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2015/6/22 学術部長談話「製薬企業の謝礼は『賄賂』ではない 研究・教育への正当な対価は妥当 問題は臨床研究の法規制、被験者保護の法整備と医療のガバナンス確立」

製薬企業の謝礼は「賄賂」ではない 研究・教育への正当な対価は妥当

問題は臨床研究の法規制、被験者保護の法整備と医療のガバナンス確立

神奈川県保険医協会

学術部長  鈴木 悦朗


 臨床研究のデータ不正、捏造が社会問題化し、それに重ね製薬企業による研究・講演などへの医師への謝礼の額や多寡へ、不当な印象づけをまとう報道も相次いでいる。医薬品・医療機器、医療技術の研究・開発は、医学・医療の発展に必須であり、医師、医療者の関与抜きでは成り立たない。研究・教育(講演)への正当な対価は社会的に当然であり、これへの指弾は筋違いである。現在の事態を機に、萎縮のスパイラルに医療者側が陥ることとなれば、医学・医療の研究開発の遅滞・停滞を招き、人材や医療環境の育成・醸成はもとより、国内で享受できる「成果」を失い、高額な機器・医薬品の輸入増加を招く結果となる。医学・医療の研究法制の構造的問題に触れるとともに、医療のガバナンス確立に向けた、利益相反について直言する。

◆利益相反、利益誘導の誘惑をどう排するか 法的規制の諸外国と指針対応の日本

 産学連携により臨床研究、臨床試験が旺盛になると、大学、学術機関、学術団体、医療機関など公的存在、公的性格を帯びた存在が企業活動に深く関与することとなり、その存在の「責任」と、所属する「個人が得る利益」(経済的利益、名声など)との衝突・相反する状態、「利益相反(conflict of interest:COI)」が不可避的に発生する。医学研究はヒトを対象とし、他領域の産学連携と異なり、被験者の人権、生命の安全・安心が毀損される可能性が高く、また、研究方法・データ解析などの歪曲などのおそれも秘めている。よって、利益相反の「管理」が重要である。そのことは過去の不祥事を教訓に導き出されている。

 近年、各機関・施設は医学研究の公正・公平性の維持、透明性、社会的信頼性の保持のため、自律的に各団体、各機関が「指針」策定により研究成果を社会に還元している。

 世界に目を転じれば、米国はSunshine法により、医薬品・医療機器等の製造業者に、飲食、物品の利益提供や研究・講演の謝礼に関する報告義務を課している。フランスでも同様に「医薬品行政改革法」で法的に義務を課している。

 日本では日本製薬工業協会のガイドラインにより、各企業の自主的努力により公開としており、社会的な疑念の払拭や信頼回復には必ずしもつながっていない。逆に中途半端な位置づけが、講演などの対価報酬公開に対し副次的悪影響を懸念し、正当な講演活動の敬遠なども現実におきている。個人情報保護法制との抵触や整合などへの疑問も尽きず、割り切れない思いを医療者側は抱く格好となっている。

◆臨床研究を一本の法的規制の下におき、資金提供の正当性を付与し、医学研究に有為な人材関与を

 日本の臨床研究はこれまで「倫理指針」対応であり、先般、疫学研究と臨床研究と指針統合されたが、再生医療は再生医療等安全確保法の法規制、一方、医薬品・機器の製品化の治験は医薬品・医療機器法(旧・薬事法)の法規制と、統一した法規制の下での実施とされていない。また被験者を保護する法整備もなされていない。

 現在、研究不正に端を発し、臨床研究の法規制が検討され、厚労省より自民党に法制化の枠組みが示されている。この中で製薬企業等から医師等への資金提供の公開を、臨床研究資金のみに限定し、原稿執筆、講演謝礼は除外し、業界の自主規制に委ねるとしている。

 悪印象が既についている感があるが、製薬企業依頼による研究協力や講演への謝礼は正当な対価であり賄賂ではない。社会的慣行の範囲の飲食もある。研究開発への協力や講演への依頼への対価支払いは、他産業や異業種でも往々にしてある。医療界のみが言われない批判や誹りを浴びる理由もない。

 われわれは臨床研究に関し指針対応など曖昧にせず、統一的な一本の法制の下規制し、資金提供に関る報告義務も課し、大学、学術機関、研究機関、医療機関が医学研究に果たす役割を法的、社会的に認知させ、資金提供の正当性を公開を条件に付与し、無用な批判、萎縮を招かないようにすべきと考える。不祥事や利益誘導は、適正にこの法で罰すればよい。関係方面の理解と賢察を願いたい。

2015年6月22日

製薬企業の謝礼は「賄賂」ではない 研究・教育への正当な対価は妥当

問題は臨床研究の法規制、被験者保護の法整備と医療のガバナンス確立

神奈川県保険医協会

学術部長  鈴木 悦朗


 臨床研究のデータ不正、捏造が社会問題化し、それに重ね製薬企業による研究・講演などへの医師への謝礼の額や多寡へ、不当な印象づけをまとう報道も相次いでいる。医薬品・医療機器、医療技術の研究・開発は、医学・医療の発展に必須であり、医師、医療者の関与抜きでは成り立たない。研究・教育(講演)への正当な対価は社会的に当然であり、これへの指弾は筋違いである。現在の事態を機に、萎縮のスパイラルに医療者側が陥ることとなれば、医学・医療の研究開発の遅滞・停滞を招き、人材や医療環境の育成・醸成はもとより、国内で享受できる「成果」を失い、高額な機器・医薬品の輸入増加を招く結果となる。医学・医療の研究法制の構造的問題に触れるとともに、医療のガバナンス確立に向けた、利益相反について直言する。

◆利益相反、利益誘導の誘惑をどう排するか 法的規制の諸外国と指針対応の日本

 産学連携により臨床研究、臨床試験が旺盛になると、大学、学術機関、学術団体、医療機関など公的存在、公的性格を帯びた存在が企業活動に深く関与することとなり、その存在の「責任」と、所属する「個人が得る利益」(経済的利益、名声など)との衝突・相反する状態、「利益相反(conflict of interest:COI)」が不可避的に発生する。医学研究はヒトを対象とし、他領域の産学連携と異なり、被験者の人権、生命の安全・安心が毀損される可能性が高く、また、研究方法・データ解析などの歪曲などのおそれも秘めている。よって、利益相反の「管理」が重要である。そのことは過去の不祥事を教訓に導き出されている。

 近年、各機関・施設は医学研究の公正・公平性の維持、透明性、社会的信頼性の保持のため、自律的に各団体、各機関が「指針」策定により研究成果を社会に還元している。

 世界に目を転じれば、米国はSunshine法により、医薬品・医療機器等の製造業者に、飲食、物品の利益提供や研究・講演の謝礼に関する報告義務を課している。フランスでも同様に「医薬品行政改革法」で法的に義務を課している。

 日本では日本製薬工業協会のガイドラインにより、各企業の自主的努力により公開としており、社会的な疑念の払拭や信頼回復には必ずしもつながっていない。逆に中途半端な位置づけが、講演などの対価報酬公開に対し副次的悪影響を懸念し、正当な講演活動の敬遠なども現実におきている。個人情報保護法制との抵触や整合などへの疑問も尽きず、割り切れない思いを医療者側は抱く格好となっている。

◆臨床研究を一本の法的規制の下におき、資金提供の正当性を付与し、医学研究に有為な人材関与を

 日本の臨床研究はこれまで「倫理指針」対応であり、先般、疫学研究と臨床研究と指針統合されたが、再生医療は再生医療等安全確保法の法規制、一方、医薬品・機器の製品化の治験は医薬品・医療機器法(旧・薬事法)の法規制と、統一した法規制の下での実施とされていない。また被験者を保護する法整備もなされていない。

 現在、研究不正に端を発し、臨床研究の法規制が検討され、厚労省より自民党に法制化の枠組みが示されている。この中で製薬企業等から医師等への資金提供の公開を、臨床研究資金のみに限定し、原稿執筆、講演謝礼は除外し、業界の自主規制に委ねるとしている。

 悪印象が既についている感があるが、製薬企業依頼による研究協力や講演への謝礼は正当な対価であり賄賂ではない。社会的慣行の範囲の飲食もある。研究開発への協力や講演への依頼への対価支払いは、他産業や異業種でも往々にしてある。医療界のみが言われない批判や誹りを浴びる理由もない。

 われわれは臨床研究に関し指針対応など曖昧にせず、統一的な一本の法制の下規制し、資金提供に関る報告義務も課し、大学、学術機関、研究機関、医療機関が医学研究に果たす役割を法的、社会的に認知させ、資金提供の正当性を公開を条件に付与し、無用な批判、萎縮を招かないようにすべきと考える。不祥事や利益誘導は、適正にこの法で罰すればよい。関係方面の理解と賢察を願いたい。

2015年6月22日