産科医療補償制度は、訴訟リスクの高い産科医療の崩壊を救済するため創設された。短兵急な創設のため補償対象を脳性麻痺児の発症に限定し、20年間で3,000万円(一時金600万円、分割金2,400万円)の経済救済とした。しかし、目的とは裏腹に訴訟を助長する仕組みを内在するものとなった。それは小児科医の診断で補償の適用が判断できるにもかかわらず、産科医療機関からのカルテ提出の強要を組み込み、また医療行為にのみ小児脳性麻痺の発症の原因を矮小化し専門家がカルテ等を分析、その分析結果を公表、提供するとした点である。しかもこの分析には当該産科医療機関による説明などの発言権は認められていない。つまり、このことは補償額の低さともあいまって、一時金を訴訟費用の着手金とし、分析報告書を裁判資料とした訴訟への誘導を容易にする。 

 このことに気づいている産科施設の医師、助産師は、訴訟に伴う心理的・時間的・物理的な負担に戦々恐々である。これでは産科医療の崩壊は止まらない。翻って、安心なお産は覚束ない。

 これに加え、この制度はおカネに絡む不明朗さが際立っている。この制度の運営は日本医療機能評価機構(以下、「機構」)という民間団体が担っている。産科医療機関を通じ、妊産婦が一分娩あたり3万円の掛け金を「機構」に支払う形をとり、それを「機構」がとりまとめて東京海上日動火災を幹事とする損害保険会社5社と保険契約を結んでいる。つまり「機構」は保険代理店の位置付けとなる。また掛け金の原資は、この制度のために3万円が上積みされた出産育児一時金、公金である。

 問題はこの掛け金が年間の脳性麻痺児の発症を、現場実感の200人とは違い、800人と過大に見積もり設定された点にある。しかも、剰余金に関し保険会社と「機構」で分配するルールとなっており、補償人数に対し300人を下回る人数分との差の剰余金は保険会社へ、300人を超える剰余金は「機構」への帰属となっている。補償申請の期限は出生後5年のため制度発足の09年出生の補償確定値は来年夏といわれるが、現在、補償対象は205件にとどまり、毎年200億円強の剰余金が発生する見込みだ。これは「保険会社」へ30億円、機構へ160億円強の分配となる。

 さすがに昨年7月、11月とこの巨額の剰余金が問題とされ、過日の社保審医療保険部会で補償対象の「推計値」が481人と下方修正され、剰余金は140億程度と説明されたが、巨額の剰余には変わりない。しかも、保険料(掛け金)収入から回される事務経費は「機構」が7億5千万円、保険会社が29億7千万円の計37億円に上る(2012年)。これが昨年の問題視を経て今年の計上分で、突如、保険会社分が10億円も一挙に削減されており、社保審でも指摘がなければ不変だったのかと疑念が持たれている。

 更には、年間300億円に上る保険料収入の「運用益」の扱いも不明で、年率0.7%の国債購入が一般的との「機構」の回答にとどまっているが、この5年間で10億円強に上る。

 つまり、保険会社にとっては「濡れ手に粟」である。「保険会社を儲けさせる制度」の指摘は正鵠を射ている。

 保険料と税金(国庫負担)を原資とした出産育児一時金の上乗せ分3万円を掛け金とする、この産科医療補償制度は、公的制度であり、なぜ民間団体が運営し、損害保険会社が巨利を貪るのかについて、7月25日の社保審医療保険部会では、このそもそもの疑問が出されている。しかも、制度発足の責任と公的制度とし見直しをすることに関し、担当の医政局が質されている。

 しかし、担当の医政局総務課の医療安全推進室長は、この質問にはまともに答えていない。剰余金が明白な下、掛け金3万円を次年度から政令で2万円に下げる提案にも明確な応答がなされていない。

 実は驚くことに、産科医療補償制度を担当する医政局総務課の課長補佐は、現在、批判の対象である東京海上日動火災に出向し、企業商品業務部責任保険グループ担当課長に収まっている。これは明らかに「利益相反」の誹りを免れない。

 それどころか、厚生労働省から東京海上日動火災への出向はこれ以外も何名もおり、逆に東京海上日動火災から派遣され厚生労働省の保険局医療課の課長補佐に収まっている者さえいる。双方の"紐帯"が強化されている。

 改めて問う。産科医療補償制度は、妊産婦と産科医療機関のためのものである。それは脳性麻痺児の発症への補償と、産科が背負う訴訟リスクの減殺と産科志望者数の回復、産科の未来を作ることにある。損保会社の巨利を保証し、訴訟を誘発する仕組みの内在は本末転倒である。制度会計の明朗化と剰余金の妊産婦への還元、公的制度としての再構築と補償と原因分析と再発防止の分離峻別を強く求める。

2013年8月2日