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2013/5/23 理事会声明「お粗末な『共通番号法案』の撤回を強く求める メリット、費用対効果が不明 漏洩・犯罪の温床に」

お粗末な「共通番号法案」の撤回を強く求める

メリット、費用対効果が不明 漏洩・犯罪の温床に

神奈川県保険医協会

第25期第34回理事会


 政府がすべての国民・法人に番号を割り当て、社会保障や税などの個人情報を一元管理する共通番号法案が5月23日、参院内閣委員会で可決。翌24日の参院本会議で採決、成立することが濃厚となった。国民の生活やプライバシーに関わる重要法案であるにも関わらず、40時間にも満たない短時間で審議を終わらせ、多数の賛成派によって強行採決・可決することに強い憤りを覚える。

 当会はこれまで一貫して共通番号制に反対の立場を表明してきた。いま改めて多くの問題点を指摘するとともに、本会議での強行採決の中止と法案の撤回を強く求める。

1.法案審議で浮き彫りとなった問題点の数々

 この間の国会審議では、共通番号制の重大な欠陥が次々と浮かび上がった。制度構築に係る初期投資に約3,000億円、ランニングコストに年約300億円を見込むとしているが、費用対効果については「数値化が難しい」とし、最後まで示されなかった。また「行政の効率化」については、既存の「高額医療・高額介護合算療養費制度」を例に、共通番号制が必要なケースが僅か0.01%しかない実態が明らかとなった。その他の対象事務についても簡素化・効率化の個別具体的な検証が全くなされていないという"お粗末"ぶりが露呈された。

 さらには、政府官僚から共通番号制で作られるネットワークは共通番号とは別の番号で管理される個人情報も名寄せ・紐付けが可能との認識が示された。これは、言い換えれば共通番号を振る必要はないということだ。政府答弁は自己否定に他ならず、制度の根幹に関わる大きな問題である。

2.リスクがメリットを上回る 「成りすまし犯罪大国」に

 共通番号制の目的として、政府は決まって「公平・公正な税制・社会保障を実現するため」と主張する。しかし現在の税制上、高額所得者等の海外取引による利益など、共通番号制でも捕捉できない所得や収入がいくつもある。こうした不完全な、費用対効果さえ不明な制度に巨額の国費を投じることは、無駄な公共事業を生み出す結果にもなり得る。また、この共通番号制は造って終わりの公共事業とは違い、システム維持のためのランニングコストが毎年掛かり続ける。いわば特定のIT業界が収入を維持するための、「ITハコモノ」とも呼ぶべき新たな公共事業でしかない。

 多くの国民が懸念する情報漏洩・流出や犯罪等の対策については、罰則強化や制度運用を監視・監督する第三者機関の設置が挙げられているが、これらは国内に限定した抑止的な対策でしかなく、漏洩・犯罪等を完全に防ぐ手立てはない。共通番号が使われている米国では、成りすまし犯罪が社会問題化しており、その被害額は年間数兆円にのぼる。米国の警察など犯罪取締り当局は、殺人や強盗等の犯罪対策に追われ、時間や費用のかかる成りすまし犯の追及には及び腰である。成りすまされた被害者の多くは、弁護士や探偵等に巨額の費用を支払い支援を求めるか、泣き寝入りしているのが実情だ。連邦議会や省庁でも抜本策を見出せず、遂には国防総省が昨年から国家安全保障対策から独自番号への一斉変更・転換利用に踏み切った。

 有効な手立てを持たない日本で共通番号制が施行されれば、米国と同様の事態が起こることは想像に難くない。「成りすまし犯罪大国」となる日もそう遠くないだろう。

3.狙いは公的医療の給付抑制と医療市場化

 こうした多くの問題をはらむ法案を、なぜ強行的に成立しようとするのか。それは共通番号制が社会保障・税一体改革を実現するための、政府の医療費抑制策に不可欠なインフラと考えているからに他ならない。国民個々の所得や保険料、医療・介護等の給付に係る個人情報が一元管理できれば、個人の負担に応じて公的医療・介護等の給付に上限を設ける「社会保障個人会計」が実現する。

 また施行3年後の利用範囲拡大も既定路線となっており、医療情報が共通番号制に組み込まれる可能性は高い。さらには民間利用も視野に入っており、医療情報の営利利用の道が開かれることにも繋がる。医療機関は、患者情報の伝達手段としてIT化の強要、漏洩・流出等の対策として高レベルなセキュリティ構築など、費用面・精神面で過度な負担を強いられることになる。

4.世界では分野別番号・分散管理が主流 関心の高い国民の多くが反対

 共通番号による情報の一元管理は世界の主流ではない。英国では法制化された国民IDカードの導入が廃止となった。また、オーストリアでは行政分野別の番号制度を導入し、各分野の個人情報の名寄せ・紐付けは法律で細かく規制している。税分野でのみ番号制度を導入したドイツでは、大戦中の歴史体験に学び、国家の国民監視に繋がる危険性から多目的利用を禁止している。

 日本でも日弁連をはじめ、新聞労連や日本ペンクラブ、主婦連など各界から反対の声が挙げられている。また共通番号制の周知・国民対話を目的に政府が主催した全国リレーシンポでは、どの会場でもフロア意見は「情報漏洩が心配」「管理社会に繋がる」など反対・慎重論が占めていた。マスコミには取り上げられないが、共通番号制の問題に気付いている国民は決して少なくない。

 以上、共通番号制は中身が薄く問題や危険性が際立つ、極めて"お粗末"な制度であり、改めて法案の撤回を強く求める。また、本声明が多くの国民にとって、自分に関わる事と認識し想像力を持って共通番号制の問題を考える"きっかけ"となることを切に願うものである。

2013年5月23日

 

お粗末な「共通番号法案」の撤回を強く求める

メリット、費用対効果が不明 漏洩・犯罪の温床に

神奈川県保険医協会

第25期第34回理事会


 政府がすべての国民・法人に番号を割り当て、社会保障や税などの個人情報を一元管理する共通番号法案が5月23日、参院内閣委員会で可決。翌24日の参院本会議で採決、成立することが濃厚となった。国民の生活やプライバシーに関わる重要法案であるにも関わらず、40時間にも満たない短時間で審議を終わらせ、多数の賛成派によって強行採決・可決することに強い憤りを覚える。

 当会はこれまで一貫して共通番号制に反対の立場を表明してきた。いま改めて多くの問題点を指摘するとともに、本会議での強行採決の中止と法案の撤回を強く求める。

1.法案審議で浮き彫りとなった問題点の数々

 この間の国会審議では、共通番号制の重大な欠陥が次々と浮かび上がった。制度構築に係る初期投資に約3,000億円、ランニングコストに年約300億円を見込むとしているが、費用対効果については「数値化が難しい」とし、最後まで示されなかった。また「行政の効率化」については、既存の「高額医療・高額介護合算療養費制度」を例に、共通番号制が必要なケースが僅か0.01%しかない実態が明らかとなった。その他の対象事務についても簡素化・効率化の個別具体的な検証が全くなされていないという"お粗末"ぶりが露呈された。

 さらには、政府官僚から共通番号制で作られるネットワークは共通番号とは別の番号で管理される個人情報も名寄せ・紐付けが可能との認識が示された。これは、言い換えれば共通番号を振る必要はないということだ。政府答弁は自己否定に他ならず、制度の根幹に関わる大きな問題である。

2.リスクがメリットを上回る 「成りすまし犯罪大国」に

 共通番号制の目的として、政府は決まって「公平・公正な税制・社会保障を実現するため」と主張する。しかし現在の税制上、高額所得者等の海外取引による利益など、共通番号制でも捕捉できない所得や収入がいくつもある。こうした不完全な、費用対効果さえ不明な制度に巨額の国費を投じることは、無駄な公共事業を生み出す結果にもなり得る。また、この共通番号制は造って終わりの公共事業とは違い、システム維持のためのランニングコストが毎年掛かり続ける。いわば特定のIT業界が収入を維持するための、「ITハコモノ」とも呼ぶべき新たな公共事業でしかない。

 多くの国民が懸念する情報漏洩・流出や犯罪等の対策については、罰則強化や制度運用を監視・監督する第三者機関の設置が挙げられているが、これらは国内に限定した抑止的な対策でしかなく、漏洩・犯罪等を完全に防ぐ手立てはない。共通番号が使われている米国では、成りすまし犯罪が社会問題化しており、その被害額は年間数兆円にのぼる。米国の警察など犯罪取締り当局は、殺人や強盗等の犯罪対策に追われ、時間や費用のかかる成りすまし犯の追及には及び腰である。成りすまされた被害者の多くは、弁護士や探偵等に巨額の費用を支払い支援を求めるか、泣き寝入りしているのが実情だ。連邦議会や省庁でも抜本策を見出せず、遂には国防総省が昨年から国家安全保障対策から独自番号への一斉変更・転換利用に踏み切った。

 有効な手立てを持たない日本で共通番号制が施行されれば、米国と同様の事態が起こることは想像に難くない。「成りすまし犯罪大国」となる日もそう遠くないだろう。

3.狙いは公的医療の給付抑制と医療市場化

 こうした多くの問題をはらむ法案を、なぜ強行的に成立しようとするのか。それは共通番号制が社会保障・税一体改革を実現するための、政府の医療費抑制策に不可欠なインフラと考えているからに他ならない。国民個々の所得や保険料、医療・介護等の給付に係る個人情報が一元管理できれば、個人の負担に応じて公的医療・介護等の給付に上限を設ける「社会保障個人会計」が実現する。

 また施行3年後の利用範囲拡大も既定路線となっており、医療情報が共通番号制に組み込まれる可能性は高い。さらには民間利用も視野に入っており、医療情報の営利利用の道が開かれることにも繋がる。医療機関は、患者情報の伝達手段としてIT化の強要、漏洩・流出等の対策として高レベルなセキュリティ構築など、費用面・精神面で過度な負担を強いられることになる。

4.世界では分野別番号・分散管理が主流 関心の高い国民の多くが反対

 共通番号による情報の一元管理は世界の主流ではない。英国では法制化された国民IDカードの導入が廃止となった。また、オーストリアでは行政分野別の番号制度を導入し、各分野の個人情報の名寄せ・紐付けは法律で細かく規制している。税分野でのみ番号制度を導入したドイツでは、大戦中の歴史体験に学び、国家の国民監視に繋がる危険性から多目的利用を禁止している。

 日本でも日弁連をはじめ、新聞労連や日本ペンクラブ、主婦連など各界から反対の声が挙げられている。また共通番号制の周知・国民対話を目的に政府が主催した全国リレーシンポでは、どの会場でもフロア意見は「情報漏洩が心配」「管理社会に繋がる」など反対・慎重論が占めていた。マスコミには取り上げられないが、共通番号制の問題に気付いている国民は決して少なくない。

 以上、共通番号制は中身が薄く問題や危険性が際立つ、極めて"お粗末"な制度であり、改めて法案の撤回を強く求める。また、本声明が多くの国民にとって、自分に関わる事と認識し想像力を持って共通番号制の問題を考える"きっかけ"となることを切に願うものである。

2013年5月23日