保険医の生活と権利を守り、国民医療の
向上をめざす

神奈川県保険医協会とは

開業医を中心とする保険医の生活と権利を守り、
国民の健康と医療の向上を目指す

TOP > 神奈川県保険医協会とは > 私たちの考え > 2022/10/3 医療運動部会長談話「75歳以上の医療費窓口負担『2倍化』断行に抗議する」

2022/10/3 医療運動部会長談話「75歳以上の医療費窓口負担『2倍化』断行に抗議する」

75歳以上の医療費窓口負担『2倍化』断行に抗議する

 

神奈川県保険医協会

医療運動部会長 二村 哲

 


 

 10月1日、一定以上の所得がある後期高齢者(75歳以上)について、受診時の窓口負担が1割から2割へと"倍"に引き上げられた。コロナ禍、物価高で国民生活が逼迫する中での負担増の断行に、われわれは強く抗議する。

 

 75歳以上の窓口負担「2割」導入は、昨年6月に可決・成立した「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」により決定した。導入時期は当初「2022年度後半」とされていたが、今年1月、施行時期を「2022101日」とする政令が公布。新型コロナウイルス感染症収束の目途が立たず、近く迎えるであろう「第8波」を前に、負担増は断行された。新たに2割負担となる方は75歳以上の20%とされているが、ここ神奈川県では28.4%と3割弱の方が該当する。しかも「年収200万円以上(単身世帯)」という所得ラインも政省令事項であり、今後国会審議を経ることなく対象拡大できてしまう点も問題が大きい。

 

 8月度消費者物価指数(生鮮食品除く)は、前年同月比で2.8%上昇と、31年ぶりの大きな伸びとなり、ガス・電気代に至っては資源高の影響で20%超と大幅上昇している。更にこの101日には今年最大規模といわれる食品6500品目超の一斉値上げも行われた。一方で、高齢者の年金受給額は、今年4月に前年度比▲0.4%と、2年連続で引き下げられている。労働者1人あたりの現金給与総額は前年同月より1.8%増となったものの、物価の伸びが大きく上回ったことで、実質賃金は▲1.3%と、4カ月連続で前年を下回った *1。高齢者世帯及び高齢者と家計を一にする子世帯の足元をみれば、負担増を許容できる状況にないのは明らかである。

 

 実際、9月中には「1割負担のうちに義歯を作成してほしい」、「治療を前倒ししてほしい」などの高齢者の『駆け込み治療』があったとの報告が多くなされた。当事者を対象としたアンケート調査でも約3割の高齢者が、負担が1割から2割に引き上げられたら「通院回数を減らす」、「受診科の数を減らす」等、何らかの形で受診を控えると回答している *2。負担増額を3千円以内に抑える『配慮措置』は当初3年間のみの適用で、この措置を使っても1人あたり年平均2.6万円もの負担増となる。しかも配慮措置で負担が上限額までの支払いですむ(現物給付)のは、同一医療機関内で窓口負担増が3千円を超えるケースのみで、それ以外は一旦建て替え(償還払い)なければならない。複数の科に通院する高齢者は、それぞれの医療機関で一旦これまでの「倍額」を支払わなければならず、負担感から受診を諦めるケースが今後出てきかねない。深刻な健康悪化事例が起こってからでは、遅いのである。

 

 世界を見れば、98の国と地域が付加価値税の減税を実施している *3。国民の負担を増やし、先行き不安を与えるような施策は、このような世界の潮流に逆行している。本日開会する臨時国会では、物価高対策等を中心とした30兆円規模ともいわれる経済対策を含む補正予算が審議されることとなっている。過去には、7074歳の医療費窓口負担「2割化」を予算措置で凍結した実績もあり、法改正を伴わずとも当面、物価高対策の1メニューとして負担増を先送りする施策実行は可能である。

 

 われわれは、高齢者の受療権を侵害する75歳以上医療費の窓口負担「2倍化」に断固抗議するとともに、当面、補正予算により2割への引き上げを『凍結』することを強く求める。

2022年10月3日

 

*1 毎月勤労統計・7

*2 日本高齢期運動連絡会・20214

*3 全国商工団体連合会調べ。実施済予定含む

 

75歳以上の医療費窓口負担『2倍化』断行に抗議する

 

神奈川県保険医協会

医療運動部会長 二村 哲

 


 

 10月1日、一定以上の所得がある後期高齢者(75歳以上)について、受診時の窓口負担が1割から2割へと"倍"に引き上げられた。コロナ禍、物価高で国民生活が逼迫する中での負担増の断行に、われわれは強く抗議する。

 

 75歳以上の窓口負担「2割」導入は、昨年6月に可決・成立した「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」により決定した。導入時期は当初「2022年度後半」とされていたが、今年1月、施行時期を「2022101日」とする政令が公布。新型コロナウイルス感染症収束の目途が立たず、近く迎えるであろう「第8波」を前に、負担増は断行された。新たに2割負担となる方は75歳以上の20%とされているが、ここ神奈川県では28.4%と3割弱の方が該当する。しかも「年収200万円以上(単身世帯)」という所得ラインも政省令事項であり、今後国会審議を経ることなく対象拡大できてしまう点も問題が大きい。

 

 8月度消費者物価指数(生鮮食品除く)は、前年同月比で2.8%上昇と、31年ぶりの大きな伸びとなり、ガス・電気代に至っては資源高の影響で20%超と大幅上昇している。更にこの101日には今年最大規模といわれる食品6500品目超の一斉値上げも行われた。一方で、高齢者の年金受給額は、今年4月に前年度比▲0.4%と、2年連続で引き下げられている。労働者1人あたりの現金給与総額は前年同月より1.8%増となったものの、物価の伸びが大きく上回ったことで、実質賃金は▲1.3%と、4カ月連続で前年を下回った *1。高齢者世帯及び高齢者と家計を一にする子世帯の足元をみれば、負担増を許容できる状況にないのは明らかである。

 

 実際、9月中には「1割負担のうちに義歯を作成してほしい」、「治療を前倒ししてほしい」などの高齢者の『駆け込み治療』があったとの報告が多くなされた。当事者を対象としたアンケート調査でも約3割の高齢者が、負担が1割から2割に引き上げられたら「通院回数を減らす」、「受診科の数を減らす」等、何らかの形で受診を控えると回答している *2。負担増額を3千円以内に抑える『配慮措置』は当初3年間のみの適用で、この措置を使っても1人あたり年平均2.6万円もの負担増となる。しかも配慮措置で負担が上限額までの支払いですむ(現物給付)のは、同一医療機関内で窓口負担増が3千円を超えるケースのみで、それ以外は一旦建て替え(償還払い)なければならない。複数の科に通院する高齢者は、それぞれの医療機関で一旦これまでの「倍額」を支払わなければならず、負担感から受診を諦めるケースが今後出てきかねない。深刻な健康悪化事例が起こってからでは、遅いのである。

 

 世界を見れば、98の国と地域が付加価値税の減税を実施している *3。国民の負担を増やし、先行き不安を与えるような施策は、このような世界の潮流に逆行している。本日開会する臨時国会では、物価高対策等を中心とした30兆円規模ともいわれる経済対策を含む補正予算が審議されることとなっている。過去には、7074歳の医療費窓口負担「2割化」を予算措置で凍結した実績もあり、法改正を伴わずとも当面、物価高対策の1メニューとして負担増を先送りする施策実行は可能である。

 

 われわれは、高齢者の受療権を侵害する75歳以上医療費の窓口負担「2倍化」に断固抗議するとともに、当面、補正予算により2割への引き上げを『凍結』することを強く求める。

2022年10月3日

 

*1 毎月勤労統計・7

*2 日本高齢期運動連絡会・20214

*3 全国商工団体連合会調べ。実施済予定含む